2025/06/03
PSM PISTOL IZh-75 5.45×18 MPTs
PSM PISTOL
IZh-75 5.45×18 MPTs
ロシアから謀略を込めて
Text &Photos by Tomonari Sakurai 櫻井朋成
Gun Professionals 2015年10月号に掲載
冷戦期、東側の諜報機関や秘密警察が使用した小型ピストルがPSMだ。操作性を犠牲にしても薄くすることにこだわると共に、ボディアーマーを貫く特殊な5.45mm弾を使用するなど、西側のピストルとは明らかな違いがある。かつて東西の諜報機関員が暗躍した中欧のハンガリーでそんなPSMに巡り合った。

口径:5.45×18mm MPTs
全長:155mm
全高:109mm
銃身長:85mm
重量:460g
マガジン装弾数:8発

数値データはいずれも実測ではなく、公表されたもの。実際に測定すると長さで数mmの誤差がでてくる。測り方の問題なのだろうか?
重量も個体差がかなりある。
初速と銃口エナジーは、使用する弾薬で大幅に変わるので、あくまでも目安として頂きたい。
SIG P230は1977年登場といわれる場合があるが、実際には1974年には既に存在していた。床井雅美さんが1974年にSIGを訪問、そこで現物を見ている記事が旧Gun誌に載っている。
SIG P230は1973年に開始された初期の西ドイツ警察ピストルトライアルにワルサーPPスーパーと共に参加している。従って1973年には開発を完了していたはずだ。
2015年登場のGlock 43は参考としてここに挙げた。現代のコンパクトオートの代表として見比べて頂きたい。
偶然ではあるがPSMとG43は外観寸法、重量が驚くほど近い。厚さは8.5mmほど厚いが、これは9mmパラなので当然だ。
ちなみに.380ACPのG42の厚さは24mmだ。
冷戦の落とし子
1962年、核戦争勃発寸前にまで緊迫化した米ソ対立はその後、核戦争回避という共通利益を見出し、両国関係は大きく変化した。1969年以降、緊張緩和を目指すデタント(Détente)が進む。ベトナムからアメリカが手を引き、インドシナ半島は完全に赤く染まった。
当時のアメリカ大統領ニクソンは、中国と友好関係を築き、日本も国交正常化を図るなど、東西関係は表向き落ち着きをみせていた。しかし、それは真の平和ではない。東西は深く静かな戦争、いわゆる冷戦を続けていた。前線で兵士同士が戦うのではなく、裏舞台で活躍する兵士、すなわちスパイが暗躍した冷戦は、第二次大戦終結後からずっと続いていた。
そんな世界を題材にしたエンターテイメントがスパイ小説、スパイ映画で、1960年代に大流行した。007はその代表作で、映画ではワルサーPPKが使用され、あたかも西側スパイを代表する銃という位置付けとなった。現実に西側スパイがPPKを使用したかはともかく、この種の小型拳銃を一部のスパイが隠し持ち、その頻度は少なかったものの、必要に応じて使用した事は間違いない。
東側にも同様のコンシールドキャリーに適した銃の需要があった。ソ連のKGBが要望したのは“フラットな銃。厚さは一般的なマッチ箱の厚み17mmを超えてはならない”とされた(ソ連のマッチ箱って、そんなに厚いのか!)。この命令を受けたのはソ連のTsNIITochMash。ここは主に武器のデザインを行う組織で、その名を英語にすればCentral Research Institute for Precision Machine Building(精密機械製造中央調査研究所)となる。
要請の中に口径の指定が無かったことから、まずは口径の選定から始めた。既存にある弾薬の中からソ連で入手が容易なものをピックアップし、6.35×16SR(.25ACP)や7.65×17SR Brownings(.32ACP)をテストする。結局はもっとも貫通能力の高い5.45×18 MPTsを使用することに決めた。この弾はPSMピストルのために開発したわけでは無いが、同時期に近距離で、特にソフトスキンに対して貫通力を高めた特殊な仕様で開発された特殊弾だ。スティールコアを持つフルメタルジャケット弾を、ボトルネックのケースを組み合わせている。.25ACPと比較すると、約1.5倍以上のエネルギーを持つ。そしてスチールコアのブレットをこのエネルギーで撃ち出せば至近距離ならば45層のケブラー繊維を貫通する能力があった。すなわちボディアーマーを無力化できる。小型ながら強力な弾を開発することが出来たことで小型ピストルの口径はこの5.45×18 MPTsになったのだ。




こうして完成したピストルの名称はPSM。ロシア語でPistolet Samozaryadny Malogabaritny、英語ではSelf-loading Small Pistolを意味する言葉の頭文字をとっている。要求通りに17mmの薄さを持つフラットなボディに仕上がった。1972年に採用され、ソ連の諜報機関、秘密警察であるKGB(ソ連国家保安委員会)や情報機関GRU(ソ連軍参謀本部情報総局)、東ドイツの諜報機関、秘密警察であるシュタージ(St asi:東ドイツ国家保安省)などに使用された。ソ連軍将校はマカロフを支給されていたことから、PSMの用途は明らかに差別化が図られていたといえる。




