ミリタリー

2020/11/18

【陸上自衛隊】精鋭スナイパーを生み出す集団教育

 

スナイパーを精鋭にする地道な訓練
~狙撃手集合教育~

 

前編はこちら

 

【陸上自衛隊】精鋭スナイパーを生み出す集団教育

大人の肩ほどの高さの草が生い茂る東富士演習場。全身に、そしてライフルにまで擬装を施した学生(教育を受ける隊員)は、この草むらに隠れてひそかに、そして静かに目標に接近する

 

擬装潜入訓練――ルートを選定し目標に接近する

 

 東富士演習場の広いエリアを利用して行われたのが、スナイパーに必須の擬装・潜入、いわゆるストーキング訓練である。これを擬装潜入訓練という。

 ルールは以下の通り――地図上の1km先に指定された目標に対して、それぞれの学生は制限時間を考慮しつつ潜入ルートを検討、擬装などの準備を整えたうえで全員同時に目標へ向けて移動を開始する。目標まで200mに接近したところで、学生は空砲を一発、射撃する(なお、自身と目標の正確な距離を測定することも訓練の一環である)。射距離200mはスナイパーとしてはかなり短いが、今回は潜入技術向上が目的の訓練であるため、短く設定されている。

 

【陸上自衛隊】精鋭スナイパーを生み出す集団教育

訓練開始前、教官から目標の位置などについて説明を受ける。与えられた情報をメモし、地図上から自分が進むルートを検討する。この訓練は個人プレーであり、自分以外に頼る者はいない

 

【陸上自衛隊】精鋭スナイパーを生み出す集団教育

目標となる人型標的の前は背の高い草地。この日は風が強く、小雨も降る悪天候だったが、目標位置で目を光られせている教官たちは不規則な草木の揺れも見逃さず、接近する学生たちを発見した

 

擬装をほどこす

 

 それぞれに擬装する学生たち。ギリースーツにはすでにジュート(麻糸)による簡単な擬装は取り付けられているが、そのうえから潜入地域の植生にあわせて、現地の草木を加えて擬装を完成させる。ナイフなどを使い下草を刈る学生、また木の小枝や葉を集める学生など、思い思いに集めギリースーツ、ブーニーハット、ライフルケース、そして銃と三脚を擬装していく。

 注意したいのは擬装が不自然になることだ。一度固定させた草木をナイフや手でほぐしたり、バラしたり、向きを変化させたり――擬装が規則的にならないように仕上げていく。

 

観察力も試される

 

 目標地点には教官たちが待機している。目標まで200mに接近した学生は、これに向けて空砲を1発、発砲する(目標までの正確な測距も訓練の課題の一つである)。銃声を聞いた教官は「フリーズ(停止)」をコールして、他の学生たちを一時停止させたのち、アルファベット1文字が記された30cm四方ほどのカードを掲げる。

 学生はアルファベットの文字を識別、さらに2発目を射撃したのち離脱する。射撃するだけではなく、発見されず脱出するまでが課題となっている。また、アルファベットは誤認しやすい文字(たとえばEとF、OとQなど)が選ばれており、観測が不十分だと間違えてしまうだろう。

 なお、この一連の行動中に教官が学生を発見したと判断した場合、教官は小旗を持った審判員を学生が潜むと判断した位置まで移動させ、これが正しければ(発見されていたら)学生は数10mほど下がって再度の潜入を行なうことになる。

 潜入技術、そして観察力が要求されるこの訓練は、スナイパーの偵察兵としての側面を強く感じさせるものと言えるだろう。

 

【陸上自衛隊】精鋭スナイパーを生み出す集団教育

入念にドーランを塗る学生。また彼らは現地の植生を利用して自分たちのギリースーツをデコレートしていく。そのため剪定鋏などは必携のアイテムなのだそうだ

 

世界とも肩を並べる自衛隊スナイパー

 

 自衛隊にM24SWSが導入されたのが2006年。現代的な偵察狙撃兵としての運用・編成もそれ以降となると思われる。となれば、日本はスナイパーにおいて後発国と言えるだろうが、このとき取材した訓練からは先進的な技術やノウハウに基づく育成が行なわれ、陸上自衛隊スナイパーが高いレベルにあることが推察できた。また特に教育の現場ということもあり、隊員一人一人の熱意の強さが印象的だった。

 陸上自衛隊はオーストラリアで実施される国際射撃競技会「AASAM(Australian Army Skill at Arms Meet)」で例年、好成績をおさめており、2018年には狙撃部門1位を獲得している。こうした成果こそ、まさに陸上自衛隊スナイパーの能力の高さを示すものと言えるだろう。

 

【陸上自衛隊】精鋭スナイパーを生み出す集団教育

夜間、近暗キンアン(近距離照準用暗視装置)と呼ばれているサーマルサイトを用いる陸上自衛隊スナイパー。これは監視と狙撃、両方に用いる。現代戦ではこうした暗視装置は必須の装備となっている。

 

TEXT:綾部剛之

PHOTO:笹川英夫

協力:陸上自衛隊第1師団広報班

 


 

『陸上自衛隊 BATTLE RECORDS』

 

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