2025/02/27
無可動実銃に見る20世紀の小火器194 ベレッタ Cx4ストーム
2003年にベレッタからリリースされたピストルキャリバーカービンCx4ストームは、著名なインダストリアルデザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロが外装をデザインしたことで注目を集めた。

機能美と装飾美
“機能美”という言葉がある。その意味は、“建築・工業製品などで、余分な装飾を排して無駄のない形態・構造を追求した結果、自然にあらわれる美しさ”を指す。対義語は“装飾美”で、こちらは“機能とは関係なく付け加えた形態から生ずる美”となる。よって“機能美”とは、見栄えを目的とした加工を一切排して、機能性だけを追求した結果、それが美しく見える場合に使われる言葉なのだろう。だとすると、現実に“機能美”というものが存在するかどうかは、見る者の主観によって決まる。“美しく見える”ことが機能美に必要な要件だからだ。
実際には、人がデザインする以上はどんな物であっても、何らかの形で“見栄えの良さ”は意識するはずだ。機能美を持つ物の代表的な例として挙げられる戦闘機だって、設計者/デザイナーは無意識のうちに“見栄えの良さ”を加えているのだと思う。スポーツカーに至っては、確実にこれを意識して設計している。そうでなければ、すべてがほとんど同じデザインに行きついてしまうだろう。
結局、すべての工業製品は、こうすればもっと、“見栄えが良い”、“カッコイイ”、“美しい(キレイだ)”、“高級感がある”、“カワイイ”、 “親和性がある(好かれる)”、“差別化が図れる”などといった意識が、設計者、デザイナー、あるいはそれを製品化する企業に働き、その外観形状が決まっていく。戦闘機の場合は、それが最小限に留められているに過ぎない。
機能美を追求したと思われるハンドガンのひとつに1911がある。純粋に軍用として採用されることを目指し、約10年の時間を掛けて改良を重ねて、見事にアメリカ軍による採用を勝ち取った。その評価項目には、“見栄えの良さ”などというものはなかった。そのデザインは、操作性の良さなどを追求した結果できあがったもので、完璧ではないものの、この銃の形状は正に機能美というべきものだろう。もちろんそこにはある程度の装飾美も加えられたはずだ。“コルト社の製品としてふさわしい姿”というものだ。
この銃ができ上ってから110年以上が経過する現在も、その基本的デザインを維持した製品が供給され続けている。完璧ではない部分については、カスタマイズすることで補ってきたし、現在市場にある1911クローンのほとんどは、それを予め組み込んでいる。その結果、1911の機能美にさらなる磨きが掛かった。但し、現代の1911カスタムは軍用ではないので、見栄えの良さもかなり付け加えられていると感じられる。
グロックもまた、機能を追求してデザインされたものだ。こちらのオリジナルモデルは、装飾性が限りなくゼロだった。それゆえ、登場当初はugly(醜い、不細工な)pistolだといわれたが、その性能、機能性は圧倒的だったため、高い評価を得ている。
そこに注目すると、不細工な銃も違って見えてくるから不思議だ。おまけに比較的安価であったことから、アメリカの法執行機関で採用され始め、それは大きなうねりとなっていった。それから40年近く経った現在も、グロックは基本的なデザインを変えることなく作り続けられている。
但し、グロックの場合は“機能美がある”とは言い難い(と思う)。機能性を追求した結果は、“必ずしも美しさが自然にあらわれるわけではない”ということだ。一方、グロックのクローンやカスタムパーツの多くは“カッコよさ”という装飾性を盛り込み、不細工であったベースモデルに大きな付加価値を加えている。
イタリアのベレッタは、自社製品のアイデンティティをとても重視してきたメーカーだ。一部の製品を除けば、イタリア製らしい“優美さ”がその製品から漂ってくる。
M1911A1の後継M9として、アメリカ軍に採用された92Fにも、この優美さがあった。それは機能性一点張りのグロックとは、対局に位置するような銃だった。
ベレッタはエレガントなパーツ形状を製品に持たせながら、性能を犠牲にせず、32年間、アメリカ軍のサービスピストルであり続けた。これはスゴイ事だといえる。

ベレッタの試み
民間市場向けの製品ならともかく、軍用ピストルでもそれをやったベレッタは、その事業規模をどんどん拡大していき、20世紀末から21世紀初頭には、それまでどのガンメーカーもやらなかった新しい試みに挑戦した。
それは銃器とは無縁な社外の有名工業デザイナーに、銃の外観デザインを依頼して、それを製品化するというものだ。少なくともそのような事例は他に聞いたことがない。
デザイナーはGiorgetto Giugiaro(ジョルジェット・ジウジアーロ:1938-)。ジウジアーロは1960年代から70年代にかけて、数多くの自動車デザインを手掛け、多くの人々を魅了した。
1968年以降は自動車デザインを専門とするItaldesign Giugiaro S.p.A.(イタルデザイン)を設立し、多くのメーカーにデザインを提供した。また80年代以降は、自動車だけでなく、様々な工業製品のデザインも担当している。具体的にはカメラ、腕時計、鉄道車両、オートバイ、電話機、ボトルなどだ。
ベレッタがジウジアーロにデザインを依頼したのは20世紀末で、彼がデザインを担当した製品は、9000 (2000)、U22 Neos(2002)、Cx4(2003)、90-Two(2006)、UGB25 Xcel(2008)だと思われる。結果、そのどれもが実に個性的なモデルとなった。
“思われる”と書いたのは、現在確認できる資料に、ベレッタがジウジアーロに製品デザインを依頼した事実を明確に記した公式な資料がほとんど見つからず、確証が得られないからだ。銃本体にジウジアーロの名前が刻印されているならわかりやすいのだが、それもない。ちなみにCx4ストームが発売された2003年のベレッタカタログには、はっきりと“GIUGIARO DESIGN”と明記されている。
残念なことに、これらの銃のほとんどが現在はもう製造供給されていない。その唯一の例外がCx4ストームだ。
2000年に発表された、ベレッタ初のポリマーフレームピストルはジウジアーロデザインとは思えない芋虫のような外観で、市場の反応は最悪だった。オープントップデザインであるにも関わらず、ティルトバレルロックを組み込むという意欲作だったが、完全な失敗作で、2006年には製造終了し、ベレッタの歴史からもほとんど抹殺された状態となっている。
U22 Neosは2002年に発表された.22LRのお手軽ターゲットピストルで、ジウジアーロらしさが漂うデザインに仕上がっている。これはかなり長く製造供給が続いた。とはいっても、さほど評判にはならず、現在はカタログに載っていない。
90-Twoは90シリーズのデザインをジウジアーロの感覚で未来的に変えた新型で、2006年に発表された。もともとエレガントなデザインの92をさらにオシャレに変えており、ジウジアーロらしいと感じるのだが、これまた不評でわずか数年供給されただけで消えた。
UGB25 Xcelはジウジアーロデザイン唯一のショットガンだ。ガスオペレーションながらブレークオープニングシステム+サイドフィードという前例のないもので、シューターは上下二連銃のように銃を折り、チェンバーに1発を直接装填、2発目はレシーバー側面、通常であればエジェクションポートのある場所にセットする。そして折ったバレルを戻し、1発目を発射すると、ショットシェルはボトムエジェクトされ、側面にセットされた2発をチェンバーに素早く送り込み、トリガーを引くと撃発するというものだ。
ベレッタによれば、バレル下部のチューブマガジンから2発目給弾するより、回転速度が速く、1発目を撃ったリコイルでバレルがジャンプアップするよりも前に2発目を撃てるという。名称のUGBとはUltimate Gun Beretta(究極の銃ベレッタ)の略らしい。
ガスオペレーションによるリコイルの低減と、上下二連銃並みのスピードで2発目が撃てることを目指したものだが、デザイン的にはあまり個性的ではなく、ジウジアーロらしさはあまり感じられない。それでもこれは長く供給され、日本にも輸入されていたが、現在はカタログからは消えている。