2025/05/30
【NEW】ドイツ連邦軍の小火器 ピストル、ライフル、サブマシンガン、スナイパーライフル、マシンガン
複雑化するドイツ連邦軍の小火器
ドイツ連邦軍では様々な新型小火器が選定、採用されていることは過去のリポートで繰り返し報告してきた。しかし、第二次大戦後から現在に至るまでに採用された小火器について、系統的に整理したことは一度もない。
そこで今回は、現在ドイツ連邦軍で採用されている小火器の現状について、過去からの経緯を含めて、カテゴリー別にリポートしたい。
その大きな理由として、現在のドイツ連邦軍の制式小火器は、以前のようにドイツ連邦軍全軍によって一斉に採用されるのではなく、実際におこなう軍事活動に合わせて、個別に選定、採用されることが増えている。そのため、小火器が細分化される傾向が強まった。
特にこの傾向は特別な作戦に従事する特殊部隊で顕著だ。具体的にはドイツ連邦軍の特殊作戦部隊(Kommando Spezialkräfte:KSK)、ドイツ海軍のSEALに対応するカンプシュイマー(Kampfschwimmer)、ドイツ海軍海兵隊特殊部隊(Marineschutzkräfte:MSK)、山岳部隊、憲兵隊、などの特殊作戦部隊だ。
これらの一般軍事活動と異なる作戦に従事する部隊には、部隊で使用する兵器の選定・採用に、より大きな自由度が与えられている。そのためドイツ連邦軍内で使用されている小火器には、同一の機能を持つにも関わらず、異なる機種のものが複数平行して採用されており、読者の皆さんも混乱されている場合が少なからずおありだろう。特に顕著なのはスナイパーライフルだ。ドイツ連邦軍内では兵種や使用目的の違いによって、異なる機種のスナイパーライフルが使用されている。
また部隊員全員に支給される制式ライフルも、部隊によって異なる機種が採用されている。
一方それらの兵器を生産するメーカーにとって、軍の制式兵器として採用されることは、民間向けに生産される同型武器の販売に大きな影響がある。軍の制式兵器に選定されれば、民間向けの販売台数が飛躍的に増大する。そこでメーカーは、たとえ特殊部隊による限定採用であっても、そのことにはあまり触れず、単に“ドイツ連邦軍の制式兵器に選定・採用”と大きく宣伝する。この事も人々の理解に大きな混乱をきたす原因のひとつになっている。
ドイツ連邦軍の制式ピストル
1955年にブンデスヴェーア(Bundeswehr)として創設された西ドイツ連邦軍は、汎用サービスピストルとして、ワルサーの戦後型P38にP1の制式名をつけて使用してきた。併せて、同じワルサーのPPKについてもP21の制式名で採用している。

第二次世界大戦中ドイツ国防軍(Wehrmacht:ヴェーアマハト)の制式ピストルだったP.38は、第二次世界大戦後に近代化改修を受けて西ドイツ連邦軍(当時)の制式ピストルに制定され、P1と呼ばれるようになった。
戦前戦中型との大きな違いは、フレームの材質で、戦前戦中型はカーボンスチール製であったが、戦後型はアルミ合金製となっている。

小型で携帯性のよい自衛用ピストルを必要とする西ドイツ連邦軍のヘリコプター搭乗員などに向けては、ワルサーPPKが制式ピストルに採用された。このPPKも、P38と同様に第二次世界大戦後に近代化改修を受けて再設計されて生産されたものだ。但し、ドイツ軍内で使用されたPPKは限定的な数量だった。
1994年にこれら全金属製(グリップパネルを除き)のピストルは、ポリマー樹脂製グリップフレームを装備させたヘッケラー&コッホ(H&K) USPに置き換えられ、これにはP8の制式名が与えられた。

P1の老朽化と東西ドイツの統一を受けて、ドイツ連邦軍は1990年代に次世代のトライアルをおこない、ヘッケラー&コッホ社製のUSPを次世代制式ピストルに選定・制定し、P8の制式名を与えた。P8は、スチール製のスライド、バレルにポリマー製のグリップフレームを組み合わせてある。一般市販型のUSPとP8の最大の違いは、コントロールレバーの機能で、P8のレバーが上方向に回転させてセイフティoff、下方向に回転させてセイフティonとなる。市販型とは逆なので、注意を要する。
海軍特殊部隊用には水中戦闘用として特殊なH&K P11が選定採用されている。
加えて特殊部隊向けの消音ピストルとしてH&K USPタクティカル(ドイツ連邦軍制式名P12)を選定採用した。

アメリカの特殊部隊がUSPの大型特殊仕様Mk23を特殊部隊用の制式に選定採用したことに対応し、ドイツ軍も特殊部隊向けに機能拡張型P8を選定し、P12の制式名をつけて採用した。このピストルは一般部隊では使用されず、ドイツ軍の特殊部隊にのみ支給されて使用された。
またドイツ連邦軍特殊部隊はグロック17を汎用制式ピストルとして選定採用し、P30の制式名をつけて使用している。
もっとも汎用的なサービスピストルであるP8は現在、強化改修を受け、P8A1の名で追加制式を受けた。変更点はスライドの強度を上げたこと、また表面仕上げをより強固なものに変更し、前後サイトの3点ダットを発光塗料に変更したことの3点だけだ。しかし、多くのP8の耐用年数が経過しているため、ドイツ連邦軍はP8系とは異なる新たな汎用サービスピストルのトライアルを実行している。
新世代の軍用ピストルの要件としてドイツ連邦軍は、現在多くの国が軍用制式ピストルとして採用し、トレンドとなっているストライカー方式とすることが求めた。同時に高いモジュール性と操作の容易さ、同時に使用時の安全性の確保もその選定要件として加えられている。
高いモジュール性は、構成部品を交換することで多くの任務に分化された部隊で、それぞれ最適に使用できるようにするためだ。また操作性の向上と高い即応性のため、外部の手動安全装置の省略が求められている。
このドイツ連邦軍の新世代制式ピストルトライアルに先行して、ドイツ連邦軍の特殊部隊は、新世代の制式ピストルトライアルをおこなった。そしてドイツ連邦軍特殊部隊司令部は、ワルサーPDPをドイツ連邦軍特殊部隊の制式ピストルに選定した。
ドイツ連邦軍特殊部隊はPDPフルサイズと小型コンパクトサイズの2つを選択、採用している。ドイツ連邦軍はフルサイズピストルにP14、コンパクトサイズピストルにP15の制式名を与えた。これらのワルサーPDPは高い耐久性を得るため、そのグリップフレームはポリマー樹脂ではなく、スチール製が組み込まれている。
ワルサーPDPは高いモジュール性を備えており、特殊部隊は作戦の目的に沿って部品や周辺照準機材を組み替えて、それぞれの用途に対応させて使用する。

ドイツ軍の一般部隊ではP8の後継制式ピストルのトライアルが進行中だ。それに先駆け、自由裁量を持つドイツ軍特殊部隊は、一般ドイツ軍に先行してトライアルをおこない、ワルサーPDPを選定・採用した。PDP SF 4.5インチはそのフルサイズ版で、P14の制式名が与えられている。
このワルサーPDPは、ドイツ陸軍特殊部隊(KSK)、ドイツ海軍カンプシュイマー(MSK)、ドイツ海軍海兵隊特殊部隊(MSK)、ドイツ連邦軍憲兵隊が制式ピストルとして使用するものだ。
ワルサー社は、ドイツ連邦軍特殊部隊向けとしてPDPフルサイズを最大3,200挺、PDPコンパクトを最大3,300挺納入する契約を結んでいる。
これとは別にドイツ連邦軍一般部隊向けの新型制式ピストルトライアルは、現在も継続しており、まだ最終的な結論には達していない。

ワルサーPDP SFコンパクト4インチもドイツ軍特殊部隊が選定採用し、これにはP15の制式名が与えられた。2機種のピストルとも、軍用として高い耐久性が求められるところから、一般向けのものと異なりスチール製のグリップフレームが組み込まれている。あまり大きさの違わない2機種のピストルをドイツ軍特殊部隊内でどのように選択支給しているのかは明らかになっていない。

ドイツ連邦軍の制式ライフル
1955年にドイツ連邦軍(当時は西ドイツ連邦軍)が創設された当時、ベルギーのFN FALを制式ライフルとして採用し、これにG1の制式名を与えている。
しかし、G1が使用された期間は短く、その後にH&Kが設計に係わり完成させたハーフローラーロックを組み込んだG3を制定し、これに近代化の改良を繰り返し加えながら長期期間にわたって使用してきた。

第二次世界大戦後、西ドイツ連邦軍で初めて採用された国産制式ライフルがヘッケラー&コッホG3だ。ドイツ軍内での制式名には社名がつけられておらず、単にG3(G3はライフル3型を表すドイツ語のGewehr 3の短縮形だ)と表記される。このライフルはアサルトライフルで主流のガスオペレーションではなく、ハーフローラーロックを採用し、本体にはシートメタルを多用した、当時としては革命的な反動利用式のアサルトライフルだった。
1980年代、NATOが新たに5.56mm×45をスタンダード弾薬に加えたところから、NATOに加盟する国々をはじめ、多くの西側諸国はこの新弾薬に対応する新型アサルトライフルを選定して採用した。しかし、ドイツ連邦軍は、ケースレス弾薬の採用を目指し、それが開発されるまで7.62mm×51弾薬のG3を継続使用するという決定をおこなった。
ところが、ケースレス弾薬とそれを使用するケースレスライフルであるG11の開発はかなり難航し、最終的には完成したものの、これでG3の後継とすることは難しいと判断された。また1990年のドイツ再統一を受け、ドイツ連邦軍は新たなライフルを大量に必要とした。そのため、5.56mm×45弾薬を使用するライフルを新規調達することが決まった。
H&Kはイギリスのローヤルオーディナンスと協力して、プラスチックを多用したHK50(試作ライフル名)を開発する。ドイツ連邦軍はこのHK50をテストし、新制式ライフルに選定採用、これにG36の制式名を与えた。

ドイツ再統一によるドイツ連邦軍の拡大に伴い、新たな制式ライフルとして選定・採用されたのがG36だ。この銃はポリマー樹脂材(プラスチック)を最大限多用したデザインとなっている。しかし、近年になって中東などの熱地で高温にさらされ続けることで、命中精度が不安定になるという欠点が露呈し、大スキャンダルに発展した。

ヘッケラー&コッホは、限られた空間でCQB戦闘をおこなう特殊部隊から要請で、G36の短縮型カービンバージョンを製作した。サブマシンガン並の大きさを目指して開発されたこのカービンバージョンには、やや長い36K(Kruz:短縮型)とより短い全長の38C(Compact)の2種類がある。

オリジナルのG36には組み込み式の光学照準器が装備されていた。しかし戦闘形態の変化により、作戦に必要な機能を持つ各種照準装置や照準補助装置等を切り替えて装備できる性能が求められるようになった。その結果、オリジナルの組み込み式の光学照準器が省かれ、代わりにライフル上面に長いピカティニーレイルが装備された。これであれば光学照準器を自由に載せ替えることができる。
またハンドガードも強化され、両側面や上面下面に各種装備を装着できるようになった。
採用後には、特殊部隊などに向けたカービンバージョンのG96Kカービンなどが追加制式となった。しかし、プラスチックを多用したG36が国連の平和維持軍としてドイツ連邦軍兵士とともに海外派遣されて作戦地に派遣されると不具合が発生した。それは、アフガニスタンやジプチなどヨーロッパでは想定しなかった高温環境に長時間晒されることにより、ライフルの命中精度が不安定になるというものだ。これはバレルを保持するトラニオンなどのパーツにもプラスチックを多用したことが原因だ。
この問題は2012年にドイツ国会でも問題になり、大論争の末、2017年にドイツ連邦軍はG36に代わる新たな5.56mm×45口径の制式ライフル選定を開始した。
ドイツ連邦軍新制式ライフルのトライアルに参加したメーカーは、ヘッケラー&コッホ、SIG SAUER、ラインメタルとシュタイヤーアームズの共同体、ハーネル、FNハースタルだ。これらのメーカーはいずれも、ポリマー樹脂の多用を避け、レシーバーやハンドガードなど多くの部品を金属で製作する従来の設計に逆戻りしている。
しかし、SIG SAUERは早期に離脱を余儀なくされた。それは、トライアルへの参加条件として、ライフルの構成部品85%以上がドイツ国内で生産されている事という基本的な要求項目を同社が満たせないためだ。この時点で既に、SIG SAUERはその生産機能の多くをアメリカに移転しており、ドイツ国内で新型ライフルを生産する能力は失われてしまっていたのだ。
最終的に新型5.56mm×45制式ライフルトライアルは、H&Kとハーネルの一騎打ちとなり、2020年9月15日、ハーネルのMK556が選定された。
しかし、H&Kは、ハーネルMK556がH&Kのパテントを侵害していると申し立て、採用決定を無効とする作戦で巻き返しを図った。
H&Kの主張は認められ、一旦は決まったはずの次期制式ライフル選定からMK556は消えた。そしてH&Kの提示したHK416A7が最終的に新世代のドイツ連邦軍制式ライフルに決まった。但し、その後にHK416A7はトライアルで指摘された部分の改良が加えられ、HK416A8に変更されている。そしてこのHK416A8が次期ドイツ連邦軍の制式ライフルG95A1として納入される予定だ。現在、部隊トライアル用モデルの納入を含めてこれが進行している。

G95 A1は次期ドイツ軍の制式ライフルとして、現在ドイツ軍に納入されて配備が進められている。このライフルは前世代の制式ライフルのG36が露呈したポリマー樹脂製レシーバーの弱点をカバーすべく、メインフレーム部分がすべて金属で製造されている。このライフルはヘッケラー&コッホ社が製造してきたHK416を原型に設計された。

ヘッケラー&コッホG95K A1はG95 A1ライフルの短縮型バリエーションだ。現代戦では射撃位置を相手に察知されにくくするためと、射手が発射音から受けるストレスを軽減する目的で、サウンドサプレッサー(サイレンサー)を用いることが増えている。サウンドサプレッサーを装着すると全長が長くなり過ぎるため、全長の短いカービンバージョンが求められるようになった。
サービスピストルの場合と同じく、ドイツ連邦軍一般部隊の汎用次期制式ライフルのトライアルに先立ち、より多くの選択が可能なドイツ連邦軍陸軍特殊部隊(KSK)とドイツ海軍特殊部隊(MSK)は、独自に特殊部隊向けのライフルを選定し、H&Kの提示したHK416A6の採用を決め、G95のドイツ連邦軍制式名を与えた。ライフルバージョンとともにこのカービンバージョンも採用され、この短縮型にはG95Kの制式名が与えられた。特殊部隊用としてのG95とG95Kの納入挺数は限定的で390挺だったとされている。H&Kは2023年9月に、これらのライフルとカービンをドイツ連邦軍一般部隊に先立ってドイツ連邦軍特殊部隊に納入した。
これとは別にH&Kは、ドイツ連邦軍特殊部隊向けにCQB用小火器として300ブラックアウト弾(7.62mm×35:300BLK)を使用するHK437カービンも供給している。このHK437カービンは、全長が極めて短く、銃口部にサウンドサプレッサー(サイレンサー)を装備することを前提に設計されている。300BLKは亜音速弾を用いることで、高い消音効果が得られるため、特殊部隊はHK437を必要としている。

ヘッケラー&コッホHK437Kは、一般部隊より、軍や警察の特殊部隊向けに開発されたカービンだ。彼らは特殊作戦において、HK437にサウンドサプレッサーを装着、亜音速の300BLK弾と組み合わせて使用することを想定している。
特殊部隊内で前出のG95やG95KカービンとHK437カービンの使用区分は明らかになっていない。リポーターの推測では、HK437カービンは従来特殊部隊が好んで使用してきた消音サブマシンガンのH&K MP5SDに代わるものとして選定採用されたと考えている。
現在H&Kはこれら新世代の制式ライフルや、その他の歩兵用小火器を、従来の黒色仕上げではなく、茶色のアースブラウンや灰色のスナイパーグレーの表面加工を施して供給している。最近の研究で、黒色の小火器は戦場で想像以上に目立つことが判明しており、周囲や隊員の着用する戦闘服により溶け込んで目立ちにくいアースブラウンやスナイパーグレーが現在の軍用小火器の表面加工の主流となっている。
まだ断言できないが、次期ドイツ連邦軍汎用制式ライフルのG95A1もこれらのいずれかの色の表面を加工されて支給される可能性が極めて濃厚だ。現時点ではアースブラウンが優勢だが、新たに登場したスナイパーグレーが選択される可能性も高い。