ミリタリー

2020/11/21

【陸上自衛隊】第1空挺団、アラスカの大地を駆ける

 

陸上自衛隊第1空挺団、アラスカの大地を踏む!

日米共同訓練アークティック・オーロラ

 

【陸上自衛隊】第1空挺団、アラスカの大地を駆ける

89式小銃の激しい発砲音が白樺の森にこだまする。日本から遠く離れたアラスカの大地で、陸上自衛隊の精鋭、第1空挺団がアメリカ軍空挺部隊とともに戦闘訓練を実施した

 

極北の共同訓練

 

 日本で唯一の空挺部隊(パラシュート降下部隊)である第1空挺団は例年6月ごろ、アラスカ州においてアメリカ陸軍との共同訓練「アークティック・オーロラ」に参加している。これは「空中機動作戦に必要な戦術・戦闘、そして日米の相互連携要領を実行動を通して演練し、能力の維持と工場を目的」とするもので、エレメンドルフ・リチャードソン統合基地と隣接の広大な訓練場を舞台に2016年から実施されている。

 アラスカというと、日本とは馴染みが薄いように感じられるが、この地には太平洋地域における即応戦力である陸軍第25歩兵師団のストライカー装甲車旅団(第1ストライカー旅団戦闘団)や、空挺部隊(第4空挺旅団戦闘団)が置かれている。彼らは、もし仮に日本有事となれば最初に来援する部隊となるだろう。それだけに、陸上自衛隊との共同訓練には重要な意味があると言えるだろう。また、「アークティック・オーロラ」で育まれたアメリカ軍空挺部隊との繋がりが、本書冒頭でレポートした「降下訓練始め」におけるアメリカ軍部隊の参加という目に見えるパートナーシップにも表れているのだ。

 私は2016年、2017年の2回にわたって同訓練を取材しているが、今回は2017年について、空挺団による戦闘射撃訓練を中心に紹介したいと思う。この年は第1空挺団から80名、アメリカ陸軍からは第4空挺旅団戦闘団隷下の第509落下傘歩兵連隊第3大隊(3/509大隊)より120名が参加した。

 

【陸上自衛隊】第1空挺団、アラスカの大地を駆ける

実弾を使用した戦闘訓練が開始される。隊員たちの表情に覇気がみなぎる。およそ10名の部隊は二手に分かれて相互に連携しつつ抵抗を排除していく

 

実弾による戦闘射撃訓練

 

 6月13日、訓練はいくつかの障害を経て陣地に籠る敵を撃破するというシナリオで、実弾を使用した戦闘訓練が実施された。演習場を訪れて、まず驚かされたのはその広さである。演習場のゲートはアンカレジ市内からさほど遠くない場所にあったのだが、そこから訓練場所までは車で30分以上を要した。私が現地に着くと、アメリカ軍の射場安全係レンジコントローラーの管理のもと、空挺団員たちが89式小銃の弾倉に実弾を込めていた。日本の演習場で必須のカートキャッチャーは無く、まさに実戦的といった様相だ。参加するのは約10名の隊員。増強分隊といったところだろう。10名をA・B、2つの班に分けて相互に連携しつつ、目標に向けて前進する。

 大きな障害となったのが敵の一部が隠れた建物だ。B班が攻撃を担当する。一方のA班はこれを援護し、かつ周囲を警戒できる位置を占める。A班の前進にあわせて、B班は絶え間ない弾幕により敵を拘束、A班による攻撃をバックアップした。

 

【陸上自衛隊】第1空挺団、アラスカの大地を駆ける

敵が抵抗拠点とした2階建ての建物。一隊が建物に攻撃をかけるため、もう一隊はこれを援護し、かつ増援を阻止できる位置を占めた。巧みな用兵が敵の抵抗を排除した

 

【陸上自衛隊】第1空挺団、アラスカの大地を駆ける

地面の起伏を利用して身を隠し援護射撃を行っていた一隊が、今度は立ち上がって前進する。二隊が互いに援護することで敵に反撃のチャンスを与えず、味方が行動する自由を得るのだ

 

障害を排除

 

 敵の陣地前には鉄条網による障害が設置されていた。ここでも分隊は攻撃と援護に分かれ、突破を試みる。援護下、身を低くして鉄条網に接近する2人の空挺団員。障害の排除が目的だ。鉄条網は敵の火線と組み合わされて設置される障害物であり、もっとも危険な瞬間と言えるだろう。ワイヤーカッターで鉄条網を切断し、続けて爆薬筒をセット。爆薬筒の爆破により、おおよそ1人が通行可能な道が啓開され、後続の隊員たちが前進する。分隊はさらに正面からの支援下で敵陣地の右側に回り込むようにして二方向から圧迫、これを攻略した。

 広大なアメリカの訓練場だからできる、実弾による緊迫感あふれる戦闘射撃訓練と言えるだろう。また、攻撃の合間には負傷者の発生と第一線救護も組み込まれ、実戦的な要素を高めていた。

 

【陸上自衛隊】第1空挺団、アラスカの大地を駆ける

最後の目的地前に築かれた鉄条網をワイヤーカッターで切断する。危険な瞬間だが、味方の援護のもと、無事に障害を突破した

 

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TEXT&PHOTO:笹川英夫

 


 

『陸上自衛隊 BATTLE RECORDS』

 

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