2025/06/30
【NEW】サブマシンガン市場に革新を撃ち込む ルカンスキーアームズ スティンガー9【動画あり】
Text &Photos by Tomonari Sakurai:櫻井朋成
これまでにCZスコーピオンEVO3やエイリアンピストルを開発してきたヤン・ルカンスキーは、自らの名を冠した“ルカンスキーアームズ”を設立、一切の妥協を排したサブマシンガン“スティンガー9”をIWAアウトドアクラシックス2025で発表した。
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IWAアウトドアクラシックス2025で発表された“STINGER 9”は、明らかに見覚えのあるシルエットのサブマシンガンだった。チェコの老舗銃器メーカーCZUB(チェスカー・ズブロヨフカ)の“スコーピオンEVO3”と驚くほど似ている。よく知らない人が見れば「これはコピーでは?」と疑ってしまうだろう。
しかし銃の側面に刻まれた社名“LUCANSKY ARMS”を目にした瞬間、私は確信した。これは模倣などではない。EVO3の生みの親、Ján Lučanský(ヤン・ルカンスキー)その人の名を冠したブランドなのだ。彼は、かの名作“エイリアンピストル”を開発し、大きく注目を浴びたLAUGO ARMSの創設者でもある。
私自身、以前にLAUGO ARMSを訪問し、娘を持つ父親同士ということでルカンスキー氏と意気投合した経緯がある。その彼が新たなブランドを立ち上げたと知り、私は真相を確かめるべくチェコのウヘルスキー・ブロドへと向かった。そこは、CZUBの本拠地と同じ町だ。
LUCANSKY ARMSを訪れると、ルカンスキー氏は社員一同とともに、なんと日本語で「ようこそ。また会えてうれしいです」と笑顔で迎えてくれた。話を聞けば、私が来ると知って、全員で挨拶を練習してくれていたという。もてなしの心に胸が熱くなった。

全長;390mm
全幅:53mm
全高:201mm(マガジンなし)
重量:1,950g
口径:9×19mm
作動方式:DMTシステム
マガジン:CZ スコーピオンEVO3マガジン互換
ストック接続:ピカティニーインターフェイス
EVO3ではできなかったことをSTINGER 9にすべて詰め込む
LAUGO ARMS(ラウゴアームズ)は2001年に設立された設計会社で、2017年頃から銃器製造会社として動き出した。そのころのラウゴアームズは、主力デザイナーであるルカンスキー氏と、かつてはCZUBのマーケティングダイレクターであったOndřej Poděl(オンドジェイ・ポデル)氏、そして射撃競技選手で投資家でもあるDaniel Selichar氏らが中心となって、新しいピストルの開発に向けて動いていた。そして2019年、ルカンスキー氏のアイデアを盛り込んだAlien Pistol(エイリアンピストル)を発表し、注目を集めることに成功する。
妥協なきハイエンドピストルとして、エイリアンピストルの生産が始まり、ラウゴアームズは急成長したが、その結果、ルカンスキー氏らが思い描くことが自由にできなくなってしまったという。そのため、ルカンスキー氏とポデル氏の二人は2021年に持っていた株式を売ってラウゴアームズを離れた。
何がどうだったのか詳しくは聞かない。しかし、会社組織においてはありがちなことだ。そしてルカンスキー氏とポデル氏はLUCANSKY ARMSを設立した。その製品第一号が、今回のSTINGER 9なのだ。

彼は以前にも、「EVO3にはもっと改良したい点があったのだが、CZは受け入れてくれなかった」と語っていた。これについてもよくわかる。アイデアに溢れたルカンスキー氏は、改良に改良を重ねて、もっと良い銃を作ろうとしたのだろう。しかし、そんなことをしていたら、いつになってもEVO3の市販化ができなくなる。すでにプロトタイプを発表してから数年が経過しており、CZとしてはどこかで区切って市販しなければならなかったはずだ。
ルカンスキー氏は今回、自らの名を冠した会社からSTINGER 9をリリースした。EVO3でやりたくてもできなかった改良を、今度こそ気が済むまで盛り込んだはずだ。したがってSTINGERはヤン・ルカンスキー氏にとって理想のサブマシンガンとなっている。

STINGER 9の構造と機能――EVO3からの進化
見た目こそEVO3と似ているが、中身は大きく異なる。最大の革新は、独自の“Delayed Matter Technology(DMT)”というリコイル制御機構にある。ボルトを二分割し、それぞれを時間差で作動させることで、シンプルブローバック方式特有の鋭い反動を劇的に抑えることに成功しているのだ。
具体的にはボルトアッセンブリーが2段で構成され、カーボンスチール製のボルトとその上により比重の大きなタングステンのブロックが載っている。撃発が起こると、ボルトアッセンブリーが一体となって後退し、エンプティーケースを排出しながら、バッファーにぶつかるまで後退する。そしてリコイルスプリングによって、ボルトは前進するのだが、この時、より重いタングステンブロックがさらに(わずか数mmだが)後退する、ブロックの後退とボルトの前進が同時に起こることで、体感リコイルがある意味、中和されるのだ。
またこのボルトアッセンブリーの構造は、きわめてシンプルなパーツ構成となっており、故障が起こる可能性がない。DMTはわずかな工夫で大きな結果を生み出す画期的な技術なのだ。
後で実射をおこなっているが、その時の感触は、シンプルブローバックとは明らかに異なり、むしろローラーディレイドブローバックやガスオペレーテッドに近いものがあった。

超軽量、超コンパクトデザインの9mm口径用サウンドサプレッサーだ。3-Lugマウンティングシステムにより、瞬時に脱着が可能となっている。
サプレッサー仕様
S Series SL6i
全長153mm
重量:380g
外径:44mm
材質:ステンレススチール Cerakote仕上げ
ノイズリダクション:22-25dB

ハンドガードはM-LOKスロットを3面に備え、アクセサリーの自由な取り付けに対応する。フォワードコッキングハンドルは、銃を保持するサポートハンドの位置に極めて近い。

ボルトリリース、マガジンキャッチの位置、形状は左右ほぼ同じだ。またその指が触れる面の形状も操作方向に合わせて変えており、目視せずとも指で触れた瞬間、それがボルトリリースなのか、マガジンキャッチなのかを判断できる
操作系に関しても、考え抜かれている。銃自体は完全なアンビデクストラス(両利き対応)で、ARスタイルの側面プッシュボタン方式と、HK MP5などに代表されるパドルレバー方式の両方のマガジンリリースも備えたものだ。さらにチャージングハンドルも、バレル側面のコッキングハンドル方式と、ARと同様のレシーバー後部のチャージングハンドル方式の2系統が組み込まれている。状況に応じて、ユーザーが使いやすいと感じる方を操作すればよい。不要ならボルトハンドル、チャージングハンドルの片方を外してしまって構わない。