2019/07/19
模型的アプローチでM1911A1をリアルフィニッシュ!
リーズナブルなエアコッキングガンがどこまで変わる!?
トイガンに模型の塗装術を応用し、使い込まれた実銃の持つリアルさや凄みを表現するこのコーナー。今回は東京マルイのエアコッキングガンを題材とした塗装仕上げに挑戦する。ポイントはパーカライジング仕上げ&傷の表現だ。実銃ライター・SHINによる実銃考察、プロモデラー・國谷忠伸による製作過程をお送りしよう。
これは実銃のM1911A1。東京マルイのエアコッキングガンの外観をどこまで近づけることができるか?
実銃のディテールをチェック
まずは実銃のコルトM1911A1をよく観察してみよう。写真はおなじみ本誌銃器ライター・SHINの所有銃で、1945年にコルトで製造され、アーセナルリビルドにより再生された個体だ。それでは、各部の表面仕上げや摩耗具合、ディテールなどについて見ていこう。
筆者のM1911A1は米陸軍の武器製造・整備を行なうアニストン米陸軍補給所(Anniston ArmyDepot)でアーセナルリビルドが施され、1987年から長期保管されていたもの。一般に拳銃の再仕上げはコレクターズアイテムとしての価値を下げるものの、アーセナルリビルドの場合は履歴が明確なため価値は変化しない。アーセナルリビルドされた銃はパーツごとにメーカーや製造時期が異なることが多いが、筆者のM1911A1は珍しくどのパーツもコルトが1945年に製造したもので揃っている。
アーセナルリビルド
写真のM1911A1はコルトが1945年に製造し米軍に納入した約12万挺の中の1挺で、筆者がCMP(Civilian Marksmanship Program)を通じて入手したものだ。1945年は第二次大戦が終結した年であり、M1911A1の生産が打ち切られた年でもある。大量に製造されたM1911およびM1911A1は、1985年にM9を採用するまで米軍で制式拳銃として使われ続け、訓練や実戦で摩耗するとアーセナルリビルド(スペアパーツと組み合わせ再仕上げされる)されて再配備されるというサイクルが行なわれた。アーセナルリビルドは1960年代から80年代にかけて行なわれ、M9制式採用後は余剰装備として保管されることになったのである。
アーセナルリビルドでは摩耗した個体の状態をチェックし、それに応じて必要な修理が施される。交換されるパーツはスペアだけでなく廃棄銃からの再利用品もあり、それゆえ再生される銃はフレームやスライドなどパーツごとにメーカーや製造時期が異なる場合も多い。
パーカライジング
再生工程では一度パーツを組み合わせた後、劣化した被膜や錆をサンドブラストで剥がし、防錆のためパーカライジングが施される。パーカライジングは化成処理の一種で燐酸塩処理とも呼ばれ、鉄鋼や亜鉛などの金属表面に燐酸亜鉛など金属塩の薄い被膜を作るというもの。粉末で覆われたような表面(使い込むうちに滑らかになっていく)が特徴で、この荒々しさがM1911A1の軍用銃らしさを醸し出しているとも言えるだろう。
第二次大戦頃より米軍装備の規格化は進み、同製品間のパーツ交換を調整作業なしで行なうことができるようになった。フレームとスライドのレール部分の隙間や、エジェクター&エキストラクターがスライド後部と不揃いな点からも、すり合わせがなされていないことが分かる
トリガー、マガジンキャッチ、ハンマー、シア&ディスコネクター等はブルー仕上げ。分厚いパーカライジングによる寸法の変化を避けたのか、あるいは再生時に手元にあった余剰パーツを使ったのか定かではない
バレルはスライド等と比べ滑らかで金属感のある表面となっており、特徴的なバレルブッシングよって固定される。スライド前端上部の小さなへこみは錆によるピッティング(小穴)で、アーセナルリビルドの際のパーカライジングで防錆処理されている
グリップは朝鮮戦争の頃にスペアパーツとしてKeyesで製造されたもの。樹脂の質が低いためかチェッカーやスクリュー周りが潰れているが、実用上は問題ない(市販品なら返品ものだが…)。スチールプレス製のマガジンは.45ACPを7発装填できる。角度があまりついていないのは、テーパーを持たない.45ACPをスムーズに装填するため。残弾確認用の穴も開けられている
COLT M1911A1 リアル仕上げ術
パーカライジング被膜の摩耗をシリコーンバリアー技法で表現
ひととおり実銃を観察したところで、今度はエアコッキングガンM1911A1のパーカライジング仕上げ再現に挑戦する。塗装を手掛けるのはプロモデラー・國谷忠伸。まず下地に金属色を塗り、被膜部分を上塗りするのは前回と似ているが、今回はその間に保護塗膜をはさんで被膜部分を削り落とし、下地の金属色を露出させやすくする「 シリコーンバリアー技法」を使ってみた。この技法で、使い込まれ被膜に傷が付いた雰囲気をリアルに再現してみよう。
ベースガン:東京マルイ コルト M1911A1ガバメント【ハイグレード/ホップアップ】(¥3,500)
塗装前の分解と脱脂
まずは塗装しやすくするため分解する。小さなバネやパーツの位置、向きなど要所ごとに写真を撮って記録しておけば、後で組み立てる際に困らないで済む
塗装するパーツは中性洗剤等で洗浄して脱脂しておく。塗装面にシリコンオイルなどの油分が残っていると、塗装が剥がれる原因となるからだ
パーティングラインの処理
パーティングラインをヤスリで削り落とす。バレルは曲面なので削りすぎて平らにしないように注意しよう。ヤスリスティックは硬さが選べるので使い分けるとよい
曲面の仕上げは紙ヤスリかスポンジヤスリで行なうとよいだろう
塗装の準備
各パーツを塗装する前に、組み立てた際に見えなくなる部分に持ち手を付けよう。スライドはバレルが収まる穴に適当な棒を挿すとよい(マーカーペンを使用)
まずは塗料剥がれ防止のため、全体にガイアマルチプライマーを塗っておく
シリコーンバリアー技法
資料写真から使用塗料を選定する。パーカライジング表面はMr.カラーのグラファイトブラック、傷付いた部分の金属色にはタミヤラッカーのメタリックグレイをチョイスした
傷の部分の金属色(メタリックグレイ)を下地として全体に塗装する。多少ムラになっても構わない
次にMr.シリコーンバリヤーを全体に吹く。これは後で上塗りの塗膜に傷を付けて剥がす際、下地まで剥がれてしまうのを防ぐための塗膜を作るのが目的(ヘアスプレー「ケープ」等でも代用できる)。無色なのでわかりにくいが塗り漏らさないようにしたい
シリコーンバリヤーが乾いたら、上塗り(パーカライジング被膜を再現)としてMr.カラーのグラファイトブラックを塗装する。グラファイトブラックは下地色が見えないように完全に塗りつぶそう
上塗りが乾燥したら、資料写真を参考に竹串などを使って塗膜を剥がしていく。特にスライド側面は一番目立つ部分なので資料をよく見て丁寧に傷を付けていこう
力を入れすぎると下地のメタリックまで剥がしてしまうので注意しよう。資料写真と見比べながら、満足のいく仕上がりになったら完成だ。タブレットを使うと拡大もできるし机上が散らかることもないので便利だ。同じ要領で、他のパーツも仕上げていく
パーカライジングのざらついた質感の再現と塗膜保護のため、つや消しクリヤーでコート。この時、最後にやや遠くから吹き付けてやるとざらつき感を強調できる
シリコーンバリヤー技法はシャープな傷の表現には向いているが、摩耗箇所(ホルスターと接触して表面が薄く剥がれたマズル周りなど)の表現には向かないので、ドライブラシ(一度筆の穂先に塗料を含ませて拭き取り、カサカサにした状態で対象に擦り付けてうっすら塗料を乗せる技法)で再現する
アウターバレルとマガジンの仕上げ
アウターバレルはスライド等との質感の違いを表現するため、Mr.リトルアーモリーカラーのアルマイトブラックで塗装。シリコーンバリヤー技法は使っていない
実物のマガジンは薄い鉄板のプレス製で、スライド等とは質感が異なる。作例では下地に銀を塗装し、表面色を上塗りする
マガジンハウジングと擦れるためか実物は派手な傷が付いていることが多いため、目の粗いヤスリを使って一気に傷を再現する
マガジンリップをカートリッジ風に仕上げる。マスキングしながら弾頭部をMr.メタルカラーのカッパー、薬莢部をMr.メタルカラーのゴールドで塗装
グリップの仕上げ
ウッド風グリップは元々の質感を活かしつつ、エナメル塗料で汚し塗装をすることに。浸透性の高いエナメル溶剤による破損防止のため、クリヤーで下塗りして保護塗膜を作っておく
まず資料を参考にタミヤエナメルのタイヤブラックを薄く希釈して木目を描く。続いて赤味を追加するため、タミヤエナメルのハルレッドでわざとムラになるように塗る
最後に半乾き状態でティッシュなどで表面を軽く磨くと、使い込んだ質感を再現できる
完成!
M1911A1はSHIN氏の実銃写真を見れば分かるとおり樹脂グリップが標準だが、実際ウッドグリップの装着例もある。こちらはエナメル塗料で木目を描き、使い込まれた雰囲気を出している
シリコーンバリアー技法により、パーカライジング仕上げのガバメントが使い込まれ傷付いた状態を再現できた。組立の都合上フレームの分割線を消すことはできなかったが、それ以外はおおむねリアルに仕上がったと思うがいかがだろうか?
アウターバレルはアルマイトブラックで塗装し、質感の違いを出している。ホルスターからの抜き差しにより摩耗したマズル部分はドライブラシで表現
マガジンもスライドやフレームと仕上げ方法を変えることで、傷の入り方や質感の違いを演出した。また、マガジンリップをカートリッジの色で塗装し、装填状態のような雰囲気に
WARNING!
- トイガンの分解や塗装など、カスタム行為はすべて自己責任の上で行なってください。
- 本コーナーでご紹介する仕上げ術は、ある程度のトイガン分解および 模型製作の経験・知識があることを前提としています。
- トイガンの分解を行なうとメーカーやショップの保証は受けられなくなりますのでご注意ください。
実銃写真・解説/SHIN
作例製作・解説/國谷忠伸
作例監修/毛野ブースカ
この記事は月刊アームズマガジン2019年8月号 P.64~71より抜粋・再編集したものです。