2025/08/20
H&K Mod P9S
Gun Professionals 2014年10月号に掲載
時代をリードする別次元の発想を元に、HKが1969年に放った問題作、それがP9Sだ。ローラーディレイドブローバック、滑らかなDA、ハンマーコッキングレバー、ポリマー樹脂製トリガーガード…、この銃は普通の感覚からは遠く離れた、一種カルトな美しさと存在感に満ちている。
刑事ハンター
自分は今、ウロウロと迷っている。H&KのP9Sが印象的に登場した映像作品が2つあり、どっちのイメージで写真を撮り進めようかと、思い悩んでいるのだ。
1つ目のイメージは、80年代の米TVクライムドラマ『ハンター』(84~91年)だ。主人公の刑事がP9Sをこれみよがしに使っていた。しかも、バレルウエイト付きの高級コンペティションモデルをである。
アレは衝撃的だった。主人公を演じた俳優は元プロフットボールの選手とあってアクションにも切れがあり、腰をドッシリ落としたウェーバースタイルが結構様になっていた。
主要キャラの設定はもろに『ダーティハリー3』をモチーフにしており、だったらいっそのこと、お笑いパロディに撤した『スレッジ・ハマー』(86~88年)の方にむしろ惹かれる自分ではあったが、それはまた別の問題として、毎週欠かさずかぶり付きで観ていたもんである。
そしてもう一つ、P9Sで思い出すのがブロンソンの『セントアイブス』(76年)だ。アレも絶対捨てがたい。ナニが捨てがたいって、ヒロインのジャクリーン・ビセットの輝くような美しさがねえ。
ブロンソン自身は、元新聞記者で今は売れない作家というしがない設定なので、彼によるド派手なアクションや銃撃戦は元々期待できないワケだったけれど、それでも、M76サブマシンガンのムチャな発射シーン(ブロンソンは撃ってませんが)とか、そして何よりジャクリーンさんが、P9Sのスライドを引いたりセフティの操作までマメにやってくれてるところも得点が高い。ただ、辛口発言をすると、キャストも音楽も第一級なのに、第一級のはずの監督J・リー・トンプソンの演出が微妙に緩く、展開に何だか締まりがない。もう少し、狂気な部分を差し挟んでくれてれば張りが出で面白くなったのに…
そういえばもう一個、P9Sで思い出した事があった。ソレは映像ではなくて、81年6月発行のMGCニュースだ(これまた古い話で恐縮…)。その号に、MGCが主催した第11回モデルガンショーでの『カスタムガン・コンテスト』の記事があり、特別賞を取ったというP9Sが大きく掲載されていたのだ。その姿が妙に印象に残っているのである。先ほどMGCニュースの現物を見直したところだが(いやはや懐かしい)、MGCの32ACPをベースにし、各部は殆どスクラッチビルドながら作動はP9Sそのものでブローバックまですると書いてある。ようやるわって感じで。
しかし、自分も30年以上前の事柄を一つ一つ、よくも細かい部分まで強烈に覚えているものだ。何度も書くが、当時は自分が銃というホビーに心底飢えていた時代であり、きっとトラウマになっているのだろう。
それに引き換え、最近は我ながらテンションが低めで、自ら叱咤する毎日だ。情けない話である。



P9S
怒涛のすべり出し(?)となってしまった。申し訳ない。最近はテンション低めの自分も、この銃には過敏にコーフンしてしまうのである。
昔から色物銃連発で我々を愉しませてくれるH&Kの製品の中でもピカイチの超革新的話題作がP9Sだ。
本心を正直に言ってしまうと、自分はこの銃、P7よりも好きだったりする。H&Kのピストルの中で1番好きかもしれない。
自分がコイツの詳しいディテールを最初に知ったのは、確かGun誌81年11月号のAbeさんの記事だ。
ユニークさを全面に押し出した、一回観たら絶対に忘れられない特異なフォルム。その内部に、数々の革新メカ(後述)を執拗に詰め込んだ、技術の塊のようなDAオート。
えっ? おまえはメカ音痴のはずだろって? まあ、ソレはこの際言いっこなしということで。ガンナッツなら、こーゆー代物には自然に惹かれちゃうもんでありましょう。
登場は、1969年(資料によっては70年)だ。それより先に、前身であるP9(初期に485挺しか造られなかったシングルアクションのみのモデル。トリガーガードに突起が無い)があった。
思えば、67年にHK4、69年にP9S、70年にVP70、そして79年にP7と、60~70年代のH&K社の色物銃目白押し攻撃は本当に激しかった。あまりに野心的過ぎて、ユーザー側が付いていけないくらいの状況だった。しかもHK4とP9S辺りは同時進行で開発が進んでいたっぽいし、恐ろしい技術力という以外ない。P9Sはその頃の機種なのだ。
で、生産終了は84年と聞く。ただし、89年までは極少数ながら生産を続けていた模様だ。
とすると、前述の『ハンター』放映の頃には、既に一応生産は終わっていたことになる。あの番組でP9Sファンとなり、慌てて購入したガンナッツもきっと多数いたことだろう。
ご覧の1挺は、3年前の秋、ガンショーでようやく発見し、購入した。
箱から何から一式揃いのミントな完品で、750ドル。ま、今時フェアなお値段であろう。予備マガジンも2個付属し、それらにはすべて“HK 10,74”の刻印が左側面下部に小さく入っていたりする。ああステキだ。ビンテージの薫り高き黒の紙箱を見るだけで心が躍るくらいのもんで。
製造年は、フレームの右サイドの“75”の刻印から75年製と推測する。同封の試射ターゲットのテスト日も“1975年8月28日”となっているから確かだろう。ちなみに、75年当時の価格を調べたが、なぜか米Gun Digest誌の75年度版にも76年度版にも見当たらず、やっとこ77年度版で285ドル、少し戻って74年度版で179ドルとあったから、その中間あたりかと。
なお、“ようやく発見”と書いたのは、カリフォルニア時代に一度、絶好の出物を買い逃しているのだ。今回と同じ9mm口径で、600ドルくらいだった。当時の自分は45ACP版に惹かれていたので、うっかり流してしまったのである。一度好機を逃すと、次までが長い。ようやくとはそーゆー意味だったのだ。
余談となるが、この銃の登録手続きの最中に、あろうことがGun誌が休刊となり、ずいぶん沈んだ気持ちで受け取りに行った記憶がある。そんなワケで、買ってからまだ3年足らずなのに、既に思い出深い1挺なのである。




