2020/11/18
【陸上自衛隊】スナイパーの狙撃訓練とは
陸上自衛隊スナイパーはこうして生まれる
~狙撃手集合教育~
対人狙撃銃M24SWS(スナイパー・ウェポン・システム)。2006年に陸上自衛隊へ導入された。狙撃銃は銃単体だけでなく照準装置やバイポッド(二脚)など構成品をすべて含めた全体を“システム”と見做すため、この名称で呼ばれる
スナイパーの任務
1kmを超える超長距離、十字に刻まれたスコープのレチクルの中央に捉えた敵を、たった一発の銃弾で仕留める――映画や小説でおなじみの描写だろう。多くの人はスナイパーと聞いて、こうした“狙撃”任務を連想するだろうが、スナイパーの役割は狙撃に限らない。現代スナイパーの役割とは以下のようなものだ。
- 狙撃
- 偵察・監視
- 野砲や航空支援などの火力誘導
- 対狙撃戦
このなかでも最も重要な役割が「偵察・監視」である。スナイパーの潜入技術、観察力は偵察にも共通する能力であり、現代では狙撃兵=偵察兵と考えて良いだろう。アメリカ軍では、スナイパーを「偵察狙撃兵」と称している。今回の訓練でも、その端々に偵察に必要な能力を錬成する意図が垣間見えるだろう。
陸上自衛隊におけるスナイパー
現在、陸上自衛隊では各普通科中隊と、普通科連隊の本部管理中隊に狙撃班を置いている。1つの狙撃班はおおよそ6名程度と言われており、2名ずつ3つの組に分かれている。つまり狙撃手と観測手だ。映画や小説ではスナイパーが主人公となることが多いため、スナイパー本人が狙撃を主導しているように描写されるが、実際はスポッターのほうが階級上位者であり、“指揮官”である。そもそも狙撃班に属する隊員は全員がスナイパーであり、スポッターには経験豊富なスナイパーが任命される。
なお、普通科中隊所属のスナイパーは、主に組単位で小隊に分遣されて小隊とともに行動するのに対して、連隊本部管理中隊所属のスナイパーはより広い範囲――例えば敵地深く――に潜入して偵察や狙撃を行う。
土堤に伏せ、遠く数百メートル先の目標を狙う。全身ずぶ濡れだが、スコープ越しの目標に精神を集中する。射撃の反動でライフルに付着した水滴がしぶきをあげた
どしゃ降りのなかの基本射撃
陸上自衛隊の狙撃教育は2つ存在する。一つが富士学校で行われる狙撃課程であり、もう一つが師団や方面隊が実施する集合教育である。富士学校が常設の教育部隊であるのに対して、集合教育は師団や方面隊が持ち回りで実施する。今回取材したのは第1師団による狙撃集合教育であり、同師団隷下の第1・第32・第34普通科連隊より教官と助教が集められ、静岡県御殿場市の板妻駐屯地を中心とした地域で教育が行われた。
約1ヶ月におよぶ狙撃集合教育。我々が最初に訪れたのは「基本射撃」と呼ばれる訓練の日だった。この日、御殿場一帯は強い雨に見舞われたが、訓練は変わらず実施された。基本射撃の目的は、自らが使用する狙撃銃の射撃データの収集にある。銃弾は放物線を描いて飛翔する。遠くに行けば行くほど着弾は下にドロップし、その下降率は環境(気温、湿度、天候、射撃地点の高度など)による影響を受ける。スナイパーはさまざまな環境下で射撃を繰り返し、データを蓄積することで弾道に対する環境の影響を理解し、より正確な射撃が可能となるのだ。そういう意味では、雨もまた環境の一つであり、貴重なデータをとる機会と言えるだろう。
土提の上の射撃位置より、200mから100m間隔で800mまで標的が置かれている。スナイパーとスポッター、2名1組の学生(教育を受ける隊員)たちは全身をずぶ濡れにしつつ黙々と標的を撃ち続けた
射撃の結果を射撃手簿に一つ一つ記していく。気温や湿度、標高など環境条件によって弾道は異なってくる。こうしたデータ採集の積み重ねが精確な射撃を実現する
TEXT:綾部剛之
PHOTO:笹川英夫
協力:陸上自衛隊第1師団広報班
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