2025/05/18
SALIENT STYLE SALIENT ARMS INTERNATIONAL Part2
SALIENT STYLE
SALIENT ARMS INTERNATIONAL
Part Ⅱ
Text & Photos by Hiro Soga
Gun Professionals 2015年10月号に掲載
カスタムガンショップからファイアアームズ製造会社へと変貌しつつある“セイリエントアームズ インターナショナル”社。今回は、そのクールな外観と精度を誇るAR-15と、昨年リリースされた“ルーダス グロック”にスポットをあててみたい。
2025年5月 GP Web Editor追記(Part 1と同じ追記です):
このレポートはセイリエントアームズ(SAI)が急成長を遂げていた2010年代半ばに掲載されたものです。その後、SAIのカスタムガンに対する評価は必ずしも芳しいものばかりではなくなり、2017年にはSAIが倒産したという話が広がりました。しかし、これは誤報で、実際に倒産したのはかつてSAIの母体であったSalient Security Service Inc.で、この時点ではSAIは別会社となっていました。とはいえ、その後のSAIはかつての勢いが消え、ほとんど忘れられた存在になってしまったのです。ところが最近、Dynamic Innovations GroupがSAIを買収、ガンマニュファクチャーとしてSAIの名で再始動するという兆しが出ています。
Salinet AR-15 Tier1
カスタムグロックでは、それこそ一世を風靡したともいえるセイリエントアームズ(SAI)社だが、その本拠地をネバダ州ラスベガスに移してからは、多種にわたるファイアアームズのマニファクチャー(製造会社)としての道を着実に歩み始めている。そのラインナップがまた、なんとも心憎い。1911、2011、グロック各種、ベネリショットガン、そしてここにきてAR-15の完成品までが続々とリリースされてきたのだ。
このAR-15は、昨年からビレット削りだしである上下フレームのみが売られていたが、ここにきてセミオーダーメイドともいえる完成品が出回り始めたのだ。
このあたりを、セイリエント社の社長であるエイドリアンに聞いてみた。
「以前にも話したと思うが、我々セイリエントの母体はエグゼクティヴ(会社幹部や有名人)のガードをメインとした、セキュリティー会社なんだ。ガードの度合いや場所によって、それこそあらゆる種類のファイヤーアームズを携行する必要がある。通常われわれはソフトアーマーを着込んでハンドガンを装備するが、相手や場所によってはよりファイアパワーのあるショートバレルの.223口径ARを何人かに持たせることも少なくない。よって、取り回しが良く、信頼性と精度の高いAR-15は必要不可欠だったんだ」
必要に迫られて、アメリカ市場にあるAR-15は、それこそすべて試してみたのだという。
「我々の目的には、どれもがいまひとつというか、しっくりこない。各社から出ている小型“PDW”(パーソナルディフェンスウェポン)も買ってみたが、小さく作るということは、やはり信頼性と中距離での精度を犠牲することになるんだというのがわかった。ならば、自分達で作ってしまおうということになったんだ」

2025年5月GP Web Editor補足:WarSport Industriesは2018年にZRODeltaに買収され,その製品の一部は現在も製造継続している。


2007年からUSミリタリーに所属し、3年半にわたり9ヵ国を転戦した猛者である。現在はセイリエントで働いているが、1昨年から3ガンマッチにハマッてしまい、週に3日以上は撃っているという。これほどARライフルが様になる女性も珍しい。
ここで、独自の高性能ARライフルを作り上げるにあたって、目指した点を列挙してもらった。
- 射程は10ヤード(約9m)から150ヤード(約135m)。100ヤード(91.4m)で1.5インチ以下の精度を持たせる。
- 銃身長は、7.5インチから14.5インチまで。精度と耐久性を上げるために、ステインレスのマッチバレルを選ぶが、ヘビーバレルではなく中軽量のものを、フルフローティングとする。
- ハンドガードは、どんな場所にもサポートさせることが出来るようにするのと、マズルデバイスから横方向の爆風を軽減するために、フルレングス(バレルの全体とマズルデバイスの一部をカバーする)とする。
- 上下フレームは、その精度を上げるためにビレットからの削り出しとする。
- ボルトアッセンブリは、潤滑性、耐摩耗性を上げるために、TiN(チタンナイトライド)コーティングを施す。
- セイフティ、トリガープルといったファイアコントロールは、射手の好みを生かしたオーダーメイドとする。
こうして、約2年の歳月を費やして出来上がったのが、“Salient AR-15 Tier1”(ティアワン)なのだ。
今回も、セイリエント社で働くジャクリーン・キャリゾーサさんにテストガンを撃ってもらった。彼女はアメリカ軍歴3年半、その後は3ガン競技のシューターとしてセイリエントガンを撃ちまくっているという猛者だ。彼女にとって制式銃であるM4は、それこそもう身体の一部のようなモノなので、このインプレッションには最適なのだ。
「そう、まずその撃ち心地がマイルドなのが、大きな特徴ね。M4に比べればフロントヘビーだけど、マズルジャンプがほとんどないし、なにせこのハンドガードをどこにでもレストさせて撃つことができるというのは、素晴らしいと思う。私が3ガン競技に使っているのは、16インチバレルのモデルだけど、400ヤードでも自信を持って狙っていける精度があるの。あと、作動はガス方式だけど、オイルを足すだけで3000発もクリーニングなしで撃つことができたのには驚いたわ。その間、ジャムは一度もなし。信頼性も、必要十分でしょう」


この日、我々が用意したアモは、ブラックヒル社製69grマッチキングだ。銃口初速は平均で2,670fps、グルーピングは100ヤード3発で最高が0.96インチ、最悪は1.24インチであった。14.5インチバレルとしては、素晴らしい結果といえるだろう。ただし、バレルが細めなためか、連射における発熱にはやや敏感な気配があった。速いテンポで撃ち続けると、グルーピングがやや広がってくるのだ。10-15発を撃ったら、パッチを通してクールダウンを待ち、再び撃つという手順を踏むことにした。
このあたりを、エイドリアンに聞いてみた。
「そうなんだ、このバレルを採用すると決めた際、かなりの紆余曲折があった。我々が目指したのは、セキュリティーガードが持ち歩くことの出来る、150ヤードまでこなせるAR-15だからね。それでも、このシーレン(Shilen)社の14.5インチバレルは100ヤードで1インチ以下の精度を持っていたんだ。このSAI Tier1は、このバレルを基にして組み上げていったといってもいいくらいなんだ」
このシーレン銃身にこだわったセイリエントのデザイン陣は、さらにユニークなデザインをこのTier1に盛り込んでいく。この14.5インチ銃身に、ライフルレングスのガスシステムを採用したというのだ。
このあたり少々専門的になるが、AR-15のガスシステムでは、発射ガスをガスチューブを通して直接ボルトに吹き付けて後退させるという機構上、ガスの取り入れ口である“ポート”という穴が銃身上部に開けてある。このポートの位置は、ガスの圧力を最適にするため、銃身長が長くなれば、よりチャンバーから離れた場所に位置しなければならない。最適といわれているポートの位置は、以下の通りだ。
例えば、20インチ銃身にカービンレングスのポートを開けてしまうと、弾頭がポートを通り過ぎた直後にガスの流入が始まり、これが銃口から飛び出るまでの13インチ(20マイナス7インチ)分、このガスのプレッシャーは止まらないことになる。つまり銃身内の圧力は上昇し続け、ガスチューブからは高圧ガスがより長い時間噴き出す結果となる。
逆に、14インチ銃身にライフルレングス(チャンバーから12インチ)のポートを開けると、ポートからチューブ内に十分なガスが流れ込まないうちに、弾頭が銃口から飛び出てしまい、ボルトを下げきれずにサイクルが終わってしまうことになる。
しかし、このSAI AR 14.5インチ銃身では、あえてライフルレングスのポートを開けてあるというのだ。
「銃身内のプレッシャーが下がれば、それだけリコイルもソフトになる。そこでガスブロックにチャンバー(この場合は圧力を逃がすための予備空間のこと)を設け、ポートを細くしてガスの流速を上げているんだ。これで、銃身内のプレッシャーが低いまま、高速のガスをボルトまで導くことが出来る」
文章にすると長いが、要は近距離での撃ち心地を良くするために、ガスシステムにも手を入れてあるということなのだ。
このテストライフルは、各雑誌媒体用に貸し出されたものなので、すでに1万発を超えるテストをこなしている。この間、ガスシステムのクリーニングはしていないとのことなので、その信頼性も合格点であろう。
是非とも撃ち込んでみたいライフルに仕上がっているといえそうだ。

