2025年11月号

2025/10/09

【NEW】無可動実銃に見る20世紀の小火器 MG42

 

 またローラーロッキングを用いた大量生産モデルとしてもMG42は特筆に値する。
オペレーションはオープンボルトファイアリングで、ボルトが前進すると、その先端部にある4つのローラーがバレルエクステンション部で左右に広がることで、バレルとボルトがロックされる。同時に撃発が起こり、発生した高圧でボルトは後方に動こうとするが、ローラーがバレルエクステンション部にしっかりと噛み合っているためボルト単体では動くことができない。
 バレルとボルトは8mmほどショートリコイルする。この動きで、レシーバー部に設けられたスロープ状の突起がローラーを内側に移動させ、バレルとボルトのロックが解かれてボルト単体が後退できるようになり、排莢される。
 このショートリコイルを助ける機能がマズル部にあるリコイルブースターで、これにより発射ガスがバレル前面に噴き掛かり、ショートリコイルの動きを加速させる。これにより、約1,500発/分前後の高速フルオートが実現したのだ。
 MG42の発射音はこの回転速度の高さから独特な連続音となり、ドイツ軍と対峙したアメリカ軍兵士達はMG42に対し、“Hitler’s Buzz Saw,”(ヒットラーの回転ノコギリ)と呼んで恐れた。ソ連軍は“リノリウム切り裂き機”(リノリウムの床を派手な音を立てて切断する音)という意味を持つ言葉でこの銃の発射音を言い表した。ドイツ軍もまた“Knochensäge”(クノッフェンセーゲ:骨ノコギリ)などと呼んでいたといわれている。

 

▲レシーバー後方の刻印。MG42は1943年の途中から製造年表示がアルファベット2文字のコードに変更された。これはそれが始まるより前の製品で1943と表示されている。製造年コードは製造メーカー毎で異なる。この個体はシュタイヤー製を示す秘匿コードbnzが打たれているが、1944年以降、シュタイヤーの秘匿コードはswjに切り替わった。

 

▲ストックは初期型はベークライト製だったが、破損しやすかったため1943年よりブナ材が用いられるようになった。後期には他の木材も使われている。ストック下部の突起は、射撃時にサポートハンドでストックを保持するためのものだ。


 MG34で問題視されたバレル交換機能は大幅に向上している。バレル交換は、ボルトが後退した状態でおこなう。バレルジャケット右側面後部(チェンバー部横)にあるバレル交換ラッチを少し前に押し気味にして横に動かすとバレル交換フラップが開いていき、バレル自体が銃口部を支点にして横に扇状に開いて出てくる。約20°程度開いたところで、バレルを斜め後方に引き出す。射撃後のバレルはかなり高温のため、耐熱手袋等を手にはめておこなう。
 高温のバレルを抜き取ったら、冷めた状態の交換バレルを斜めに差し込み、ラッチを持ってバレル交換フラップを閉じる。このバレル交換作業に要する時間は遅くとも10秒以内に完了する。耐熱手袋を付けていれば、銃を傾けることなくバレル交換が可能で、大型三脚等で銃を固定している場合でも素早く交換できる。これにより、MG 42を装備するドイツ軍部隊は敵に果断なく銃弾を撃ち込みことができた。このバレル交換は、フルオートマチック射撃の場合は150発、バーストショットで使用した場合は250発から300発毎におこなう。

 

▲レシーバー下部にエジェクションポートがあり、空薬莢は下方に排出される。エジェクションポートにはダストカバーがあり、ボルトの動きに連動して自動的に開く。


 MG42はドイツ陸軍兵器局が求めた汎用マシンガンとして、一つの完成形となった。再設計され簡略化されたバイポッドZweibeinを装着してライトマシンガン、大型三脚Lafette(ラフェッテ)42に載せて拠点防衛マシンガン、Dreibein 40、および二連装銃架Zwillingssockel (ツヴィリングゾッケル)36に装着して対空火器として使用された。但し、MG42用の車載用銃架は製造されなかった。それは戦車等の狭い空間でMG42のバレル交換は困難であったからだ。そのためMG34も平行して製造が続いた。

 

▲レシーバー右側面には射撃後のベルトリンク排出口がある。そこから見えるフィードトレイは給弾ベルトを止める突起付きタイプだ。この突起(矢印)があると給弾ベルトをセットする際、ベルトがトレイ上に固定されるが、突起がないとフィードカバーを閉じるまで、給弾ベルトを左手で押さえておかないといけない。

 

▲MG 42のT字型コッキングハンドルは、ボルトをコッキングする初動を軽くするために梃子の働きをする。こうしないとボルトをコックする操作がかなり重くなってしまう。
レシーバー側面に一列に並んだ丸い突起は、コッキングハンドルが動く溝部分のカバーを補強するためのもの。
このコッキングハンドルを引いてボルトをファイアリングポジションまで引いたら、ボルトハンドルは手動で前に戻す。

 

▲MG 42には、シンプルながら高機能なバイポッドが装着されている。バイポッドは後方に90°、前方に45°まで動き、左右も各180°まで回転できる。脚の開き具合も中央のノブを回すことで変更でき、これで銃を構えた時の高さを変えられる。またバイポッドが開いた状態のままでは後方に動く角度が制限され、バレルジャケットとの間に指を挟むトラブルを防いでいる。

 

▲MG 42のバレルジャケットとレシーバーの接続部にあるReichsadler(ライヒスアドラー:国家鷲章)刻印。その下の189はシュタイヤーのワルシャワ工場の検査刻印ナンバーだ。横にあるklsの刻印もシュタイヤーのワルシャワ工場製を示している。

 

戦後のMG42

 MG42は優れた汎用マシンガンとして、第二次大戦後にもその発展改良型が使われ続けた。
 敗戦後、武器の生産を禁じられた西ドイツだったが、冷戦の始まりを受けて主権を回復、西ドイツ連邦軍が組織された。その武装用としてラインメタルがMG42を再設計してMG42/59を開発、これがMG1として採用された。1968年にはこれを改良したMG3が登場している。そして2005年にヘッケラー&コッホが開発したMG4が採用されるまで、ドイツ連邦軍の主力マシンガンであり続けた。
 MG42/59を採用した国は多く、イタリアやイラン、メキシコなどはライセンス生産をおこなっている。イタリアはその後にFN MINIMIを採用したが、MG42/59は現在も一部で使用されているようだ。
 戦後にスイスではMG42を7.5mm弾に置き換えたMG51を生産、スイス軍が使用した。これは2005年にFN MINIMIに置き換えられている。
ユーゴスラビアではMG42とほぼ同じものをZastava(ツァスタバ)でMG53として製造、これを軍用として配備した。このMG53はその後のユーゴスラビア紛争で使用されている。
 オーストリア軍は戦後、MG42/59を使用していたが、1974年にシュタイヤーとベレッタが共同でこれをアップデートしたMG74へ置き換えた。このMG74は現在もオーストリア軍で運用され続けている。

 

MG 42
全長:1,220mm
銃身長:530mm
重量:11, 600g(無可動実銃化加工前)
口径:7.92×57mm Mauser
仕様:ショートリコイルオペレーテッド、ローラーロッキング、オープンボルトファイアリング、フルオートマチックオンリー
回転速度:1,200発/分(900~1,500発/分)

無可動実銃
価格:¥550,000(税込)
(無可動実銃はボルトが溶接されているため、ボルト操作、装填、排莢等はできません。)

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Text by Satoshi Matsuo

 

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