ミリタリー

2024/10/25

スーパー・ガルーダ・シールド 2024 陸上自衛隊の精鋭も参加! インドネシアで実施された多国間軍事演習

 

「自由で開かれたインド太平洋」実現への一歩

 

 2024年8月26日から9月6日にかけ、インドネシアにおいて多国間軍事演習「スーパー・ガルーダ・シールド24(Super Garuda Shield 2024)」が開催された。主催国であるインドネシアおよびアメリカ、その他部隊を派遣した国やオブザーバー参加国を合わせると22カ国が顔を揃え、参加国数の面でも世界有数の軍事演習となっている。この演習を菊池雅之がレポートする。

 


 

89式5.56mm小銃を構え、東南アジアらしい植生の茂みを警戒しながら進む陸自第1空挺団第2普通科大隊の隊員たち。かつてパレンバン空挺作戦を勝利に導いた「空の神兵」こと挺進連隊の末裔である。そうした意味で、彼らも特別な思いで本訓練に参加したのではないだろうか

 

 もともとこの演習は、インドネシアとアメリカによる2カ国間による共同訓練「ガルーダ・シールド」として、2007年よりスタート。その後、毎年開催されていく。転機が訪れたのは2022年開催回から。この年の「ガルーダ・シールド22」から、他国からの部隊も受け入れるようになり、日本やオーストラリア、シンガポールなどが初参加した。こうした規模拡大を受け、翌年から「スーパー」の文字が加えれらた。


 演習の目的は「自由で開かれたインド太平洋」を実現するため、各国のパートナーシップを深めること。だからといって、演習の中身は対中想定となっているわけではなく、連日行なわれている訓練も戦術技量を高める機能別訓練や交流を目的としたようなライトな訓練が多い。だが、こうしてインド太平洋地域の国々が一緒になって訓練することで、この地域の安定を脅かしている中国のような権威主義国家にプレッシャーを与えていることは間違いないだろう。


 日本がはるばるインドネシアにまで足を延ばして参加しているその目的は、「共同による島しょ奪回作戦・戦闘を演練し、作戦遂行能力及び戦術技量の向上を図る」ことと説明されている。訓練課目には空挺降下や着上陸、総合戦闘射撃などの訓練が盛り込まれており、「自由で開かれたインド太平洋」の志を持つ国々と名を連ねておきたい、という思惑がある。主な参加国および参加部隊は以下の通り。


アメリカ

陸軍第25歩兵師団および第11空挺師団、海兵隊第1海兵遠征軍(1stMEF)


インドネシア

陸軍(TNI-AD)第2師団・海軍(TNI-AL)海兵隊第2海兵歩兵旅団等


オーストラリア:陸軍第1師団第1旅団


イギリス:陸軍グルカ旅団


シンガポール:陸軍緊急展開部隊(ADF)


日本:陸上自衛隊第1空挺団、水陸機動団


 これら6カ国の各部隊が中心となり、各種訓練が行なわれていった。

 

 

各国軍が緊密に連携 多国間着上陸訓練

 

AAV7(LVTP-7)にて上陸してきたインドネシア海兵隊員たち。同車は韓国海兵隊で使用されていたものであり、最終的に35輌が引き渡される計画である。米海兵隊や陸自のAAV7A1と比べ、EAAK(増加装甲)用のアタッチメントがないなど相違点が見られる

 

 「スーパー・ガルーダ・シールド24」の一つの山場となったのが、9月5日に東ジャワ州の海岸および演習場で行なわれた多国間着上陸訓練だ。


 洋上には揚陸艦などが並ぶ。今回主役となったのが、インドネシア海軍マッカサル級揚陸艦のネームシップ590「マッカサル」だ。そしてシンガポール海軍エンデュランス級揚陸艦の2番艦L208「レゾリューション」、米海軍サン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦の4番艦LPD-20「グリーンベイ」がスタンバイ。その奥では、インドネシア海軍ディポネゴロ級コルベットの4番艦368「カイシエポ」が遠巻きに上陸部隊を警護していた。

 

 

今回の着上陸訓練では、まさかのLCU(汎用揚陸艇)からの上陸を見せた米海兵隊1stMEF。上陸後、そのまま駆け足で前進するなど、ある意味、今の“米海兵隊らしくない”昔ながらの上陸作戦を展開

 

 まず、インドネシア空軍のF-16戦闘機が飛来。上空から上陸部隊を火力支援するCAS(Close Air Support:近接航空支援)を実施した。そして「マッカサル」からインドネシア海兵隊の歩兵戦闘車BMP-3が3輌展開してきた。まずは上陸地帯を火力制圧するためだ。


 そしてBMP-3に守られるように、インドネシア海軍の水陸両用車AAV7(LVTP-7)がやってきた。上陸直後に煙幕を展開してあたり一面が煙に包まれる中、インドネシア海兵隊が上陸。続いて揚陸艇LCUからインドネシア海兵隊および米海兵隊、シンガポール陸軍が上陸してきた。

 

 

洋上を浮航するインドネシア海兵隊のBMP-3F。ロシア製歩兵戦闘車BMP-3の海軍歩兵向けモデルで、トリムベーンの大型化、吸排気管の取り回し変更などがなされている。砲塔には100mm砲を搭載し、車内には最大9名の歩兵が搭乗可能。約70輌がインドネシア海兵隊に配備されている

 

 実はこの上陸に先んじて、まだ夜も明けきらぬ時間に陸自水陸機動団偵察部隊が特殊複合型ボートCRRCで潜入、情報収集を行なっている。上陸はこの情報をもとに実施され、無事に完了した。


 訓練はそのまま演習場へと移り、空砲射撃を伴う激しい攻防戦へ。地上部隊を空から支援するため、米海兵隊のAH-1Zヴァイパー攻撃ヘリやUH-1Yヴェノム輸送ヘリが低空で飛びぬけていく。対地攻撃を実施しているという想定なのだろう。徐々に敵の陣地まで進む上陸部隊への増援として、MV-22Bオスプレイで米海兵隊が送り込まれた。このようにして、敵陣地の制圧は成功した。

 

茂みの中を警戒しながら進むシンガポール陸軍兵士。手にしているのは、シンガポール国産のアサルトライフルSAR21(Singapore Assault Rifle-21st Century)。使用弾は5.56mm×45で、デザインにはステアーAUGの影響が見られる。キャリングハンドル一体の1.5倍スコープを装備。STK 40 GLもしくはM203グレネードランチャー付きやLMGタイプなど各種派生型がある

 

シンガポール陸軍がNSAW(New Section Automatic Weapon)として新たに採用したコルトIAR6940E-SG。作動方式はM4のDI(Direct Impingement)ではなく、米海兵隊のM27 IAR(HK416)と同様にガスピストンシステムを採用し、分隊支援火器の役割も備えている。光学サイトはTrijicon MRO PatrolドットサイトとMRO HD Magnifier 3Xの組み合わせ

 

上陸を果たしたインドネシア海兵隊。手前の隊員が手にしているのはインドネシア国産のアサルトライフルPindad SS2V4。使用弾は5.56mm×45で、FN FNCをライセンス生産したSS1の改良型である。バリエーションが豊富で、メーカーのPT Pindadは輸出にも意欲的だ

 

SS2V4を構え周囲を警戒するインドネシア海兵隊員。フェイスペイントを施し、独特なカラーリングの迷彩服に黒のヘルメット&ボディアーマーを着用している。SS2V4のマズル部にはブランクアダプターが装着されている

 

 

スマトラの地を再び踏みしめた“空の神兵”

 

89式小銃を構えて前進。今のところ「スーパー・ガルーダ・シールド24」では第1空挺団がゲリラ戦含む地上訓練の中核となっている。今後は他部隊が派遣される可能性もあるかもしれない

 

 日本からは、島嶼防衛のエースである第1空挺団と水陸機動団より、合わせて約280人が参加した。なお、第1空挺団からの参加部隊は、隊員の右肩の部隊章から第2普通科大隊が基幹となっていた模様。各種機能別訓練の一つとして、8月29日、スマトラ島バトラジャ演習場にて、空挺降下訓練が行なわれた。空挺隊員らは横田基地を拠点とする第374空輸航空団のC-130Jへと乗り込み、米軍やインドネシア軍とともに降下していった。そして翌日よりドディカプール地区にてジャングル環境下におけるさまざまな行動訓練を実施した。

 

熱帯の茂みを進む陸自空挺隊員たち。別日には空挺降下訓練も行なわれた


 第1空挺団は“空の神兵”と謳われた帝国陸軍の落下傘部隊である「挺進連隊」の伝統を色濃く残している。同部隊は当時オランダ領だったスマトラ島パレンバンへの空挺作戦を見事成功させ、日本軍側が大勝したこともあり、後々まで語られることになる。そのような部隊の末裔たる第1空挺団にとって、インドネシアで行なわれる訓練は特別な意味を持つように思えた。

 

周辺警戒する空挺隊員たち。写真手前の隊員は84mm無反動砲M2を構え、その脇で装填手が射手の体をしっかりと支えている

 

 

新進気鋭の特科部隊が展開

 

2024年3月に編成完結したばかりの水陸機動団特科大隊第3射撃中隊。真新しい中隊旗を掲げての記念撮影。すでに国内外で演習に明け暮れており、非常に忙しい

 

 水陸機動団からは特科大隊が参加した。昨年は水陸機動連隊が着上陸訓練にも本格的に参加したことを思うと、正面に出てくる派手さは失われてしまった。しかし、今回は第3水陸機動連隊の新編に伴い特科大隊に新編(2024年3月)されたばかりの第3射撃中隊が参加し、各国歩兵部隊の前進を後方から火力支援するという重要な役割を担った。同中隊の人員は特科隊員で構成されるが、火砲だけでなくMLRS部隊から集まった隊員も含まれるなど非常にバラエティに富んでおり、中隊長以下士気も高く、陸自の中でも最も脂ののった部隊と言えるだろう。

 

高機動車より下車する陸自水陸機動団特科大隊の隊員たち。120mm迫撃砲RTは高機動車で牽引するため砲架に車輪を備えているのが特徴。この機動力の高さも武器となる

 

120mm迫撃砲RTを展開中の隊員たち。普通科部隊における最大火砲であった120mm迫撃砲は、特科部隊における最小火砲でもある

 

 

火力集中で敵を制圧 実弾射撃訓練CALFEX

 

 クライマックスとなったのは、9月6日に行なわれた多国間による諸兵科連合実弾射撃訓練「CALFEX」だ。敵を制圧するまでの一連の状況に沿って、各部隊が実弾射撃をしていく訓練だ。

 

 

米海兵隊のHIMARS(High Mobility Artillery Rocket System)による大迫力の射撃。煙と炎に包まれ、車体は一切見えなくなる。ウクライナに供与され、圧倒的火力で反転攻勢に成功したことで、世界でも有名な兵器となった。ランチャーにはM26ロケット弾を最大6発装填可能


 口火を切ったのは、米海兵隊のHIMARSだった。VIP向けに丁寧に解説されていたことから、このCALFEXにおける重要装備であることがうかがい知れた。発射直後、車体はロケット弾の炎と煙で完全に覆われ、フルロードとなる6発全弾を発射した。

 

インドネシア陸軍に配備されている多連装ロケットシステムASTROSⅡによる連続射撃。ブラジルで開発され、2012年からインドネシアも輸入を開始しており、2020年までに63輌を調達した。キャニスターの交換により各種ロケット弾を運用可能


 引き続き、インドネシア海兵隊の多連装ロケットシステムRM-70、インドネシア陸軍の多連装ロケットシステムASTROSⅡが、それぞれ連続射撃を行なった。

 

インドネシア海兵隊に配備されている多連装ロケットシステムRM-70の連続射撃。旧チェコスロバキアで開発され、122mmもしくは227mmロケット弾を運用できる。2003年より配備を開始。現在約30輌を配備


 こうして敵の動きを封じた後、各国の歩兵部隊が車輌で前進してきた。その中にいた陸自の高機動車には、水陸機動団の特科が乗車。開けた場所に停車すると、牽引してきた120mm迫撃砲RTを展開し、射撃を実施した。また、陣地は見えなかったがインドネシア陸軍やイギリス陸軍等の砲兵による射撃も併せて行なわれた。

 

水陸機動団特科大隊の120mm迫撃砲RTによる射撃。後方より、敵陣地へ向けて次々と砲弾を撃ち込んでいった


 そしていよいよ歩兵部隊が敵の目前まで迫り、小銃や機関銃、携行式の各種火器を射撃していく。増援として、米陸軍のCH-47をはじめ、インドネシア陸・海兵隊のMi-17やH225Mといったヘリが部隊を空輸してくる。CH-47には陸自第1空挺団も搭乗していた。

 

インドネシア空軍のH225Mによるヘリボン作戦を展開。この時は空軍救難部隊によるCSAR(戦闘捜索救難)が行なわれた


 こうして最後は各国の火力を集中し、見事敵を制圧したのである。「スーパー・ガルーダ・シールド」はまだまだ歴史の浅い多国間軍事演習ではあるが、いずれはアジア最大の軍事演習となることを予感させる。事実、来年以降は、韓国やインドも訓練実施部隊を派遣する可能性を示している。

 

インドネシア陸軍が運用するロシア製輸送ヘリMi-17。もともとは12機導入していたが、事故による減勢で現在は9機のみ。7.62mm機関銃をドアガンとして装着するほか、スタブウィングにロケットポッドやガンポッドなどを装着してガンシップとしても使われる


 この演習に参加した国々こそが「自由で開かれたインド太平洋」を具現化していくことになるだろう。東南アジア地域における新たな「安全保障協同体」が完成しつつある。

 

 

Text & Photos : 菊池雅之

 

この記事は月刊アームズマガジン2024年12月号に掲載されたものです。

 

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