2020/09/25
自衛隊ソマリア沖海賊対処行動の“いま”
自衛隊ソマリア沖海賊対処行動の“いま”
活動開始から10年以上、なおも続く戦い
第34次隊の護衛艦「さざなみ」と同艦の乗船隊員
■海賊から日本の船を守る
今月13日、護衛艦「ありあけ」が佐世保を出港し、アフリカに向かった。ソマリア沖、アデン湾における海賊対処行動の水上部隊 第37次隊として、である。
アデン湾における海賊対処行動は2009年より開始され、今年で11年目を迎えた。果てしない内戦によって困窮したソマリアの漁民が海賊行為を開始したことにはじまる。ソマリア沖、アデン湾は地中海とインド洋を繋ぐ、国際的にも重要な航路上にある。国際社会は、航路の安全確保のため海軍艦艇を派遣した。日本もまた、日本船籍の民間船が襲撃されるなど無視できぬ状況に、海上自衛隊の護衛艦を派遣した。
海上を監視し、不審な船舶を警戒する。海賊の背後にはテロリストが関与する場合もあり、国際社会にとって無視できない問題となっている
■乗船隊の活躍
海賊対処では、護衛艦に搭載された火器の使用は難しい。ミサイルはもちろん、主砲も海賊の小型船(スキフ)を相手にするには威力過大だ。海賊対処の主役は12.7mm機関砲M2であり、そして相手船舶に接近(場合によっては移譲)して直接対峙するボーディング・チーム「乗船隊」だ。
乗船隊は、いわゆる立入検査隊(立入検査隊の記事はこちら)とほぼ同じものだが、日本領海内で行なわれる“立入検査”と区別するため乗船隊と呼ばれている。
また、万が一の事態に備えて、海上自衛隊の特殊部隊SBUの1個チームも護衛艦に同乗している。
乗船隊によるVBSS(対象船舶への乗船・捜索)訓練。ソマリア派遣部隊は海上自衛隊では珍しく89式小銃を装備している
後部ヘリ甲板を利用した射撃訓練。海上自衛隊仕様の桜と錨が刻印された9mmけん銃だ
■アフリカに築かれた地上基地
海賊対処行動を担う「派遣海賊対処行動部隊」は3つの部隊で構成されている。護衛艦による「派遣海賊対処行動水上部隊」、P-3C哨戒機と整備補給要員による「派遣海賊対処行動航空隊」、そして地上拠点を運営する「派遣海賊対処行動支援隊」である。
日本はアデン湾での活動が長期化するなかで、隣国ジブチに地上拠点を設置した。ジブチ国際空港に隣接し、主にP-3C哨戒機を運用するために使われている。遠くアフリカの地に日本が作戦拠点を築くのは、日本軍の時代までさかのぼっても前例がない。その意味で、歴史的な拠点と言えるかもしれない。
拠点を管理運営する「派遣海賊対処行動支援隊(略称、派行支)」は、陸海の隊員で構成される。陸自の隊員による「警衛隊」は拠点やP-3Cの警備を担当している。日本では見ることのない砂漠迷彩の戦闘服を着用しているのが特徴だ。
ときとして50℃を超える日もあるアフリカの地で、いまも自衛隊は航路の安全を守るべく、国際社会とともに活動しているのだ。
拠点を警備する警衛隊。陸自隊員で構成され、基地や機体の警備を行なう。日本では見られない砂漠迷彩の戦闘服だ
『海上自衛隊 BATTLE RECORDS』
本記事で一部紹介した海上自衛隊の活動が一冊となり、9月29日(火)に発売される。ミリタリーフォトグラファー、菊池雅之氏による膨大な海上自衛隊取材の記録が一冊の本になった。近年の国際派遣や共同訓練などを中心に、戦後から現代までの歴史や、将来に向けた新型艦計画まで、読み応え充分な一冊となっている。ぜひ、お手に取ってご覧いただければ幸いだ。
PHOTO:菊池雅之
TEXT:アームズマガジンウェブ編集部
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