2021/05/25
【海外】一発必中!! 法執行機関スナイパーの訓練!!【後編】
いわゆるミリタリースナイパーよりも近距離での狙撃が多いが、民間人や周辺施設への被害を防ぐためにより繊細な一撃を求められる法執行機関のスナイパー(LEスナイパー)。そのLEスナイパーの装備を中心に紹介した前回に続き、今回はLEスナイパーの訓練・育成やその任務について詳細にお届けする。
LEスナイパーの育成
ミリタリースナイパーは軍が設けるスナイパースクールやスナイパー課程を経て育成されるが、警察や保安官事務所のスナイパーはどのように育成されるのだろうか?
地方分権化されたアメリカの警察組織では全国規模での統一した育成課程・基準は設けられておらず、地域ごとに異なるという。ミズーリ州では州公安局(Department of Public Safety)のもとで警察官や保安官(これらを総称してピースオフィサーと呼ぶ)向けのスナイパー課程が週末に開かれており、1年をかけて育成されるそうだ。
初級(ベーシック)スナイパー課程では呼吸法など基礎的な射撃技術を、中級(インターメディエイト)課程では横風やドロップ(重力による落下)の修正を、上級(アドヴァンズド)課程ではコンシールメント(擬装)やムーブメント(移動)といった実戦的テクニックを学ぶことになるという。
また、アメリカ・スナイパー協会による5段階からなる認定(クオリフィケーション)コースも活用されている。スナイパー任務に就く者は90%をクリアすることが求められるという。以下に、その5段階を解説する。
磨かれた技術
さて、発生する事件の状況が多岐に渡る以上、対応するLEスナイパーの置かれる状況も多岐に渡ることとなる。そのいずれにおいても確実な狙撃を行なうため、様々な技法が生み出されている。今回はその一部を実際に見せてもらうことができたので、写真とともに紹介する。
いまやトライポッドはスナイパーの必須装備と言って過言ではない。銃を安定した状態で維持できるため、長時間の待機・監視でも疲労を抑えることができるのだ。
また、犯罪者が複数人の場合など、2人のスナイパーがお互いの呼吸をあわせて同時に狙撃を行なうことがあるそうだ。個人技だけでなく、チームとしての鍛錬も欠かされていないことがうかがえる。
実戦
LEスナイパーは実戦においてどのような運用がなされるのだろうか? 前編冒頭でも述べた通り、可能な限りターゲットに接近するため射距離が「200ヤードより離れることはなく、ほとんどの場合は100ヤード以内」だと言う。事件現場を監視・観測できる複数の位置にスナイパーは配置され(※LEスナイパーもミリタリースナイパー同様に、監視任務も担っていることがうかがえる)、スポッターをつけないことが多いという。
基本的にスナイパーが活用されるのは最終段階──ネゴシエーター(交渉人)による説得が終了し、また犯人の素性や室内の状況がおおよそ明確となったのちとなる。射撃の判断にはいくつかの状況があり、現場指揮官とスナイパーの2人で判断して決定する場合もあれば、危険が迫っているようであればスナイパー1人の判断で射撃することもあるそうだ。
射撃したならば、外すことは許されない。LEスナイパーは犯人のボディではなく頭部を、それも頭部中央の眼と鼻が形づくる「T字型」の部位を狙う。この範囲に命中すれば、弾丸は脳幹を直撃し、確実に行動不能に陥らせることができる。仮に犯罪者が銃器を携行し、人質に銃口を向けていた場合、この「T字」から外れると反射的に引き金を引いてしまうことがあるそうだ。また、映画やドラマなどで銃を持った腕を撃つシーンを見かけるが、これも反射的に引き金を引いてしまうため狙ってはいけないという。犯罪者を一撃で無力化し、人質や周辺の民間人・民間資産を守るため、彼らが狙うのは、わずか10数cm四方の「T字」だけ──「ミリタリースナイパーより難しい」と彼らが言うわけが理解できるだろう。
前後編の2回に渡り、LEスナイパーについて紹介した。非常に困難かつ、ミスの許されない狙撃に挑むプレッシャーは想像を絶するものだろう。それでも彼らは日々技を磨き、困難な任務へと挑んでいく。それはすべて、法執行機関の一員として市民の安全な生活を守り抜くためだ。その強靭かつ高潔な精神に感銘を受けるとともに、尊敬の念を禁じ得ない。
TEXT:Report : Hideo Sasagawa / Takayuki Ayabe
Special Thanks :
Jackson County Sheriff’s Office / Rod Schaeffer (Lee's summit Police Department)
この記事は月刊アームズマガジン2019年9月号 P.32~39より抜粋・再編集したものです。
月刊アームズマガジン2021年5月号
月刊アームズマガジン2021年5月号では、スナイパー特集を掲載している。スナイパーライフルはもちろん、ギリースーツやスコープなどの周辺アイテムから、近代スナイパーの最新テクニックなどまでハード・ソフト両面から徹底調査を行なった。こちらも要チェックだ。