2025/04/19
Walther PP/PPK & Manurhin PPK
Walther PP/PPK
&
Manurhin PPK
Photo & Report :Tomonari SAKURAI 櫻井朋成
Gun Professionals 2015年1月号に掲載
PP、PPKといえば当然ドイツのワルサーとなるが、フランス製のPP、PPKも存在する。傑作リボルバーMR73を生み出したマニューランが製造したものだ。フランスでならマニューラン製PP、PPKが簡単に見つかるだろうと思ったが、意外なことに出てくるのはワルサー製ばかり。やっと見つけたのは22口径のマニューランPPKだが、オーナーが実射を認めない。とはいえワルサーPP、PPK、マニューランPPKと揃ったので、この3挺をまとめてご覧頂こう。
戦後フランスが繋いだドイツの名銃
なぜフランスで?
出物の銃は何かないかな?などとパリや近郊の銃砲店の中古情報を徘徊していると、マニューラン(日本ではマニューリンと呼ぶ場合が多いようだが、フランス語の発音はマニューランに近いのでここではマニューランと呼ぶことにする)SG540やPP/PPKなどを目にする。マニューランと言えばフランスが誇る特殊部隊GIGNのシンボルともなっているリボルバー、マニューランMR73が有名だ。
GIGNが発足当時の1970年代、S&Wやコルトなどのリボルバーと比べても、コールドフォージングで作られる強固でアキュラシーの高いマニューランが世界一のリボルバーとして採用されたのだ。残念ながらその成功は国内のみで、国外へはあまり広がっていかず、後継モデルであるMR88はルガーリボルバーのライセンス生産となってしまった。



マニューラン(MANURHIN)は1919年にドイツ国境に近いオー=ラン(Haut-Rhin)県のミュールーズという街で生まれた。Manufacture de Machines du Haut-Rhinを短縮してマニューランだ。
最初は宝飾品を製造する機械メーカーであった。しかし、1922年に軍需品を納入する工場として方向転換をする。最初は小口径弾薬の製造を開始し、徐々に拡大して戦時中は軍用弾薬メーカーとして製造を続けた。
第二次大戦でドイツが敗北するとワルサー社の社長であったフリッツ・ワルサーは製品図面と共にチューリンゲン地方のツェラ・メリスから脱出してくる。この地域はソ連占領地域となるからだ。戦後、ドイツでの銃器製造が禁止されていたことから、ワルサー製品の製造ライセンスをマニューランが獲得、1952年から製造が始まった。
製造されたPP、PPKは戦前、戦中モデルを改良したものだ。
マニューランはPP, PPKだけでなく、PPスポーツも製造したが、西ドイツで銃器製造が解禁された後、少数だが戦後型P38のP1とMPKサブマシンガンも製造した。これらのP1とMPKは西ベルリンの警察と国境警備隊に納入するためのもので、当時、東ドイツ領域内にあった西ベルリンへは、西ドイツ製の銃器の持ち込みは許されなかったことから、フランスで製造したモデルとすることで、この制限を潜り抜ける必要があった。



1960年代、マニューランは最盛期を迎える。クルマの電装品などを製造しつつ、SIGからライセンスを得たライフルの製造や、自社で開発したリボルバーなどが成功を収め、1970年代には4,000人もの従業員を擁するほどまでに成長した。
しかし、1978年にマトラ社(Matra : Mécanique Aviation Traction)の傘下に入る(そのマトラ社は1994年にラガルデール SCA(Lagardére SCA)に吸収された)。しかし1983年、民生品を製造するマトラ・マニューラン・オートマチックと軍用品を生産するマトラ・マニューラン・ディフェンスに分離した。この軍用部門では装甲車などに取りつけられるイスパノ・スイーザHS820の20mm機関砲のバレルなどを製造した。
1990年、マトラ・マニューラン・ディフェンスはフランスの国営企業で装甲車や戦車を開発製造するGIAT(現在のネクスター)グループに売却され、弾薬製造部門はMR Equipementとなった。
FNハースタルがGIATに加わった1991年、MR EquipmentはFNハースタルの一員となった。その後、国営企業から民営へ、そしてまた国営にとグループ企業の動きに翻弄されながらもマニューランは弾薬の製造機械などを製造するメーカーとして生きながらえている。現在はNEXTERグループ(フランス国営)、SOFI RED(フランス国営)、DELTA DEFENCE(スロヴァキアの民間企業)の3社がマニューランのオーナーだ。




銃器製造に関しては1973年のマニューランMR73のリボルバーの成功を最後に、ルガーリボルバーをコピーするなど自社開発をおこなわず、徐々に衰退していく。その中で、ハンティングライフルメーカーであるフランスの老舗Chapuis Arms(シャプイ・アームズ)がMR73のライセンスを購入してレジェンドモデルとして製造し続けてはいるが、材質や仕上げなどの違いから、かつての品質よりもやや劣るといわれている。
これが大まかなマニューラン社の流れだ。今回、注目したPP、PPKは戦後ドイツで生産できなかった時期に、かなりの数が生産された。ドイツのワルサー製PP、PPKとの違いは、刻印程度だ。

