2025/05/17
1911 ジャンクヤード ドッグ 余剰パーツを寄せ集めて作った1911
1911 Junkyard Dog
余剰パーツで組み立てた1911はどれだけの性能を発揮するか
Text & Photos by Turk Takano
Gun Professionals 2016年1月号に掲載
1911系のパーツは市場に溢れている。手持ちの1911にいろいろなパーツを交換して楽しんでいれば、余剰パーツが増えていく。そんなパーツをかき集めてみれば、1911が1挺、組み上がるかもしれない。今回はそんな実験だ。かき集めパーツで組み立てられた1911、名付けて“ジャンクヤード ドッグ”は、まともな性能を持っているのだろうか?
余り物パーツの寄せ集め1911
.45ガバメント 1911は今更語るまでもなく米国でもっとも人気のある、かつての軍用サービスピストルだ。
この1911の改良型は今でも一部で現役で使われている。2つの世界大戦を経験した実績の多さで言えば、他のモデルでこれに太刀打ちできるものはない。またこれをベースとした幾多のクローン、または発展型が各メーカーから生まれ、その展開は留まるところを知らない。まさに人気という点ではAR/M4を凌ぐ。
過去に本誌レポートでも触れたが、SIG、S&W、トーラス、そしてスタームルガーまでもが.45系1911をそれぞれ自社ブランドで発売するのだから恐れ入る。パテントなど大昔に切れており、誰が真似して作ろうが問題なしだ。
筆者は以前のリポートでAR系ライフル/カービンを大人のレゴに例えた。そしたら、ある読者から「レゴよりも着せ替え人形のほうが合っているんじゃないですか?」という意見をもらった。
着せ替え人形…おっしゃられる事はとても良く判るが、男子たるもの着せ替え人形で遊ぶのはちょっとマズイ…。
1911はドイツ風に言えば米国民拳銃だ。筆者の射撃仲間で1911系をもっていない連中を探すとなると骨が折れる。普通、何挺何をコレクションしているかで話が始まる場合も少なくない。
一方、1911を嫌う派も存在する。グロック、SIGの最新ものに走り、“1911なんて時代遅れだ”と語る。安全性なら確かに1911はこれら最新モデルに劣る。安全性を向上させたシリーズ80も登場したが職人シューターがひしめく1911派にとって迷惑以外の何物でもなかったようだ。
1911派がいう好みのモデルとは、シリーズ70を含めた以前のモデルのことだ。笑ってしまうのは“1911は古い”とした連中も、何年かすると1911に回帰するケースが少なくないことだ。最新ものは機能的には安全でも、銃を所持しての満足度となると1911に分があるということか…。
先週、射撃仲間が筆者の元を訪れ、最近購入したという有名.45ガバメントスタイルのカスタム、シングルスタックモデルを見せてもらった。何千ドルもするモデルなので“拝ませてもらった”という表現がぴったりだ。目的は車の中に置く、またはホームデフェンス用として使うという。なんとも信じられない…。

時々ショップ(作業場)の整理をすることがある。その折、30年以上前に入手したESSEX製.45フレームを見つけた。当時、アクションシューティングが盛んになり、“じゃあ俺もやってみるか!”、そんな理由で購入したフレームだった。
実際は他の競技で忙しく、フレームを買ったことも忘れてしまった。当時、このフレームは50ドルぐらいだっただろうが、正確には思い出せない。一度もパーツを組み込んで銃として使ったことのないフレームだ。それでもシリアルナンバーが入ったフレームは銃として扱われる。
こりゃ使わないのはもったいない…。筆者にとって何挺あってもけっして邪魔にならないモデルの一つが.45 1911系だ。
このほかM1ガーランド、M1A ( M14セミ)がこの“何挺あっても邪魔にならない”というカテゴリーに入る。倉庫いっぱい何百あってもかまわない…という奴だ。実際には財政的問題で実現しない夢なのだが…。
ESSEXフレームで1挺作ってみるか?早速、手持ちのパーツをチェックした。既に持っている余剰パーツだけで1挺組み上がるかもしれない。.45のチューンや修理を仕事としているわけではないが、長い間、類似の仕事をやっていると、どこからきたか判らないパーツがついつい溜まる。名付けて“ジャンクヤード ドッグ(廃材置き場の番犬)”だ。
松尾副編集長に話したら、“それは面白そうですね”と答えが返ってきた。彼も米国で大量のパーツが売られているのを知っており、ガンスミスの手を借りずに、それらが組めるのか、興味があるという。そんなわけで、このレポートに繋がった。
1挺組み立てるのに不足しているパーツが2つあった。スライド、バレルである。.45ガバメント系の中古パーツは入手しやすい。通販もあるが直接、サープラスショップに出掛けるという方法もある。今回は近辺のローカルガンパーツ屋を訪れた。ローカルであっても米国じゃ知られた中古パーツ屋だ。何百という歴代ファイヤーアームズのパーツを所有している。
ベトナム戦争から帰り、銃器パーツ屋を始めたというからこの道50年だ。中古ライフル、ハンドガンも発売するが、あくまでもパーツ屋を名乗っている。
経営者の強い希望もあり名前、所在地は明かせない。別に非合法で経営している会社ではない(念のため)。筆者も時々、利用させてもらっている。
自動車解体パーツ販売店を想像すればいい。自動車が銃に置き換わっただけだ。

それともう一つ驚くべきことがある。彼(経営者)の記憶力が抜群なのだ。膨大なパーツは別にコンピューター管理されているわけではない。写真を見ても判るようにパーツは通路まではみ出し山になっている。PCが大嫌いで、パーツ名を言えばこのジャンクの山から的確に探し当てるのだ。界隈じゃ記憶の神様としても知られている(笑)。
そのサープラスショップに入ると
「よぉ!今日はなんだい?」
と声が掛かる。
「1911のスライドとバレルの中古品を探しているんだが…、安いに越したことはないが、ある程度余命が残されていたものじゃないと具合が悪い。そんなのあるかい?」
「名前にこだわらないのなら、新品のスライドがあるがどうだ?ディスカウントで$135だ。この値段なら文句はないだろう!コルト、レミントンなどのオリジナル物はさび付いていてもエライ高価でな…、それらと比較したらバーゲンだ」
「安いじゃないか!」
「中東のトルコ製だよ。トルコじゃ嫌か?」
「いや、そんなことはないが…」
「スライドにはファイアリングピン、ファイアリングピン・ストップ、そしてエキストラクターが組み込まれている。既に何人かが買って1911として使っている。誰も文句言ってこないところを見ると、問題なしだろう」
「じゃあそれを買うよ。ところでバレルはどうだい?」
「4 -5本あったと思う。好きなの選びな…どれも$60だ」
「それとスタンダードサイズリンクとリンクピンを加えて…」
「なら$70だな」
というわけでバレル、スライド合計で$70+ $135= $205+消費税8.25%の出費となった。これで1挺出来るんだったら安いものだ(笑)。無名であっても完成モデルなら、バーゲンでも$400 -500はする。
もっとも今回、概に所持しているフレームの値段は勘定に入れていないが…。

ESSEX
まずはベースとなるESSEX(エセックス)だが…、写真を見ても判るようにインベストメントキャスティングによるもの、ブルーイングしても若干、赤茶けたフィニッシュとなっている。米国では通称プルームカラー(杏色)という。
これまでなぜそうなるのかいろいろ説があった。原因は強靭さを得るためとインベストメント・キャスティング加工の型(シェル)に流し込みを助ける目的から通常より多めに加えたシリコンにあるという。
インベストメントキャスティング工法をファイヤーアームズに取り入れたスタームルガー、シーレンなどが長年悩んだ問題であったが、近年、改善された。かつては
時間の経過と共に更に赤茶けるということで不評だったものだ。筆者のライフルアクションにもこの傾向があるが気にしない。機能さえOKならいいじゃないか!
HK P7シリーズも赤茶けに苦しんだモデルだ。P7の場合、インベストメントキャスティングではないがシリコンまたはクロームの含有が多かったからであろうと考えられる。
ESSEXフレームにはバリがあり、本来ならゴシゴシやって削り、研磨し綺麗にするところなのだがそれをやったんじゃブルーイングしなくちゃいけなくなる。それより、このままの方が逆にクールで格好いいんじゃないかと思った。結論を言えば売り物ではなく筆者個人のもの。見栄えなんか気にしない。もちろん売り物なら、話は違う。
早速、組み立てに入った。スライドがフレームに対し、マレット(木槌)で叩いて入る状態のタイトフィットだった。ラッピングコンパウンドを使いゴシゴシすり合わせをやる。程よいすべりで組み合わさった。しかし、フレームのスライド前部が入る部分の左側面壁がシューターから見て内側に傾斜、スライドをこすっていた。インベストメント・キャスティング後の熱処理でそうなったのか、落としたのか、または何らかの外圧でそうなったのか判らない。結局、フレームをヴァイスで支え、内側にアルミバー角材を挿入、梃子で修正した。原始的な方法だが、このために冶具作る気はなかった。
結果的にはこれでもうまくいった。フィーディングランプも研磨した。
ESSEXフレームを組み上げる前に、トルコ製スライドを他の1911フレームに合わせてみた。偶然なのかバッチリだったので、中古バレルを組み込んでスライドを組み上げ、近郊のレンジに行った。用意したのはリロードカートリッジ(Hornady 230g FMJ N340/ 6.5gr 800fps前後)だ。これを50発ばかり撃った。スライド、バレルのテストだ。弾は全弾標的に入ったので一安心。
翌日、寄せ集めパーツをフレームに組み込んだ。問題なし。安全機能を確認した後、近郊のクラブレンジに行き、ファンクションテストを行なった。昨日同様50発ばかりで撃つ。使ったのは同じリロード弾だ。全く問題がない。
スライドに付いていたアイアンサイトも6時方向正照準で概ね合っており、サイトツールは必要ない。トリガー関係パーツはミリタリーサープラスでトリガープルもまさにミリタリーに準じた重さとなった(笑)。グリップパネルはウッドのチェッカー入りを装着。ミリタリーオリジナルで行きたかったのだが、手持ちはこれしかなかった。これを、”ジャンクヤードドッグ タイプA”ととりあえず命名した。
