ミリタリー

2025/09/27

英国海軍最大の軍艦、東京に入港!航空母艦『プリンス・オブ・ウェールズ』【HMS Prince of Wales, R09】

 

 クイーン・エリザベス級2番艦である『プリンス・オブ・ウェールズ(以下:PWLS)』が今回『United Kingdom Carrier Strike Group 25(以下:CSG25)』として英ミサイル駆逐艦『ドーントレス』、ノルウェー海軍フリゲート艦『ロアール・アムンセン』と共に来日。PWLSは米海軍横須賀基地と東京国際クルーズターミナルへ8月12日~9月2日の間に寄港した。


 英空母としては2021年夏、クイーン・エリザベス級航空母艦(以下:QE級)『クイーン・エリザベス(以下:QE)』を旗艦とした『United Kingdom Carrier Strike Group 21(CSG21)』の一環として同艦が日本に寄港して以来となる。4年ぶりとなると意外と訪日しているように感じるが、それ以前では1997年に空母イラストリアスが晴海に寄港した以来の英空母来日となる。

 

浦賀水道を北上し横須賀へ向かうPWLS(8/12)

 

 艦名である『プリンス・オブ・ウェールズ』は直訳すると「ウェールズの君主」であり、14世紀にイングランドがウェールズを制服して以降はイギリス君主の男子の跡継ぎ(王子)に与えられる称号だ。現在であればウィリアム王子がプリンス・オブ・ウェールズにあたる。1番艦である『クイーン・エリザベス』はその名の通り「エリザベス女王(王妃)」を意味する
 イギリス海軍では代々この名前を冠した艦船が就役しており初代は1774年に就役した戦列艦で、以後戦列艦4隻、戦艦2隻、そして空母である本艦に命名された。同名の艦船で最も有名なのは恐らく太平洋戦争で日本軍と対峙したキング・ジョージ5世級の2番艦だろう。
 

東京国際クルーズターミナルへ入港するPWLS(8/28)

 

 


 

Queen Elizabeth-class aircraft carrier
HMS Prince of Wales, R09

 

 

 

クイーン・エリザベス級航空母艦
2番艦 プリンス・オブ・ウェールズ


発注:2008年05月20日 起工:2011年05月26日

進水:2017年12月21日 就役:2019年12月10日

 

性能諸元

  • 全長:284m
  • 最大幅:73m
  • 喫水:9.8m
  • 排水量(満載):65,000t
  • 乗員:1600名

機関

  • 機関:IPS(統合電気推進)
  • 主機:コンバーチーム製電動機×4基
  • 電源:MT30ガスタービン発電機(35MWe)×2基            

    16V38ディーゼル発電機(11.3MWe)×2基     

    12V38ディーゼル発電機(8.5MWe)×2基

  • 出力:108,000 shp (81,000 kW)
  • 速力:25ノット(最大32ノット)

 

兵装

  • ファランクスCIWS  × 3基

 

搭載機

  • F-35B 
  • ヘリコプター

レーダー

  • 1046型(S1850M)
  • 997型(ARTISAN)

 


 QE級は80年代から次期空母の模索を進めており98年のStrategic Defence Reviewによって正式に計画がスタートした。2010年に艦齢30年を超え退役時期を迎えるインヴィンシブル級航空母艦の代替として計画された本艦は、当時現用であったBAeシーハリアーの後継機を運用する事を考えており、2002年に艦上機としてF-35Bが選定されて以降に本格的な選考が始まった。

 複数案を基に2003年11月にネームシップの艦名が決まり、2005年には最終案が作成された。

 

 順調に見えた空母建造であったが2002年に建造計画が着手されたフランス次期空母(PA2)として2006年に英仏と共通の設計によって空母を建造する覚書が取り交わされたが2012年の仏大統領交代による方針変更、F-35Bの開発遅延による設計変更の検討。

 財政難によって建造途中の段階で1隻を予備役にする案やインド海軍への売却なども検討されつつも2015年にイギリス海軍が2隻を運用する方向で決定したなど、紆余曲折と膨大な時間・予算をかけられ建造された。
 


 本艦はF-35Bを運用するにあたりSTOVL空母(短距離離陸・垂直着陸が可能な航空機を運用するカタパルトを持たない空母)の設計を採用しており、航空機発艦用のスキージャンプと航海・作戦用と航空管制用の2つ独立したアイランドの特徴的な設計を持つ。


 航空母艦という事もあり航空機運用能力についても特筆すべき物がある。発着艦兼用の滑走レーンを首尾線に対し平行に設けた「アキシャル・デッキ方式」を採用しており、飛行甲板左舷前方にはスキージャンプが設けられる。飛行甲板にはSTOLV・ヘリコプター両用の発着スポットが5ヵ所、ヘリコプター専用が1ヵ所設けられている。
 ちなみに空母で有名な米空母ミニッツ級は「アングルド・デッキ方式」を採用しており、着艦用の滑走路は角度をつけ設けられている。これによって安全に離着艦を行うことが可能だ。

 

ターミナルから甲板とほぼ同じ高さで見られた。画面中央が航空管制用のアイランド。右奥に見えるのが航海・作戦用のアイランドがあり、同じく右舷側にエレベーターも二つあるのが見受けられる                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              

 

前方アイランド。2つにアイランドと給排気が分けられるため他の空母に比べすっきりとした設計をしている。右下にはR09と艦番号、艦橋横には艦名が書かれた銘板が取り付けられている。最上部には1046型レーダーがある

 

後方アイランド。主に航空管制を担う

 

後方アイランドにはプリンス・オブ・ウェールズの徽章である『プリンス・オブ・ウェールズの羽根』が描かれており、リボンにはドイツ語で「私は仕える(Ich dien)」のモットーが書かれる

 

艦首側に駐留するF-35B。奥に見えるのが高さ約6mのスキージャンプ

 

 搭載機数は資料によって諸説あるが、英国海軍公式では最大36機のF-35Bと英国軍のヘリコプター含み最大72機搭載することが可能だ。今回のCSG25ではF-35Bが18機(後半24機に増強)、HMA2とHM2/HC4が合わせて16機搭載されている。他にもT150重量物輸送ドローンとRQ-20監視UAVを搭載する。演習で海上自衛隊の『かが』に着艦した英国のF-35BもこのPWLSに搭載された機体だ。 

 

 レーダー類は前部アイランドにメインの1046型(S1850M)、後部アイランドに997型(ARTISAN)が設けられ、それぞれ3次元レーダーとなっている。またこれら以外にも航空管制用レーダーなどが搭載される。
 個艦防衛用の火器は最低限の機関銃のみでありファランクスCIWSが3基と50口径重機関銃となる。

 

F-35B ライトニングII。最近では新田原基地に海上自衛隊が運用する同機が飛来して話題になった

 

マーリンMK2 クロウズネスト。マーリンMK2をベースに対空監視レーダーを搭載した早期警戒ヘリコプターで、早期警戒システム「クロウズネスト」を搭載している


 最新鋭艦らしく様々な箇所に効率・自動・省力化が図られており、特徴に上げたダブルデッキも給排気の軽量化や排煙の影響軽減を目的としている。他にも艦内の移動を最適に行うためのアプリケーションなどを筆頭にとことん省人化と効率化が進められており、米国の空母ミニッツ級は操艦要因として3200名必要だが2/3程度のサイズになるPWLSは680名弱で運用が可能になっている。

 

最新鋭艦とはいえ警備は人の手で行う。装備は身に着けずシンプルなスタイルで銃をもち警備している乗員が多く見受けられた。光学機器にSUSAT照準器が取り付けられたL85A2を持っている

 

TEXT&PHOTO:出雲

 


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