ミリタリー

2025/07/04

ポーランドの国防を支える軍事企業「GROM GROUP」part.2

 

GROM GROUP 共同代表 Wojciech Grabowski氏

インタビュー

 

 

 前回でもご紹介したGROM GROUPの共同代表Wojciech Grabowski (ヴォイチェフ・グラヴォースキー/通称名:ヴォイテク)氏は、ポーランド軍の最精鋭JW GROMにおいて創設準備期から特殊部隊士官として活躍。大統領警護隊にも在籍したという輝かしい経歴を持つ。取材期間中、チェルボニ・ボルの訓練施設では教育の責任者としての威厳を放つ一方で、時折周囲の人々(我々取材陣も含め)に対する細やかな心遣いを見せ、どこか校長先生を思わせる優しさや、懐の深い人物像を感じさせた。そんなヴォイテク氏に、インタビューの機会をいただくことができた。世界的規模で安全保障環境が激変する中、国防の一端を担うGROM GROUPの活動や価値観などについて、お話を伺っていく。

 

前回の記事はこちら


 

——今回、訓練を受講していた高校生の皆さんに対するGROM GROUPの教育と、その目的について教えてください。


Wojciech Grabowski(以下、ヴォイテク):GROM GROUPは若者への教育と育成を非常に重要な使命と捉えており、取材されたヴウォミン第1総合高校(I Liceum Ogólnokształcące im. 111 Eskadry Myśliwskiej w Wołominie)のような学校との協力を通じて、その使命を果たしています。同校は国内最多のOPW(Odziały Przygotowania Wojskowego:軍事準備部隊)クラスを持ち、国家レベルで見ても先進的な取り組みを行なっている教育機関です。

 ポーランドでは2008年に兵役義務(徴兵)制度が終了したことにより、有事の際に必要な予備兵力の継続的な確保が困難になりました。そのため国防省(Ministerstwo Obrony Narodowej:MON)は軍務への参加(志願)を促進すべく、さまざまな育成・教育プログラムを導入しています。その中心となるのが、先ほど説明した高等学校(技術学校および普通科高校)向けのOPW(軍事準備部隊、2020年導入)と、職業学校向けのBOW(Branżowe Oddziały Wojskowe:職業軍事部隊、2024年導入)」です。

 

OPW(軍事準備部隊)プログラムの一環としてGROM GROUPの訓練を受講すべく整列したヴウォミン第1総合高校の生徒たち。緊張と期待感がない交ぜになったような表情で巡閲に臨んでいた

 

 なかでもOPWについては、国防省と教育省の合意に基づき教育法を法的根拠として、国防大臣による2つの政令により学校への支援内容や訓練体系が定められています。その目的は

  • 生徒が基礎的な軍事知識・技能を習得すること
  • 高校卒業後、軍への入隊を促すこと
  • 軍事大学への進学を促進すること
  • 危機(テロや戦争など)に備えた意識と行動様式(「国家を守るのは軍だけでなく、国民全体である」という理念)を、若年層に浸透させること

などです。OPW制度に協力する学校に対しては

  • 生徒1人あたりの補助金を増額
  • 全国共通の法的枠組みによる運営の明確化
  • 制服や訓練用装備の購入に対し、国防省から最大約80%の助成金を支給
  • 実地訓練を担当する地元の後援(パトロネート)部隊の指定

など、政府の支援制度があります。また、OPWプログラムを修了した生徒には、その修了証(校長と後援部隊の指揮官が署名)により卒業後、予備役登録のために必要な30日間の軍事訓練が12日間に短縮されるほか、軍事大学への進学における加点といった恩恵があります。

 

 ヴウォミン第1総合高校は2020年にOPWへ参加し、その後も国防省に追加割り当てを要望し続け、2023年には国内最多となる8つのOPWクラス設置を認められました。同校では基本カリキュラムに加え、生徒の実践力・身体能力を伸ばすため射撃、パラシュート降下、ダイビング、サバイバル、偵察、隠密行動、護身術、制圧技術といった特別訓練も導入されており、現在、約600名の生徒がOPWプログラムを履修しています。これらは国防への取り組みの一環における成功例とみなされており、その背景には軍だけでなく当グループのような民間の国防系団体(ほかにFundacja Niezapomniani、LOK、Bractwo Strzeleckie SALWAなどがある)との密接な連携があります。

 生徒は卒業後、多くがAWL、WAT、LAW、ASzWojといった軍事大学(士官学校)に進学するなど、職業軍人への道を選択します。当グループはこうした制度の枠組みの中で、次世代の育成においても実践的かつ責任ある教育を提供し続けています。

 

インストラクター陣が訓練の準備を進める間、ヴォイテク氏は生徒たちと確認事項をチェックしつつコミュニケーションをとる


——教育プログラムの1つである射撃では、生徒のみなさんが銃器取り扱い(ガンコントロール)において一様に安全に配慮していたのが印象的でした。ポーランドでは子供の頃から銃器に親しむような文化があるのでしょうか。

 

ヴォイテク:ポーランドには、アメリカ合衆国のように広く銃器に親しむような文化はなく、銃器所持は法律によって厳しく規制されています。我が国において銃器所持許可を得るには学科および実技試験に合格するだけでなく、精神科医による診断、明確な所持目的(スポーツ、収集、狩猟、自衛など)があるかなど、厳重な審査が必要です。しかし、近年ではスポーツ射撃やエアソフト(エアガンを用いたサバイバルゲームなど)、国防志向の市民グループなどを通じて国民の銃器への関心は高まっており、特にロシア・ウクライナ戦争(2022年)開始以降(危機が身近になったということもあり)、より顕著になりました。

 

 そして、先ほどご説明したように軍事教育の促進などもあり、国民が射撃に関する教育に触れる機会は増えています。当グループの射撃訓練プログラムGST(GROM Shooting Training)は、元JW GROM(ポーランド特別軍の最精鋭対テロ特殊部隊)将校によって開発されました。GSTはハンドガン、ライフル、狙撃銃を含む特殊部隊の訓練要素に基づいて設計されており、安全性、規律、そして段階的な銃器取り扱いなどを重視しています。安全性に関しては

  • 常に実弾が装填されているものと意識して銃を扱う
  • トリガーから指を外しておく
  • 銃口の方向を常にコントロール(意識)する

といったことが徹底され、これら基本原則を守れない者は射撃訓練に参加させません。そこは一切容赦なしです。

 

 また、実弾を用いないドライファイア(空撃ち)の訓練を通じて筋肉の動き(銃の保持や構えの動作)の記憶を作り、トリガーワーク、操作手順(装填、排莢、セーフティ操作など)、マガジン交換や射撃姿勢の変換などのシミュレーションを行ないます。ドライファイアの訓練は、受講者が銃器を安全に扱える充分な準備が整ったとインストラクターが判断するまで続けられ、その後実弾射撃に進みます。GSTには複数のレベルがあり、そこに含まれる戦術要素は段階的にレベルアップしていきます。また、インストラクターは受講者のレベルや姿勢に応じて個別的に指導し、個人差に配慮しています。

 GSTは専門的で統制され、なおかつ責任感を備えた射手の育成を推進し、多種多様な銃器の操作技術習得や安全手順の遵守に加え、何よりも危険(リスク)認識および自己管理能力(自制心)を重視します。体験を通じた教育によって単に「撃つ」だけでなく銃器への責任感と謙虚さを養い、GSTの受講者全員が充分な知識を備えた射手となることを目指しています。

 


——ポーランド軍が新たに採用した小銃、GROTについては、どのようにお考えでしょうか。


ヴォイテク:まずお伝えしておきたいのは、当グループではハンドガン、ライフルを問わず様々なタイプの武器を用いた教育を行なっているということです。例えばSMGであればH&KのMP5やMP9といったメジャーなものからポーランド国産のPM-98、アサルトライフルなら伝統的なAKシリーズから現在ポーランド軍が正式採用している最新式のGROTも含まれます。

 そのうえで、もし「今後のポーランドの軍事技術の方向性を最も象徴する銃は」と問われたなら、間違いなく「GROT」とお答えします。GROTは21世紀の戦場に対応するために設計された、現代的なポーランド国産のアサルトライフルです。モジュール構造、優れた操作性、カスタマイズの容易さ、そして様々な戦術シナリオへの柔軟な適応力を備えたまさに「未来の銃」と言える存在です。

 

ポーランド軍の新小銃GROT

 

 特筆すべきは、GROTが実際の戦闘状況、特にウクライナでの実戦において使用され、その信頼性と機能性が高く評価されたという事実です。銃器ファンである日本の読者の皆さんも、海外レポート記事などからGROTの特徴をご存じの方もおられるかと思います。当グループが求めるのは「安全性と実用性」であり、「ストレス下での判断力」に重きを置いた実践的な射撃訓練を提供することです。銃はあくまでもツール(道具)に過ぎません。何より大切なのは、それを扱う人間が「責任を持って正しく使えるかどうか」という点なのです。

 


——取材期間中GROM GROUPでは高校生のほかに現役の軍・法執行機関関係者の訓練も同時に実施されていました。このようにレベルが大きく異なる訓練プログラムを、同時に複数実施できるのでしょうか?


ヴォイテク:当グループでは学生や研修生に加え、現役軍人、法執行機関職員、その他国家安全保障に携わる関係者など様々な習熟レベル、特性に応じてカリキュラムを柔軟に構築し、複数の訓練を同時並行で実施できる体制を整えています。

 先にお話ししたように当グループのインストラクター陣には我が国が誇る最精鋭特殊部隊JW GROMの元オペレーターが複数在籍しており、基礎から高度な応用までハイクオリティかつ最新の教育を提供できます。世界で最も過酷な環境で得られた実戦的な経験に基づく教育は、訓練生にとってかけがえのないものになるはずです。

 

 当グループはCzerwony Bór(チェルボニ・ボル:赤い森)に広大なGROM戦術訓練施設を擁し、加えてロジスティクス(兵站支援)体制も充実しており、複数の訓練が同時並行で行なわれる場合でも安全性や教育の質、効果に一切妥協しません。

 当グループが提供する専門的な訓練は射撃、戦術、戦闘、TCCC(Tactical Combat Casualty Care:戦場救護)、サバイバル、SERE(Survival, Evasion, Resistance, Escape:生存、回避、抵抗、脱走)、VIP警護、危機対応、非対称脅威への対応、ストレスやトラウマ(心的外傷)への対処に関する心理トレーニングに加え、重要インフラ防護といった高リスク地域で活動する民間組織向けの訓練など多岐に渡ります。

 座学から実任務を再現したものまで多種多様な教育を提供し、あらゆる状況下で任務遂行できる人材を、専門的かつ実践的に育成することが私たちの使命です。

 


——ポーランド軍の最精鋭特殊部隊JW GROMの過酷な入隊試験を再現する障害物レース「GROM CHALLENGE」について教えてください。

 

ヴォイテク:毎年開催されている「GROM CHALLENGE」はポーランド国内外から最も意志が強く、タフな参加者たちを惹きつけている特別なエクストリームイベントです。単なる障害物レースを超えた、肉体的・精神的限界に挑む競技であり、JW GROMで実際に行なわれている選抜試験を一般人向けに再構成しています。

 参加者は2人1組で行動し、数十kmにもおよぶ過酷なコースを進みます。その道中には数多くの障害物、戦術的な課題、体力テストが待ち構えており、極限状態での判断力、仲間との連携、強い精神力が求められます。走る、登る、匍匐に加え、重い物を運んだり暗闇で行動したりとタスクをこなしつつ、都度即座の判断が求められ、チームの能力が試されます。そこで問われるのは人間としての本質、すなわち精神力と人間性です。

 

 次回の第13回大会はこの2025年9月13日に開催されますが、今年はJW GROMの創設35周年という特別な意味を持つ年であり、祝賀イベントの一環にもなっています。世界的に高く評価されるこの特殊部隊の歴史と、現役隊員や当グループのインストラクターを含むOBの皆さんに敬意を表する機会でもあります。

 


——私たち日本人を含む外国人にも「GROM CHALLENGE」に参加するチャンスがあるのでしょうか。

 

ヴォイテク:実際に日本をはじめ、アメリカやヨーロッパ各国からも数多くの外国人が毎年参加しています。特別な資格は必要なく、「自分の限界に挑戦したい」という強い意志があれば誰でも参加可能です。まさに、特殊部隊の兵士たちが日々直面するようなリアルな状況を体験できる貴重な機会です。

 「GROM CHALLENGE」が「ポーランドで最も過酷な競技」と呼ばれるのには理由があります。単なる体力勝負では通用せず、全身全霊をかけたチャレンジが必要です。精神力、仲間との絆、そして「誰もが諦めるような場面でも前に進む覚悟」が試されるイベントなのです。

 


——ポーランドでは対GDP比で5%近い国防費の増額に加え、今後すべての成人男性に対する軍事訓練の義務化がなされるとのことですが、これにともないGROM GROUPの事業拡大の展望などがあれば、お教えください。

 

ヴォイテク:これらのことは、我が国が安全保障に真剣に取り組むという姿勢を強く示すものです。このような国家的動きの中で、当グループのような国防系団体にとっても、新たな展望が開かれつつあります。従来の正規戦のような軍事的脅威に加え、近年では非対称戦やテロリズム、ハイブリッド戦(公然と非公然、軍民が混在し様々な手段を組み合わせて戦う)など脅威、危機の多様化が社会全体で認識されつつあり、国防のために本格的な軍事訓練への需要が拡大しています。

 

 ご説明してきたように、当グループはこうした新たなニーズに対応するノウハウと体制を備えています。今後は軍や法執行機関の関係者だけでなく、「万一の危機に備えたい」「自分の家族や地域を守る力をつけたい」という意識を持たれているような一般の方々にも、より幅広い訓練機会を提供していく方針です。

 これには戦術訓練や戦場救護、サバイバルスキル、危機対応、そして民間防衛を目的としたプログラムも含まれます。我が国では防衛力強化に伴い、政府機関と民間組織の連携が一層進むものと考えられます。当グループもそうしたパートナーシップの中で、自らの知見を最大限に活かし、実践的かつ信頼性の高い訓練を提供していく覚悟です。

 

 この防衛力強化の動きを事業拡大の機会と捉えてはおらず、「(ポーランドの国民が)強く、高い意識を持ち、備えのある社会」を構築していくことへの貢献こそが使命と捉えています。それがGROM GROUPの存在意義であり、我々が果たすべき役割だと信じています。

 

GROM GROUP訓練施設にて。集合したOPWの訓練生たち

 

——ポーランドがNATO加盟国以外の国々と軍事交流したり、連携する機会は今後増えていくのでしょうか。また、GROM GROUPは日本に支部を創設されたことから、アジアやほかの国々においても活動を増やされるのでしょうか。

 

ヴォイテク:現在の世界的な地政学的情勢の変化を受け、我が国はNATOの枠組みを超えた軍事協力や訓練の分野にも関心を寄せているものと認識しています。当グループもまた、安全保障環境の安定を求め、現代的な脅威に対抗する意志を共有する国々に対しては、積極的に展開したいと考えております。

 アジア市場への進出はその代表的な事例で、その一環としてGGJ(GROM GROUP JAPAN)を創設したことで、アジア地域での活動範囲と訓練機会が大きく広がりました。特に同地域では公的機関、民間企業を問わず、多くの方々が安全保障、危機対応、戦場救護、警護活動などの分野に関心を示し、能力向上を模索しています。

 

 GG(GROM GROUP)およびGGJには国際的な資格と戦地での実務経験を兼ね備えたスタッフが在籍し、その訓練プログラムは経験豊富なインストラクターによって運営されています。ヨーロッパの高水準な訓練体系を現地の実情に合わせてアレンジすることで、官民問わず質の高い教育を提供する体制を整えつつあります。今後数年間で、当グループは日本にとどまらず東アジアおよび東南アジア諸国における訓練プログラムの拡充を計画しています。現地パートナーとの連携、国際的な訓練プロジェクトへの参加、そして地域ニーズに応じた専門講座の開催を通じて、個人警護から戦術訓練、脅威環境への備えに至るまで、多様な分野で貢献していく予定です。

 これまでにも、GGおよびGGJのインストラクターはフィリピン国家警察関係者に対する訓練を実施してきました。当グループでは訓練のほかに、世界の危険地域や紛争地域における重要施設(工場や港湾施設など)の警備や政府要人の警護といった業務も手掛けており、そうした現場からも常に新しい情報を捉えて、教育の現場にもフィードバックしていきたいと考えています。当グループはポーランドに根ざした理念を守りつつも、世界各地のニーズに柔軟に対応するグローバルブランドとして成長を続けています。

 

取材をアレンジしてくださった日本人士官( 大尉)のKatsumi Shinjo氏。グローバルな地域で武装警備の経験があり、GROM GROUP警備部においてアジア地域統括管理官という要職に就いている。ヴォイテク氏はじめ周囲からの信頼も厚く、実任務と訓練指導の両面で活躍中

 

もう一人、取材アレンジに尽力いただいたGROM GROUP JAPAN代表のYoshinobu Nakamura氏(准尉)。上級狙撃手資格を持つスナイパーでありながら工学博士でもあり、各分野で傑出したスキルを持つGROM GROUPのメンバーの中でも特異な存在

 


——ヴォイテク司令は昨年来日されていましたが、日本に対してはどのような印象を持たれましたか。

 

ヴォイテク:日本訪問は私にとって職業的にも個人的にも非常に特別な体験で、訪問当初から日本文化に深く感銘を受けました。日本の人々に根付いている敬意の精神、規律、そして伝統と現代性の絶妙なバランスに魅了されました。日本ではあらゆる場面で秩序と精密さが見られ、これには元特殊部隊員、インストラクターとしての視点からも非常に印象的でした。

 また、高齢者への敬意が社会に深く根付いている点もポーランドと共通しており、個人的にとても好感を持ちました。滞在時、当グループは講習会を開催したのですが、その受講者の皆さんが特に印象的でした。彼らの真剣さ、時間厳守、学びに対する謙虚さ、そして困難な状況下でも学び取ろうとする姿勢は、まさに称賛に値します。ただ話を聞くだけでなく即座に理解し、実践に移す力を持っていました。規律、責任、自己研鑽といった価値観が、国境を越えて共有できるものと確信する機会となり、非常に充実した経験となりました。

 

 日本という国そのものにも魅了されました。自然、建築、料理はもちろんですが、印象的だったのは日本社会に流れる「静けさ」と「落ち着き」のようなリズム、そして人々の温かいおもてなしの心でした。ポーランドと日本の関係、とりわけ安全保障や経験、価値観の共有といった分野には大きな可能性があります。その架け橋の一部を担えることを、GROM GROUPとして非常に誇りに思います。

 はっきりと言えるのは、日本訪問は私にとって決して「最後」ではないということです。次の再会、訓練、プロジェクトに向けて、今から楽しみにしています。そして、両国の関係が今後さらに深まっていくものと確信しています。


——今回の取材では大変貴重なご協力をいただきましたが、これに対してはどのような効果を期待されていますか。

 

ヴォイテク:まずはじめに、GROM GROUPおよびGROM GROUP JAPANに関心を寄せていただき、心より感謝申し上げます。この取材記事を通じて日本の読者の皆様に、当グループの活動の本質、そして私たちが何を大切にし、どのような価値観のもとに活動しているのかということを、正確かつリアルに伝えていただけることを期待しています。

 

 私たちの使命は単なる訓練や警備の提供ではなく、「人間としての限界を超える体験」や「真のプロフェッショナリズムの継承」です。それを取材された画像や文章を通じて、現場の空気感、緊張感、そしてそこに関わる人々の想いまで届けていただければ、これ以上に嬉しいことはありません。

 日本の皆さんがGROM GROUPの世界に一歩足を踏み入れ、我々の理念に共感し、挑戦してみたいと思えるような記事を通じて、橋渡しをしていただくことを願っています。

 

 

——最後に、この記事からGROM GROUPの活動や訓練教育に興味を持った日本の読者に向けて、メッセージをお願いします。

 

ヴォイテク:この記事を通じてGROM GROUPの活動や訓練に興味を持ってくださったとしたら、心より歓迎いたします。日本支部であるGROM GROUP JAPANは、ポーランドの特殊部隊の兵士たちが過酷な環境で獲得してきた知識、経験を基に築き上げた高水準の訓練に、アジアの方々が直接アクセスできるようにするために設立されました。もしも「トレーニング」以上の体験をお求めなら、ぜひポーランドにお越しください。

 

 例えば、前述のように当グループが主催する「GROM CHALLENGE」は、JM GROMの選抜過程に着想を得て生まれた、ポーランド国内で最も過酷なエクストリームレースです。体力と精神力の限界に挑む場であると同時に、ポーランド特殊部隊の精神や、当グループで大切にされている仲間意識を直接体感できる絶好の機会です。イベントの詳細やエントリー方法については、公式ウェブサイトをご覧ください。

 国境を超えて共に行動し、学び合いましょう。安全と備えに、国境はありません。ポーランドでも日本でも、皆さんとお会いできる日を楽しみにしています。

 

GROM GROUP訓練施設では多くの民間人がサポートスタッフとして勤務する。ヴォイテク氏はインストラクター陣だけでなく、毎日の給食や清掃等に従事するスタッフへの感謝も大切にしていて、とても慕われていた

 

 

 CQB Training for OPW Class Student 

 

受講生には女性も多く、慣れない装備を身につけて訓練に挑む。着用しているのはポーランド軍制式のHP-05バリスティックヘルメット、M-Tac製プレートキャリアである

 

ヴウォミン第1総合高校の生徒がCQB訓練を受ける。閉所における戦闘行動は実に難しい。なお、手にしているM4カービンは訓練用の電動ガン(SPECNA ARMS製)

 

閉所に突入した時のフォーメーションは的確だったか……?教官の鋭い指摘を受けながら、生徒たちは頭と身体をフル回転させる

 

制圧された仮設敵を捕縛し集合させる。味方受傷者への救護措置を想定し、メディックの教官の指導を受けつつ、止血帯等による処置を学んでいった

 

加速するポーランドの国防力と日本の課題


 この記事の執筆も終盤を迎えた頃、大きなニュースが舞い込んだ。ポーランドの次期大統領選挙において、保守派政党PiS(法と正義)が推す歴史家のKarol Nawrock(i カロル・ナヴロツキ)氏が票の過半数を得て当選したのである。保守派のシンボル的存在である同氏の大統領就任は、ロシア・ウクライナ戦争の影響を強く受けるポーランドにとって、準戦時体制への基礎固めが多くの国民から期待されている証左ともいえるだろう。
 元JW GROM隊員をはじめ特殊部隊出身者を中心とする優秀なインストラクター陣が高校生からベテランに至るまで様々な訓練を施し、要人警護や重要施設防護といった警備業務も手掛けるGROM GROUPは、半官半民の軍事企業という立ち位置からポーランドの国防の重要な一角を担っているともいえる。高校生たちを含め受講生の何人かに話を聞いたところ、同様の軍事企業がいくつか存在する中で、ここで訓練を受けることは一種のステータスとなっているようだ。少なくとも国防に関心を持つポーランドの人々の間では、GROM GROUPは一目置かれる存在なのである。
 その一方で、日本の防衛力の充実はどこまで国民に周知されているだろうか、と心配になってくる。海を隔てているとはいえ、日本もまたロシアの隣国であるだけでなく、「力を背景とした一方的な現状変更の試み」を厭わない国々に囲まれているのである。

 第二次世界大戦において、日本では軍民合わせて300万人以上が犠牲となった。そしてポーランドではドイツとソ連両国からの侵略で全国民の1/5、実に600万人以上が犠牲になった(特に民間人の犠牲者数が多い)といわれ、戦後も長く鉄のカーテンの向こう側で暗黒の時代を過ごし、1980年代末にようやく民主化。1999年にはNATOに、2004年にはEUに加盟して自由主義陣営に名を連ね、国防力を強化してきたという経緯がある。
 安全保障環境が厳しさを増しているという点において日本とポーランドは共通しているが、国民の国防意識には雲泥の差があると言わざるをえない。日本において自衛隊の装備品や人員の拡充のみならず、広く国民の知識や理解を深めることが重要であるのは間違いない。ポーランドは、その模範となる国のひとつなのではないだろうか。

 

 

GROM CHALLENGE 2025 日本人参加者を募集中

 

 

 GROM GROUPは2025年9月に、毎年恒例の障害物レース「GROMCHALLENGE 2025」を開催予定だ。広大なチェルボニ・ボルの訓練施設を舞台に、ポーランド最精鋭のJW GROMの入隊試験を再現した数々の難関をバディと突破していく!
 競技内容にはGROT小銃の実弾射撃もあり、体力と知力、射撃技術とチームワークマインドを持つ方であれば、民間人でも参加可能だ。「我こそは!」と思われた方はGGJ(GROM GROUP JAPAN)までお問合せいただきたい。

 

お問い合わせ先:info@grom-japan.com
GROM GROUP

 

 

 

GROM GROUP Instructors

 

 本誌取材に応じてくださったGROM GROUPの皆さん。写真左よりEryk Gosiewski氏、Franciszek Fedorowicz氏、Jacek Kmiecik氏、Sebastian Zimochocki氏、Wojciech Grabowski氏、Katsumi Shinjo氏、Robert Pietrzak氏、Yoshinobu Nakamura氏。他にも様々な方々に協力いただいた。射撃、格闘、CQBなど各分野のスペシャリストである彼等は、真摯で明るく包容力にも溢れ、受講生たちの精神的サポートも欠かさない。ポーランドの国防を支える皆様に敬意を表しつつ、数々のご厚意を心より感謝申し上げます。なお、今回の取材ではGROT小銃や訓練の模様などたくさん取材させていただいており、追ってレポートをお届けしていく予定である。

 


 

Text & Photos:神崎 大/アームズマガジン編集部
取材協力:GROM GROUP / GROM GROUP JAPAN

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年8月号に掲載されたものです。

 

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