2025/08/10
【NEW】『バレリーナ:The World of John Wick』の銃器 Part 1
映画『バレリーナ:The World of John Wick』の銃器 Part 1
Text & Photos by Yasunari Akita
『バレリーナ:THE WORLD OF JOHN WICK』の魅力は何といってもハードなガンアクションだ。『ジョン・ウィック』シリーズ第2作目より銃器選定と射撃トレーニングを担当してきたタラン・バトラーへのインタビューという形で、本作に登場する銃器を詳しくご紹介したい。そのパート1はグロックベースの2機種だ。
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2014年に公開され、大ヒットを記録した映画『ジョン・ウィック』(John Wick)。亡き妻の形見である子犬をロシアンマフィアに殺されたことをきっかけに裏社会へと舞い戻ったキアヌ・リーブス演じる伝説の殺し屋の壮絶な復讐の物語は、やがて殺し屋たちの世界を支配する主席連合との掟を巡る闘いへと発展、シリーズ第4作『ジョン・ウィック:コンセクエンス(John Wick: Chapter 4)』で1つの大きな節目を迎えた。
だが、ジョン・ウィックを取り巻く裏社会や殺し屋たちが生きる独自の世界観は、いまなおJohn Wickユニバースとして独自の進化を続けている。
そしてジョン・ウィックの新たな章として描かれるのが、スピンオフ作品『バレリーナ:The World of John Wick』だ。本作の舞台となるの、第3作と第4作の間にあたる時間軸で、暗殺者として育てられた女性バレリーナ、イヴの視点を通して、この過酷な裏社会の別の側面が描かれていく。
今回もシリーズを象徴するハードなアクションシーンと、それを支える数々のカスタムガンに大きく注目が集まっている。本作でもリアルかつ迫力に満ちたガンファイトシーンが展開されるが、それは3Gunマッチなどを中心に全米チャンピオンとして数多くのタイトルを獲得し、本誌にとっても馴染み深いハリウッドの射撃トレーナーでもあるタラン・バトラーの協力があっての事だ。これまでキアヌ・リーブスをはじめとする主要キャストに実弾射撃トレーニングを行ない、チャド・スタエルスキ監督のもとでシリーズのガンファイトを陰で支えてきた。タランはまさに“John Wick”の銃世界を作り上げたキーパーソンだといえる。
今回もそんなタラン・バトラーにインタビューを行ない、本作で新たに登場するカスタムガンや、その撮影の裏側について、じっくりと語ってもらった。

本誌: まず本作でも銃器の担当となった経緯をお聞かせください。
タラン: 今回の“John Wick”シリーズのスピンオフ映画『バレリーナ:The World of John Wick』は第4作目である『ジョン・ウィック:コンセクエンス』の公開前からすでに企画が動いていました。監督はレン・ワイズマンで、2023年の初頭には一度ヨーロッパでの撮影は終わっていたんです。私は本作でもガンファイトシーンの演出やメインキャラクターたちが使う銃器に関わらせて貰っています。
但し、プロデューサー的な立場ではないので、製作の全体的な進行状況までは詳しく把握していない部分もあります。その後に公開されたチャプター4の成功もあって、このスピンオフにもかなりの期待が集まっていたのは間違いないですね。
そんな中、ちょうどハリウッドでは全米脚本家組合(WGA)による大規模なストライキが起きて、アメリカ国内の映画やテレビ業界全体に影響を与えました。さらに全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)もストライキを開始し、本作を完成させる作業にも多大な影響がありました。
今から大体2年前になりますが、この頃にライオンズゲート(Lionsgate Films:アメリカの映画製作/映画配給スタジオ)が本作のアクションパートをストライキ終了後に大きく撮り直すことを水面下で決めていたんです。今回の追加撮影では完全に新規脚本により撮り直してしまう部分も多く、一部関係者からは追加撮影ではなく、新撮影という表現も飛び出ておりました。
チャプター2と3でも一緒に仕事をしたGary Tuersと再び組むことになって、彼もチャドから直接、詳細な説明を受けていました。
チャドは今回は監督ではなくプロデューサーという立場でしたが、追加撮影にもかなり深く関わっていましたね。特にアクションの部分では、しっかりと手を入れていました。製作費の出し方もライオンズゲートは一括で予算を出すのではなく、撮影の進行にあわせて段階的に出資していく方式を取っていました。
アクションチームも豪華でジャクソン・ダンリーやジャクソン・スパイエルといった優秀なスタントマンたちが参加しています。中でもジェレミー・マリンは本当に素晴らしいスタントコーディネーターで、新しく追加されたアクションシーンを多く手がけてくれました。私自身は、ブダペストでの撮影現場には立ち会いましたが、プラハのロケの方には行っていないです。
本誌: 今回、主人公のイヴ・マカロが使用する新型グロックについて教えて下さい。
タラン: まずは今作でアナ・デ・アルマスが演じる主人公、イヴ・マカロが愛用するコンバットマスターXについてお話しします。このモデルは本作のために新たにデザインされたもので、歴代のTTIコンバットマスターの流れを汲みつつ、新たな特徴を備えたカスタムグロックです。

タラン:スタンダードサイズのG17をベースに、当社が開発した新型コンペンセイターを装着した仕様になっており、コンプ込みの全長はG34とほぼ同じになります。スライドのカットが新規デザインで以前よりもクールに見えるようにしました。

ハリウッド映画では、主役が使用する銃を“ヒーローガン”、“ヒーローウェポン”(hero gun / hero weapon)と呼ぶ。女性主人公が使う場合も同様で、“ヒロインガン“といった呼称は通常使わない。

タラン:“John Wick”シリーズには2作目以降からTTIが主要キャストや製作関係者の実弾射撃トレーニング、映画に登場する新型モデルのデザイン・開発、ガンファイトシーンの演出や脚本のアドバイザーなどといった面で参加してきました。今回のフランチャイズ作品でもチャド・スタエルスキ監督は、私と再び一緒に取り組むことを望んでくれました。

タラン:新作では既存モデルをベースに進化させるか、それとも全く新しいアイデアで攻めるか、現実的な実用性よりも映画としてユニークな銃器を登場させるか、など様々な角度から試案を練っていきました。そして監督のレン・ワイズマンがTTIレンジに来て、役者と同じように射撃トレーニングを受けました。彼はとても感じの良い方でしたね。

そして、ジョン・ウィックがバックアップとしてキャリーするのが、左に置かれたG26コンバットマスター。現在ではサブコンパクトモデルにはCOMBAT CARRYの名が主に用いられている。
映画公開後に、カスタムパッケージとしてTTIが映画登場モデルを再現し提供した。

こちらは最新パッケージのひとつで、グロックのセイフアクションを完全にシングルアクション(SA)化するTimney Alpha コンペティショントリガーが標準装備されている。
ベースとなるグロックはGen4/5を選択することも可能だが、これらの新しい世代のモデルはマガジンキャッチがインターチェンジャブルかつ大型化しており、その周辺のフレーム肉厚が薄くなった。そのため写真のように、ボタン周辺を押しやすくするスキャロップカット(Scallop Cut)に対応できるのはGen3のみだ。
(TTIでは基本的に、それより古いGen1/Gen2のカスタマイズは行なっていない)

しかし現在のTTIが推しているのは、これらコヨーテブラウンのDLCコーティングだ。名称はCopperhead Package。アメリカマムシ族の毒蛇、カッパーヘッドから来ている。英語の発音としてはコパーヘッドが近い。
タラン:ワイズマンはジョン・ウィックが第1作目で使用した長く大きなコンプを備えたH&K P30Lに感銘を受け、今回の主人公のイヴにも同様のコンプ付きハンドガンを使用させたいと望みました。そこで現実に存在する様々なハンドガン用コンプの写真を彼に送り、イメージを固めてもらうところから始めました。
TTIのカスタムガンでも採用しているRadian WeaponsのAfterburner+Ramjetコンボは市場でも大変評判が良く、私は最初それを彼に勧めました。しかしワイズマンは、これではコンプが短すぎてスクリーン映えしづらいというのです。

しかし、映画に登場するモデルについては、撮影開始までにコンバットマスターXをプロップハウスへ納品しなければならず、時間的な余裕がなかった。そのため、タランが本来目指していた新しいバレル取り付けシステムは完成に至らず、結果的にスライドの形状とコンプ付きバレルの組み込み方式は従来通りとなっている。
タラン:そこで大型のコンプをデザインすることをRadianに打診しましたが、彼らは自社の小型ながら効果の高いデザインに強い自負を持っており、たとえ映画用の銃器であっても、新たに大型化したデザインを生み出すことにはあまり前向きではありませんでした。そこで最終的に私がTTIオリジナルのコンプを備えるハンドガンを本作のためにデザインすることにしました。


タラン:映画の主役が持つにふさわしい本当にクールな外観のコンプをデザインするために、かなり試行錯誤を重ねました。今回はスライドの固定方法についても、まったく新しいアイデアを取り入れていて開発関係者にも付き合わせてしまい、いろいろと苦労をかけたと思います。でもその分、納得のいく良いデザインに仕上がったと感じています。
当初コンプの固定方法は一般的なピン止め方式を想定していたのですが、1911や2011のようなブルバレルとリバースプラグを使いコンプバレルをスライド前方から簡単に引き抜けるように設計したモデルを除くと、一般的なオートでは通常分解のたびにコンプを何度も手で回転させてバレルから外さないと、スライドの穴からバレルが抜けないわけです。そこが課題でした。自分なりに新しいコンプバレルの固定・分解方法をいろいろ研究しました。