2020/10/26
陸上自衛隊 水陸機動団の訓練「水陸両用基本訓練課程」とは
陸上自衛隊 水陸機動団
新所属隊員を育成する「水陸両用基本訓練課程」
「水陸両用基本訓練課程」のワンシーン。海上から陸へと至る“両用作戦”の基礎を習得する。「CRRC」と呼ばれる特殊複合ボートの操作はその基本の一つだ
■水陸機動団の一員となる
水陸機動団は、島嶼防衛のため2018年3月に新設された、まだまだ新しい組織である。2020年10月現在、隷下に2個普通科連隊――第1および第2水陸機動連隊――を有しているが、さらに第3水陸機動連隊の編成が進んでおり、まさに発展段階にある部隊と言えるだろう。
この気鋭の組織には、全国の部隊からやる気に満ちた隊員たちが志願して転属してくるのだが、水陸機動団の普通科隊員および偵察隊(また特科や施設科のなかで普通科とともに行動する隊員)が通らねばならない課程がある。それが「水陸両用基本訓練課程」である。
海上に出る前、実際にボートを使って操作法や安全管理上の注意事項、事故発生時の合図などを入念にチェックする
■いまだ変わらぬボートの重要性
九州の南に浮かぶ種子島、ここで水陸両用基本訓練課程が実施された。取材したこのとき参加したのは新規転属隊員60名(彼らを学生と呼ぶ)。数週間におよぶ課程の総仕上げというべき、実際の海岸で高速ボートを使用した訓練だ。
用いるのはCRRC(Combat Rubber Raiding Craft、戦闘強襲偵察用舟艇)――「クリック」と呼ばれる特殊複合ボート。AAV7水陸両用車なども配備されている水陸機動団だが、上陸できる場所の制限が少なく隠密性が高いことなど、いまだにCRRCの活躍の場は多く、水陸機動団にとっては基本とも言える機材なのだそうだ。
ミリタリーカラーのウェットスーツを着て、いよいよ海上に乗り出す学生たち
■厳しさのなかに優しさを見せる教官たち
海上に出る前に安全管理や事故発生時の対応について入念な確認を受けたのち、学生たちはチームにわかれて海に乗り出した。この日は、海岸から沖合1kmにいる教官のボートまで向かい、そこで落水からの復帰を実施して再び海岸に戻り、さらにボートを担いで海岸を2km移動――そしてこれを2回繰り返す、という訓練だった。体力を激しく削られるもので、学生たちの表情にも苦しさがあらわれる。
苦しい訓練ではあるが、決して“ふるい落とし”が目的ではなく、体力の錬成やチームワークを養うことが目的なのだそうだ。教官たちもときに厳しく、ときに優しく、学生たちを指導する姿が印象的だった。この課程を修了したものが「水陸両用き章」を獲得し、晴れて水陸機動団の部隊へと配属される。
全員でCRRCを持ち上げて海岸を2km移動する。最後の100mは全力疾走だ。学生たちの表情が苦しさで歪む
1kmを往復して帰ってきたら、Tシャツと帽子をかぶり、2kmのランニング。これを2セット繰り返した。海上で沖に向かうボートと、海岸に戻るボートがすれ違う
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PHOTO:笹川英夫
TEXT:アームズマガジンウェブ編集部
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