2025/08/07
アストラ コンステーブル380 タクドラ ファン 必携の一挺
Gun Professionals 2014年3月号に掲載
1976年の名作「タクシードライバー」。S&Wモデル29や袖から飛び出すS&Wエスコートの影でほとんど目立たなかったが、主人公トラヴィスは380ACPのセミオートも使った。それがアストラ コンスタブルだ。PPKやHScに対抗してアストラが送り出した中型オート。知名度ではPPKの足元にも及ばないが、この銃はトラヴィスのような秘めた力を持っている可能性がある。
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タクドラ雑記
タナカ ワークスがチョイ前(2013年末)にリリースしたM29のトラビスモデル、アレはホントにマニア泣かせの逸品ですよねー。バレルピンやらシリンダーのカウンターボアード加工は無論のこと、サイドプレートのリアルなS&Wロゴにフロントサイトと台座を実銃どおり高く作り直す等々、それこそマニアでなければ気付かないほどの微妙なディテールの違いまで一つ一つていねいにリニューアル。さらに、モデル29ファンが愛して止まないあの映画の主人公の名を冠するなんて、心憎いと同時にその自信の程がうかがえます。
そういえば、自分の知り合いの一人に、あの映画が好きで好きでたまらず、劇中に出てくるスリーブガン(袖からエスコートがシャコンと飛び出すアレね)をとうとう製品化しちゃった人がいます。オマケにその彼の元へ少し前、或る映画会社から「劇中でスリーブガンを監督が使いたがってる」と依頼が入り、数ヵ月後に公開された作品が『るろうに剣心』だったんだそうで(実際、シャコンと飛び出してましたよね)。
業界を問わず、あの映画は根強いファン多いですねー。まさに永遠の輝きを放ち続けてるって感じで。
あの映画とは、勿論『タクシードライバー』、略してタクドラです。
自分も、ご他聞に漏れず好きでねえ(旧Gun誌時代から何度も書いてますが)。エッ? 内容が暗過ぎる? ごもっとも、真っ暗ですアレは(笑)。自分はとことん淋しい青春時代を送ったクチなので、その辺の主人公の孤独がもう身につまされる思いで観てたもんなのですわ。取り分け、主人公が日記を書いてるシーンなんか涙が出るほど哀しい感じで(自分は日記って書いたことありませんが)。
そんな自分なので、タクドラ関係の各種グッズ、例えば劇場パンフにロビーカードにレプリカのNY市タクシー業証明カード、タンカースにM65ジャケットにパイロットグラスまで、予算の許す限りちょこちょこ集め続けており、銃のほうも地道に捜し求めて現在に至っております。
今回の銃は、2年半ほど前(2011年?)にガンショップで見付けてすかさずゲット。タクドラの中で、密売人がPPKと称して売っていた銃…そうです、主人公トラビスが酒屋で見事に強盗を仕留めたアストラですよ。


右:リアサイトも小振り。両サイドのネジを使って左右微調整が可能だ。ノッチは逆台
形で少々ファジーなビュー。

右:PPKというよりもP38似のラップアラウンド・グリップ。プラ製だがチェッカリングが鋭く、確かな手応え。
アストラ
確か350ドルくらいだったかな。銃本体のみで、コンディションは上々。
なんか、ピカピカのツルツルでさ。元々が安物の銃にしては、不似合いなほど綺麗な仕上げ。はやる気持ちでお買い上げ。
トラビスは、150ドル払ってコイツを手に入れるんだよね。映画公開の1976年で調べると、アストラの新品定価は175ドル。あの密売人、小売価格より安く売ってたんだ、割りといいヤツだよなあ、とか。
さてと、そんなアストラだが、生まれ故郷はスペインだ。
手元の資料では、1965年に誕生とある。Constable(コンステーブル)という名称はアメリカ名で、本国ではM5000と呼んでいた。口径は22LR、32ACPそして今回の380ACPの3種(トラビスのも380だった)。
製造元のアストラ社は、創立が1908年にさかのぼる老舗のガンメーカーだ。同社の製品で真っ先に思いつくのは、M400、M600辺りの軍用オートか。マウザーミリタリーやらSIGのコピーみたいのもあったっけ。コルトのジュニア25オートは同社のCUBモデルが元ネタだったりする。有名銃からまがいモノまで幅広く手掛けていたご様子。
で、このコンステーブルは、開発後しばらく、米国市場へは入っていなかった。それが、1968年の米GCA法によって米国の輸入銃の規定が厳しくなり、同社の主力だった小型銃の輸出が不可能となったため、急遽米国市場向けに振り分けられたらしい。
米Gun Digest誌には1971年度版に初登場している。新製品紹介欄に「価格未定」との表記がある。まあ、大体その頃に米国へ入ってきた模様だ(リサーチの結果、売り出し価格は89.95ドルと判明)。輸入元は、STAR社製の銃なども扱っていたニュージャージーのGARCIA社が担った。
ご覧の1挺の製造年だが、スライド右サイドにあるGARCIA社の所在地の刻印がニュージャージーではなくワシントンDCとある。加えて、グリップの様式が極初期の縞模様とは違い、チェッカーだ。よって初期の製品ではないことは確か。そして、79~80年頃に輸入元がINTERARMSに替わるので、ソレよりは古いはずだ。恐らく70年代後半、それこそタクドラ時期の製品かも…と思いつつ調べを進めたら、何の事はない。スペイン製の銃は、年代を示すイニシャル及び数字がフレームに打たれているそうで、それで追った結果、コイツは1973年製(R・1の刻印)と判明した。
40年前の汎用銃にしては奇跡的にグッドなコンディション。いやあ、タクドラ魂が沸々燃え上がるぜ。
73年時点での小売価格は100ドルだった。当時のライバル銃らの価格を見ると、PPK/Sが155ドル、HScが135ドル、H&K4が110ドルといったところ。やっぱし一番の安物だ。
がしかし、実際の話、コイツは単なるラテン系の安物銃だったのか?
1972年の米銃器雑誌にコイツの広告が載っており、それには“Everything you want in an automatic(あなたがオートに求めるものが全てここに)”という謳い文句が見える。
Everythingとはまた大見得を切ったものだが、こうして現物に向き合ってみると、あながちハッタリばかりとも言い切れないのだ。

右:HScの上部は全面艶消し仕上げ。前後を貫く溝にサイトが低く沈み込んでいる。スナッグフリーを強く意識した設計だ。

右:HScのハンマーは、極短スパーのこれまたスナッグプルーフを意識した形。デコッキング機能は無いため、サムセイフティを入れてもハンマーは落ちない。
コンステーブル
Everythingがハッタリかどうか、ライバルであるPPKとHScを交えて探ってみようではないか。本来なら、タクドラ絡みでPPK/Sを持って来たいところだが、手元に無いのでご勘弁である。
先ずスタイルは、PPKとHScを足して割ったというか、PPKにHScを少量混ぜたみたいな、個性も当たり障りも無い、どっかで見たような薄っぽい印象だ。スッキリ簡素な点は決して悪くは無く、スナッグプルーフ性も高い一方、やっぱしマガイもの臭はプンプン漂う。要するに、フォルムの美しさではPPKやHScに二歩ほど後退。僅かに、微妙に、何処かもっさいのだ。
仕上げは、既に述べたとおり、すこぶる良好だ。磨きもブルーも文句なし。パーツ一個一個の仕上げにも手抜きは無く、ラテンの意地を見せている。
握り心地は、PPKとHScの中間辺りで先ず先ずのフィット感。フロントストラップの下部を盛り上げてグリッピング力を高めてあるのは感心だ。コンパクト感でもPPKに迫るものがある。HScは少々ゴツゴツしく厚ぼったい。
トリガーの引き具合は、先ずDAの場合、PPKは引き始めが非常に固くて短いアクション、HScは滑らかではあるがレットオフ寸前にガクンとワンクッションある特異なアクション、そしてアストラはやや粘りつつも終始均一でクセのないアクションということで、個人的にはアストラが一番好きだ。SAは、切れの良さでPPKがダントツ。アストラは二番手で、遊びがメチャ多いHScが三番手となる。