2025/09/10
パラベラムピストル モデル1900 ザ ファースト ルガーピストル

先月号のボーチャードピストルに続いて、その発展改良型であるモデル1900をご紹介したい。その優美なデザインに触れていると、後のP-08とはまた別の奥深い魅力を感じる。またこの個体には、20世紀初頭のカスタムストックも付いており、これもまたとても興味深いものだ。
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最初のルガーピストル、それがこのパラベラム モデル1900だ。
パラベラムピストルという名称は、これを製造したDWM(Deutsche Waffen-und Munitionsfabriken:ドイツ兵器弾薬製造会社)の電信略語が、Parabellumであることから来ている。この言葉はラテン語の“Si vis pacem, para bellum”(平和を望むなら、戦いに備えよ)が語源だ。現在はP-08などを含めて、ルガーピストルとして知られているが、当時は“パラベラムピストル”、または“DWMピストル”と呼ばれていた。
パラベラムピストル モデル1900
口径:7.65×21mmパラベラム
全長:239mm
銃身長:124mm
重量:940g (IDEAL Stock 装着用アダプター付き)
マガジン装弾数:8発
作動方式:トグルロック、ショートリコイルオペレーション
1900年型ルガー
またまた珍しいルガーピストルに遭遇してしまった。あのルガーP-08と比べると、外観上の大きな違いが3点ある。
・やや小ぶりなグリップセイフティを備えていること
・ルガー独特の装填時に指を掛けるトグルリンク部分の形状が、美しい半月状のシェイプ(Dish Type)で、明らかに両側から指で摘まむことができるP-08のそれとは違うデザインであること
・木製グリップパネルにあの特徴的な全面チェッカリングがなく、薄めのスムーズ仕上げで、フレームとの間にグリップウェイトのような鉄板が挟み込んであること
このグリップ周りに関しては、付属アクセサリーであるホルスターから判断して、後年後付けされたカスタムパーツである“IDEAL(アイディアル)ホルスター/ストック”仕様(後述)であり、このグリップは後付けパーツだということは明らかだ。
だがこの個体が特異なのは、当時のピストルにはよく見られるプルーフマークの類が一切なく、フォワードリンク上の“DWM”刻印以外は、シリアルナンバーしか打刻されていない、という点だ。
ルガーの来歴を調べるのに有効なレシーバーのチェンバーマーク(レシーバーのチェンバー部上にあたる位置の刻印)が何も無い。そう無印なのだ。ここにあの十字の刻印でも入っていれば、グリップセイフティの存在から、世界最初に一国の軍で全面採用となった通称“スイスルガーモデル1900”(1900年に採用となり、1900-1902年、1906-1908年、1906-1910年にわたって3種類の刻印が確認されている)であると判断できるが、とにかく刻印がないのだ。
Straw Finishとは麦わら色(黄橙色)仕上げで、パーツを一定時間加熱することで、金属表面に薄く硬い酸化被膜を形成させたものだ。ブルー仕上げの他のパーツと美しいコントラストを形成している。
セイフティはこの位置でオフ状態となる。これはP-08とは逆なので要注意。
そこで4桁のシリアルナンバー6398を調べてみると、なんとシリアルナンバーそのものは1901-1905年の間にUSアーミーで行なわれた軍用拳銃トライアル用に購入された1,000挺のうちの1挺ということが判った。
ただここで問題となってくるのは、レシーバーのチェンバーマークだ。これら1,000挺にはアメリカンイーグルのチェンバーマークが刻印されていたことで知られており、この個体とは合致しない。チェンバーマーク無しのモデルが1898-1903年と1903-1922年の間製造されたというレコードがDWMに残っているので、何らかの形で個人が手に入れたという可能性もある。よって、この個体の精確な製造年は特定しづらいが、いくつかの事実をポイントアウトしておく。
・シリアルナンバー6398は、USミリタリーが1901-03年の間に購入した#6361-7108(その他不明のシリアルナンバーもある)に属している。実際にこれらのシリアルナンバーを持った770挺は、1906年に“Bannerman&Sons”社に払い下げられたというレコードがあり、同社から市販されている。
・当時少量のモデル1900がUSにコマーシャルモデルとして輸入されているが、これら正式輸入モデルには当時の法律でシリアルナンバーの下に“Germany”と刻印されている。だがこの個体にGermany刻印はない。
・スイス軍用1900のグリップセイフティはスイス軍のリクエストで初期型(1898-1902のスリムなデザイン)からバックストラップをカバーするワイドな仕様に変更されている。この個体は初期型のスリムタイプだ。
・装着されている“IDEAL ホルスター/ストック”は、アメリカ人であるRoss Phillips(ロス・フィリップ)が1901年に創立した“IDEAL Company”製だが、会社そのものは1903年には倒産してしまっている。
以上の事実から類推すると、今回の個体は1898-1903年の間にDWMからリリースされた各種のプロトタイプ、もしくは少量が生産されたコマーシャルモデル、さもなくは1901-03年の間にUSミリタリートライアル用に送られた千挺のうちの1挺という予測になる。
いずれにせよ、この個体が製造されてから少なくとも120年以上は経っている計算で、その当時に何が起こったか、それを正確に知ることは不可能だ。どうであれ、これは歴史的価値の高いDWMパラベラムピストル モデル1900のエクセレントコンディションであるのは間違いない。


