2025/06/03
Cobra Gold 2025 ~多国間軍事演習コブラゴールド2025~
東南アジア最大規模の多国間軍事演習「コブラゴールド」

東南アジア最大規模の多国間軍事演習「コブラゴールド」が開催された。東南アジア地域のみならず、インド太平洋地域の安全保障に欠かせない毎年恒例の訓練となっている。今年も多国間が協力して、数々の訓練を実施。ここでは実弾射撃訓練CALFEXを中心にお伝えしていこう!
毎年恒例の巨大軍事演習
2025年2月25日から3月7日までの間、タイ王国において多国間軍事演習「コブラゴールド2025」が開催された。英語の頭文字を取り“CG25”と略して呼ぶ。
東南アジア最大級の軍事演習であり、今回で44回目を数えるほどの歴史も持ち合わせている。ルーツを辿ると、1982年にアメリカとタイによる2か国間軍事演習として始まった。そこから年々規模を拡大し、東南アジア諸国を中心に徐々に参加国が増えていき、現在の多国間軍事演習となった。
CG25については、主催国であるタイ、そしてアメリカの他に、インドネシア、マレーシア、韓国、シンガポール、オーストラリア、中国、インド、日本など、30ヶ国(オブザーバー参加国も含め)、約8500名が参加した。
なお、米軍については、陸海空海兵隊がすべて参加しており、参加人員数も約3200名とかなり多い。この数字から、タイで開催されてはいるが、アメリカが中心となり、各国をまとめていることが読み取れる。
日本からは約230名が参加。陸上総隊から中央即応連隊、航空総隊から航空支援集団などが実動部隊として派遣され、参加国軍と共に、いくつかの訓練を実施した。
毎回、訓練の中心となるのは、バンコクからも近くリゾート地として有名なパタヤから車で1時間ほどの場所にあるタイ中部のウタパオ海軍基地やその周辺の駐屯地および演習場であるが、今回はタイ東北部にあるスラナリー駐屯地やナコーンラチャシーマ空軍基地等が使われた。





白熱の訓練スタート
2月25日、スラナリー駐屯地にて開会式が行われた。この駐屯地には、第2軍管区司令部が置かれているタイ軍にとって重要な場所。ここでは指揮所演習といった幕僚訓練が行われていった。
実は防衛省統合幕僚監部のプレスリリースには、訓練開始日が2月5日と書かれていた。これは間違いではなく、ENCAPを実施するため、施設科部隊等が早めに現地入りしているからだ。このENCAPとは、Engineering Civic Action Programの略で、日本語では「工兵による民生支援プログラム」と呼ぶ。具体的には、各国の工兵(施設)部隊が、学校や公共施設などを建設する活動のことで、工兵からすれば、実際に建物を一棟まるごと建設するというかなり実戦的な訓練となる。一方で、作ってもらった側からすると、新しい建物が手に入り、実際に使うことができる。まさにWin-Winな活動なのである。CG期間中に完成させねばならないので、逆算して建設開始日を決める。よって、毎回ENCAPの着工はCG開会式よりも早くなってしまう。
なお、最近はENCAPという呼び方はせず、Humanitarian Civic Assistanceを略したHCAと呼ぶようになった。医療支援なども行われるようになったからだ。日本語では「人道的民間支援」と表記している。




アメリカ、タイ、シンガポールなどは空軍機を派遣し、連日ナコーンラチャシーマ空軍基地を中心に訓練を行っていた。空対空の戦術的な訓練だけでなく、空対艦、空対地訓練も行われていった。基地上空では、米タイのF-16が一緒に離陸していく姿も見られた。相互運用性を高めるためには、平素から訓練を共にすることは非常に重要だ。
同基地では、2月28日に非戦闘員退避行動NEO訓練も実施された。これは紛争地から自国民を助け出し、母国へと連れて帰るというもの。日本では在外邦人保護措置RJNO訓練と呼ぶが、内容はNEOを変わらない。
最近のCGで重要な訓練課目となってきたのがHADR(人道支援・災害救助)だ。今回は2月27日に実施した。こちらは、日本で言うところの防災訓練である。チュチューンサオ県にある陸軍開発司令部災害救援訓練センターで行われた。日本はこちらにも参加している。
これ以外にも実に多くの訓練課目がある。その中には非公開のものもあった。その一つがサイバー対処訓練だ。内容に秘匿性が高い部分が含まれているのは間違いないが、公開したところで、絵面に派手さがない、というのも公開しない理由のようだ。そしてもう一つが、特殊戦訓練。こちらは各国の特殊部隊が参加し行うもので、日本からも特殊作戦群が参加している。
そしてCGのハイライトとなるのが、3月7日にプーラムアイ演習場で行われたCALFEX(実弾射撃訓練)だった。





大迫力のCALFEX
毎回最後は多国間実弾射撃訓練CALFEXで締める。同訓練が終わると、そのまま閉会式へと突入するのがいつもの流れだ。それほど重要な最後の訓練課目ではあるのだが、あいにく今回は天候に恵まれなかった。その影響を受けたのが、恒例の多国間空挺降下訓練だった。射撃訓練開始前に、日本を含む各国の空挺部隊や特殊部隊が一緒に空挺降下を行っている。見た目も派手なので、各国の連携をPRするにはもってこいなのだが、今回は悪天候のため中止となってしまった…。



CALFEXのシナリオは、単純明快、敵の陣地の制圧だ。これを米タイで実施していく。
まず口火を切ったのが、タイ陸軍砲兵部隊のM101A1だった。各国VIPならびに報道陣の目の前で、105mmりゅう弾砲を次々と射撃していき、敵の陣地と想定したエリアに砲弾の雨を降らせた。
その攻撃が終わると、2機のUH-60が飛来し、タイ陸軍歩兵部隊を降ろしていった。同時に、米陸軍はストライカーで進出してきた。ここから地上部隊による攻撃となる。小銃からロケット弾、さらにはジャベリンのような携行型のミサイルまでを射撃をしていく。
その攻撃の途中、敵の反撃により、タイ陸軍兵士に負傷者が出た。これを後送すべく、赤十字マークを付けたUH-72がやってきた。このヘリは機体後部に扉があり、そこから担架ごと負傷者を収容し、離陸していった。
さらに地上部隊は敵へと肉薄。小銃射撃の音が間断なく聞こえてくる。こうして約30分に渡り、戦いが続き、敵をせん滅。状況終了となった。
CG25は予定されたすべての訓練を終えた。先の長い話ではあるが、すでに来年の話も聞こえており、タイにとって、このCGが非常に重要であることを伺い知ることができた。参加国も増え、ますます巨大化していくことだろう。



Text & Photos:菊池雅之
この記事は月刊アームズマガジン2025年7月号に掲載されたものです。
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