2025/05/01
Strange Firearms 16 拡大版 コリブリ 世界最小のセミオートマチックピストル
Strange Firearms Exrea Edition ちょっとヘンな銃器たち 16 拡大版
KOLIBRI 世界最小のセミオートマチックピストル
Text by M.TOKOI 床井雅美
Photos by T.JIMBO 神保照史
世界最小の量産されたセンターファイアセミオートマチックピストルとして広く知られているのが、1910年代にオーストリア作られたコリブリピストルだ。しかし、その小ささと珍しさにだけ興味が集まり、この銃が作られた背景やその機能について、詳しく書かれた資料はほとんどない。
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世界最小のセミオートマチックピストル
”ちょっとヘンな銃器たち”を今回は大幅拡大版としてお届けしたい。リポートするのは、”コリブリピストル”だ。販売を目的に生産されたセミオートマチックピストルとしては、世界最小とされている。
古くからの銃器ファンであれば、誰もがコリブリの存在を御存じであろう。昔何冊も発行されていた銃の解説本には、必ずといって良いほど、この銃が載っていた。”世界最小のピストル”としてだ。
Kolibriはドイツ語で、英語ではハミングバード、日本語ならハチドリを意味する。これはピストルの小ささゆえの命名だ。
日本には生息していない鳥なので、ハチドリを見たことがある方は少ないだろう。下の写真をご覧頂きたい。驚く程小さな鳥で、体長は約60mm、コリブリピストルも全長68mmとその大きさはかなり近い。

コリブリは、きわめて小型のセミオートマチックピストルだが、1世紀以上前に製造されたものなので、世界最小という記録は既に別の銃に更新されてしまっている。しかし、ワンオフでの生産ではなく、まとまった数が生産され、実際に販売された実績を持つピストルという括りであれば、依然として世界最小はこのコリブリピストルなのだ(正確にはその発展型コリブリミニピストルが世界最小だ)。
今回この記事を書くにあたり、これまで資料として集めてきたコリブリピストルに関する記述や、この銃について紹介している書籍を読み返してみた。ところが、コリブリピストルの名は良く知られているにも関わらず、このピストルが作られた背景などについては、ほとんど書かれていないか、あるいは断片的な情報のみが記載され、銃の解説という意味では不完全と言わざるを得ないものがほとんどだった。さらには明らかに間違った記述も散見される。
コリブリピストルについて、詳しく解説されて来なかったのは、この銃が実用性をあまり伴っておらず、あくまでも“過度に小さなセミオートマチックピストル”でしかなかったからだろう。この銃は市販されたものの、購入者のほとんどは、珍しいものを求めるコレクターであったり、あるいは一部の人達が物珍しさに惹かれて買ってみたという程度であったと思われる。
しかし、コリブリピストルは専用のセンターファイア弾薬を使用するピストルで、玩具ではない。その威力は限定的で、護身用としての機能を満たしているのか、判断に苦しむが、銃としての要件はちゃんと満たしている。さらに量産/市販された世界最小のセンターファイアピストルとして、広くその存在が知られているものだ。
そこで今回は、これまでほとんど語られることが無かった、コリブリピストルに関しての来歴や、構造等について可能な限り詳しく解説してみたい。

2.7mm Kolibri
全長:68mm
全高:46mm
銃身長:1.3インチ(32mm)
重量:68g
マガジン装弾数:6発
銃口初速:650fps

ピストルが小さくマガジンも小さいところから、マガジンを引き出すためのノブが装備されている。マガジンキャッチはマガジン後方に配置された、ヒールタイプだ。
この銃の名称と口径表記
コリブリピストルに関しては、その製品名すら正確に伝わっていない。
英文の解説書の中には製品名をコリブリピストルではなく、ハミングバードとしたものがある。もっとも、これは単にわかりやすく英語訳したものだろう。
驚くべきは、このピストルの口径表記ですらバラバラなことだ。実際の口径は2.7mmなのだが、3mmや2mmとしているものも少なくない。
この口径表示の不統一は、コリブリピストルで使用する弾薬が、その製造期間中に変更されたことに起因する。
コリブリピストルの製造メーカーであるフランツ・ファンル社は、ピストル本体と共に使用する小さな弾薬も供給した。適合する弾薬がその時点で存在しなかったので、それは当然だろう。作られた小さな弾薬は、コリブリピストル以外で使用された実績が現在までのところ確認されていない。結果としてこれはコリブリピストル専用弾となった。
この弾薬の供給は銃の製造メーカーであるフランツ・ファンル社がおこなったが、当然のことながら、弾薬の生産には特別な設備と技術が必要だ。そのため実際に弾薬を生産したのは、オーストリアの大手弾薬武器製造会社のヒンテンベルガー(Hintenberger)社だったと信じられている(現在のHirtenberger Defence Systems)。
弾薬は小さなブリキ製の小箱に収められて供給された。ところがその後、弾薬に変更が加えられた。
コリブリピストル用に供給された最初のオリジナル弾薬は、現在弾薬コレクターの間で2.7×9 mmコリブリと呼ばれている(リポーターは通常“2.7mm×9”と表記している。この方が口径の大きさがわかりやすいからだ。しかし、国際基準では2.7×9mmという表記が正解とされている)。構造的には、当時の通常型セミオートマチックピストル用弾薬を小型化させたもので、ニッケル被甲させた小型のブレットが装着されていた。
セミオートマチックピストルの場合、鉛製ブレット付き弾薬を使用すると、装填不良を起こしやすい。そこでマガジンからチェンバーへの送弾をスムーズにするため、2.7 mm×9コリブリ弾はブレット表面を固いニッケルで被甲した。
この2.7mm×9コリブリ弾は小さくて製造しにくく、しかもコリブリピストル専用という限定的な生産だったところから、どうしても弾薬が高価になってしまう。販売されていた当時の弾薬は、たった12発で90ペニヒ(0.9マルク)と高額だった。ピストルの価格が15マルクだったから、12発の弾薬がピストル価格の1/16近くに相当した。
弾薬が高価であることに、コリブリピストルのユーザーから不満が出た。これでは撃ちたくても思う存分に撃てない。そこでコリブリ用弾薬に改良を加え、より簡単に製造できるようにして、価格を下げる試みがおこなわれた。この簡素化弾薬が、弾薬コレクターの間で、3×8 mmコリブリと呼ばれる弾薬だった。この簡素化コリブリ弾薬は、薬莢の長さを約1mm短くし、ニッケル被甲ブレットに代えてソリッドな鉛製のブレットを装着している。この鉛製ブレットは実測口径がそれまでの2,7mmニッケル被甲ブレットに比べてやや大きく、約3mmあった。
コリブリピストルは小型で、マガジンからバレルのチェンバーまでの距離が短く、鉛製ブレットに変更しても、送弾不良などの支障が起こりにくいことと、鉛製ブレットの方が製造工程を簡素化できることがこの変更の大きな理由だ。もっとも、この改良をおこなっても、コリブリ弾薬は当時普及していた.25ACPセンターファイア弾などと比べて、依然として高価なままだった。
この鉛製ブレットを装着した簡素型3mm×8コリブリ弾は、それまで生産されていた2.7mm×9口径のコリブリピストルでも使用できた。つまり2.7mm×9弾薬と3mm×8弾薬は実質的に同一弾薬と考えることもできる。しかし、現代の弾薬コレクターのほとんどは、これら2つの弾薬を明確に異なる弾薬として区別している。

右:改良型の3mm×8コリブリ弾。製造を簡素化するためニッケル被甲のないシンプルな鉛製のソリッド弾丸が装備されている。こちらのプライマーはニッケルメッキされている。
弾薬を正確に分類して管理することに努めてしている現代の弾薬コレクター達の間ですら、コリブリ弾の呼称確定は難しい。オリジナル2.7mm×9コリブリ弾薬は、各国のコレクターの間で、2.7×9 mmコリブリ、 2mmコリブリ 、3mmコリブリ、2.7mmコリブリ、2.7 mmコリブリオート ピストル、2.7 コリブリセルプストラーデピストル、2.7×9 コリブリ オート 1913、 SAA 0015、ECRA-ECDV 03 009 CGC 010など、多くの異なる名前で呼ばれている。同様に簡素化3mm×8 コリブリ弾は、各国のコレクターの間で、3 mmコリブリ、3×8 mm コリブリ オート 1914、3.1×8.25 、3 mmコリブリセルプストラーデ ピストル、SAA 0025、ECRA-ECDV 03 008 CGC 010などの異なる名前で呼ばれている
注:SAAはアメリカ弾薬コレクター協会弾薬識別番号、ECRAはヨーロッパ弾薬コレクター協会弾薬識別番号だ。
弾薬を簡素化させて単価を下げる努力をしたものの、コリブリピストルの人気が高まることはなかった。当時、FN社のブラウニング モデル1906をはじめとする、全長100mm前後の小型なベストポケットピストルがベルギーやスペイン、ドイツなどから安い価格で提供されていた。またこれらベストポケットピストルで使用する.25ACP弾(6.35mm×16SR)も広く普及していた。護身用として、小型ピストルを求める人達のほとんどはそれらを選択し、圧倒的に小さな2.7mm口径のコリブリピストルを選ぶことは稀だった。
その結果、2.7mm×9コリブリ弾薬と3mm×8 コリブリ弾薬はともに1928年に製造供給が打ち切られている。
リポーターは、オリジナルの設計に敬意をこめて、この銃を2.7mmコリブリピストルと呼びたい。解説書の中には、このピストルが発売されたとする”1914年”を名称に加えて、2.7mmコリブリピストル モデル1914としているものもあるが、多くのピストルはパテントが取得された年をモデル名とするケースが多い。コリブリピストルの最初のパテントはオーストリアで1910年12月10日に取得されているところから、どうしても名称に年を加えるなら、2.7mmコリブリピストル モデル1910とすべきではないかと思うのだが、リポーターはこの銃の名称には製造年や開発年を付けない方が良いと思っている。
開発やパテントに関しては後で詳しく解説させていただき、まずはモデル名の確定と統一を図りたい。
解説書の中には、ファンル(Pfannl)、あるいはグラブナー(Grabner)、またはグラブナー・ファンルと併記しているものもある。これらはいずれも誤りではないものの、混乱を招く元になっている。
2.7mmコリブリピストルは、オーストリア人のフランツ・ファンル(Franz Pfannl)によって開発・設計された。これは彼によって取得されたオーストリアパテントからも明らかだ。ではもう一つの名前であるグラブナーとは何者なのだろうか。フルネームではゲオルグ・グラブナー(George Grabner)となる人物は、フランツ・ファンルの友人であり、共同経営者で、資金提供者だったとされている。この件ついても後で詳しく解説する。
そのような事情から、ピストル名にあえて一つの名前を入れるなら、このピストルの開発者に敬意を表し、ファンルを入れて2.7mmファンル コリブリピストルとすべきだろう。事実コリブリピストルの多くに装着されている黒色のチェッカーグリップには、フランツ・ファンルの頭文字FPのロゴマークが入れられている。
実際にコリブリピストルが販売されていた時期の広告を見ると、ドイツ語で、Neue automatische Miniatur-Repetier-Pistole “Kolibri” 6 Schuss Kaliber 2.7mm(ノイェ アウトマティシェ ミニアテュア リピティアー ピストーレ“コリブリ”6シュス カリバー2.7mm:新型自動小型連発拳銃“コリブリ”6連発2.7mm口径)となっていた。そこにはファンルの名前も、グラブナーの名前も入っていない。

この広告には以下の内容が書かれている。
新型自動連発拳銃“コリブリ”改 2.7mm。装弾数6発、全長68mm、重量70g。コリブリピストルの取り扱いと機能は他の自動ピストルと同一。カートリッジは取り外し可能なマガジンで装填する。銃後端のスライドを後退させることでカートリッジがバレルに挿入され、同時にピストルがコックされる。弾が発射されると、火薬ガスによってスライドが後退し、空薬莢が排出され、新しい弾薬が銃身に挿入され、自動的に閉鎖される。 ピストルの射撃には側面の回転式セイフティの解除が必要。
コリブリ ピストルは、テンプレート システムに従って全の部品が機械で製造されている。つまり、すべての部品は完全に同一であるため、互換性が確保されている。 この小さな銃は、高い貫通力を備えており、被弾すると負傷する可能性があって危険だ。決してオモチャではない。カートリッジには無煙火薬と銃弾が装填されている。
No.9064 口径2.7mm コリブリピストル。細かいマットニッケルメッキ、ラバーグリップ、カートリッジ12発付属 価格は15マルク
No.9063 高級ピストル収納ケース 2.25マルク
No.9056 サミ革製収納ケース 0.90マルク
No.9061口径2.7 mm弾。 無煙火薬装填ジャケット付きブレット 12発で 0.90マルク
現在使われている古い時代のピストル製品名は、後の時代にコレクターが識別のために付けたものが多いため、リポーターとしては、2.7mmコリブリピストルと呼ぶのが、最も良いように思う。
銃の名称と口径については、これでひとまず確定させた。ここからは2.7mmコリブリピストルと、その開発者フランツ・ファンルについて解説していきたい。