2025/05/09
Beretta M9A3
Beretta M9A3
米軍兵士からのフィードバックを元にM9の問題点を払拭すべく、ベレッタが出した回答がM9A3だ。ストライカーファイアードのポリマーフレームを欲していた米軍は、これを検討することなく突き返したが、M9A3は高いポテンシャルを持つ92の究極進化形というべき戦闘用拳銃になっている。
Text & Photos by Yasunari Akita
Gun Professionals 2021年2月号に掲載
2025年5月 GP Web Editor補足:
2021年9月にベレッタUSAはM9A4をリリースしました。このレポートのM9A3からの変更点は、オプティックレディ仕様としたこと、レバーが完全にG仕様となったこと、グリップがVertecタイプでテクスチャーのパターンが変わったことなどとなっています。
再燃するベレッタ人気
SHOT SHOWが開催中であった2017年1月19日、米軍の次期サービスハンドガンを決めるMHS(モジュラーハンドガンシステム)コンペティションの結果が発表され、読者もよくご存じの通り、SIG SAUER P320がベレッタM9の後継サイドアームとなるM17に決まった。同時にキャリーサイズのM11(SIG P228)についても、後継のM18としてP320が採用された。これは米陸軍の新サイドアームとしての選定だったが、その後にM17, M18は米全軍へと採用が広がっている。ベレッタ92Fが米軍の新サイドアームM9に決定した1985年1月から数えて、ちょうど32年後の出来事だった。

M9A3
- 口径:9mm×19
- 全長:220mm
- 銃身長:127mm
- 全高:137mm
- 全幅:38mm
- マガジン装弾数:17発
- 重 量:944g
- メーカー希望小売価格:$1,100(2020年時点での価格)

M9コマーシャル
- 口径:9mm×19
- 全長:216mm
- 銃身長:125mm
- 全高:137mm
- 全幅:38mm
- マガジン装弾:15発
- 重量:944g
- メーカー希望小売価格:$675(2020年時点での価格)
ベレッタにとってこの32年間、92は象徴的存在であり、自社のカタログでは究極のコンバット&タクティカルピストルと紹介し続けた。米軍採用の肩書により、ベレッタは世界中の軍警察関係者や一般市場へ92シリーズ(正確には90シリーズだが)の売り込みに大成功したが、MHSの結果発表は、それが終焉を迎えた事を意味する。
米軍の中でM9が順次M17/18に置き換えられ、退役していく中、ベレッタは92シリーズがただ色褪せていくのを黙って見守る事はしなかった。近年のベレッタは、火がついたように新機種を展開しはじめ、92が旧式化していく印象を払拭しようとしている。その動きはMHSコンペティションの結果が発表されるずっと前に始まっていた。

ベレッタは2014年初めにカスタム1911で広く知られるWilson Combat(ウイルソンコンバット)とコラボして92Gブリガディアタクティカルを開発、僅か半年後に製品した。
ベレッタにとってはかなり異例の企画であったが、有名カスタム会社とのコラボでベレッタの近代化は日の目を見た。92系の信頼性の高さとパフォーマンスレベルの高さを広めると同時に、ベレッタの製造ラインがカスタムモデルを生み出せる事を立証する意図もあったのだろう。このプロジェクトは好評で約2年後には92Gコンパクト、その翌年には92Gセンチュリオンタクティカルと続いて、現在に至っている。
2018年には同じくベレッタのカスタマイゼーションで知られるアーネスト・ラングドン(Ernest Langdon)の会社LTT(Langdon Tactical Technology:ラングドンタクティカルテクノロジー)と協力し、92エリートLTTをリリース。
SHOT SHOWでは社長自らが解説員となり92シリーズに新しい風を吹き込んだ。LTT は2020年には92のスライドに、ダットサイト取り付け用アダプタープレートを加工しマウントしたカスタムスライドを発表、92シリーズを現在のトレンドであるキャリーオプティックにカスタムする事でベレッタの可能性の道をさらに切り開いた。

そしてベレッタが競技に向け本格的に力を入れて新開発したのが2019年に発表された92Xシリーズだ。特にその中でもブリガディアスライドにヴァーテックデザインのスチールフレーム、フレーム側のサムセイフティレバー、エクストリームSトリバーメカニズムを取り入れた92Xパフォーマンスが注目を浴びている。
同年チームベレッタの筆頭メンバーとしてワールドクラスシューターであるサイモン・JJラカーザ(SimonJJ Racaza)を6年契約で迎え入れ、92Xにコンペンセイターを追加したオープンガンまで導入している。
こうして92シリーズは朽ち果てるどころか、ますますの発展と盛り上がりを見せている事はベレッタファンには喜ばしいことだ。
MHSに対してベレッタは2つの挑戦を行なった。1つはポリマーフレームのAPXを新開発し、トライアルに参戦したことだ(結果は大敗だったが、次世代を担う軍警察向けハンドガンとして現在も販売継続している)。
2025年5月GP Web Editor加筆:現行型は2022年5月にリリースされたAPXA1となっているとなっている。同年10月にはAPXA1 Carryもリリースされている。
もう1つは長年のフィードバックをもとにM9を改良したM9A3の開発だ。新拳銃に置き換えるよりM9の不満を解消し、継続使用する事の方が予算や訓練時間等を節約できるという提案をおこなった。結果的に米陸軍はベレッタの提案に耳を貸さなかったが、法執行機関や一般のタクティカルユーザー向けにM9A3の市販が開始されている。今回はこのM9A3を従来型M9の市販モデルと比較テストしてみた。
92シリーズ
ベレッタは第二次大戦が終わるまで、ブローバック方式の小口径ピストルを開発・製造していたが、1951年に口径を9mm×19に強化するにあたり、同社初のロックドブリーチ方式のモデル951(M1951)を開発する。これが92シリーズの直接的な先祖でベレッタにとって本格的な軍警察用サービスピストルの始まりだった。
第1号ピストルのモデル1915から既にベレッタはスライド上面を大きく切り開いた独自のスライドデザインを採用していた。この時点ではまだエジェクションポートと分離していたが、続くモデル1922でベレッタピストルの象徴的なオープントップのスライドデザインが完成する。
ベレッタは時として実用性や機能性以上にデザイン性を優先する伝統を持っており、このスライドが現在もベレッタピストルの個性を決定付けている。ハンマー方式に転換したモデル1923を経て、第二次大戦のイタリア軍を支ええた.380ACPのモデル1934が登場。しかし戦後の冷戦期にNATOの一員となったイタリアは、他国と同じ9mm×19のピストルを採用する必要が生じた。

しかしここで問題があった。ベレッタ特有のスライドでは、ブラウニングタイプのショートリコイルでロッキングラグとリセスが存在するべき箇所を丸ごと切り抜いてしまっており、導入できない。
そこでモデル951では同様にスライド上面が開放型のワルサーP38が採用したフォーリングブロック方式を拝借した。SA(シングルアクション)の8連マガジンを使用し、エジプトやイスラエル等で採用されるなど、それなりの実績を積み重ねたが、クロスボタン方式のセイフティ機構など次第にその設計の古さが指摘されるようになった。
70年代に入る頃にはアルミ合金フレームによる軽量化、DA(ダブルアクション)/SAトリガー、大容量のダブルスタックマガジンの採用が次世代オートの象徴となり、ベレッタは1975年にモデル951にそれら3つの要素を取り入れて発展させたベレッタ92を開発する。

DAトリガー、アルミ合金フレーム、15連マガジンと現在の92シリーズの原型がここで築かれた。フレーム側のサムセイフティレバーとグリップ左下のマガジンキャッチボタンを採用したため、その操作性は発展途上だったがイタリア国内の法執行機関や同国特殊部隊CONSUBINでも使用されるなど注目度は高かった。
さらなる装備の近代化を進めたいイタリアの国家警察からの要請で、より安全に扱えるようにスライド側にセイフティ(片面)とデコッキングレバーを備えた92Sを1977年に完成させた。これをネイビーシールズも試験的に少数を購入して運用したとされる。
1979年にメリーランド州アコーキークにベレッタUSAが開設され、米国市場への本格進出を目指す準備が整った。この前年に米空軍が既存のM1911A1の更新計画を開始し、JSSAP(ジョイントサービススモールアームズプログラム)として選定トライアルの開催が発表された。

ベレッタは92Sをさらに改良した92S-1を提出。デコッキングレバーをアンビ仕様に改修、ようやくマガジンキャッチボタンを一般的なトリガーガード付け根に配置した。
フロリダ州エグリンエアフォース基地で試験が開始され、コルトSSP、S&W M459、H&K P9s/V70、FN-DA/FN-FAなどの競合を下してモデル92S-1が最優秀モデルに認定されたが、この時点で米全軍のサービスピストル更新に向けたトライアルへの発展が決定し、ここで一度結果は白紙に戻され、各社は改良を重ねて再挑戦する機会が与えられた。
XM9プログラム
再度発表された要求スペックは5,000発の継続射撃能力など前回を上回る厳しいものであった。期限内に準備できた参加社が少なかったため、テスト開始を数ヵ月延長して1981年末にスタートした。
H&KはP7M13、S&Wはモデル459A、新たにSIGがP220に15連マガジンを取り入れたP226で参戦。対するベレッタはオートマチックファイアリングピンブロックセイフティをスライド内に組み込み安全性を強化した92SBを完成させていた。
テストは進行したが、全てのモデルが合格基準を満たしていないと判断され、米国防総省は決定の延期を発表。各社はさらなる改良のための時間を得たが、米軍は開発競争を継続させることで、メーカーにより良いモデルを開発させる意図があったとも考えられる。

この期間にベレッタは92SBのさらなる改良を加えた。1983年に表面処理をブルー仕上げからテフロン/ポリマー系のブルニトン仕上げに変更して耐腐食性を向上させ、バレル内にはクローム処理を施し、トリガーガード前面にフックを追加、マガジン挿入口を拡張した92SB-Fを完成させた。
3度目となるトライアルはXM9プログラムと命名され、提出された数挺のベレッタのテストでは平均して17,500発まで射撃を継続できたという。米軍のテスト前にベレッタUSAが実施した社内試験では186,000発を射撃し、その間一度も作動不良を起こさなかった。トライアルは進行し、92SB-Fは期待通り好成績を上げた。
アメリカ代表のS&Wが提出したモデル459Aは、最終評価の前に脱落したが、これを不服としたS&Wはテストが公平に行なわれなかったとH&Kと共に連邦裁判所に提訴する騒ぎに発展した。その一方で、最終決戦はベレッタ対SIGの構図になり、テスト結果は互角とされたため、それぞれの納入金額で最終決定が下される運びとなった。

本来の結果発表日であった1984年12月19日を迎えたが、訴訟の影響もあり発表は遅れた。米軍側は試験が公平な視点で行なわれたことを立証し、ようやく発表となったのが1985年1月14日で、冒頭にも書いた通り、SHOT SHOW開催中での事だった。
自社ブースにアメリカの国旗とP226を組み合わせた写真パネルを掲載したSIG SAUERは、勝利に大きな確信を持っていたものの、結果はベレッタが勝利を勝ち取った。SIG SAUERがその雪辱を果たすのは32年後の事だ。
1985年4月10日に米国防総省とベレッタUSAの間で7,500万ドル、315,930挺の契約書が正式に交わされ、改めてベレッタが米軍の新サービスピストルM9となった事が公式にアナウンスされた。そして市販時の製品名は92SB-Fからシンプルな92Fに改められた。
M9はアメリカでの国産化が必須条件であったため、87年に工場設備が完成し生産を開始する。M9として採用されたことのセールス効果は絶大で一般市場での販売も大きく伸びた。


生産開始から間もなく米軍の訓練において射撃中にスライドの中間から割れて射手を顔面を直撃するといった事故が報じられた。これに対する米軍の調査では製造上の問題とされ、熱処理の改善などの対策により一応の解決を見た。
スライドのデザインは92系の脆弱な部分であるのは確かで、サブマシンガンにも用いる強装弾を使う軍隊ではそれが表面化したが、一般市場でもスライドに亀裂が入る事故が起こり始めた。その対策としてハンマーの軸となるピンの頭を大型化してスライドが割れても受け止める改修を行なった92FSが1988年に登場し、以降は全て同型に更新された。
結果的に米陸軍の試験ではスライドの平均寿命は35,000発以上、フレームは30,000発以上、ロッキングブロックは22,000発以上であると報告されている。
この年S&Wを始めとする参加数社はトライアルの不公平さを改めて訴え、これによりその時点での残り5万挺の納品枠をかけてXM10トライアルが追加実施されることとなった。SIG SAUERは不参加だったが、S&Wモデル459Aと新規にスタームルガーがP85で参戦、これにFS改良型のM9を30挺ほど用意して再度の検証が行なわれたが、結果はM9がもっともすぐれているとして幕を閉じた。

90年代に入り法執行機関から.40S&Wの人気が急上昇し大口径化した96FSを発表。その後、米移民局が交換可能なフロントサイトと同時に反動の強い.40S&Wにも十分に耐えられる強化型スライドを要求したため、1994年に亀裂の入りやすい中間部分の肉厚を補強したブリガディアが誕生した。
一般市場でもたまに起こるスライド破損事故に対して92FSに不安を感じる声も残ったため、9mm口径でもブリガディアは発売された。ただ92系の後継機ではなく、重いスライドにより撃ちやすくバランスに優れた別の選択肢として併売されている。ただしスライド破損よりも頻繁に起こるロッキングブロックの破損問題の解決には至らず、それから現在3世代までロッキングブロックの改良を続けている。
翌年フォーリングブロック方式では不向きなバレルの短縮化や大口径化が難しい問題をクリアすべくロテイティング(回転式)バレルを採用したクーガー8000シリーズを展開する。オープントップスライドは断念する事になったが、92系にはなかった.45ACPやショートバレルモデルを実現する事は叶った。

ただスライドのデザインを妥協した事には悔いが残ったようで2000年にポリマーフレームの9000シリーズを発表。再び伝統のオープントップスライドに回帰した。半世紀前にはできなかったが、ブラウニングタイプのティルティングバレルを採用している。問題のロッキングラグは左右に突き出すことで対応した。
これで3.5インチバレルの小型化には成功したが、そこまでしてスライドデザインに固執する意味があるのか? と疑問は感じた。ここでもデザイン優先主義のベレッタが健在だった事だけは印象に残ったが、全体的に分厚いモデルとなってしまい、人気が上がらず製造中止になった。
ロテイティングバレルには一定の評価があり、8000系を発展させた後継機としてPx4 Stormを2005年に発売、まずまずの人気を得て現在も製造中だ。

92系の主だったバリエーションとして13連マガジンと4.25インチバレルで小型化した92コンパクト、DAオンリーの92D、デコッカーのみの92G、スライド/バレルをステンレス化したアイノックス(INOX)、9mm×21口径化した98FS、アクセサリーレイルの追加、マグウェルの拡張、交換可能なフロントサイト、バックストラップ部をストレートに改良する事で手の小さなシューターにもグリップを握りやすくトリガーリーチを短くしたヴァーテック(VERTEC)、それを通常型バックストラップとした92A1、一体型樹脂製グリップにした90-Two、.22LR化したM9_22LRなどがある。

M9A3は市販品と同様にBeretta U.S.A.CORPとあり、続く刻印でこのブリガディアがメリーランド州アコキーク工場で製造された事が記されている。
同工場は2013年の州法改正で製造が困難になり、4年前にテネシー州ギャラティンに移転、このM9A3はそちらで製造されている。ダストカバーに製造番号があり、市販のM9ではM9が頭に付くが、米軍納入品では単にシリアル番号が刻まれる。ブリガディアでは後期生産型の特徴であるダストカバーのラインが斜めになっているが、M9は初期の直線的なラインのままだ。
市販M9のダストカバーにはスライド左側面の同様の刻印があるが、他の2挺では使用前に取り扱い説明書を読む事とあり、ブリガディアでは無料でベレッタから入手可能なことが記される一方M9A3ではスライドを引いてチェンバーに装填状況を確認をする事、マガジンを挿入しなくても発射可能な事が記されている。
軍納入品ではスライドのパーツナンバーの後に、発射テスト後に磁粉探傷試験をパスしたことを示すレーザー刻印のPMの文字があるが市販M9にはない(最初期のM9記念モデルにのみ確認されていいる)。