2020/07/12
自衛隊の新拳銃「SFP9」とは
自衛隊 9mm拳銃 「SFP9」とは
陸上自衛隊が新たに採用した20式5.56mm小銃については、「月刊アームズマガジン8月号」で詳しくご紹介している。私が担当する「月刊ガンプロフェッショナルズ8月号」でも、この新小銃について私なりの視点で分析し、詳しい記事を掲載させていただいた。同じ銃でも、それをレポートするライターが異なれば、違った評価が成される。20式には、まだわからないことが多く、今回の記事は得られた情報から推測した部分が少なからずあったが、今後少しずついろいろなことが明らかになっていくだろう。
陸上自衛隊 新小銃「20式5.56mm小銃」の概要についてはこちら
アームズマガジンでは、20式小銃に集中して記事が作成されたが、ガンプロ8月号では同時に公開された9mm拳銃SFP9についてもレポートした。できれば20式、SFP9ともにもっと書きたいことはあったのだが、今回の新小銃、新拳銃の記事として確保できたのは8ページだけだった(当初は6ページの予定だったが、全然足らなかったので2ページ追加)ので、いろいろ割愛した部分がある。特にSFP9に関しては、大幅にカットしたので、この場で補足させていただこう。
新小銃と新拳銃。新小銃の詳細に関しては、「月刊アームズマガジン8月号」と「月刊ガンプロフェッショナルズ8月号」の誌面をご覧ください
昨年12月6日、新小銃、新拳銃が発表された時、防衛省から入手した資料には、簡単な説明と小さな写真しか載っていなかった。自衛隊はグロック17、ベレッタAPX、ヘッケラー&コッホ(H&K) SFP9の3機種から選定を進め、SFP9を選んだことはわかったが、あの時に知りたかったのは、「自衛隊はSFP9のどの仕様を採用したのか?」ということだった。SFP9にはかなり多くのバリエーションがあるからだ。
Photo:床井雅美/神保照史
H&K SFP9 のバリエーションのひとつ。SFP9 フルサイズのプッシュボタンタイプ マニュアルセーフティなし
SFP9はご存じの通り、2014年6月に突然インターネット上で発表、その翌月には早くも発売されたH&K VP9のヨーロッパ市場での製品名だ。より正確にいえば、H&K USAでは「VP」の名称を使用しているが、ドイツH&K本社は「SFP」を使用している。従って世界市場的には、SFP9が本来の名称ということもできるだろう。日本も今回、ドイツH&K本社との取引となるので、SFP9の名称を用いている。
SFP9およびVP9は、H&Kとしてかなり力を入れて開発した製品だ。発表前、多数の法執行機関関係者やインストラクターなど、ハンドガンに精通した多くのプロフェッショナルにコンタクトを取り、試作品をテストして貰ったらしい。そこから出た意見、要望を製品にフィードバックしている。この銃の試作品をテストした人物とH&Kとの間では、Nondisclosure Agreement(機密保持契約:NDA)が取り交わされたことで、H&Kの新製品の情報は発表までリークされることはなかった。H&Kとしては、ポリマーフレームのP30、HK45を展開していたが、世界的なトレンドとなっているストライカーファイア、ポリマーフレームピストルをラインナップに加え、グロック一強の市場に風穴を開けたかったのだろう。
Photo:Yasunari Akita
H&K VP9を射撃する筆者。非常に握りやすく、操作性も良い。トリガープル、リセットも軽く、スムーズに速射できる。唯一の欠点はスタンダードマガジンの容量が15発と少ないことだ。但し、2020年にこのマガジンも改良され、17発装填できるようになった。
そして満を持して発表したVP9、SFP9であったが、H&Kが期待した、「ビジネス的な大成功」とはなっていないように感じる。市場は依然としてグロックが圧倒的なシェアを獲得しているままだ。SFP9はドイツ州警察の一部(全16州中の6州)で採用されたが、それ以上、世界中の法執行機関や軍による大規模な採用話は聞こえてこない。むしろ、ベルリン警察でリコール騒ぎがあったなど、マイナスの情報が耳に入ったりする。現実にはSFP9は優れた品質を持った、王者グロックに負けない製品だ。とはいっても、市場には数多くのストライカーファイア、ポリマーフレームピストルが存在し、差別化を図ることは難しい。そんな中、2019年末に日本の自衛隊がSFP9を選定したことは、H&Kにとって大きなポイントだろう。これはSFP9が軍用として全面採用された初のケースなのだ(自衛隊は軍隊ではないが、それについてここでは考えない)。
自衛隊のSFP9がどのような仕様なのかを知りたかった私は、2020年1月のSHOT SHOW会場(レポート概要はこちらから)でH&K USAのブースに真っ先に行った。もしかしたら「自衛隊採用モデル」として展示されているかもしれないと思ったからだ。しかし、これは空振りに終わった。H&K USAのブースにいた説明員さんも、自衛隊に採用された事実は知っていたが、それはドイツ本社の取引であり、米国法人としては詳しい情報は知らないという話だった。
Photo:Yasunari Akita
SHOT SHOW 2020 H&Kブース ここに自衛隊仕様のSFP9が展示されているのではないかと思ったが、残念ながら影も形もなかった…
というわけで、この時点ではまだ自衛隊のSFP9の仕様はわからなかった。
そして5月18日(月)。防衛省でおこなわれた報道公開で、自衛隊に採用された「SFP9」の仕様がついにわかったのだ。
報道公開当日モデルとなった自衛官は、この日、初めて20式を手にしたと言っていた。おそらく9mm拳銃SFP9を手にしたのもこの日が最初だろう
注目の「SFP9」の仕様については、後編であるコチラをチェックして欲しい。
TEXT:Satoshi Matsuo
(月刊ガンプロフェッショナルズ副編集長)
陸上自衛隊 「20式5.56mm小銃」「9mm拳銃 SFP9」を特集している「月刊ガンプロフェッショナルズ8月号」は以下よりご購入いただけます。