2025/08/01
【NEW】無可動実銃に見る20世紀の小火器199 Steyr TMP

市場
1992年にTMPが公開され注目を集めた。早速オーストリア内務省の対テロ特殊部隊Einsatzkommando Cobra(アインザッツコマンド コブラ)や、イタリアのカラビニエリ(国家憲兵隊)に属するGruppo di Intervento Speciale(グルッポ・ディ・インテルヴェント・スペチャーレ:GIS)がTMPの導入を決めた。
しかし、既に述べた通り、この種のコンパクトサブマシンガンの需要はごくわずかでしかない。シュタイヤーとしては、小さなマーケットに向けてTMPの存在をアピールしつつ、これをベースにセミオートオンリーとしたピストルであるSPP(Special Purpose Pistol)を一般市場に売り込むことを重視した。そしてアメリカ市場での販売許可を取得、同年11月にSPPは無事にアメリカに出荷されている。
SPPをTMPと比較した場合、フルオート機能のオミットを除く最大の違いは、バーチカルフォアグリップがないことだ。アメリカの民間市場におけるピストルの定義には、バーチカルフォアグリップが付くとそれはもうピストルとは見做されないという項目があり、いくらフルオート機能がなくても一般販売が難しくなる。これに伴って、SPPはバーチカルフォアグリップを無くしたので少し外観が変わっている。
ではSPPは“ワンダー9が裸足で逃げ出すスーパーピストル”になったのだろうか。アメリカ市場で発売されたSPPは全長322mm、バレル長130mm、重量1,190gだ。安全のためマズルスリーブが少し長くなっているので全長が伸びた。ピストルとしてはだいぶ大きい。
マガジン装弾数は15発だが、TMP用延長マガジンを装着すれば30発となる。30発の装弾数は確かに魅力だが、グロックにも33連マガジンは存在する。
実際のところ、グロック17に33連マガジンを装着すれば、ずっとコンパクトで軽い、SPPより使い勝手の良い銃ができるのだ。単純に比較して、グロックよりSPPが勝る要素といえば、「小型サブマシンガンっぽい外観だ」という感覚的な部分だけとなる。これでは市場において“大人気”となるはずはない。実際に、SPPはアメリカで市場で全く売れなかった。

そして1994年9月13日、連邦アサルトウエポン規制(FAWB:正式名称The Public Safety and Recreational Firearms Use Protection Act)が施行された。これによりそれから10年間、特定の特徴を持つ銃はアサルトウエポンと定義され、販売ができなくなってしまったのだ。シュタイヤーSPPはアサルトウエポンと定義されたわけではないが、このFAWBにより、マガジンの装弾数は最大10発と制限されている。こうなるとSPPは単に図体のでかい大型ピストルとなってしまった。
結局、SPPはわずか3,000挺がアメリカに輸入されただけで販売中止となった。
コンパクトサブマシンガンであるTMPの需要は元々限定的であったことに加え、大量販売を計画していたSPPの販売中止を受け、シュタイヤーはTMPの製造と改良に興味を失ってしまったようだ。本来であれば、SPPはともかく、TMPに改良を施し、軍/法執行機関用サブマシンガンとしての売り込みを継続すべきだっただろう。だがそれをやった形跡はない。

では、TMPの設計者であるフリードリヒ・アイグナーは何をしていたのか。それを正確に知る手立てはないのだが、1990年代後半、アイグナーは新しいプロジェクトを進めていた。それは新型ピストルの開発だ。
1980年代初頭、オーストリア軍の新型サービスピストルとして開発を進めたGBは、それまで銃を設計したことがないプラスチック加工業者の作ったグロック17に敗れ、1988年にはGBの製造を終了させたことは既に述べた通りだ。シュタイヤーは90年代後半に、再びピストルの開発を開始する。
この時、アイグナーと共に開発をおこなったのが、社外の銃器デザイナーWilhelm Bubits(ビルヘルム・ブービッツ:1954-)だ。どうやら新しいピストルの開発を主導したのは、ブービッツの方で、いくつか独特なアイデアを盛り込んでいる。
そして1999年に完成したのが、シュタイヤーモデルMだ。ストライカーファイアードのポリマーフレームピストルだが、最大の特徴は、フレーム側に収まる撃発メカニズムをスチール製ユニット内に収めていることだ。スライドを保持するのは、このスチール製ユニットであり、グリップフレームは単にユニットを収める入れ物に過ぎない。これは後にSIG SAUERがP250やP320に採用したファイアコントロールユニット(FCU)とほぼ同じだ。このアイデアを最初に製品化したのがモデルMだった。しかし、シュタイヤーはそのユニットがモジュラーコンセプトを実現させることにつながる大きな可能性を持っていることに気付かなかった。そして、それ以上に問題だったのは、このモデルMは市場投入しても、ちっとも売れなかったことだ。
シュタイヤーはその後、モデルMを改良し、A2 MFに進化させている。しかし、ピストル市場では依然としてほとんど存在感がないまま現在に至るのだ。良いものを作ってもそれが成功するとは限らない。

一方、ビルヘルム・ブービッツはその後、アラブ首長国連邦でCaracal(カラカル)ピストルを開発した。このカラカルもまた、パッとしないピストルとなってしまった。
TMPの改良をおこなわないまま放置状態にしていたシュタイヤーは、2001年、その製造権をBrügger & Thomet AG(ブルッガー&トーメ:現B&T)に売却した。この2001年はシュタイヤーマンリヒャーの所有者が変わったタイミングであることは既に書いた通りだ。おそらく新オーナーであるヴォルフガング・フューリンガーの意向が強く働いたのだと推測する。
売却されたTMPのその後については、2019年8月号の本連載B&T MP-9Nで詳しく解説した。
私は、シュタイヤーがTMPの製造権を売却したのは、正しい選択ではなかったと思っている。結果的にTMPはブルッガー&トーメが改良、MP9に発展させたのだが、本来であれば、シュタイヤー自身がそれをやるべきだった。
やれることはたくさんあるだろう。ストックは操作性の高いものを標準装備とする。不要なら外せばよい。セイフティセレクターはもっと使いやすくアンビにする。レシーバー上面にピカティニーレイルを装着、バレルはもっと長いバリエーションを加える。ショートリコイルであっても、ロングバレル化は問題ない。バーチカルフォアグリップは着脱式にしたい。そしてピストルとしての使い勝手はもっと煮詰めるべきだ。
そうしていくことで、フルサイズサブマシンガンやラージフォーマットピストルとして展開していくことができる。TMP開発当時は無かったようなアームブレイス装着やスポーツ用ピストルキャリバーカービンという新たな展開の仕方も増えた。
サブマシンガンの市場はもともと小さかった。TMPの登場から33年、それは今でも全く変わっていない。しかし、サブマシンガンというラインナップを軍用銃メーカーとしてのシュタイヤーが持っていることは意味がある。
今回、シュタイヤーの歴史を調べ直して、2001年のシュタイヤー・マンリヒャーが置かれた状況が少し見えてきた。TMPを手放さなければならなった事情も理解はできる。しかし、TMPは大きなポテンシャルを秘めていた。手放したのはとても惜しいことだ。

口径:9×19mm
全長:282mm
銃身長:130mm
全幅:45mm
全高:161.8mm(15連マガジン装着時)
重量:1.3kg(マガジン込み:無可動実銃化加工前)
作動方式:ショートリコイルオペレーテッド
回転速度:900発/分
無可動実銃
価格:\550,000(税込)
(無可動実銃はボルトが溶接されているため、ボルト操作、装填、排莢等はできません。)
シカゴレジメンタルス
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Text by Satoshi Matsuo
Gun Pro Web 2025年9月号
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