2025年10月号

2025/09/04

無可動実銃に見る20世紀の小火器 200 M1A1パラトルーパーカービン

 

M1A1カービン

 M1カービンは有効射程距離が300ヤード以下に限定されてしまうものの、軽量で扱いやすいため、アメリカ軍が当初想定していたよりも多くが生産された。M1カービンは1941年9月に採用が決まり、1942年春に量産が開始され、戦争終結まで製造が続いた。その数は、アメリカ軍の主力ライフルであるM1ガランドの4,028,375挺よりも大幅に多い。またM1カービンの生産挺数は、アメリカ軍が第二次大戦で使用した小火器の中では最大だ。

 

▲初期型のリアサイトはL型フリップアップアパーチャー(ピープ)サイトで、低い方が150ヤード、高い方が300ヤード対応だ。後期型は、100、200、250,300と4段階調整となっている。


 M1カービンの小型軽量さは空挺部隊にも高く評価された。降下する際、大きく重いM1ガランドを持つことは大きな負担だ。ではもっと小型のトンプソンサブマシンガンM1、及びM1A1ならどうだろう。しかし、M1A1サブマシンガンは空の状態で約4.5㎏もある。さらにこの銃で使用する45ACP弾は近距離での威力は大きいが、距離が離れると弾速も弾道も低下してしまい、とても300ヤードには対応できない。もちろんM1、M1A1サブマシンガンも空挺部隊に使用されたが、M1カービンの方がはるかに評判が良かった。
 そのため空挺部隊向けとして、さらに小型化できる折り畳みストック仕様の製造が計画された。これを設計したのは、インランドマニュファクチャリングディビジョンの技術者で、1942年3月に試作モデルが作られている。そして同年5月12日にこれは“Carbine, Caliber .30, M1A1”として採用が決まった。
 このM1A1の生産はインランドマニュファクチャリングディビジョンのみでおこなわれ、その数は戦争終結までに140, 591挺となっている(先ほど挙げたインランドディビジョンの生産数2,299,039挺はM1のもので、M1A1とフルオート仕様のM2は含まれていない)。
 基本的にM1A1はストック部のみが通常のM1カービンと異なるだけで、バレル&レシーバー、マガジンはすべて共通だ。M1A1は垂直に近い木製のピストルグリップが装着され、これに太いワイヤーを曲げたような折り畳みストックが装着されている。
 ストック自体に確実なロック機構はない。伸ばした状態と折り畳んだ状態は小さなディテントで保持されるだけだ。したがってストックを伸ばした状態であっても、ストックに右側から強い力を掛けると折り畳まれる。

 これはフォールディングストックという物自体があまり普及していなかったため、どのような構造にすべきか、明確な答えが無かったからだろう。したがって堅牢さを求めるなら、通常のM1カービンを使う方がよかった。しかし、空挺部隊にとって小型にできることは大きな利点であったため、数多くのM1A1が使用された。
 M1A1の生産は1942年10月から1943年10月までと1944年5月から12月までの2つの期間に集中しておこなわれ、これにより前期型と後期型とに分けられる。前期型はリアサイトが、100ヤードと300ヤードに対応するL型フリップアップアパーチャーサイトで、セイフティはマガジンリリースボタンのすぐ後ろにあるクロスボルトタイプだったが、後期型はアジャスタブルサイトとなり、セイフティも回転レバー型となった。この違いはM1カービンの仕様変更がそのまま反映されたものだ。

 

▲フルオートに対応するM2カービンが登場し、30連マガジンが開発されると、既存のM1カービンに対し、回収してマガジンキャッチの強度を上げる改造が実施された。30連マガジンはそれ以前のM1カービンにも装着できる。しかし、倍の容量となったことでマガジンが重くなり、それまでのマガジンキャッチだと強度が不十分だった。
併せて前期型を後期型に改修することもおこなわれた。しかし、この個体はそういった改修がおこなわれていないように見える。完全にオリジナルの状態を維持しているかは不明だが、前期型のM1カービン、およびM1A1カービンは残存数がそれほど多くない。

 

M1カービン、M1A1カービンの終焉

 M1カービン、M1A1カービンは第二次大戦において、大量に生産され、配備されたが、その後、これに代わる後継機は作られなかった。それは、基幹ライフルとピストルの中間に位置する“個人防衛用ライトライフル”というコンセプトが、1950年代から本格化したアサルトライフルの時代にはそぐわないものとなってしまったからだ。最大の問題はM1カービンが採用した30カービンという低威力弾にある。
 30カービンは、いわば高性能ピストル弾だ。第二次大戦中の敵はフルロード弾を使うボルトアクションライフル、もしくはピストル弾を使うサブマシンガンで武装しており、300ヤードまでを想定した交戦距離においては、高性能ピストル弾のライトライフルでも、その速射性を生かすことで、有利に戦うということもできた。
 しかし、敵がアサルトライフルを持つようになったことで、完全に力負けしてしまう状況が生まれた。軍の中でサブマシンガンの立ち位置が急速に失われてしまったのも同じ理由だ。
 M1カービンの直系ではないものの、現代のM4カービンは攻撃用基幹カービンであると同時に個人防衛用としての側面を持っている。よってM1カービンのコンセプトが復活する可能性はほぼ無い。
 それでも、M1カービンやM1A1カービンは、独特の香りをまとった魅力的な銃だ。だからこそ、誕生から80年以上が経過している現在でもリプロダクションが製造供給されている。

M1A1カービン
全長:647.7mm/904.2mm
銃身長:18インチ
重量:2,812g (無可動実銃化加工前)
マガジン装弾数:15発
作動方式:セミオートマチック、ショートストロークガスピストン、ロティティングボルト

無可動実銃
価格:\770,000(税込)
(無可動実銃はボルトが溶接されているため、ボルト操作、装填、排莢等はできません。)

シカゴレジメンタルス
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Text by Satoshi Matsuo

 

Gun Pro Web 2025年10月号

 

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