2020/07/12
自衛隊の新拳銃「SFP9」の仕様について
「月刊アームズマガジン8月号」「月刊ガンプロフェッショナルズ8月号」の両誌で掲載している自衛隊の新小銃と新拳銃。「Arms MAGAZINE WEB」では、新拳銃である「SFP9」について、掲載できなかった詳しい話などを紹介した。
前回は「SFP9」という銃について紹介したが、今回は実際に自衛隊に採用された仕様について見ていく。
自衛隊に採用された仕様について触れる前に、そもそもSFP9にはどのような仕様があるのかをまず解説しておこう。
まずトリガープルで2種類、Technical SpecificationsのTRトリガーと、Special ForcesのSFトリガーがある。TRトリガーは30-35N、SFトリガーは20-25Nだ。Nはニュートンで1N=0.10197㎏だ。従ってSFトリガーの場合、約2㎏から2.5㎏だと考えて良いだろう。
マガジンリリースはパドルタイプとプッシュボタンタイプがある。当初はパドルタイプだけだったが、その後、プッシュボタンタイプが加わった。
そしてマニュアルセーフティなしとアンビのマニュアルセーフティありが選べる。このマニュアルセーフティの位置は1911とほぼ同じだ。但し、非常に小さい。
これらはすべての組み合わせが可能だ。さらにサプレッサー対応のスレデッド(ネジ付き)バレルを持つSD仕様、スライド後方にミニダットサイト搭載可能なOR(Optical Ready)、OTB(Over The Beach)ケイパビリティのM(Maritime)がある。その他、ロングスライドのLとサブコンパクトのSKもあるが、LとSKの可能性はないだろう。
そして防衛省の会議室に展示されたSFP9のスライドに、錨とトライデント(海の神ポセイドンの武器)を組み合わせたマークを発見、さらにスライドの刻印「SFP 9 M」を見て、自衛隊が選んだモデルがMaritimeであることが判った。Maritimeはドイツ語で「マリティマ」と発音する。
自衛隊が採用した9mm拳銃SFP9の仕様は、Maritime(マリティマ)で、マニュアルセイフティなしのパドルタイプマガジンリリースを装備したモデルだった。マリティマ仕様はSFP9 Mと呼ばれる
SFP9 Mのスライド左側面にある、錨とトライデントを組み合わせたマーク。グリップパネルは右側面、左側面、バックストラップ部の3カ所が交換可能で、それぞれS・M・Lの3つがある。これにより、グリップは27通りのサイズ変更が可能だ。これは選択肢が多くて良いのだが、どの組み合わせが自分の手にフィットするのか、かなり迷うはずだ
OTB性能、すなわち海水を含む耐水性能を重視したモデルだ。これは単に腐食対策だけでなく、水中、および水中から銃を引き上げた直後の撃発性能を改善したものとなっている。実際のところ、ストライカーファイアピストルはこの部分が弱い。グロックにはその対策を施した特殊なストライカーが用意されているし、現在人気急上昇中のSIG SAUER P320もこの部分は少し弱い。
「月刊ガンプロフェッショナルズ2019年1月号」ではP320を水中に沈めてテストを実施している。結果は、いったん水没させたP320を水中から拾い上げて直ちに撃とうとすると、内部に入り込んだ水が抵抗になり、ほとんど撃てなかった。しかし、銃を軽く振って内部の水を切ってからなら撃てた。一方、水中での射撃は、若干不発があったものの、概ね撃てたという結果がでている。これはスライドブリーチ部のストライカーが収まるスペースに水滴が入っているとストライカーの動きを阻害してしまうのが原因だ。ハンマー撃発方式の場合、質量の大きなハンマーが動き、ファイアリングピンをわずかに動かせば撃発するのに対し、ストライカー方式は質量の小さなストライカーが大きく前進することで撃発を起こすことが影響している。
Maritimeは内部に残った水滴がストライカーの動きを阻害しないような対策が取られていると思われる。またスライドやバレルなど金属パーツは海水等腐食しないようなコーティングが施されている。
スライドストップレバー、パドルタイプのマガジンリリースレバーはアンビデクストラウスだ。SFP9 Mにはオプティカルレディ仕様は用意されていない
自衛隊はSFP9 Mを選択するとともに、マガジンリリースレバーはパドルタイプ、マニュアルセーフティなし、スタンダードタイプチャージングサポート、3ドットサイト仕様としている。
TRトリガーを選択したのか、SFトリガーなのかについては結局わからなかった。報道公開の会場で質問してみたが、担当官もそこまでは把握しておらず、回答は得られなかったからだ。しかし安全対策上、TRトリガーを選択したのだと推測する。
スライド後方のチャージングサポート(スライドを引きやすいようにする左右の出っ張り)は、スタンダードタイプが装備されている。チャージングサポートには、スタンダード、ナロー、なしの3つが選べる。この写真ではわからないが、サイトは3ドット ルミネッセンスポインツタイプだ
防衛省の今回の新小銃、新拳銃の選定は、周辺国の海洋進出等によって引き起こされる可能性のある島嶼防衛を強く意識したものであり、SFP9Mの選定は理にかなうものだ。
防衛省は報道公開当日、「9mm拳銃SFP9は片手でマガジンを抜くことができる」と解説していた。これまでの9mm拳銃(P220)は、グリップボトムにマガジンキャッチがあったので、それと比べて進化しているということなのだろうが、片手のマガジンリリース操作は現代ではごく当たり前の機能となっている。プッシュボタンではなく、パドルタイプを選んだことは良いと思うが、このデザインはアメリカでは不評で、H&Kは後からプッシュボタンタイプを追加している。パドルタイプは、トリガーフィンガーで操作するため、マガジンリリース操作をしようとして間違ってトリガーに触れてしまう可能性がある、というのが、パドルタイプに否定的な意見がある理由らしい。この意見を受けて、最近はワルサーもパドルタイプをやめてプッシュボタン装備のM2仕様を追加、こちらを主流としている。この日、モデルとなった自衛官もトリガーフィンガーで右側面のパドルを操作していた
正確な情報かどうかは不明だが、自衛隊のSFP9は比較的短期間で必要数量をすべて購入、既存の9mm拳銃(P220)と完全に入れ替えるという噂だ。20式は国産小銃であり、豊和工業の銃器生産ラインと生産技術力を維持していく上で、長期的な納入プランが必要となる(この件についてもガンプロ8月号で書いた)が、新しい9mm拳銃SFP9は、国産化せずにすべて輸入で対応する。従って国内の製造ラインを維持する必要はない。また20年後、30年後もH&KがSFP9を製造供給するという保証はない。装備を統一する上では、数年間で必要数量をすべて調達してしまわないと、生産終了となってしまう可能性がある。
ちなみにH&Kは2020年1月、VP9およびSFP9のマガジンを改良、長さを変えることなく、装弾数を15発から17発に変更した。市場のコンペティターの多くがフルサイズでは17連マガジンを採用しており、この部分ではH&Kは劣っていたわけだ。しかし、これによって互角の性能を手に入れたのだが、自衛隊のSFP9は現時点では15連マガジンのままらしい。実際に配備されるときは、新しい17連マガジンになるのだろうか。
報道公開当日の様子。緊急事態宣言下であったため、三密を避ける目的で報道陣36社を6グループに分け、1グループ30分での質疑応答と撮影が行われた。会場は市ヶ谷の防衛省A棟の会議室で、私は最終グループのひとりとして参加した。広い会議室に報道陣7名、説明担当者2名、モデルの自衛官1名が入り、間隔を空けて座っている。ドアは開放。部屋の奥に新旧の小銃、新旧の拳銃が置かれている。私はビジネススーツを着て参加したが、他社の皆さんはラフな格好が多かった。そういうモノなのね…。防衛省に行ったのは、今回が初めてだ
自衛隊の20式5.56mm小銃と9mm拳銃SFP9については今後、さまざまなことが明らかになっていくだろう。何か新しいことが判り次第、「月刊アームズマガジン」及び「月刊ガンプロフェッショナルズ」でご報告をおこなっていくので、ぜひチェックしてほしい。
TEXT:Satoshi Matsuo
(月刊ガンプロフェッショナルズ副編集長)
陸上自衛隊 「20式5.56mm小銃」「9mm拳銃 SFP9」を特集している「月刊ガンプロフェッショナルズ8月号」は以下よりご購入いただけます。