エアガン

2025/09/04

新 WESTERN魂!:ファストドロウ

 

私が毎年Gun Professionals誌で書いてきたファストドロウ全国大会のレポート記事は、今年からアームズマガジンへお引越し。それに伴い今回の“新WESTERN魂!”は特別に大会レポートを含んで「ファストドロウについて」を話題にする

 

 コルト シングルアクションアーミー(SAA)こそ“世界で最も遊べる銃”だと私は断言したい。そのSAAを使った遊び方の筆頭で、最もスタンダードで人気なのが「FAST DRAW(ファストドロウ)」だ。その全国大会が2025年7月20日と21日の2日間で開催された。今回はそのレポート記事とあわせて、改めて「ファストドロウとはどのような競技なのか」を詳しくご紹介する。

 

 

Fast Drawとは

 

 ファストドロウとは早撃ち、すなわちホルスターから素早くハンドガンを抜いて撃つことだ。クイックドロウ(Quick Draw)とも呼ばれるが、一説には「ブランク(空砲)やワックス弾を撃つのがファストドロウ」で、「実弾を使うのがクイックドロウ」とも説明される。だが明確な言葉の定義はないようだ。その抜き撃ちのタイムを計測し「誰が一番速いか」をルールに則って競うのがスポーツとしてのファストドロウだ。
 ファストドロウのルーツは西部劇にある。往年のハリウッド西部劇や、それを真似してイタリアで作られた「マカロニウエスタン」では、その物語のラストのクライマックスが早撃ち決闘となる作品が少なくない。有名なところでは、例えば『シェーン』、『ヴェラクルス』、『夕陽のガンマン』、『続 夕陽のガンマン/地獄の決斗』、『怒りの荒野』、『ウエスタン』(ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト)、『シルバラード』、『トゥームストーン』、『クイックアンドデッド』などなど。いずれも最高に面白いのですべてご覧になっていただきたいが、主人公とラスボスが荒野や町のストリートで面と向かって対峙し、腰のガンベルトに収めた銃(多くはコルトSAA)を同時に抜いて撃ち合うのだ(ちなみにこの時「ヒーローは悪役より後に抜く」という西部劇のお約束がある。なぜなら先に抜くと殺人で、後から抜けば正当防衛となるからだ)。これが問答無用にカッコ良く、これを真似した抜き撃ちごっこが、やがてゲーム(競技)へと発展したのだ。
 ルールの基本は、いたってシンプル。専用の計測タイマーを使い、スタートランプの点灯を合図に銃を抜き、発砲までのタイムを競う。当然タイムは短いほうが勝ちだ。そのタイムは1秒未満となることからファストドロウは「世界最速のスポーツ」とも言われるのだ。

 

▲名作西部劇『シェーン』や『荒野の決闘』、マカロニウエスタンで印象的なファニング(Fanning)。コルトSAAはトリガーを引いたままにするとハンマーを起こしてリリースするだけで連射ができる銃なのだ。そこで銃を握る手と反対の手(右利きの場合だと左手)を使い、“うちわ=ファンを扇ぐように”ハンマーを起こすのがファニングだ。ファニングはファストドロウでは必須のテクニックだ

 

ファストドロウの抜き方:サミング(コック&ドロウ)

 

 ファストドロウで使われる抜き撃ちのテクニックを紹介していく。まずは片手撃ち。片手撃ちは親指(サム)を使ってハンマーを起こすことからサミング(Thumbing)と呼ばれる。前号の新WESTERN魂!でも紹介したが、片手撃ちで最も速く抜き撃てるのが「コック アンド ドロウ」(Cock & Draw)という撃ち方だ。すなわち「銃を抜いてからハンマーを起こす」のではなく「先にハンマーを起こしてから銃を抜く」テクニックだ。

 

ガンベルト(ホルスター)に収めたSAAをいったん握って確認する。ちなみにカウボーイファストドロウでは、この状態で待機する(ローマンレディポジション:Lawman Ready Positionという)

 

銃から手を離す。ファストドロウの競技(大会)では「シューター、セット!」の掛け声(合図)で、この待機姿勢をとる

 

競技ではランプ点灯がスタートの合図だ。まずは親指をハンマーに掛けながら銃を握り、そのままハンマーを起こす

 

ハンマーが完全にコックされた状態で銃を抜く。この時、まだトリガーに指をかけてはいけない。誤って自分の足を撃ってしまうことあるからだ(ブーツショット)

 

銃をターゲットへ向けながら親指をハンマースパー(ハンマーの指掛け)からリリースする

 

ターゲットをポイントする。トリガーに指を掛けるタイミングは、銃口をターゲットに向けてから、もしくは向け切る直前だ

 

トリガーを引いて発砲。実弾の.45ロングコルトを撃つのであれば(そういう機会はまずないが).45ロングコルトの強烈な反動に備えて脇をガシッと締める必要がある(クイックドロウスタイル)
 

クイックドロウスタイルでは抜いて撃つまでの銃の移動距離が長いため、どうしてもタイムが遅くなってしまう(平均して0.4秒台、かなり速くて0.3秒台)。そこでファストドロウでは、写真のように、あらかじめ膝を曲げ腰を少し落とした姿勢から抜く時に上半身を後ろに反らし、同時に腰を前に突き出す動作をとる(または待機姿勢から上体を後ろに反らしておく)。こうすることでホルスターの真上、すなわち最少の銃の移動距離=短いタイムで撃つことができる。上級者なら0.3秒台、チャンピオンクラスのシューターだと0.2秒台のタイムを叩き出せる。ただし競技では待機姿勢で銃とホルスターを垂直面に対して 35 度以上傾斜させてはならないルールがあるので注意だ(あわせてこの写真ではホルスターに付けていないが、レッグタイ=脚に巻く紐やストラップを付けなければならないルールもある)

 

サミングでの親指のハンマーの掛け方には二通りある。これは「ボール サミング」(Ball Thumbing)と呼ばれるもので、写真のように親指をハンマーの上に平行に配置する方法だ。親指のふくらみ(ボール)を使ってハンマーを起こすことから、このように呼ばれる

 

もうひとつは「ピンチ」(Pinch=挟む)または「ウェブ」(Web)サミングと呼ばれるもので、親指をハンマースパーに対して横切るように配置し、親指の第一関節のあたりでハンマーを握る方法だ。これだと手で銃を握る動作の流れで親指が自然にハンマーをコックできる。どちらを使うかはシューターの好みだが、私の場合は、手と銃が大きく離れた状態からでも確実に(親指がスパーからスリップすることなく)ハンマーを起こすことができるため、後者の方法をいつも使っている

 

ファストドロウの銃とガンベルト

 

ファストドロウの競技で使う銃はシングルアクションリボルバーと決められており、主にコルトSAAで(アメリカではルガーのシングルアクションが主流)、バレルの長さはルール上で許されている最も短い4-3/4インチが圧倒的に多い(ルガーの場合だと4-5/8インチ以上)。もちろん有利にはならないが5-1/2や7-1/2インチ、それ以上でもOKだ。ガンベルトは実際の西部開拓時代で使われていたオールドスタイルではなく、ホルスターの内部に金属板がインサートされ、銃をホルスターに入れた状態でもシリンダーがスムーズに回転する「メタルライニング」のタイプで、ホルスターが前方へ少し傾斜している早撃ち用が主流だ。ファストドロウの世界ではガンベルトは「リグ」(Rig)とも呼ばれる。この2枚の写真の銃とリグはすべて私がファストドロウで愛用するものだ。左写真の2挺はハートフォードのモデルガンでFDCシルバー。上はサミング用で、いつもガンプレイショーで使っているものをそのまま競技でも使用(笑)。下のスパーが垂直に突き立ったハンマーの銃はツーハンド用で、フロントサイトレスのFDCを自分に合うようにさらにカスタマイズを加えている。余談だがスパーが垂直のハンマーを「ツーハンドハンマー」、それを搭載する銃を「ツーハンドカスタム」と呼んでいるが、これらは日本だけの通称で、アメリカでは特に呼び名はないらしく、単にファニングハンマーとかスラップコックハンマーなどとしか呼ばれていないようだ。しいて言うならツーハンドカスタムの銃は、ツーハンドハンマーの銃を数多く作ったファストドロウの世界で最も有名で伝説的なガンスミスの名前から「ジョン・フィリップスのカスタムガン」と呼ばれることがあるそうだ

 

このリグは伝説のホルスターメーカー(ガンベルト職人)のアンディ・アンダーソン製で(正確には、その弟子のヴィクター・ペレスの製作品)「AA」と名付けられた商品名のものだ(通称ビキニ)。ホルスターがベルトのかなり高い位置にあるのが特徴。ビキニの通称は、当時の広告でビキニの女性がこのリグを着用したことから来ている。かなり衝撃的だったそうだ

 

こちらは同じくアンディ・アンダーソンが作った「ウォーク&ドロウ」と呼ばれるタイプのレプリカで、日本の伝説のガンベルト職人「SPEED」の小見山正夫氏によるものだ。ウォーク&ドロウは「歩きながら抜く」というファストドロウの種目があり、それに向けてデザインされたものだ。もちろんAAもウォーク&ドロウもメタルライニングだ

 

これもSPEED製で、ツーハンド用の競技専用リグだ。ホルスターの内側にはテフロンの板が貼られ、極めてスムーズに銃をスルリと抜くことができる。おそらく、このリグは小見山氏が作られたファストドロウ用の最終型となるデザインで、全面に手彫り彫刻が施された芸術品とも言える最高級のリグだ。まさに究極の逸品

 

ファストドロウの歴史

 

 この「タイマーを使って抜き撃ちのタイムを計測する」ということが初めて行なわれたのは1950年代の初頭だ。当時は西部劇の全盛期。アメリカ合衆国カリフォルニア州ブエナパークにあるアミューズメントパークの「ナッツベリーファーム」はウエスタンランドのテーマエリアがある施設で、当時はワイルドウエストスタントショーが毎日のように上演されていた。そのショーのスタントマンのディー・ウーレムがパークの技術者と大型の時計型のタイマーを作り、コルトSAAのブランクを使い、セルフスタートの音センサーによって早撃ちのタイムを記録できるようにしたのだ。これがテレビで紹介されると注目を浴び、すぐにファストドロウがブームとなっていく。ウーレムは全米ファストドロウチャンピオンシップとしてコンテストを開催、4回にわたってチャンピオンとなった。その後、全米の各地でファストドロウのクラブや組織ができたが、1976年に統一された組織としてWorld Fast Draw Association(世界早撃ち協会)=WFDAが設立された。WFDA(日本では「ワフダ」と呼んでいるがアメリカでは「ダブリュー・エフ・ディー・エー」)のファストドロウでは、速さを追求するためカスタマイズされた銃やガンベルトも使われるが、現在は「カウボーイファストドロウ」というもうひとつの流れがあり、基本ノーマルの銃とガンベルトを使う西部劇のスタイルに原点回帰したファストドロウの大会もCowboy Fast Draw Association(CFDA、2002年設立)によって開催されている。
 日本でも1960年代のモデルガン黎明期から西部劇人気によってファストドロウが大人気だった。だが西部劇の衰退とともにファストドロウの人気も衰退、ファストドロウのコンテストは一部の愛好家のみによって細々と続けられていた。
 1994年4月にハートフォードが旧東京CMCのコルトSAAモデルガンをリメイクし発売。当時の西部劇復活の動きもあって再びファストドロウに脚光が集まった。そして1997年にWFDAの日本支部での正式な活動として、当時のWFDA会長のキャル・エイルリッチ(クイック・キャル)氏を招いてファストドロウの全国大会が開催、WFDAJAPANの現体制がスタートした。翌1998年の全国大会からバルーンブレイク(風船割り)によるタイム計測のシステムが導入(それ以前は音センサーによる計測で「撃った時にバレルが水平だったか」をジャッジが横で判定していた)。以降、毎年1回のペースで全国大会が開催され、現在に至る。現在WFDA-JAPANとして関東、中部、関西、九州に支部がある。

 

ファストドロウの抜き方:ツーハンド(ファニング)

 

ツーハンドの撃ち方でのコック&ドロウに相当するのが、この写真の「スラップコッキング」(Slap-Cocking)だ。銃をホルスターから抜くより先に、左手でひっぱたいて(スラップして)ハンマーを起こす撃ち方だ。この時、銃を後ろに引く(グリップをホルスター後方の下へ押し込む)ようにすると、ホルスターの真上から撃つことができ(ツイストドロウを除くと)最も速いツーハンドの撃ち方となる

 

スラップコックでホルスターの真上から撃つ場合、SAAの握り方はこの写真のように限界までハイグリップする。スパーが垂直のツーハンドハンマーを使うからこそ可能な究極のハイグリップだ。この握り方をする場合は(右利きなら)トリガーガードの右側の半分をトリムするカスタムが必須となる

 

スラップコックの他にもツーハンドの撃ち方にはいろいろある。「アップファン」(Up Fan)は、銃をホルスターから真上に持ち上げるスタイルで、待機姿勢はスラップコックと同じだが、トリガーを引いたまま銃を抜き、銃がターゲットに向いた瞬間にファニングする撃ち方だ。銃の移動距離が「スラップコック」より長くなるため、タイムは少し遅くなる。この連続写真の「ラムファン」(Ram Fan)は銃を抜き、銃をターゲットに向けて突き出し、その前進中に左手がハンマーをファンする撃ち方だ。左手は抜く前から身体の正面に出しておく場合が多い。ラムファンで右腕を完全に伸ばして撃つ場合は「ポークファン」(Poke Fan)と呼ぶ。ラムファンはアップファンよりもさらに銃の移動距離が長くなるためタイムも遅くなるが、銃をターゲットに向けて突き出す動きには、より確実に当てられるメリットがある。なお、ガンプレイの回し技やファストドロウでの抜き方には正式名称のような統一した名前はないようで、ここでの呼び名の紹介も一例だと思っていただきたい。日本人なら技に名前を付けたり、技を体系化するなどして流派を立てたりするが、アメリカではそういう文化・習慣はないらしく、技の名前はあいまいだ

 

ファストドロウにおける究極の高速の撃ち方が「ツイストファン」(Twist Fan)、「ツイストドロウ」だ。この写真のように銃を外側へツイストさせる(ひねる)のが特徴。非常に速く抜けるため、銃を握ると同時にトリガーを引き、ハンマーのファンを開始する。実際のツイストファニングでは通称「バケツ」と呼ばれる入口が大きく開いたホルスターのリグを使用する。私はツイスト用のリグを持っていないので、この写真では通常のツーハンド用のリグで代用している。この撃ち方をマスターすれば0.2秒台は普通だが(とはいえ、かなり難しい)あまりにも進化し過ぎた撃ち方であるため、大会ではオープンスタイルの部門に限られ、一般的なトラディショナルスタイルでは禁止されている

 

WFDA-JAPANのファストドロウ全国大会

 

 WFDAのファストドロウには、実はいろいろな競技種目がある。例えば「スタンディング」と「ウォーキング」。ウォーキングは歩きながら撃つ種目だ。あわせて「ブランク」では空砲を使い「ワックス」ではワックス弾を撃つ。WFDA-JAPAN主催の全国大会では、3つの種目の合計の成績によって日本一を決定している。その3つとは以下の競技種目だ。


● スタンディング ブランク:モデルガンによる風船1個割り、通称シングル
● スタンディング ワックス:ガスガンの1発撃ち、通称ワックス
● ダブル ブランクス:モデルガンによる風船2個割り、通称ダブル


 いずれも「速いタイムを1発出せば勝ち」という訳ではなく、規定回数を撃ってよかったタイムを集計する。1発撃ちの種目なら7回撃って、速いタイムから5回分を合計、2発撃ちなら5回撃ち3回を合計だ。ミスショットはMAXタイム(1発撃ちなら1秒、2発撃ちなら2秒)で記録。これで種目の順位がつき、順位に応じてポイントが付与される(50名参加なら1位は50ポイントを獲得)。そして3種目の合計ポイント数が最も多かったシューターが総合優勝となる(獲得ポイント数が同点なら合計タイムの速い方が上位)。
 このように勝負が決まるため「安定して速いタイムを出した人が勝ち」となる傾向がある。2回まではミスショットをしても集計対象外となりセーフなのだが、3回目のミスでMAXタイムが集計の対象に入ってくると、その種目の順位は大きく落ちてしまう(これをファストドロウシューターは、その種目を「落とす」という)。より速いタイムを出そうとすればミスショットのリスクは高くなるし、ミスショットを避け確実に撃とうとすればタイムは遅くなるし、で、この駆け引きが試合では非常に重要となるのだ。

 

ファストドロウの魅力、楽しさ

 

 私は1998年の全国大会から参加している。途中4年ほど病気や仕事で連続欠場となったこともあったが、今は毎年の全国大会が人生の楽しみのひとつだ。
 私が実感するファストドロウの楽しさを書こう。やはり一瞬で勝負が決まるスリリングな競技であることが筆頭だ。速さを追求するために銃をカスタマイズしたり、カッコ良く銃を仕上げたり、より速い撃ち方を探求したり、全国大会で上位を狙うために作戦を考えたりするのも楽しく、実に奥が深い。ウエスタンファッションは推奨で義務ではないが、大会でおしゃれするのも楽しい。WFDA-JAPANのルールは本国WFDAのルールを日本向けにアレンジしているが、基本は同じであるため、海外のWFDAの大会へ参戦できるし(実際に参戦した先輩が数名いらっしゃる。私もいつかは参戦したい)、逆に海外からシューターが来日して参戦することもあるのが最高だ。2014年の大会ではファストドロウとガンプレイの世界チャンピオンのハワード・ダービー氏が来日、競技終了後に一緒にガンプレイを披露したのは一生の思い出だ。今は大会の成績はもちろんだが、全国のシューター達との交流が何より楽しいし、後輩達がファストドロウで盛り上がっているのを見るのがとても嬉しくてならない。

 

 

2025 ALL JAPAN FAST DRAW
CHAMPIONSHIP in KANSAI

 

 毎年恒例のファストドロウ全国大会が今年は例年より少し早め時期の7月20日、21日の二日間に渡って三重県四日市市のプラトンホテル四日市で開催された。全国から集まったシューターは54名。その大会の様子をレポートする。
 今年も会場は盛り上がったが、今回はかつてない程に大波乱の大会だった。優勝候補と見なされている前回、前々回優勝のカードボード佐藤さんをはじめ、前人未到の全国大会3連覇を達成したT.K.ヒーロー江田さん、過去最多優勝回数を誇るエース嶋田さん、総合優勝経験者のマック織田さん、そして九州の強豪アナキン加藤さんと、そのお弟子のレイ安藤さんらが、ミスショットによって種目を落とし総合優勝圏内から次々と脱落。トップシューター達の活躍や超速タイムを期待する私や皆さんから一喜一憂の歓声や溜息が終始、会場に溢れた。「オールジャパンは天国と地獄が紙一重、究極のスリリングな大会」とも言われるが、まさにその通りだった。ファストドロウに限らず、スポーツの世界は「出した結果がすべて」だ。そこに「〜たら」、「〜れば」はない。さらに0.001秒を競うファストドロウの世界に「こう撃てば必ず勝てる」などといったセオリーはなく、“絶対王者”などは存在しない。そんな中で総合上位入賞を勝ち取ったシューターの皆さんは、熟練とも言える安定した速いシュートを一射一射積み重ねていかれた。競技中に何度も拍手が起きたのが印象的だった。ご参考までにタイムの基準をざっくり解説すると、シングルで未経験者が1秒未満で撃てれば合格、0.4秒台をコンスタントに出せるなら中級者、0.3秒台なら上級者、0.2秒台を出せれば全国大会で1位が狙える、といった感じだ。当然、難易度が高くなるワックスやダブルではタイムの基準はもう少し遅くなる。
 ファストドロウは「速いタイムを1発出せば勝ち」と一般的に思われている感がなきにしもあらずだが、実際はそんな甘い競技ではない。速く撃つ技術に加えて、メンタルコントロールに「スピード重視か、確実性重視か」、「どのように撃っていくか」という作戦も大事だし、ミスショットをしてしまった後のリカバリも重要だ。私も25年以上やっていまだに飽きがこないのは、それだけ奥が深くやりがいがあり、楽しい競技だからに他ならない。今年の全国大会は終わったばかりだが、早くも来年の全国大会が待ち遠しくてならない。来年の開催地は九州 福岡だ。

 

全国大会の個人戦として行なう3つの種目のうち、最初に撃つのは「スタンディング ブランク」、モデルガンを使った風船1個割りだ(通称シングル)。銃に装填するのは1発だけ。タイマーはモデルガンのキャップ火薬の火花とガス圧で風船を割るとタイムが計測される仕組みだ。全国大会では7回撃って、速いタイムから5回分を集計の対象とする。ミスした場合はMAXタイムとなり1秒で記録

 

大会初日の午後に撃つ2番目の種目が「スタンディング ワックス」、ガスガン1発撃ちだ(通称ワックス)。こちらもシングルと同じく7回撃って速いタイム5回分を集計、MAXタイムは1秒。シルエットターゲットまでの距離は8フィート(約2.4m)だ。スピードとあわせて狙いの正確さも要求される難易度の高い種目だ

 

大会最終日の午前中に撃つのが写真の「ダブル ブランクス」、モデルガンでの風船2個割りだ(通称ダブル)。勝つためには1秒未満で2発を撃たねばならないため、かなり難しい。全国大会では5回を撃って速い3回を集計、風船を2個とも外した場合はMAXタイムの2秒で記録される

 

全国大会は、やはり速く撃てるツーハンドスタイルで出場するシューターが多いが、サミングスタイルのシューターも負けてはいない。実力次第で上位入賞も可能だ。この写真は総合7位入賞にしてサミングシューター勢のトップとなったリボルバーみやげんさん(関東)

 

本大会の総合トップ3。優勝は写真中央のスパーキー荒木さん(関西)。ファストドロウ歴20年以上の大ベテランで念願の初優勝!! 今回はWFDA-JAPAN関西支部長として本大会を円滑に運営された。2位は写真左のカカドウ上近(かみちか)さん(九州)。ファストドロウを始められたのは10年前、御年60才の時だそうだ。ここ数年は常に上位入賞されていたが、ついにベスト3入り! 3位はレディースシューターのリル白川さん(関東)。ミスのない安定した速いシュートを次々と見事に決めていた。ファストドロウ全国大会で女性が総合トップ3に入賞したのは白川さんで2人目だ。みなさん、おめでとうございます!!

 

こちらは種目優勝の3人だ。写真左からシングル部門1位のT.K.ヒーロー江田さん( 関東)、シングルの平均タイムは0.266秒。ワックス部門1位のアナキン加藤さん(九州)、平均タイムは0.335秒。ダブル1位はカカドウ上近さんで平均タイムは0.443秒

 

最速タイム賞の3人。写真左から、シングル最速を叩き出したのはT.K.ヒーロー江田さんで0.250秒。江田さんは過去に3回連続の総合優勝という前人未到の実績をもつトップシューターだ。ワックス最速はカードボード佐藤さん(関東)で0.296秒(!)。本大会のワックスで唯一となる0.2秒台のタイムで、タイムが読み上げられると会場が歓声に沸いた。佐藤さんは前回、前々回の総合優勝者だ。ダブル最速はカカドウ上近さんで0.430秒

 

全国大会で数少ない優勝候補のシューターのひとりがレイ安藤さん(九州)だ。2022年の全国大会で総合3位に入賞。今回の大会では、シングルで最速タイムを江田さんに次ぐ0.257秒を叩き出し、シングル部門2位を獲得した。愛用のリグは何とご自身の手によるもので、クラフト系のご趣味もあるのだとか

 

本大会参加のレディースシューター。今回は6名が参加、皆さんそれぞれ健闘なさっていた

 

 

ファストドロウは時々テレビ番組で紹介されることもあるのだが、その際「反射神経が決め手のスポーツ」と解説されることが多い。だが実際は、速く撃つには反射神経以上にドロウのフォームが重要なのだ。いかに銃を最少の動作で抜くか。たとえばT.K.ヒーロー江田さんのフォームを見てみるとそれがよく分かる。上手なシューターほど銃が少ししか移動しない。抜き方はスラップコックだ

 

同じくカードボード佐藤さんのワックスのフォームを見てみよう。江田さん同様スラップコックで、銃が最少の移動距離で後方へ抜いている。このホルスター真上で撃ってBB弾を当てるのは非常に高度なテクニックだ。ハンドガンは通常、銃をターゲットへ突き出すようにすると、より確実に命中させることができるものだが、それを一切しないのだ。ファストドロウでもワックスでは銃を前に出して撃つシューターは多いが、佐藤さんも江田さんもシングルとダブルの両方で、そのドロウのフォームに違いはない

 

総合3位入賞のリル白川さんのダブルを見てみよう。撃ち方はアップファンだ

 

トリガーを引いたまま抜き、すでに左手の中指でハンマーを起こし始めている

 

銃口がターゲットに向く瞬間にはハンマーを起こし切って、リリース直前

 

ハンマーをリリースし発砲、見事にターゲットバルーンを撃ち割っている

 

すかさず身体全体を右方向へスイングさせ、掌で2発目のファンを開始

 

2発目も素早く確実にターゲットバルーンを捉えている

 

今回の大会のダブルで白川さんはミスショットなしの最速0.571秒を記録

 

リル白川さんの愛銃はフルチューンされ、その性能の良さももちろんだがビジュアル的にもとってもオシャレ。ツーハンド競技用のリグはSPEED製の一級品

 

今回の全国大会では総合2位の上近さんをはじめ、人生の大先輩のシューターの皆さんが大健闘。写真左奥のワイアット太田さん(中部)は総合10位入賞、その右隣のシューターは日本のレジェンドガンマンのお一人のジェス小林さん(関東)

 

本大会で最高齢のシューターはバーボン安井さん(中部)で御年84歳。ファストドロウが年齢に関係なく楽しめるスポーツだと証明してくださっている。服装もばっちり決まってカッコイイ

 

ハートフォードのオフィシャル革職人のトミー井濱さん(73才)は総合4位という好成績。もちろんリグは自作で、私も何本もオリジナルのリグを作ってもらっている

 

大会最終日、個人戦終了後の集計時間に支部対抗のエリミネーション(負け抜け)形式の団体戦が行われた。関東、中部、関西、九州の4支部から7人の選抜メンバーが出場。4支部の4人で並んで撃ち、最も遅かったシューターが退場し次のシューターへ交代、最後まで残った支部が優勝というルールだ。銃はガスガンで、近年盛んのカウボーイファストドロウの形式(銃は基本ノーマルで、ローマンレディポジションで待機、ターゲットは円形)で撃つ。私は昨年これに一番手で出場し「あと一人負かせば、ひとりで全員を倒す」というところまできたが、写真左手前の九州支部のロック池間さんに敗れて快挙達成とならなかった

 

ところが今年、ファストドロウを始めて1年、全国大会初参加のアップル岩田さんが関東支部の一番手で出場し「ひとりで全員を倒す」という前代未聞の大快挙を達成してしまった!! 試合開始直前に私がカウボーイファストドロウでのコツや、残り続けるコツをレクチャーし、試合中もアドバイスを続けたのだが、まさかの結果に私も驚愕。もちろん岩田さんの実力(総合11位)や、関東支部一丸となっての声援があっての結果だ。これだからファストドロウは本当に楽しくてやめられない。岩田さんは新人でも熱心に練習すれば全国大会で好成績を出せることを証明してくれた。今後の成長、ご活躍に期待したい

 

表彰式の前にはエキシビションにてT.K.ヒーロー江田さんの進行でガンプレイショーが行われた。写真は出演メンバー全員によるショーのクロージングの風船割り

 

 2026年度のファストドロウ全国大会 

“2026年 All Japan Fast Draw Championship in KYUSHU” 開催概要
日時:2026年11月22日(日)、23日(月・祝)
場所:福岡タワー
スタイル:トラディショナル(ツイスト禁止)
ファストドロウ関連のお問い合わせは、全国大会メインスポンサーのハートフォードへ
お問い合わせ先:ハートフォード
TEL:0120-187345

 

 

ファストドロウ スターターセット

 

 これからファストドロウを始めてみたい人に向けて「何を買い揃えればよいか」をご紹介したい。SAAのバレル長はお好みでよいが、ここではファスドロウで定番の4-3/4インチを掲載する。
※各支部の練習会では貸し出し用の銃やガンベルトがあるので、まずは手ぶらでの体験参加で大丈夫だ。

 

ハートフォード Colt Single Action Army .45

まず買うならSAAのモデルガンがよいだろう。写真のFDC(ファスト・ドロウ・カスタム)が買えればベストだが、スタンダードなSAAならあわせてノンスキップド・シリンダー(素材により¥5,500 〜¥7,700)も一緒に買おう。発火で風船を割るためにはダブルキャップカート(6発1セットで¥3,630)が必要だ。コンテストに参加するなら続けて7発は撃つので2セット分(12発)は最低揃えておく必要がある。
*最近再販された製品
SAA シビリアン HW 組立キット 価格:¥19,910
FDC ベーシックキット 価格:¥23,650

 

タナカ PEGASAS II ガスガンシリーズ

ガスガンはタナカのSAAペガサス2の一択だ。というか、タナカがペガサス式のSAAを発売してくれたからこそ、WFDA-JAPANの全国大会でガスガンの競技ができるようになったのだ。ただし現在はペガサスSAA用のツーハンドハンマーは発売(一般流通)されていない。ファストドロウの健全な普及と推進のために、タナカには是非ともツーハンドハンマーの発売をお願いしたい(熱烈リクエスト)
4-3/4インチ ブラック(ABS)価格:¥36,080
4-3/4インチ ブラック(HW)価格:¥41,580
4-3/4インチ ABSニッケルフィニッシュ 価格:¥43,780
4-3/4インチ ABSスチールフィニッシュ 価格:¥45,980(写真、9月中旬発売予定)

 

以前はファストドロウ入門用のリグといえばイースト.Aの「ウエスタンガンベルト」が定番だった。だが現在は革の素材の価格高騰により定価が¥47,300 〜¥48,950と値上がりし、手軽に買える価格帯ではなくなってしまった。そこで私が企画しアームズマガジンとイースト.Aのコラボ商品として好評発売中の「ネオ カウボーイ レザー」をオススメする。お手持ちのベルトに装着して使うホルスター単体の商品だが(別売りのベルトあり)デザイン自体は、よりファストドロウで使いやすいようにリファインしてある。吊った時の見た目としてはアンディ・アンダーソンのAAに近いスタイルだ。WFDAJAPAN公認商品。これでも予算的に手が出ない人には更に安価なナイロン製の「ネオ カウボーイ」もある。ただしWFDA-JAPANのルールに「リグの素材は革」と指定があるためナイロン製では公式の大会には出場できない
ネオ・カウボーイ(ナイロン製) ¥4,730
ネオ・カウボーイ レザー ブラウン/ブラック ¥17,600
ネオ・カウボーイ レザーベルト ブラウン/ブラック ¥9,900
※ホルスターは全て右用、左用あり

 

東京マルイ エアーリボルバープロ

SAA .45シビリアン 4-3/4インチ ブラック/シルバー

18才未満の方ならペガサス2の代わりにこれを買おう。10才以上用のパワーでもWFDA-JAPANのワックスターゲットのタイマーを止めることができるので、これで全国大会に出場可能だ
ブラック、シルバーともに¥18,480

 

ご参考までに私、トルネード吉田の場合をご紹介する。ファストドロウ全国大会ではツーハンドとサミングを併用。シングルとワックスはツーハンドで出場し、リグはSPEEDのツーハンド競技用。銃はハートフォードのFDCシルバー ツーハンドカスタムとタナカSAAペガサス初期型(六研ルネッサンスモデル)のツーハンドカスタム。撃ち方はどちらもスラップコックだ。ダブルはサミングで(2発目はファニング)、銃はハートフォードのFDCシルバー(ほぼノーマル)。リグはこの写真のもので、ネオ・カウボーイレザーをイースト.AのウエスタンガンベルトNo.060-L BR(No.010のループホルスター用)に簡単な加工で取り付けている。自画自賛で恐縮だが、ネオ・カウボーイ レザーはとても使いやすいのだ

 

今回の私の成績は総合8位だった。これまでの私の全国大会の最高順位は総合4位。​​​得意種目はワックスで、調子がいいとコンスタントに0.3秒台。だが現在は持病の腰痛、膝痛でファストドロウの練習に支障が出ている。ちょっと激しく練習すると腰痛になってしまうのだ。加えて長年のガンプレイのやり過ぎのため、ガンプレイもちょっと熱心に練習すると両腕の筋も痛くなる有様だ。こんな訳で、すでにファストドロウシューター、ガンプレイヤーとしてのピークは越えた気はするが、今回の全国大会で諸先輩方が大活躍されているのを目の当たりにし「弱音を吐いてはいられない」と再奮起中。長年の盟友リル白川さんも総合3位入賞だ。私も今後は総合3位を目標に頑張りたい

 

 

TEXT:トルネード吉田

写真提供:Lightning 戸津、Robert 小野、Sasugo 
Special Thanks:Tex 松本, WFDA-JAPAN Chairman

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年10月号に掲載されたものです。

 

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