2025/08/01
【NEW】無可動実銃に見る20世紀の小火器199 Steyr TMP
TMPの開発コンセプト
コンパクトで操作性の高い9mmフルオートピストルで、可能な限り外装部の突起を無くす。即応性を重視し、ストックは装着しない。そしてセミオートオンリーとすることで大型高性能ピストルになるもの。概ねこういったことが、TMPの開発コンセプトだったのではないだろうか。

径の太いバレルスリーブは、先端部にネジが切られており、ここに専用のサプレッサーを装着できる。バレルスリーブ上部にあるプレート状のパーツは、バレルロックプレートで、分解時にこれを押し込む。
TMPの全長は282mm、バレル長は130mm、重量は1,300gとちょっと大型のピストルというレベルに収まっている。ストックは無い。後になって着脱式のストックが作られたが、開発された時点では想定していなかったようだ。ストックはフォールディング(折り畳み)式にしても、テレスコピック(引き出し)式にしても、付けるとどうしても大きくなる。そもそもストックを展開させる時間が惜しい。だからストックの代わりに垂直型フォアグリップを付けた。サポートハンドでこれを握れば、構えやすいし、フルオート射撃時にも制御しやすい。また射撃中、サポートハンドが滑ってマズルの前に行ってしまう事故も防げる。
ライバルであるHK MP5Kのサイズと重量はどうか。全長320mm、バレル長115mm、重量2,073gとやや大きく、だいぶ重い。開発時期が違う上にTMPは後追いということもあるが、大きさ重さではTMPが上だ。
TMP最大の特徴はブローバックではなく、ショートリコイルを採用したことにある。本体レシーバー内に完全に隠れたロテイティングバレルが前後動することで回転し、ボルトとのロック/アンロックをおこなう。ショートリコイルを採用した結果、ボルト自体を軽くすることができた。本体重量1,300gはショートリコイルの恩恵だ。またショートリコイルにすることでリコイルスプリングを強力なものにする必要がなくなり、ボルトのコッキングが容易になっている。
そのボルトコッキングは本体上面後方にあるコッキングハンドルでおこなう。雰囲気的にはM4カービンに通じるもので、レバー状のハンドルが左右側面や上面から飛び出すものではないため、コンパクトさを阻害しない。アイデアとしては良いのだが、緊急時に素早く操作するには向かない。但し、これは慣れの問題だ。

HKはローラーディレイドブローバックで、ボルトハンドルは本体バレル側面にあり、ボルトの操作性はMP5が断然上だ。但し、最終弾発射後もボルトがホールドオープンしない事は大きな欠点となっている。TMPはホールドオープンする上にボルトリリースレバーが左側面にあって、この部分の操作性はTMPが勝る。
TMPのセイフティセレクターはトリガー後方のグリップ上部にあるクロスボルトタイプだ。右手のトリガーフィンガーで操作する。左側面から押し込まれた状態がセイフティonで、右側面から少し押し込むとセイフティ解除でセミオート、さらに押し込むとフルオートになる。
MP5Kは、レシーバー左右両側面に回転レバーがあり、操作性は断然上だ。正直、TMPは右利きシューターのみを想定している上に、あまり操作性が良くない。

TMPのサイトは樹脂製でシンプルなオープンサイトだ。フロントでエレベーション、リアでウインデージ調整ができるが、エレベーションは分解して内側からのネジ調整となり、ちょっと面倒だ。リアはアジャスタブルスクリューが側面にある。
MP5Kはフード付きジャーマンポストフロントに、リアはディオプタードラムサイトとかなり高級だ。リアで微調節が可能で機能性、使いやすさとも断然良い。但し、近距離用コンパクトサブマシンガンにこれが必要かと言われると話が違ってくる。
開発された時代的に無理があるが、TMP, MP5K共に光学サイトを装着する場合は、専用のマウントベースを装着する必要がある。そしてどちらも今の感覚で言えば、使い勝手が悪い。1990年代にはこの種のコンパクトサブマシンガンに光学サイトを付ける感覚は無かった。
マズル部にTMPは大きなバレルスリーブがあり、ここに専用サプレッサーを装着できた。しかし、汎用性はない。マズルアタッチメントの装着に関しては、MP5Kの方が自由度は高かった。
フルオート射撃時の回転速度はTMPが900発/分、MP5Kも同じだった。
使い勝手の違いでいれば、外装パーツのほとんどをポリマー樹脂で覆ったTMPの方が、手に持った感触は良いと感じる。重量もずっと軽く、またマガジンをグリップ部に装着するTMPの方が持った時のバランスの中心がちょうど手の位置に来て、持ちやすい。
MP5Kを超えるコンパクトサブマシンガンを作るという目標に対し、TMPはしっかりと応えていると感じる。もちろん完璧ではないが、完成度は非常に高い。