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2025/06/04

新 WESTERN魂!:西部劇入門 2025

 

「どの西部劇を観たらよいですか?」、「オススメの西部劇は何ですか?」

 

 初めてコルトSAAやウインチェスターのレバーアクションなどのウエスタン系のトイガンを買った人や、新しく西部劇サバゲやファストドロウを始めた人から「どの西部劇を観たらよいですか?」、「オススメの西部劇は何ですか?」などとよく聞かれる。今回の話題は西部劇入門。初心者にオススメしたい西部劇映画と、西部劇を楽しく観るために知っておくとよいちょっとした基礎知識をご紹介する。

 

西部劇で使われる銃器のプロップ(小道具)は、往年のハリウッド西部劇やマカロニウエスタンでは時代考証が正確ではなく、その物語の時代設定にかかわらず拳銃はコルトSAA(1873年に登場)、ライフルはウインチェスター モデル1892レバーアクション(1892年に登場)が、ほぼすべてで使われた。例えばそれが南北戦争(1861年〜1865年)を舞台にした西部劇であったとしても。アメリカ西部開拓時代は1890年の米政府によるフロンティアラインの消滅宣言により終わったとされているので、一般的な西部劇にウインチェスターのモデル1892や1894が登場するのは間違いだ。総じてこれらの古い西部劇は時代考証がいい加減(というか大らか)だったのだ。往年のハリウッド西部劇でプロップとして使われたSAAは、まずコルト純正の、いわゆる1st.ジェネレーション(第一世代)のスモークレスパウダーモデルが主で、ブラックパウダーモデルも使われている。それとグレートウエスタンアームズカンパニー(1954年〜1964年にあったアメリカのレプリカ銃器メーカー)製のSAAだ(写真のウインチェスター1892は旧CMC製の絶版モデルガン、コルトSAAはハートフォードのモデルガンです)

 

 

西部劇とは

 

 まず、そもそも西部劇とはアメリカの西部開拓時代を描いた映画やテレビ作品などだ。時代としては主に19世紀(1800年代)の後半で(日本だと幕末から明治の頃)、作品によっては西部開拓が終わった後の時代(20世紀初頭まで)を描いたものもある。日本の時代劇のすべてがチャンバラ(刀剣で斬り合うアクション)作品ではないのと同様に、すべての西部劇がガンアクション作品というわけではない。西部劇は、あくまでアメリカ合衆国という国の、ヨーロッパから移住した白人達が北米大陸の東部から西部へと進出して、ひとつの大国へと成長していくさまを描いた建国の歴史を描いたものなのだ。だからガンアクションだけを期待して西部劇を観られると私としてはちょっと困るのだが、今回はアームズマガジン読者向けに紹介するので、当然ながらガンアクション多めの娯楽作品を中心に選ぶ。

 

 

西部劇の視聴方法

 

 残念ながら現在は新作の西部劇は日本ではほとんど公開されていない。そもそもアメリカ本国で昔ほど盛んに西部劇が作られていないので(特に勧善懲悪でガンアクション中心の娯楽作品)これはもう時代の流れで仕方ない。日本の時代劇だって、毎週放映されているのはNHKの大河ドラマだけになってしまった位だから。だから必然的に過去の名作を紹介するのだが、今の日本では、これまた昔の西部劇も気軽に観られる状況ではない。テレビの地上波ではほとんど放映されないし、今や映画鑑賞は配信が主流で、レンタルDVD屋で借りてくる人や、DVDを買ってコレクションする人は少なくなったと思う。


 NHKのBS放送は、けっこう西部劇を定期的に放映してくれるので衛星契約のある人ならこちらをチェックするとよいだろう。いろいろな名作が観られるはず。アマゾンプライム等の配信サービスでも西部劇はいろいろラインアップにあるようだ。だがいずれもクラシックな作品が多く、私がオススメする初心者向けの、ガンアクション多めの比較的新しい西部劇はラインアップにあまりないように思う。
 これから私が紹介する西部劇は、ハマると2回3回と繰り返し観たくなる作品ばかりだ。なので、視聴方法としては中古のDVDやブルーレイをいきなり最初から買っちゃう方法もオススメしたい。レンタル落ちなら安けりゃ500円で買える。これなら近くのレンタルDVD屋で借りてくるのと大して変わらない。

 

イタリアで製作されたマカロニウエスタンはロケ地もイタリアやスペインで、銃器プロップもイタリアのウベルティ等の銃器メーカーによって作られたレプリカ銃が使われることが多かった。イタリア製レプリカのSAAの大きな特徴はグリップフレーム(トリガーガード&バックストラップ)が真鍮製であることだ。コルト純正のSAAに真鍮製のグリップフレームのモデルは存在しないのだ。だがこの真鍮の金色の組み合わせは西部劇ファンに非常に人気が高く、SAAのトイガンでも必ずといってよいほどに真鍮製グリップフレームがオプションパーツとして発売される(写真のSAAはタナカの旧型ペガサスガスガンです)

 

 

3つの西部劇

 

 オススメ作品をご紹介する前に、知っておくとよい西部劇の基礎知識をお話ししたい。ひとくちに「西部劇」といっても、その作風は時代とともに変化しているため、私は西部劇を次のように大きく3つに分類している。

 

● 往年のハリウッド西部劇
● マカロニウエスタン
● マカロニより後の西部劇

 

これらの他にもSF/ホラー西部劇、和製西部劇、現代西部劇、カントリー映画などがあるが、いずれも小さなサブジャンルであるため、今回の話題には含めない。


 「往年のハリウッド西部劇」とは、映画誕生以来、アメリカで製作されてきた昔ながらのクラシックな西部劇だ。白黒の無声映画から始まって、音声がつき、カラー化され、映画が大衆娯楽の主役だった頃の作品。製作された年代としては、後述のマカロニウエスタンより前で、おおむね1960年代までだ。これらの作品は、主に19世紀後半を舞台にアメリカ建国の歴史を描き、詩情豊かで、フロンティアスピリッツにあふれ、時にカウボーイのヒーローがアウトロー(無法者)を銃で撃ち倒す勧善懲悪の作品が中心。歴史上の人物や事件が描かれても多くは創作に近く、まさに“アメリカ建国の神話”なのだ。

 

 だが時代が変わりインディアンの描き方が問題視されたり、ベトナム戦争によるアメリカ社会の変化や「アメリカンニューシネマ」という既存の価値観を破壊する新しい映画ジャンルの登場によって大衆が求めるものが変わってきたりして、これらの“古き良き西部劇”は次第に製作しにくくなった。映画史的には、この頃で“西部劇は死んだ”とも言われる。だが時代が変わっても、これらの作品自体がつまらなくなった訳ではない。

 

 代表的な作品はたくさんあるので選ぶに困るが…。カッコ内は製作年だ。『駅馬車』(1939年)、『荒野の決闘』(1946年)、『ウインチェスター銃’73』(1950年)、『真昼の決闘』(1952年)、『シェーン』(1953年)、『ヴェラクルス』(1954年)、『捜索者』(1956年)、『OK牧場の決斗』(1957年)、『リオ・ブラボー』(1959年)、『荒野の七人』(1960年)などだ。またテレビ西部劇としてはクリント・イーストウッド主演の『ローハイド』(1959〜1965年)や、有名な通称「ランダルカスタム」という切り詰め型のウインチェスターが主人公の愛銃として活躍する『拳銃無宿』(1958〜1961年)がある。
 この分類の区切りとなる作品は、マカロニウエスタンのブームがピークを迎えた頃に公開された『ワイルドバンチ』(1969年)までだろう。


 「マカロニウエスタン」とは(欧米では「スパゲッティウエスタン」と呼ばれる)イタリアで製作されたアクション性の高い娯楽西部劇のことだ。その始まりは、アメリカの西部劇を観て育ったイタリア人が、それを真似して自国で撮ったのもので、要は“西部劇ごっご”のノリなのだ。1964年にセルジオ・レオーネ監督がアメリカからクリント・イーストウッドを主演に呼んで撮った『荒野の用心棒』が「面白い!」と世界的大ヒットとなった。これがマカロニウエスタンブームの始まりだ。実はこの作品、黒澤明監督の有名な時代劇『用心棒』(1961年)を勝手に西部劇におきかえたものなのだ(盗作)。そして「この大ヒットにあやかれ!」と商魂たくましいイタリア人たちが立て続けにイタリア製の西部劇を大量生産。何せイタリア人が“西部劇ごっご”のノリで作ったものであるためフロンティアスピリッツや詩情などはなく(レオーネ監督作品以外)、ほぼすべてがガンマン達が激しく撃ち合うガンアクション作品となっており、低予算で雑に作られた作品が大半だ(粗製乱造)。しかし斬新なアイデアや演出のある傑作も多く、マカロニウエスタンというひとつの映画ジャンルとなった。エンニオ・モリコーネをはじめとするイタリア人の作曲家による哀愁ただよう音楽も素晴らしいため熱狂的なファンも多く、今でも根強い人気を誇っている。

 

 代表的な作品は『荒野の1ドル銀貨』(1965年)、『夕陽のガンマン』(1965年)、『続 荒野の用心棒』(1966年、原題は主人公の名前の“Django”)、『続 夕陽のガンマン/地獄の決斗』(1966)年、『ガンマン無頼』(1967年)、『新・夕陽のガンマン/復讐の旅』(1967年)、『怒りの荒野』(1967年)などだ。
 マカロニウエスタンはわずかな期間にもかかわらず約500本も製作されたそうだが、粗製乱造されたため、1970年代初頭でブームは急速に衰退し「マカロニウエスタンは終わった」のだ。

 

 映画ジャンルとしていったん終焉を迎えた西部劇だが1970年代以降も細々と製作され続けている。それが「マカロニより後の西部劇」だ。作風もこれまでとは大きく異なり、1970年代以降の西部劇は暗い雰囲気の作品も多い。しかし1980年代後半に西部劇は新たな転機を迎える。1988年に若手スター俳優たちを主演に迎えた『ヤングガン』が大ヒット。テレビのミニシリーズの『ロンサム・ダブ』(1989年)によって西部劇に徹底したリアリズムが導入され(それまでの西部劇の時代考証はいい加減なものがほとんどだった)、さらに『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(1990年)とクリント・イーストウッドが監督・主演した『許されざる者』(1992年)がアカデミー作品賞を受賞。これらの影響によって1990年代は、ちょっとした西部劇復活のプチブームに沸いた。また、このマカロニより後の西部劇では、イタリアの銃器メーカーによって作られた様々なレプリカ銃がプロップとして使われるようになり、銃器も時代考証に合ったものとなった。以降、西部劇はブームとまではならないものの、細々と製作が続けられて現在に至る。

 

マカロニウエスタンブーム終焉後の西部劇では、徐々に時代考証が正確になっていき、銃器のプロップも物語の時代設定に合わせてウインチェスター モデル1873やコルト ドラグーン、コルト1851ネービー等のパーカッション式リボルバー等も使われるようになった。そのほとんどはSAAも含めてイタリア製のレプリカ銃だ。つまりイタリアのレプリカメーカーと、それを成長させたマカロニウエスタンのおかげで西部劇がリアルになったのだ。なお、SAAのグリップフレームはイタリア製であっても真鍮製ではなくなり、コルト純正のSAAと同様のスチール製だ(写真のウインチェスター1873は旧MGC製の絶版モデルガン、コルト ドラグーンはハートフォードのモデルガン、1851ネービーは東京マルイ製のエアコッキングガンです)

 

 

オススメ西部劇

 

 前置きが長くなったが、若い世代の西部劇初心者を対象に、私がオススメする西部劇をいくつか紹介していこう。その中心は主に「マカロニより後の西部劇」だ。今のCGによって進化したド派手な映像作りに慣れた若い世代の人たちに、いきなりクラシックな映画を勧めるのはやはり気が引ける。あまりにも画作りや話のテンポが今と違いすぎるからだ。だから比較的、新しい作品から紹介する。


 まず筆頭のオススメは『マグニフィセント・セブン』(2016年)だ。悪徳実業家に狙われる町の住民が7人のガンマンを雇って悪党から町を守るという単純明快なストーリーだ。個性あふれる7人のガンマンが魅力的で、勧善懲悪のアクション娯楽作。最近の西部劇では、この作品が一番人気だろう。この作品によって新しく西部劇ファンになった人も多い。実はこの作品、1960年の『荒野の七人』(原題は「The Magnificent Seven」で同じ)のリメイクなのだ。これもガンアクション西部劇の名作でテーマ曲も有名だ。人気が出たので続けて3本のシリーズ作品も作られた。その『荒野の七人』も、黒澤明監督の大傑作時代劇『七人の侍』(1954年)を西部劇に翻案したものだ(こちらは正式に権利を取得)。もし『マグニフィセント・セブン』を気に入ったら『荒野の七人』(と『七人の侍』)も見比べると楽しいだろう。加えて『荒野の七人』のパロディとも思えるコメディ西部劇の『サボテン・ブラザース』(1986年)もかなり笑えて面白い。

 

 次は『3時10分、決断のとき』(2007年)だ。貧しい農家の男が悪党グループのリーダーを駅まで護送する話なのだが、これも全編ド迫力のガンアクションたっぷり。メインの登場人物は皆スタイリッシュで、2000年代はこの作品が新しい西部劇ファンを増やしたのに間違いない。この作品も1957年の『決断の3時10分』という往年のハリウッド西部劇のリメイクだ。こちらは古い白黒の作品で、アクションよりストーリー展開、サスペンス重視だが、昔の映画に抵抗がない方なら見比べると面白いだろう。


 近年のリメイク作だと『トゥルー・グリット』(2010年)もオススメだ。父を殺された少女が片目で凄腕の飲んだくれ保安官と一緒に犯人を追うストーリー。主人公のルースター・コグバーン保安官はコルト1851ネービーを二挺拳銃で使うので、東京マルイのM1851 NAVYを買われた方は、ぜひご覧になると楽しいだろう。この作品は往年のハリウッド西部劇の大スター、ジョン・ウェインが主演した『勇気ある追跡』(1969年)のリメイクだ。この作品で有名なのはクライマックスの4対1の馬上での撃ち合い決闘。ウェイン演じるコグバーン保安官は馬の手綱を口にくわえ、右手にウインチェスター1892カービンを、左手にコルトSAAを持って相手に向かって突撃する。その際ウインチェスターは片手で連射(レバー操作)するためにライフルスピンというテクニックを使う。ウェインはこの作品で長年の悲願だったアカデミー最優秀主演男優賞を受賞。コグバーン保安官を再び演じた『オレゴン魂』(1975年)という続編も作られ、こちらも楽しい西部劇となっている。


 1990年代の西部劇では『クイックアンドデッド』(1995年)が熱烈オススメだ。主人公は女ガンマンで、当時、世界トップの美女と言われた女優のシャロン・ストーンが最高に美しくカッコよく演じている。ストーリーは1対1の早撃ち決闘のトーナメントが開かれる西部の町へ女ガンマンが参戦し、トーナメントの主催者であり、その町の支配者の悪党を倒すというもの。全編を通して撃ち合いの連続で、珍しい銃がドアップで映ったり、派手なガンプレイ(ガンスピン)のシーンもあったり、作風もマカロニウエスタン調でクールだったりとすべてが見どころだ。この作品を観て「面白い!」と思ったら、マカロニウエスタンをぜひ観ていただきたい。マカロニウエスタンでの私のオススメは前出の作品だ。


 1980年代を代表するアクション娯楽西部劇としては『シルバラード』(1985年)と『ヤングガン』(1988年)の2本をオススメしたい。『シルバラード』は4人のガンマンがシルバラードという町をそれぞれの理由で目指すストーリーで、往年のハリウッド西部劇のお決まり(早撃ち決闘や乗馬のアクション、牛の暴走など)がすべて詰め込まれており、活劇としての往年のハリウッド西部劇の魅力をてんこ盛りにした作品なのだ。だから面白くない訳がない。『ヤングガン』は、西部の有名な少年アウトロー “ビリー・ザ・キッド”( 21才で友人だった保安官に殺されるまでに21人を殺したと伝えられている)を魅力たっぷりにド派手なガンアクションを交えて描いた作品だ。ビリーは、ハートフォードがモデルガンで発売したコルト1877ライトニングを二挺拳銃で撃ちまくる。大ヒットしたため『ヤングガン2』(1990年)も作られた。
 以上は、どの作品もDVDやBlu-rayが発売済なので視聴は難しくないだろう。それと私個人としては、日本語吹き替えでの鑑賞も楽しくてオススメなのだ。


 最後にもう1本、現状では視聴困難な作品なのだが、超オススメの西部劇がある。それは『トゥームストーン』(1993年)だ。あまり有名ではないが、隠れた大傑作だ。実在の西部の名保安官ワイアット・アープと親友の元歯科医で殺し屋ギャンブラーのドク・ホリディの熱く激しい生きざまを見どころ満載、ガンアクションたっぷりに描き、比較的、史実に忠実でありながら見事にエンターテインメントに徹している真の傑作西部劇だ。たまにテレビの地上波で放映されるが、136分の映画をCMありの2時間枠に収めるため全編をズタズタにカットされ、何と大きな名場面のひとつのドク・ホリディとライバルのガンマン、ジョニー・リンゴの酒場でのガンプレイ(ガンスピン)対決もばっさりカットという悲劇。Blu-rayは日本では未発売で、DVDも長らく廃盤。その中古DVDも5千円とか8千円、1万円以上とかの高値で取り引きされている。もし何とか視聴できるなら、絶対にオリジナルの長さで観ていただきたい作品だ。

 

西部劇のプロップの話として、ガンベルトについても書こう。実際のアメリカ西部開拓時代では、例えばこの写真のようなガンベルトが使われていた。この写真のホルスターは「メキシカンループ」と呼ばれるタイプで、1枚の革を折り曲げて作られている。銃はホルスターに深く収まり、腰の高い位置で吊るのが特徴だ。現代では、これらのガンベルトは「オールドタイプ」と呼ばれている。当然ながら西部劇も映画誕生以来、このオールドタイプのガンベルトを使って撮影されている

 

 

西部劇をより楽しむために

 

 せっかく西部劇を観るなら、物語をより深く理解するために、ちょっと知っておくとよい歴史的な基本情報を簡単に紹介する。次の2つだ。


● アメリカ南北戦争
● 西部開拓時代の終わり


 南北戦争(American Civil War:1861年〜1865年)は、アメリカが北部と南部で真っ二つに分かれて戦われた内戦だ。名目上は黒人奴隷の解放だったが、工業が経済の中心の北部と農業中心の南部の様々な利害も戦争の原因となった。南北戦争では推定69万8千人の兵士が死亡し(民間人の死傷者数は不明)アメリカが現在までに経験した戦争で最も多い死傷者を出し、国として深い傷跡を残している。南北戦争そのものを描いた西部劇や、南北戦争によって人々に残された心の傷が描かれる西部劇も少なくないので、ざっくりでも南北戦争を知っておくと西部劇への理解が深まるはず。


 未開の西部の広大な土地では(隣町へ行くのに馬で数日とか)自分の身は自分で守るしかなかった。そんな西部は、銃で物事を解決するガンマン(ガンファイター)が活躍できる場所だったのだ。ワイアット・アープやワイルド・ビル・ヒコック、ビリー・ザ・キッドなど、実在する有名なガンファイターは多い。しかし西部開拓時代が終わりを告げると、ガンファイターたちは行き場を失う。米政府によるフロンティアラインの消滅宣言が1890年。だから物語の時代設定だと1890年頃から1900年代初頭となるが、そんなガンファイターたちの最後や失われゆく古き良き西部を哀愁たっぷりに描いた西部劇にも名作が多いのだ。


 アメリカ西部開拓時代の歴史を手っ取り早く知りたければ、『西部開拓史』(1962年)がオススメだ。シネラマというパノラマ上映の形式で撮影された2時間45分の超大作で、1839年から1889年までの50年間を、ある開拓一家の視点から親子3代にわたって描く。もちろん映画(フィクション)なので事実と異なる部分もあるだろうが、アメリカ西部開拓時代のイメージをつかむには最適だ。

 

 

西部劇入門、トルネード吉田の場合

 

 私は1970年、昭和45(フォーティファイブ)年生まれだ。生まれた頃に往年のハリウッド西部劇やマカロニウエスタンが終焉を迎えたため、西部劇とは無縁の世代。西部劇は二十歳位まで観たことがなかった。『ダーティハリー』シリーズでクリント・イーストウッドのファンだったので、ある日ふとテレビの深夜放送で『荒野の用心棒』を観て、その強烈な作風や音楽、ガンアクションに衝撃を受け、初めて西部劇に興味を持った。その後、立て続けにテレビで『シェーン』と『荒野の決闘』を観て、完全に西部劇にドハマリしたのだ。すぐにコルトSAA(とガンベルト)、ウインチェスター1873のモデルガンを買い、レンタルビデオを中心に西部劇を片っ端から観はじめた。そして『怒りの荒野』でガンプレイに開眼。『怒りの荒野』はガンマンの師弟対決もので、いろいろな早撃ち、曲撃ち、ガンプレイが炸裂するマカロニウエスタンの傑作だ。「こんな風にSAAを使えるようになりたい!」という一念で、来る日も来る日も西部劇を観ながら練習に励むようになり、「トルネード吉田」が出来上がったのだ。


 西部劇こそ、わが原点。本連載のタイトル“WESTERN魂!”とは、ズバリ“西部劇を愛する心”に他ならない。だから皆さんへ西部劇を熱烈にオススメするのだ。

 

西部劇でガンマンによる早撃ち(決闘)が描かれるようになると、俳優が短い練習期間で素早く腰からSAAが抜けるように、写真のような早撃ち用のガンベルトが開発されプロップとして使われるようになった。1950年代の話だ。写真のガンベルトのホルスターは2枚の革を張り合わせ、その内側に金属板を挟み込んでいる(メタルライニング)。これによってSAAをホルスターに入れたままスムーズにハンマーを起こせるようになり、より素早い抜き撃ちがしやすくなった。メタルライニングホルスターを発明したのはアルボ・オジャラというハリウッドの有名なガンコーチだ。このタイプのガンベルトが現在のファストドロウ競技のルーツになっている。写真はアンディ・アンダーソンという有名な革職人が作ったタイプのレプリカだ(SPEED製)。このような早撃ち用のガンベルトは往年のハリウッド西部劇の1950年代以降の作品とマカロニウエスタンで使われたが、時代考証が正確になったマカロニ以降の西部劇では徐々に早撃ち用は使われなくなり、再びオールドタイプのガンベルトへと戻っている

 

 

TEXT:トルネード吉田

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年7月号に掲載されたものです。

 

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