ミリタリー

2025/07/27

大規模暴動が発生したLAのリアル

 

大規模暴動が発生したLAのリアル

 

施設の出入口を警備する保安官。彼らの中にも移民はいるため、複雑な心境だったのかもしれないが、毅然とした態度で任務にあたっていた

 

6月14日に発生したLAでの大規模暴動。その翌日となる15日に現地入りした記者は、LAが平穏を取り戻しつつも、残り火が燻る様子を垣間見ることができた。その一端をご紹介しよう。

 

 

 6月6日、カリフォルニア州のロサンゼルス(以下:LA)において、トランプ大統領による不法移民対策として、アメリカ政府の「移民関税捜査局(通称:ICE)による一斉摘発が行われた。
 この一斉摘発を発端としてLAの中心部であるダウンタウンにおいて、大規模なデモ活動が開始された。
 6月7日には事態は緊迫化し、抗議デモ参加者と当局間で衝突が発生し、催涙ガスやゴム弾、スポンジ弾などが発射されるなど、デモ活動は暴動へと繋がっていった。

 

 このデモ活動を鎮圧するため、当局の治安部隊がダウンタウンに集結した。
 集まった治安部隊の筆頭はロサンゼルス市警察(通称:LAPD)の警察官と、ロサンゼルス郡保安局(通称:LASDまたはLASO)の保安官だ。
 LAPDはLAを管轄する警察組織だ。制服は黒を基調としており、日本の警察組織でいえば「各都道府県警察」に該当するといえる。

 

ペイントボールガンを持ち、警戒する警察官。その奥には派遣されたばかりの海兵隊員の姿も

 

リラックスしながらエナジードリンクを飲むDHS(国土安全保障省)の職員と29パームスから派遣された海兵隊員

 

低致死性のペイントボールガンや催涙手りゅう弾などを持つDHSやCBPの職員。あくまでも警察組織であるため、黒を基準とした服装になっている点に注目だ

 

マガジン装填されたM27を持つ海兵隊員。装填されている弾が実弾なのか空砲なのかは不明だ

 

暴徒鎮圧用装備で身を固めた海兵隊員。膝や脛を守るのは、野球でキャッチャーが使うプロテクターだろうか

 

裁判所を警備する海兵隊員。デモに参加した市民が収監されていると言われており、施設内に乱入するデモ参加者がいないか警戒する

 

高速道路の出入口を封鎖するハイウェイ・パトロールの車両。これだけの車両が並んでいるのを見るのは珍しい


 一方、同じ警察組織である「保安官(通称:SHERIFF)」も存在する。この保安官という身分制度は日本には存在しないため、理解するまでに時間が掛かるであろう。実際、アメリカ人でも警察官と保安官の違いについて明確に説明できる者は多くない。
 一般的に、警察官は担当エリアの治安維持を主任務としており、地域のパトロールなどの防犯活動や、交通事故処理などを行うが、その範囲は限定されている。
 他方、保安官も同じ任務を持っているが、担当する地域は警察よりも広域となるのが一般的だ。


 両者は法執行機関として地域の治安を維持している仕事という意味では大きな違いはないが、決定的な違いは警察官と保安官の採用基準かもしれない。
 両者ともに警察学校において法執行や警察活動について仕事に必要な知識を学ぶのだが、警察官が広く公募されているのに対して、保安官の95%以上は郡内の住民による直接選挙で選出されている点が大きく異なるだろう。通常の任期は4年間だが、変更される場合もある。
 また、警察官の中には州の警察官、高速道路パトロール、一部には大学警察(セキュリティを含む)、病院警察なども含めて説明される場合もある。
 これらの警察組織の他にも州の専門犯罪捜査官、更には連邦捜査官(FBI)なども組織化されているため、アメリカの警察組織を細かく説明しようとしたら一冊の本が出来上がるだろう。

 

連邦政府の施設を警護する「連邦警護サービス(FPS)」の職員。爆発物を検知する警備犬や、特殊武器と言われるCBRNE対応もできる組織だ

 

分厚いアクリルのフェイスシールドを装着し、腰には防毒マスクも装備する。暴徒鎮圧が主な任務となるが、特段変わった装備は身に着けていない

 

非常に驚いたのが米国関税・国境警備局(CBP)の職員もマルチカムのコンバットシャツを着用し、ミリタリーチックな服装になっている点だ

 

黒を基調とした制服に身を包む米国関税・国境警備局(CBP)の職員。こちらもなかなか見かけない装備である

 

前面に立つのは若い海兵で、対暴徒用の装備を身に着けるが、後ろにいる士官クラスの海兵は通常装備に防護マスク程度と異なる装備になっている

 

実際に使用された催涙ガスが入っていたと思われる容器。こうしたモノがアチコチに落ちていた

 

連邦施設を警備する州兵。平穏な一日が過ぎようとしていたため、誰もが談笑していたのが印象的であった

 

前日のデモ活動の残置物の後方で警備する保安官。様々なスローガンが書かれたカードがフェンスに取り付けられていた

 

市役所の前で警備するLAPDの職員。ゴム弾発射器と拘束用のバンドを装備し、ガスマスクもぶらさげている

 

こちらは保安官の装備。ボディカメラ、テーザーガン、ガスマスク、拘束具などを装備している

 

ペイントボールガンを持つ女性保安官。左もものポケットにケースに入った紅白のペイントボールが見える


 そして、今回の騒ぎの中心となったのが「ICE」だ。正式には「米国移民関税執行局」と呼ばれ、国土安全保障省の傘下にある連邦法執行機関としての地位を持つ。
 主な任務は、国家の安全保障と公共の安全を脅かす不法移民から合衆国を守るための組織だ。
 アメリカ全土にオフィスが点在しており、あくまでも入国してきた不法移民に対応する。つまり、ICEは国境警備を行っておらず、その役割は「米国関税・国境警備局(CBP)」が担当となる。
 ICEが持つ主要な業務は、国土安全保障捜査(HSI)と執行・強制退去業務(ERO)である。HSIが国際的な犯罪の撲滅を主要業務にする一方、EROは不法移民の逮捕・拘留・国外追放、強制退去を担当する。つまり、今回の騒動の全面に出てきているのはEROの職員ということになる。


 こうした法執行機関が揃っても、デモ活動の規模が大きく、鎮圧できないとして、トランプ大統領は独自の権限でカリフォルニア州兵の派遣を決定した。
 州兵とは、アメリカが保有する軍事組織で「ナショナル・ガード」とも呼ばれている。
 平時には民間企業などで働く一方、必要とされれば州知事の指揮下で治安維持や災害派遣に招集される。また、有事となれば、大統領及び連邦政府の指揮下で活動するため、予備役の増強部隊としての側面も持つ。
 この州兵約2,100名は6月10日までにLAに前進しており、警察や保安官などと共に治安維持にあたった。

 

ICEの職員が宿泊していると噂されたヒルトンホテルに集まるプロテストたち。ここでの抗議活動は徐々にエスカレートしていくことになる

 

ヒルトンホテルに掲揚されていた星条旗を燃やすプロテスト。非常にLA味ある写真になった

 

1、2時間置きに走り去る消防車と救急車。かなりの頻度だと思い地元民に尋ねると「LAでは日常だぜ」との回答であった

 

交差点を封鎖する抗議活動をしていたところ、車両に轢き逃げされ倒れたプロテストの女性。すぐに救急車で病院へと運ばれていった

 

普段は装備しないであろう警棒を装備する海兵。全ての弾倉に25発程度装填されているのも確認できる

 

警備にあたる州兵。対暴徒用装備を身に着けているが、こちらもマガジンには25発程度が装填されているようだ

 

州兵の装備は基本的に現役陸軍と同じ装備となる。海兵隊とも異なる装備となるため、コスプレする上での参考になるだろう


 実は、少数ではあるものの、米国関税・国境警備局(CBP)の職員も現場に進出していた。
 そして最終的な手段として、現役の海兵隊員の派遣も決定された。派遣された部隊はカリフォルニア州にある29パームス基地に所属する海兵隊員で、手にはゴム弾などの低致死性武器ではなく、普段から使っているライフルが握られていた。
 幸いにも、海兵隊が実力を行使する場面はほぼなかった。というのも、正規軍はあくまでも地方警察の補助として活動するため、主な法の執行者は警察や保安官となるからだ。


 現地時間15日に到着した筆者だったが、ごく一部の抗議活動者を除くといつも通りのダウンタウンLAの姿がそこにはあった。現地で知り合った複数のメディア関係者に話を聞くと「お前はパーティに遅れた。」と次々と声を掛けられた。
 街が平穏を取り戻すのは良いことだが、決して安くはない航空券や滞在費を考えると、複雑な心境になったのも事実であった。

 

連邦施設の周辺をデモ行進するプロテスト。それぞれの主張が書かれたプラカードを持って通りを練り歩く

 

ゴム弾ではなく、スポンジ弾発射器を持つLAPDの職員。スポンジ弾は固めのスポンジが弾頭に取り付けられているため、当たると痛い

 

多くのデモ参加者がメキシコの国旗を持っていた。それだけメキシコからの移民が多いのだ

 

封鎖されたロス市役所。カリフォルニア州はメキシコの土地だった!という歴史上の事実も今回の騒動に大きく影響しているという

 

 

Text & Photos:武若雅哉

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年9月号に掲載されたものです。

 

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