2025/10/11
米豪主催多国間共同訓練 タリスマンセーバー25 Part1
Talisman Saber 25
オセアニア地域最大規模の多国間軍事演習「タリスマンセーバー」。2年に一度開催され、日本からは陸海空自衛隊も毎回参加している。参加各国と共に戦術技量を向上させるべく、着上陸訓練を行うほか、03式中距離地対空誘導弾ならびに12式地対艦誘導弾など、日本国内では射撃が出来ないミサイルの射撃を実施している。今回は陸自が参加した訓練パートを中心にお伝えする。
2025年7月13日から26日の間、オーストラリア全域において、米豪主催の多国間共同訓練「タリスマンセーバー25」が行われた。
2年ごとに開催されているオセアニア地域最大の軍事演習であり、今回で11回目を数える。主催国のアメリカ及びオーストラリア、そしてカナダ、フィジー、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、パプアニューギニア、フィリピン、シンガポール、韓国、タイ、トンガ、イギリス、日本の19か国計3万5千人が参加した。
日本は2015年からメンバーに加わり、6回目となる今回は、陸海空自衛隊約1500名を派遣した。なおこれとは別に、「インド太平洋方面派遣IPD25」の枠組みとして第2水上部隊の輸送艦「おおすみ」、第3水上部隊の護衛艦「いせ」「すずなみ」の3隻を派遣した。空自については、航空幕僚監部や航空総隊等の人員が中心となり、戦闘機等の装備は待ち込まれなかった。
日本が「タリスマンセーバー」に参加する目的は、米豪をはじめとした太平洋に面する国々と連携を深めるためだ。また、日本では海域や空域の制限上、射撃が出来ない装備による実弾射撃訓練を行うというのもこの演習に参加する重要な目的でもある。
まずは、日本版海兵隊とも呼ばれる水陸機動団による訓練の模様をお伝えしたい。
水陸機動団は、第1水陸機動連隊を基幹として、「おおすみ」を拠点に各種訓練を行った。そしてスタネージやボーエンの砂浜等において着上陸訓練を実施した。なお団本部はキャンプ・ティルパルに置かれた。
訓練と一口に言っても、大小さまざまな規模で毎日のように実施されており、その中には、水陸機動団に内包されている後方支援大隊と米海兵隊により、大規模な着上陸訓練から米トラックで、陸自のトラックをけん引するものまであった。
水陸機動団は、2024年3月に第3水陸機動連隊を竹松駐屯地(長崎県)に新編し、これにて予定通り3個連隊体制を確立した。さらに第3水陸機動連隊を支援するため、戦闘上陸大隊第3戦闘上陸中隊及び特科大隊第3射撃中隊も新編された。
水陸機動団にとっての2025年は、「タリスマンセーバー25」のみならず、「スーパーガルーダシールド25」、そして「アイアンフィスト25」など、忙しく国内外を飛び回っている。ますます精強さに磨きがかかった陸自のエース部隊だ。
ショル・ウォーターベイ演習場では、各国による野砲やミサイルの射撃訓練が連日行われていった。
その中に、第8高射特科群の姿があった。この部隊は、中部方面隊に内包されている防空部隊で、青野原駐屯地(兵庫県)に所在する。主となる装備が「03式中距離地対空誘導弾」である。このミサイルは、射程が長く、日本では訓練用に空域及び海域の確保が難しいことなどから、配備前から米本土のマクレガー射場など、海外で射撃訓練を重ねてきた。さらに射撃機会を増やし、各国と交流を深めるべく、「タリスマンセーバー」の枠組みにも射撃を組み込んだ形だ。
03式中距離地対空誘導弾は、陸自がこれまで配備してきた地対空誘導弾「改良HAWK」の後継として1996年より国内開発を行い2003年より配備を開始した。発射機単体で運用するものではなく、射撃用レーダー装置や電源車などとともにユニットを構成する必要がある。それらは、高機動車や重装輪車など装輪化された車両に搭載されており、迅速に展開できる。
1回目の射撃訓練は、7月12日に行われた。同演習場では、日本の前に、米豪及び韓国軍等も射撃訓練を実施していたのだが、そちらの訓練が大幅に遅れてしまったため、当初お昼頃計画されていた日本の射撃は、17時半までずれ込んでしまった。夕陽に照らされた発射機から飛び出したミサイルは、見事標的機を破壊した。
引き続き、7月14日に2回目の射撃が行われた。この日は、多国間による総合戦闘射撃の対空パートとして、03式中距離地対空誘導弾を射撃することになった。こちらの射撃も成功を収めた。
現在、システムを更新し、射距離を伸ばすなどの改良を加えた「03式中距離地対空誘導弾(改善型)」を開発中である。さらにこの新ミサイルを改良した「03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上」の開発もスタートしている。平行して開発中のこの2種類のミサイルの違いは、迎撃すべき対象が異なる点にある。「03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上」については、迎撃が難しいと言われる短距離弾道ミサイルSRBMや極超音速滑空体HGVへの対処ができるようになる。
ミサイルの技術は日進月歩―。開発の手を休めるという事は世界から後れを取り、それはすなわち、敵のミサイルから各部隊や国民を守り切れないということを意味する。だからこそ、常に未来を見据えて、開発を進め、部隊錬成に努めている。
7月22日、ビークロフト射場にて12式地対艦誘導弾の射撃訓練が行われた。こちらの訓練を実施したのは、2024年3月に発足したばかりの第7地対艦ミサイル連隊だ。
同連隊は、第2特科団の隷下部隊だ。こちらも2024年に西部方面特科隊を前身として、新たに発足した。第2特科団の隷下には、火砲やミサイルを配備する各部隊が編成されている。防衛警備を担当しているのは、今最も緊迫している九州・沖縄エリアだ。
第7地対艦ミサイル連隊は、沖縄本島にある勝連分屯地に連隊本部を置き、沖縄本島の他、瀬戸内分屯地(鹿児島県奄美大島)、宮古島駐屯地(沖縄県宮古島)、石垣駐屯地(沖縄県石垣島)にそれぞれ各中隊ならびに12式地対艦誘導弾を配置している。
そもそも陸自全体を見ても、12式地対艦誘導弾を配備してるのは、第2特科団隷下の第5、第7、第8地対艦ミサイル連隊のみ。この状況からも、日本の南西島嶼部の安全保障環境がいかに厳しい状況に置かれているかをうかがい知ることができる。
今回は、ただミサイルを射撃するだけでなく、新たな試みがいくつか盛り込まれた。それが2発を発射し、敵艦に対して異なる方向から同時に命中させる「異軸同時弾着」という方法だ。さらに敵のレーダーに対し、実電波による妨害を仕掛けつつ、それが自分たちのミサイル本体にも影響しないかを検証するため、第301電子戦中隊も参加した。日本国内では、このように実電波を飛ばした訓練を計画したとしても、総務省から許可を得ることは難しく、オーストラリアだからこそできる訓練となった。
実施場所となったビークロフト射場は、シドニーから南に下ったナウラという街の外れにある。演習場の中には、海岸線があり、そこから海に向けて長射程のミサイルを撃つことが出来る。12式地対艦誘導弾は、海沿いの小高い丘の上から、ヨットサイズの目標に向けて射撃を行った。
射撃準備は、まだ夜の帳の中にある4時頃からスタートした。射撃まで3時間近くあったが、すでに丘の上に車両が配置されていた。この間、オーストラリア海軍とリンク16を通じて情報共有しつつ目標を捜索していた。
発射機の周りにいた隊員たちが退避し、いよいよ発射に向けた最終段階となったのが午前6時だった。ここでようやく朝日が昇り始め、うっすらと辺りを照らし出す。
そして午前7時―。遂に発射の瞬間がやってきた。ランチャー部分から轟音と共に激しい炎と煙が巻き上がる。その刹那、筒の中からミサイルが飛び出して行った。それから数秒後、2発目も同じように発射された。そこから一転、辺りを静寂が包む。耳に残響音が残っているので、この静かな時間の方に違和感…。すると、突如歓声と拍手が聞こえてきた。2発が見事目標に命中したようだ。もちろん、隊員たちは肉眼で弾着の様子は見えておらず、モニターを介してその状況を確認した。
本来であれば、この日の射撃はこれにて終了。翌23日に1発を発射し、すべてを撃ち終える計画だった。しかし、23日の天候が悪くなる予報であったため、前倒しして、このまま最後の1発を射撃することになった。先程は、薄明りが刺す程度の空模様であったが、今度は見事な青空が広がっている。最後の1発は、その青空を飛翔していき、見事目標を撃破し、すべての射撃訓練は終了した。
12式地対艦誘導弾は、陸上から海上の敵艦艇を攻撃するためのミサイルであり、最大射程は200kmとも言われている。先代である88式地対艦誘導弾をベースに大幅な改良が加えられた。
現在は、12式地対艦誘導弾を改良し、スタンドオフミサイルを開発中である。
これまでの日本の領海へと侵入してきた敵艦艇を攻撃するという考え方から、敵のミサイルの射程圏外から攻撃するスタンドオフ防衛に用いられる。そのために長射程化された我が国初の巡航ミサイルとなる。名称は「12式地対艦誘導弾能力向上型」だ。この新ミサイルの配備により、そもそも敵を日本の領海へと近づかせない戦術をとる。
来年度より第2特科団の各ミサイル連隊へと配備が開始されるが、今後も研究開発は継続され、最終的に射程を1500kmへと延伸する。
Text & Photos:菊池雅之
この記事は月刊アームズマガジン2025年11月号に掲載されたものです。
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