2020/11/26
【陸上自衛隊】市街地の敵を撃破せよ! 白熱の戦闘訓練
陸上自衛隊 師団訓練検閲
対抗部隊と交戦! 市街地の敵を制圧せよ!
第1回に引き続き、第1師団による師団訓練検閲の模様をお伝えする。師団訓練検閲とは、実戦的なシナリオのなかで隷下部隊の能力を評価するもので、今回は第34普通科連隊(静岡県板妻駐屯地)を基幹とした「増強34普通科連隊」が検閲を受けた。前回は、行軍から敵部隊との接触までを掲載したが、今回いよいよ連隊は敵部隊への攻撃を開始、激しい市街地戦闘が展開された。
立て籠もる敵との市街地戦闘は、富士演習場内の市街地戦闘訓練場が舞台となった。はげしく煙幕が焚かれ、敵の射撃から味方部隊の移動を隠した
市街地に立て籠る敵を撃破せよ
この訓練は、第1師団による大きな戦闘行動の枠組みが想定されており、増強34普通科連隊はその枠組みのなかで与えられた任務を果たすことができるか――統裁官である第1師団長の検閲を受ける。
神奈川を横断し、御殿場地区でFEBA(敵の最前線)と接触した第1師団は、攻撃準備ののち、師団目標への攻撃を開始した(シナリオ上の想定)。これに対して敵の遊撃部隊を含む小部隊が市街地を拠点として保持し、戦力推進する師団主力を伏撃等により妨害、その遅滞を企図していた。増強34普通科連隊には師団主力の円滑な戦力推進を可能とするため、市街地に立て籠もる敵部隊の撃破が命じられた。
銀行を模した建物。内部も銀行のカウンターのように作られている。「乙女銀行」と名が付けられていた(「乙女」とは御殿場から箱根に抜ける乙女峠に由来すると思われる)。市街地戦闘訓練場は大通りを中心に複数のビルが作られている。それぞれが銀行や庁舎など実際の建造物に近い構造になっており、現実的な戦闘訓練を行なうことができる
建物のやや奥まった位置から狙撃するスナイパーチーム。スナイパーが窓際に立つことはない。この位置であれば、薄いカーテンの隠蔽効果もあり、外から彼らを発見することは難しい
2個中隊および橘戦闘隊を投入
富士演習場に設けられた市街地戦闘訓練場は、2本の大きな道路に沿って銀行などを想定したビルが並び、その奥に自治体庁舎をイメージした4階建てのひときわ大きなビル(「愛鷹庁舎」と名付けられている)が設置されている。今回、市街地戦闘はこの訓練場を使って行なわれた。
敵の遊撃部隊は道路沿いのビル、そして愛鷹庁舎に立て籠もる。増強34普通科連隊は普通科連隊に機甲や施設、特科を加えた諸職種連合部隊であり、この戦闘でも戦車や特科火力の活用による戦闘力の組織化が課題の1つとなっていた。普通科部隊としては2個中隊と、虎の子の「橘戦闘隊」が投入された。地上から2個中隊が攻撃、前進する一方で、暗視装置を備えた橘戦闘隊は地下道から目的の愛鷹庁舎に突入。これら部隊は連携して庁舎を制圧した。
愛鷹庁舎の内部は、中央に大きなホールがあり、その左右方向の廊下に面して部屋が並ぶ。いかにも自治体庁舎といった作りだ。隊員たちは1つ1つの部屋をクリアしながら進んでいく
目出し帽を被り、暗視装置をヘルメットにマウントした橘戦闘隊の隊員。民生品のチェストリグなど、こだわりを感じさせる装備が目立っている
■総合戦闘射撃
訓練検閲の最後は、富士演習場畑岡地区における総合戦闘射撃が実施された。畑岡地区とは、毎年「総合火力演習」が行われているエリアと言えば、月刊アームズマガジンの読者にもわかりやすいかもしれない。
さて、総合戦闘射撃とは、普通科部隊による敵陣地攻撃を軸として機甲、特科、対戦車ヘリなど、さまざまな部隊が1つの戦闘場面で同時に射撃を行なうもので、それぞれの射撃のタイミングや部隊の前進など、連携と指揮統制が重要となる。攻撃待機位置に控えた部隊は、砲迫による支援を受けて前進する。敵戦車や装甲車が出現するが、機甲部隊や対戦車誘導弾部隊が撃破し、前進を支援する。第34普通科連隊からは第3中隊の2個小隊が参加した。
砲迫による攻撃前進支援射撃のもと、第1小隊が射撃位置まで前進する。BTR装甲車など次々に敵部隊が現出したが、01式軽対戦車誘導弾(01ATM)や110mm個人携帯対戦車弾(LAM)などの火器や、AH-1攻撃ヘリによりこれらを撃破。部隊は、さらに100m、50mと前進して敵の陣地に迫った
「着剣!」の指示のもと、銃剣を89式小銃先端のラグにセットした隊員たちが、突撃射撃を敢行。敵に肉薄していく!
PHOTO:笹川英夫
TEXT:綾部剛之
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