ミリタリー

2020/11/25

【陸上自衛隊】試される部隊の戦闘力!「師団訓練検閲」とは?

 

陸上自衛隊 師団訓練検閲
部隊の戦闘力が試される大規模演習

 

【陸上自衛隊】試される部隊の戦闘力!「師団訓練検閲」とは?

師団訓練検閲の訓練開始式にて、隊員たちに訓示する第34普通科連隊長、山之内竜二1佐(当時)。今回の訓練は第34普通科連隊が主役である

 

師団訓練検閲とは
試される指揮統制・隊員の練度

 

 2018年12月、首都圏防衛を担う陸上自衛隊第1師団に属する第34普通科連隊(静岡県板妻駐屯地)は、第1高射大隊、第1通信大隊とともに師団訓練検閲を受けた。

 師団訓練検閲とは「師団の攻撃行動において各部隊の平素の錬成の成果を評価するとともに、その進歩向上を促す」ものとされ、師団が隷下部隊の戦闘組織としての力量を測るべく、実戦的なシナリオのなかで部隊の能力が試される。

 その期間はおおよそ2週間弱。第1師団による大きな戦闘行動の枠組みのなかで、検閲を受ける部隊(「受閲部隊」と呼ばれる)は与えられた任務の完遂を目指す。作戦準備に始まり、出動整備、行進、集結、警戒部隊の駆逐から最後には師団目標の攻撃・戦果拡張――という一連の戦術行動が実施され、受閲部隊は「有機的な指揮幕僚活動(適切な指揮を執ること)」、「部隊の基本的行動および隊員の基礎動作(指揮下の部隊・隊員が任務を正しく遂行すること)」を検閲される。

 2018年12月4日、訓練検閲に参加する第34普通科連隊の隊員たちが、板妻駐屯地の運動場に整列した。日露戦争の軍神、橘周太中佐(※)とゆかりの深い同連隊は「橘」を舞台の象徴として以前より用いているが、今回の訓練検閲においても作戦名にその一字を加え、「橘の昇竜(英語名:Rising Dragon)」とした。連隊は増強部隊として機甲(戦車)、特科、施設を加え、諸職種連合部隊「増強34普通科連隊」として編成された。総数およそ1000名が参加する大規模な戦闘訓練だ。

 

※:橘中佐は日本陸軍歩兵34連隊第1大隊長として日露戦争に従軍。遼陽の会戦で戦死を遂げ、以後「軍神」として祀られた。以後、同連隊は「橘連隊」の名で呼ばれるようになり、その伝統は戦後の陸上自衛隊第34普通科連隊にも引き継がれている。

 

【陸上自衛隊】試される部隊の戦闘力!「師団訓練検閲」とは?

第34普通科連隊では、連隊内の各中隊からレンジャー資格者だけを選抜した特別部隊「橘戦闘隊」を編成した。1個小隊規模であり、潜入や偵察、そして遊撃など高い能力が求められる任務に用いられた

 

【陸上自衛隊】試される部隊の戦闘力!「師団訓練検閲」とは?

第1高射特科大隊の訓練開始式。93式近距離地対空誘導弾(近SAM)や81式短距離地対空誘導弾(短SAM)を装備し、師団の防空を担う。大隊長は一人一人の中隊長に果たすべき任務・役割について問い、部隊として意思統一を確認した

 

【陸上自衛隊】試される部隊の戦闘力!「師団訓練検閲」とは?

訓練開始式のあと、職種や技能ごとに分かれて機能別訓練が行なわれた。MINIMI機関銃や対戦車火器の操作、ガスマスクの装着、捕虜の拘束について、障害物の啓開など、改めて手順や方法について確認がなされた

 

■17時間かけて神奈川を横断する

 

 第1師団による首都圏防衛という大きなシナリオのなかで、増強34普通科連隊は任務を遂行することになる(つまり、実際に訓練を実施するのは増強34普通科連隊のみだが、シナリオのうえでは他の連隊を含め、第1師団全体が戦っている)。

 この訓練では、東京から神奈川を経て静岡県御殿場市にかけての地域での行動が想定されており、まず連隊は都内の駐屯地を出発地点として敵部隊を捕捉するため御殿場地区まで徒歩で移動・集結することになった。とはいえ、1000名近い受閲部隊が、実際に神奈川を横断するわけではなく、徒歩行進は富士演習場の外周を利用して行われた。距離にして39.1km、昼13時に出発し、翌朝6時まで17時間の行程だ。

 

【陸上自衛隊】試される部隊の戦闘力!「師団訓練検閲」とは?

一晩かけて、約40kmを徒歩で移動する。ルート上には統制点P Pが設定されており、連隊本部は部隊の移動状況を把握する。徒歩行進は速すぎても、遅すぎてもいけない。定められた時間通りに移動することが重要なのだ

 

FEBAと接触

 

 御殿場地区まで前進した増強34普通科連隊を含む第1師団はFEBA(「主戦闘地域の前縁Forward Edge of the Battle Area」つまり、敵との最前線)に接触した。師団は攻撃準備に入り、34連隊もまた師団予備隊として攻撃に備える。あわせて連隊は情報小隊(いわゆる偵察部隊)をFEBAより先に送り込んで情報収集を行ったのだが、今回はこの過程で情報小隊が敵のパトロール隊と交戦、負傷者が発生したという想定でヘリによる緊急後送が訓練された。

 

【陸上自衛隊】試される部隊の戦闘力!「師団訓練検閲」とは?

敵(対抗部隊)はヘルメットに赤いラインが入っている。潜入した情報小隊を、敵のパトロール部隊が追った

 

【陸上自衛隊】試される部隊の戦闘力!「師団訓練検閲」とは?

パトロール部隊との交戦で、1名が負傷した。仲間が応急処置を施したが、根本的な外科治療が必要と判断されたため、ヘリによる緊急後送が要請された

 

 続きでは増強34普通科連隊による敵部隊への攻撃、激しい市街地戦闘の模様をお伝えする。緊迫感のある訓練をぜひご覧いただければ幸いだ。

 

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PHOTO:笹川英夫

TEXT:綾部剛之

 


 

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