ミリタリー

2025/08/02

自衛隊 新時代 組織の抜本的改革、共同部隊新編へ

 

自衛隊 新時代

組織の抜本的改革、共同部隊新編へ

 

儀仗隊による栄誉礼を受ける南雲司令官。司令官だけでなく、各部長級も含め、主要幹部は、すべて陸海空自衛隊から選ばれる

 

陸海空自衛隊をまとめる統合作戦司令部発足

 

 今年度、自衛隊は大きく変わる―。
 変革の象徴ともなったのが、2025年3月24日の「統合作戦司令部」の新設だ。これまでの自衛隊にはなかった新たなセクションであり、陸海空自衛隊による統合作戦をより効果的に遂行するのが目的だ。
 創設以来、陸海空自衛隊は、陸上幕僚監部、海上幕僚監部、航空幕僚監部の3つの司令部たる組織を編成しており、将の階級の幹部が各幕僚長を務めている。そして各幕の上に統合幕僚会議を置き、陸海空の幕僚長経験者が、統合幕僚会議議長を務めてきた。統幕議長は、制服組の最高仕であったが、陸海空自衛隊の指揮はあくまで各幕僚長が執り、防衛庁長官(当時)を補佐するのが役目であった。


 さらに2006年に統合幕僚監部を新設し、トップたる統合幕僚長(各幕僚長よりも1個上の「将」司令職8号棒)が、防衛大臣の補佐を行うとともに、臨時編成される統合任務部隊(=JTF)部隊の指揮官たるJTF司令官を指定する。この体制にて、東日本大震災や北朝鮮による弾道ミサイル対処などの任務を遂行してきた。だが、臨時ではなく、平時より陸海空自衛隊をまとめる司令部が必要であると判断された。これが「統合作戦司令部」設立の経緯だ。
 初代司令官を務めるのは南雲憲一郎空将だ。元F-15パイロットであり、アグレッサーにも所属していた凄腕パイロットとして有名なだけでなく、第6航空団司令、西部航空方面隊司令官、統合幕僚副長等要職を歴任した。なお、TACネームは「チュージョー」。帝国海軍にて第1航空艦隊司令官等を務めた南雲忠一中将に由来している。統合作戦司令官は、各幕僚長と同列の「将」(指定職7号棒)となっている。


 統合作戦司令部は、陸海空自衛隊の共同機関だ。統合作戦司令官を補佐する副司令官というポストがあり、陸海空自の「将」の階級の幹部が就く。初代副司令官は、海自佐世保地方総監だった俵千城海将だ。防大33期で、潜水艦隊司令官等、海自における要職を歴任してきた人物だ。さらに司令官補佐官という防衛官僚によるポストもあり、京都大学法学部出身の伊藤哲也事務官が務める。
 司令部約240名の人員を取りまとめるのが、統合作戦司令部幕僚長であり、陸海空自の「将」の階級の幹部が就く。初代幕僚長は、防大36期の南川信隆陸将であり、特科職種の幹部として1佐時代には第7特科連隊を指揮した。


 幕僚長の下には、総務官、情報部、作戦部、後方運用部、指揮通信運用官、法務官と言った各セクションが配置されている。各部長は陸海空自衛隊の「将補」の階級の幹部が就く。なお、初代の面々を見てみると、情報部長は空将補、作戦部長は陸将補、後方運用部長は海将補の階級の幹部と、陸海空自衛官をバランスよく配置しているのが分かる。
 さらに日米同盟をより効果的にするため、統合作戦司令官は、米インド太平洋司令官とのパイプ役でもある。米インド太平洋軍とは、太平洋、インド洋を担当し、東アジア、南アジア、オセアニアエリアの安全保障を担当する巨大な軍事組織だ。中台問題、朝鮮半島情勢など、数々の火種を抱えたエリアに多大なる影響力がある指揮官と、スムーズなやりとりができるようになる。

 

中谷元防衛大臣より初代統合作戦司令官である南雲憲一郎空将へと隊旗が授与された。初代司令官は空自幹部から選抜されたが、今後は、陸海空自衛隊の「将」の持ち回りとなる

 

統合作戦司令部の英語表記はJSDF Joint Operations Commandとなる。これをJJOC(ジェイジョック)と略す

 

新編行事にて整列する司令官以下約240名の司令部要員。幕僚長の下に総務官、情報部、作戦部、後方部、指揮通信部、法務官が編成される。陸海空自衛官が混在している

 

 

 

自衛隊海上輸送群 新編 陸自の“船乗り”誕生

 

LSV-4101「ようこう」。基準排水量3500t。全長約120m、最大幅約23m、喫水約4m、速力15ノット。乗員は艦長以下約40名で運用する

 

海自呉基地の係船堀地区に係留される「ようこう」。現在「にほんばれ」も同基地を母港としているが、阪神基地へと移駐する計画だ

 

2025年5月30日、「ようこう」艦尾旗竿に自衛艦旗が翻る。これにて正式に防衛省自衛隊の所属艦となった

 

 2025年3月24日、自衛隊の共同部隊である「自衛隊海上輸送群」が新編された。この部隊の任務は部隊名の通り“輸送” だ。共同部隊ではあるが、中核となっているのは陸上自衛官であり、その比率は部隊全体の九割。事実上の陸自部隊と言っても過言ではないだろう。よって、「帝国陸軍船舶工兵の復活か⁉」と話題になった。


 初代群司令を務めるのは、馬場公世1等陸佐だ。陸自では、“群”の指揮官は「1佐」の幹部が就くことになっている。一方で、海自において“群”の指揮官は、「将補」の幹部が就くことになっている。ここから分かることは、編成については陸自式を採用したということだ。ただし、その指揮官の呼び名であるが、陸自では“群長”と呼ぶのに対し、海自は“群司令”と呼ぶ。よって役職名については海自式を取り入れた。
 馬場1佐は、輸送学校研究部長を務め、海上輸送群創設に尽力された。幹部や陸曹士は、輸送科職種の陸上自衛官を集めた。教育は海自に一任しており、幹部は江田島にある幹部候補生学校、陸曹士は、第1及び第2術科学校などで学ぶ。その後、輸送艦「おおすみ」型等で、実務経験を積んでいく。現在は輸送科だけでなく、職種を問わず多くの人材が集められており、普通科や特科などの隊員も含まれている。


 部隊の整備とともに、輸送艦も続々と引き渡されている。2025年4月6日に輸送艦LCU-4151「にほんばれ」、5月30日に輸送艦LSV-4101「ようこう」がそれぞれ就役した。現在はこの2隻のみであるが、今後「ようこう」型2隻、「にほんばれ」型4隻、小型の機動舟艇4艇、計10隻の艦艇を配備する計画となっている。
 海上輸送群の編成は、第1海上輸送隊と第2海上輸送隊の2個隊となっている。「ようこう」型は第1海上輸送隊、「にほんばれ」は第2海上輸送隊に所属している。そして、海上輸送群司令部及び2隻の輸送艦は、ともに海自呉基地に置かれているが、将来的に、阪神基地へと部隊を分散する計画だ。   


 2027年に、海上輸送群は完成する。

 

若宮健嗣防衛大臣補佐官より受け取った真新しい自衛艦旗を掲げる初代「ようこう」艦長(写真左)。艦長は海自幹部が務める

 

LCU-4151「にほんばれ」。基準排水量2400t。全長約80m、最大幅約17m、喫水約3m、速力15ノット。乗員は艦長以下約30名で運用する

 

「おおすみ」型で勤務する陸自幹部自衛官。艦内では、いつもの緑を基調とした迷彩服を着用する

 

「おおすみ」型にて機関科の一人として勤務する陸自幹部。こうして海自艦艇で学んだ後、自衛隊海上輸送群へと配置される

 

江田島にある第1術科学校で学ぶ陸自隊員。海自隊員と共に同じ課目を履修していく

 

 

日本初スタンドオフミサイル部隊 第2特科団、編成完結!

 

由布岳をバックにズラリと整列する山田連隊長以下約300名の隊員たち。車両の後方にあるプレハブは、第8地対艦ミサイル連隊の隊舎。今後、駐屯地内に隊舎が建設される

 

第2特科団の本部が入る隊舎に、第8地対艦ミサイル連隊の看板も掲げられた

 

第8地対艦ミサイル連隊のシンボルマーク。漢字の「八」で由布岳を表し、その上をドラゴンが数字の「8」の字を描き、無限大を表している

 

 2025年3月24日、湯布院駐屯地(大分県)において、第2特科団隷下部隊となる第8地対艦ミサイル連隊が新編した。そして3月30日、編成完結式が行われ、本田太郎防衛副大臣より初代連隊長・山田大作1等陸佐へと隊旗が授与された。
 第2特科団(団長:伊藤久史陸将補)は、それまであった九州沖縄エリアを防衛警備する西部方面特科隊を母体として、島嶼防衛体制を強化する目的で、2024年3月21日に新編された。


 これまでの方面特科隊と違うのは、大砲よりも“地対艦ミサイル”を主たる武器としている点だ。
 それが、第5地対艦ミサイル連隊(健軍駐屯地)及び第7地対艦ミサイル連隊(勝連分屯地)だ。これら部隊には、陸上より洋上の艦艇を攻撃できる12式地対艦誘導弾が配備されている。この誘導弾(=ミサイル)を使い、日本の南西諸島部へと近づく中国艦艇を撃破するのが任務だ。そして、この度第8地対艦ミサイル連隊が新編され、3個連隊体制を確立した。

 

 そればかりではなく、現在防衛省が進めるスタンドオフミサイル配備部隊としてさらに大きく変わっていく計画だ。
 スタンドオフミサイルとは、長距離巡航ミサイルの事を指す。敵の対空ミサイルの射程圏外から射撃することができるため、敵よりも先に攻撃できる。そのためには、日本の領海を飛び越えるほどの長射程を飛翔する能力を持つことにもなる。そこで長らく、専守防衛を掲げる日本には不必要な武器と考えられており、保有の是非を問う議論すら許されなかった事情があった。しかし、現在の日本の安全保障環境の厳しさを受け、そうも言っていられない事態となり、急ピッチでスタンドオフミサイルの開発が行われている。戦闘機から発射する空発型、護衛艦から発射する艦発型、そして第2特科団へと配備される陸上から発射する地発型の3種類のミサイルを装備する。


 地発型の一つとして、まもなく実戦配備されるのが、「12式地対艦誘導弾能力向上型」だ。名前の通り、これまで配備してきた「12式地対艦誘導弾」を改造したもので、射程を3倍以上伸ばし、900~1500kmとなる。さらに「島嶼防衛用高速滑空弾」を開発中で、こちらの射程は約3000kmとなる計画だ。これらを第2特科団は配備する計画だ。そして南西諸島部の守りをより完璧なものへとする。

 

本田防衛副大臣から真新しい隊旗を受け取る山田連隊長。これで、第2特科団は計画通り3個地対艦ミサイル連隊体制となった

 

第2特科団の3個地対艦ミサイル連隊の主力装備となっている12式地対艦誘導弾。間もなく能力向上型が配備される計画だ

 

2024年12月、新島試験場にて、発射試験を行う「12式地対艦誘導弾能力向上型」。(写真・防衛装備庁)

 

 

Text & Photos:菊池雅之

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年9月号に掲載されたものです。

 

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