ミリタリー

2022/10/24

【陸上自衛隊】陸上自衛隊の最新鋭ヘリコプター「UH-2」


 陸上自衛隊のヘリコプター戦力において、アパッチやコブラといった戦闘/攻撃ヘリのような華々しさはないものの、大きな割合を占めるのが多用途/輸送ヘリコプターだ。当誌読者なら、普通科部隊が搭乗して迅速に展開するヘリボン(空中機動)作戦などを思い浮かべるところだろうが、輸送や連絡、観測、そして救難などさまざまな任務に用いられ、マルチに活躍する装備ともいえる。ここでは、先頃量産初号機が陸自に納入されたことでも注目される新鋭機UH-2を筆頭にUH-1J、UH-60JA、そしてCH-47J/JAといった陸自の多用途/輸送ヘリコプターにスポットを当て、その実力を見ていこう。

 

いよいよ配備開始となったUH-2

 

 令和4(2022)年6月30日、栃木県のSUBARU宇都宮製作所において、陸上自衛隊向けの新たな多用途ヘリコプター、UH-2の引渡式が行なわれ、7月13日には三重県の明野駐屯地にて、その量産初号機(45152号機)の訓練開始式が挙行された。
 訓練開始式では、量産機を受け入れた陸上自衛隊航空学校の整備部第4整備班長の高橋1尉がUH-2を紹介。その後、45152号機の機付長任命式が行なわれた。機付長とは、その機体の整備全般を任される責任者のことで、45152号機には航空学校整備部の宮内2曹が指名されている。
 任命式後は航空学校第2教育部長である土子1佐から航空学校長安井陸将補へ訓練開始報告が行なわれ、最後に安全祈願のダルマの目入れで式典を終えた。実は、本来の予定であればこの後にエンジンスタートから離陸までを見学できるはずであったが、残念ながら整備の都合でUH-2は地上に置かれたままであった。

 

UH-2量産初号機を前方から見る。4枚に増えたメインローターのおかげでUH-1Jよりも機内の振動は抑えられているとも言われている。キャビンは大きくなったように見えて、実はそこまで変わっていないことから、搭乗できる人数に変更はないそうだ。コクピットは4枚の大きな液晶モニターを中心にグラスコクピット化され、従来機に比べパイロットの負担を軽減

 

UH-2を後方から見る。UH-1Jまで単発だったエンジンが双発になったため、エンジン排気口も2つに分かれ、エンジンを覆うカバーも大きくなっている

 

UH-2とは

 

 訓練開始式の様子を語ったが、そもそもこのUH-2とはナニモノなのか。
 UH-2はアメリカのベル412EPIをベースにSUBARUが陸上自衛隊向けに開発したもので、一見すると既存のUH-1J多用途ヘリコプターと大きな変化がないように見えるが、実は多くの部分において新造機の香りが漂う機体なのだ。
 まずUH-1Jとの相違点を探していくと、それまで2枚ローターだったメインローターは4枚に増え、エンジンも1基(単発)から2基(双発)に変更。特に双発化は、洋上飛行時にエンジントラブルが起きた場合、緊急着水せずに帰投できる確率を向上させている点が、乗員にとって大きなメリットとなる。
 また、トータルでエンジン出力をアップさせたことによって、最高速度や後続距離も大幅にランクアップするなど、確実にUH-1Jよりも使い勝手はよくなっている。
 その一方で、機体の内側に目を向けてみても、キャビン内はUH-1Jと比較して大きな変化はないが、それまでアナログ計器で埋め尽くされていたコクピットには4枚の大きなモニターが並ぶなど、目に見える進化(グラスコクピット化)がある。ちなみに、このモニターには燃料計や油圧計などの飛行に必要な機体情報のほかに、地図情報や航路情報などを表示することができると考えられており、ボタンひとつで手動操縦と自動操縦の切り替えも可能にしている。 
 さらに、試作機では敵のミサイル追尾を回避するためのミサイル警報装置やチャフ・フレアディスペンサーが装備されていたことから、今後のマイナーチェンジ時には量産機にも追加装備されるかもしれない。

 

UH-2量産初号機。次に紹介するXUH-2の機首と比べ、センサーがないぶんスッキリして見える。なお、UH-2の愛称は「ハヤブサ」となったが、これは無線での呼び名に直結する。一方、陸自が持つ唯一の固定翼機LR-2の公募愛称も「ハヤブサ」であるため、両者が混同しないか少々心配ではある

 

UH-2量産型お披露目の際に格納庫内で展示されていた試験機、XUH-2(UH-X)の右側面。ミサイル警報装置やチャフ・フレアディスペンサーなど量産機にはないいくつかの装備が見られた

 

XUH-2の正面。機首左右およびテイルブーム後方左右にはミサイル警報装置のセンサーが装備されており、これが量産機との外観上の大きな違いである。この試験機が再び舞い上がるのかどうかは不明のままだ

 

左側面。テイルブームの付け根あたりにある箱状の装置がチャフ・フレアディスペンサーと思われる。ミサイル警報装置が敵対空ミサイルの接近を検知すると、ミサイルを攪乱するチャフ(対レーダー用に幻影を作り出す)やフレア(対赤外線誘導ミサイル用のおとり)を放出する

 

UH-2がもたらすメリット

 

 このUH-2の配備先部隊は現在UH-1Jが配備されている全国の方面航空隊や師・旅団飛行隊などで、約9年間をもって150機を調達する予定だ。では、このUH-2が配備されることで、部隊はどのような運用をするのだろうか。
 まず断っておきたいのが、UH-2の支援を受ける普通科連隊などからすれば、UH-1JからUH-2に換装されたからといって、やるべき事が大きく変わるワケではないということだ。
 UH-2はそれまですべて手動操縦であったUH-1Jと比較して、自動飛行が可能になった。水平飛行はもとより、ホバリングも自動化され、なおかつローターも4枚に増えたことから安定性がよくなり、機内の振動も抑えられる。つまり、UH-2からのドアガン射撃やリぺリング降下がしやすくなったといえよう。また、一部では狙撃銃を用いたドアガン射撃も検証されていたりするため、UH-2であればより正確な狙撃も可能になるだろう。といっても、そもそもヘリコプターからの狙撃はなかなか厳しいという意見が大勢を占めるが…。 
 UH-2への換装でもっとも恩恵を受けるのはパイロットと我々国民であろう。それまで2名のパイロットのうち1名が操縦に専念するなか、もう1名が周囲の監視を行なっていたが、操縦が自動化されたことによって2名のパイロットで周囲の監視を行なえるようになった。このメリットは、たとえば災害時の人命救助活動で最大限発揮されるだろう。
 UH-2はUH-1Jと同様にホイストを装備することができるため、孤立した集落や今まさに濁流に流されてしまいそうな被災者を吊り上げて救助することができるからだ。UH-2はホバリング性能がUH-60JAと同等になったと言われているため、ある程度の悪天候でも要救助者を助けに行くことができ、なおかつ機体の安定性が高いことから、パイロットたちも救助活動により集中できるものと思われる。

 

UH-2 SPEC

  • 乗員:2名
  • 収容人員:14名
  • 全長:17.13m(胴体:12.91m)
  • 全高:4.54m
  • メインローター直径:14.02m
  • 最大離陸重量:約5.5t
  • エンジン:PT6T-9ターボシャフト(双発)
  • 出力:2,243shp(※合計出力、P&W公表値)
  • 最大速度:約260km/h
  • 航続距離:約670km
  • 実用上昇限度:約4,800m

 

Text & Photos : 武若雅哉

 

この記事は月刊アームズマガジン2022年10月号 P.144~153をもとに再編集したものです。

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