2025/04/24
DSEi 2011報告 「イギリス最大の軍用兵器ショーに展示されたスモールアームズ」
DSEi 2011報告
ロンドンの見本市会場で開催されたイギリス最大の
軍用兵器ショーに展示されたスモールアームズ。
Text by Masami Tokoi 床井雅美
Photos by Terushi Jimbo 神保照史
Gun Professionals Vol.1 (2012年4月号)に掲載
2011年9月13日から16日まで、ロンドンで開催されたDSEi 2011のレポートです。DSEiは2019年より日本でも開催されるようになった防衛装備総合展示会ですが、日本では小火器本体の展示はおこなわれませんので、やはり本国イベントの取材は大いに意味があるといえるでしょう。銃器市場もこの10年以上の時間で大きく様変わりしていますが、その進化の歴史を辿る意味で、当時の展示品の数々を改めて見ることは価値があると思います。
2025年4月:GPWeb Editor
イギリスでは、隔年でロンドンのイーストエンドにあるExcel展示会センターを使って最新防衛装備の見本市DSEiが開催される。
リポーターは、2011年に開催されたDSEiを訪問し、そのショーに展示されたスモールアームズを見学した。
今回のショーは、アフガニスタンにおける戦争がまだ継続している最中に開催された。従ってこの戦争の影響が、ショーに展示されたスモールアームズにも様々な形で反映されている。
この戦争の影響がもっとも色濃く反映されているスモールアームズが、スナイパーライフルの分野だ。アフガニスタンの戦場は、見晴らしのきく山岳地帯が多い。そのため、目標を発見できても、目標までの距離が遠すぎて、一般の歩兵が装備しているアサルトライフルでは射程外となってしまうことも多い。
このような1,000m超えの距離の目標を狙撃するために製作されているのが、ロングレンジスナイパーライフルだ。遠距離でもじゅうぶんな威力を維持する.50口径(12.7mm×99)弾薬や.338ラプアマグナム弾薬を使用する。
アフガニスタンに展開しているアメリカ軍は、すでに.50クラスのセミオートマチックロングレンジスナイパーライフルを配備しているが、さらに精密な命中精度が期待できる.338ラプアマグナム弾薬を使用するロングレンジスナイパーライフルのトライアルを今年2012年におこなう予定だ。
このアメリカ軍による.338ラプアマグナム弾薬口径のロングレンジスナイパーライフルのトライアルに向けて、多くのメーカーが、.338ラプアマグナム弾薬を使用するスナイパーライフルを製作し、DSEi2011にもそのいくつかが展示された。
一方、アフガニスタンでは新旧多くの種類のライフルが、タリバン勢力によって使用されている。その中には、現代アサルトライフルより射程の長いフルロード弾薬を使用するライフルも含まれている。
通常、前線で戦う兵士は、10人強で構成される分隊で行動をする。アフガニスタンに進駐している各国の軍隊もだいたいこの構成だ。作戦行動中に、兵士のもつアサルトライフルの射程外から、射程の長いフルロード弾薬で攻撃される危険がある。
これに反撃するには、遠距離の目標を狙撃できるスナイパーが必要となる。しかし、少人数で構成される分隊ごとに専従のスナイパーを含めると、通常の戦闘での火力の減少になりかねない。そこで考えられたのが、通常の戦闘もこなし、狙撃も可能な兵員と、その兵士に持たせる戦闘狙撃兼用のライフルだ。
国によって、この種の戦闘狙撃兼用のライフルの呼び方は異なっている。アメリカではミットレンジスナイパーライフルと呼び、一方、イギリスではシャープシューターライフルと呼ぶ。
その多くは、7.62mm×51弾薬を使用するセミオートマチック、あるいはフルオートマチック射撃も可能なセレクティブファイアのライフルだ。
今回のDSEi2011には、イギリス軍が新たにシャープシューターライフルとして選定し、L129A1シャープシューターライフルの制式名を与えた、アメリカLMT社製のライフルが展示された。
その他にも多くのメーカーから同種の使用法が可能なオートマチックライフルが展示された。細かくは、以下のリポートを見てほしい。
このほか、アメリカ陸軍は、航空支援や砲兵の支援が期待できない分隊が、危機脱出のため、素早い反撃に使用できる小型兵器として、U.S.M25 Counter Defilade Target Engagement (CDTE) Systemを公開した。
U.S.M25カウンターデフィレードターゲットエンゲージメントシステムと名付けられたこの兵器は、OICWプロジェクトで開発された25mm口径のエアバーストグレネードをセミオートマチックに発射できる。
2025年4月GPW Editor補足:XM25は2018年7月に正式に廃案となっている
また、アメリカのジェネラルダイナミック社は、開発中の新世代.50口径マシンガンのXM806ヘビーマシンガンを展示し、初めて一般に公開した。
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Pistols
Beretta PX4 Storm
イタリアのベレッタは、シルエットに多くの流線型を取り入れたPX4ストームシリーズを2004年に製品化した。そのピストルがPX4ストームで、ピストルキャリバーカービンが、CX4ストームシリーズだ。人によって好みの違いはあるだろうが、PX4ストームシリーズは、無骨な形になりやすい銃砲類にイタロデザインを取り入れて、工業製品でもある銃砲を、いわばエレガンスな形にしたユニークな試みでもある。昔の自動車と機能は同じなのに、今日の自動車が全く違う形となっていることを考えると、この試みによる30年後の銃砲の姿が気になる。
ベレッタPX4ストームは、ターンバレルロッキングを組み込んでいる。ターンバレルを組み込んだ現代ピストルは多くない。しかし、ベレッタ社は、ベストセラー製品でもあるベレッタ92の水平移動するバレル構造を踏襲し、あえて同じように水平移動するターンバレルロッキングを組み込んでPX4ストームを完成させた。テイルトバレルロックに比べ、水平移動するバレルのほうが、高い命中精度を期待できるとベレッタ社は考えている。
SIG SAUER P226 TACOPS
TACOPSはP226の発展改造型で、とくに警察の特殊部隊向けに製作されたものだ。その製品名TACOPSの名称はTactical Cops(タクティカル警察官というべきか)を短縮したものだ。大きなビーバーテイルとなっている。グリップパネルはオーバーサイズになっており、通常より装填弾数の多いロングマガジンを標準装備する。スライド上面に装備されたサイトも、薄暗い環境下でも照準がしやすいTruGLO(トルグロ)製のトリチウムファイバーオプティクサイトが装着されている。
SIG SAUER P290 Nitron
2011年に発表されたセルフディフェンス用の9mm×19の小型セミオートマチックピストルがP290だ。ポリマー製のグリップフレームを装備しており、グリップのチェッカー部分パネルの交換が可能となっている。ここに、個人の好みでポリマー製や金属製、木製などのグリップパネルを交換装着でき、パーソナライズできる特徴がある。ハンマー露出タイプだが、ダブルアクションオンリーで撃発射撃する。全長140mm、重量581g。Nitron(ナイトロン)はSIG SAUER独自の金属保護皮膜の名称だ。
2025年4月GPW Editor補足:P290は2011年に登場、2017年まで供給され、その後継機がP365となった。
IWI Jericho B
IWI(イスラエルウェポンインダストリーズ)のジェリコBは、同社製品であるバラクと、ジェリコを合体させたような大型ピストルだ。全体のシルエットは、バラクからとられたが、ターンバレルロッキングをやめ、ジェリコ941と同じティルトバレルロッキングが組み込まれた。グリップフレームはポリマー製で、ハンマー露出タイプのトラディショナルダブルアクションを備えている。
2025年4月GPW Editor補足:ジェリコBはポリマーフレーム版ジェリコとして開発されたが、2015年に941のポリマーフレーム版が登場し、消滅した
Arsenal P-M02
元ブルガリア政府造兵廠だったアーセナル社によって1999年に開発設計された中型の大口径ピストルがP-02で、自由化後のブルガリア軍の将校向けやブルガリア警察向けに開発が進められた。
数次の試作型が製作された後、写真の量産型となった。ポリマー製のグリップフレームを装備し、フレームダストカバー部にピカティニーレイルを装備している。
グリップフレームのバックストラップ部分は、手の大きさにあわせて交換が可能だ。最大の特徴はヘッケラー&コッホ(HK)P7と同様のガスロックによるディレイドブローバック方式が採用されていることだ。またバレルもHKと同様にポリゴナルライフリングとなっている。
撃発メカニズムはハンマー露出式のトラディショナルダブルアクションで、ハンマーデコッキングを兼用した手動セイフティレバーは、スライド左右両面に装備されている。このP-M02はP7のようなスクイズコッカーを採用していないため、コンパクトながら無理なく15連マガジンを装備できた。
POF PK9
パキスタン最大の造兵機関であるPakistan Ordnance Factoriesで製造されている大口径の大型ピストルがPK9だ。同社はヘッケラー&コッホからライセンスを得て、G3アサルトライフルやMP5サブマシンガンを製造している。PK9セミオートマチックピストルは、一見して判る通り、ベレッタ92FSのストレートコピーだ。マガジンのボトムプレートにフィンガースパーがあることが、わずかにオリジナルと異なっている。パキスタンオーディナンスファクトリーズは、このほかにも中国製のトカレフピストル(54式)を原形としたピストルとその派生型ピストルを製作している。