ミリタリー

2025/03/27

富士教導団レンジャー 栄光への道(前編)

 

富士教導団レンジャー 栄光への道(前編)

 

射撃が終わった後、すぐに突入するのではなく射撃効果の確認も行う。周囲は静寂に包まれるが、目と耳で敵の動きを察知するのだ

 

 陸上自衛隊で最も過酷と言われるレンジャー訓練。選抜された志願者のみが参加することを許される、その訓練の全貌に迫る。

 


 

 残暑が残る静岡県御殿場市に位置する滝ケ原駐屯地において、第54期レンジャー養成訓練が行なわれた。
 陸上自衛隊におけるレンジャーとは、遊撃活動、いわゆるゲリラ活動を行なうことができる技能を身に着けた隊員のことを指す。
 具体的には、膠着した前線地域を迂回して敵の側面や背後に回り込み、敵をかく乱する作戦を行なう。このほか、敵の後方に設置される通信所や指揮所などの、部隊を指揮する上で必須となる施設を破壊することもあるだろう。


 作戦によっては、敵の補給隊などに襲い掛かる伏撃といった行動をする場合もある。

 このように、本隊と離れた位置で独立して作戦を遂行するため、レンジャー隊員は山地や水路、空路といったあらゆる地形を克服できる移動手段を習得し、任務を達成するために必要なスキルを学ぶ必要があるのだ。
 そのスキルを学ぶのがこの養成訓練で、一般的に1から2年に1回のペースで行われている。

 

教育隊長である普通科教導連隊第3中隊長の松田3佐(当時)から隊旗を受け取る学生長

 

一人ひとりに渡される伝統のロープ。学生はこのロープを活用して結び方などのロープの基礎を学ぶ

 

富士教導団レンジャーの伝統であるロープの授与も行なわれる。これはロープに慣れ親しみ、信頼することを目的としているそうだ

 

駐屯地内にあるレンジャー塔と呼ばれる施設。登坂やロープ技術を習得するために活用される施設で、普通科が所在する全国の駐屯地に設置してある

 

基本的な登坂技術を習得するには、クライミングジムなどで使用されているホールドを使っての訓練が行なわれる

 

担架を使用した負傷者の搬送方法について学ぶ学生。大切な仲間を守るためには必須の技術といえよう

 

恐れず、しかし侮らず。基本に忠実に訓練すれば信頼感が生まれ、それが任務達成に大きく影響することを彼らは学ぶ

 

 なお、陸自には複数のレンジャーがある。代表的なのが、富士学校や第1空挺団で行われている「幹部レンジャー」や「空挺レンジャー」だ。
 この2つのレンジャー教育は、陸上幕僚長が示す教育スケジュールに則って行われるため「課程教育」と位置づけられている。


 その一方で、今回取材できたレンジャー教育のような「部隊レンジャー」は全国の師団や旅団、団で行なわれているものである。これらの教育はそれぞれの部隊長が示す教育となっているため「集合教育」という位置づけなのだ。
 両者の何が異なるのかといえば、「課程教育」のレンジャーは全国規模で通用するスキルを身に着けるという側面がある。

 

体力調整運動の前に実施される安全点検。定められた通りの装備になっているか、装具に不備はないか、体調は万全かなどを確認する

 

水筒の脱落防止や揺れ防止にも目を配る。命の水を大切に扱えない隊員は、レンジャー訓練に参加する資格はないのだろう

 

懸垂は一般部隊のやり方とは異なるレンジャー方式である。しっかりと基準を満たしているか毎回確認され、不備がある場合はカウントしてもらえない

 

太ももが焼けるように熱くなる屈み跳躍。何度も繰り返し行われるが、正しい姿勢を保持し続けることが求められる

 

もう辞めるのか。諦めるのか。体力調整運動は根性を鍛えることにも一役買っている。学生が根性を鍛えるのは、今しかないのだ

 

あらゆる地形を克服するという普通科の役割を体現するような障害が数多く設置されている訓練場。場合によっては大きくジャンプしてクリアする必要もある

 

鉄条網を潜り抜けるため、中腰で横向きにジャンプしたりしながら移動する学生。この中途半端な高さが一番難しく、体への負担も大きい

 

低鉄条網を匍匐前進で進む学生。雨が降ればたちまち水たまりができるため、この日はラッキーだったといえるだろう


 たとえば「幹部レンジャー」であれば、全国で行われるレンジャー教育における「レンジャー教官」を養成するための教育であるため、全国一律の基準を富士学校や第1空挺団で学ぶのだ。
 また「空挺レンジャー」とは、第1空挺団教育隊が行う課程教育で、日本全国に広く展開する可能性がある空挺団に所属する幹部と陸曹隊員にレンジャー教育を行う。
 他方、「部隊レンジャー」とは、全国の師団や旅団などが、それぞれの地域的な特性を加味して教育内容を定めている。有名な所でいえば第12旅団の「山岳レンジャー」があるだろう。

 

 これは長野県の松本駐屯地に所在する第13普通科連隊が担任した場合に名づけられる愛称だ。
 また、長崎県の相浦駐屯地に所在する水陸機動団では「水陸両用レンジャー」という特色ある教育を行っており、今回取材できた富士教導団も「富士教導団レンジャー」として富士山界隈を舞台に様々な教育が行なわれた。
 レンジャー教育の前半は基礎訓練と呼ばれる様々な訓練が行われる。

 

体力調整運動に続くハイポートのため、全員が必死だ。必死になって喰らいついていかないと、余計に辛くなる。ここが根性を見せる場所なのだ

 

学生が必死になって走っている中で余裕の走りを見せる助教。指導部である彼らに余裕がないと、学生が危険な状態になるため、指導部には余裕が必要なのだ

 

先頭を走る学生長。隊旗を巻きつけた銃は他の銃よりも重いが、決して離すことなく正しい位置で持ち続ける。これが学生長のプライドだ

 

山地総合訓練で自衛隊の敷地外にある生地(せいち)での訓練を行う学生。実際の山で訓練することで、多くの事を経験できるはずだ

 

何があっても仲間を見捨てない。その精神を養いつつ、実際に動けなくなった仲間を助ける術も学ぶ

 

あらゆる方法で前進するレンジャーにとって、水路を使った潜入スキルも必須となる

 

空路潜入のひとつの手段としてリペリング降下を行う学生。UH-1Jは全国に配備されている標準的なヘリコプターで、この機体になれれば、どこでも任務を遂行できる

 

 最も習得すべき技術がロープワークだ。
 訓練開始式で渡されるロープ。これは富士教導団レンジャーの伝統で、ロープの結び方を学び、自身が身に着けるロープを信頼することで、初めてレンジャー訓練が行えるからだ。


 それを裏付けるように、基礎訓練では体力調整運動などのロープが必要ない訓練も行われるが、登坂、リペリング、救助法、水路潜入などにおいてロープは多用される。
 つまり、ロープを扱えない隊員は、レンジャー教育に参加することができないともいえるのだ。

 その一方で、前述した体力調整運動などに付いていけない隊員も、この先に待ち構える行動訓練で動けなくなってしまうため、十分な基礎体力も必要となる。

 

隊列を組んで行進する学生。声が枯れても声を出し続け、時にはレンジャー数え歌などを”熱唱”する

 

道中では、原隊から応援に駆け付けた隊員が激励する場面も。他部隊の隊員でも応援されれば嬉しいのだから、自分の部隊から来てくれたとなれば、なおさら嬉しいだろう

 

体力、気力が尽きそうになってからがレンジャーだとも言われる。学生は教官助教を信頼して、全力を出し切るだけ。これは養成期間中にしかできないのだ

 

生きた蛇を調理する学生。蛇は比較的発見しやすい野生生物で、調理も容易で肉量も多い。栄養価も高く、サバイバルに適した食材なのだ

 

官品で構成される生存自活セット。様々なサバイバル用品が組み込まれている。うまく活用すれば、あらゆる場所で生き抜くことができるだろう

 

カリカリに揚がった蛇串を食べる学生。初めて食べた蛇の味は、思いのほか美味しかったらしい。確かに酒の肴になる味わいだった

 

 ひと昔前のレンジャー教育であれば、今ではパワハラと認定されてしまうようなこともあったが、今のレンジャー教育はそういったパワハラまがいな事はほぼない。
 その代わりに、しっかりとした技術と知識を身に着ける教育方針に転換しているのだ。
 とはいえ、レンジャー教育がきつくないと言うのは違う。また、我慢していれば時間が解決するというのも違う。


 今のレンジャー隊員に求められているのは、部隊に帰ったあとに、即戦力として行動できる隊員を養成することを主眼に教育が行われているのだ。
 その背景には、日本全国で発生する自然災害に対応するという側面もある。
 記憶に新しい能登半島地震では、数十キロの支援物資を背負い、道なき道を進む陸上自衛官の姿が報道された。


 これは、レンジャー教育中の山地機動技術を転用した結果として達成できた支援で、こうした実戦で役に立つスキルを災害派遣で活用することができるのだ。
 もちろん、レンジャー教育で教えることは実戦を想定した行動である。
 あらゆる状況下においても、与えられた任務を達成するために必要なスキルと気力を学ぶのである。

 

準備が整い隊舎から出発する学生。移動する時は駆け足が基本だ。いつでも歩調を合わせて目的地まで走っていく

 

全周警戒につく学生と、それを指導する助教。学生は高いレベルで緊張感を維持しながら訓練に臨む

 

砂盤を使って作戦会議を行う。班の中で誰がどのように動くのか。決めすぎるのは良くないが、決めておかないと話が進まない

 

号令と共に一斉に射撃を開始する学生。弾切れによる弾倉交換や、故障排除などは大声で状況を伝え掩護してもらいながら実施していた

 

学生から少し離れた邪魔にならない場所で様子を観察する助教。関与すべきか否かを見極め、適切に指導するのが彼らの役割だ

 

低く伏せていても目と耳はしっかりと働かせ、敵の動きを観察する。常に視覚と聴覚をフル稼働させるため、レンジャー学生は肉体だけでなく精神的にも疲労するだろう

 

襲撃終了後に行われるAARの様子。誰がどのような動きをして、どこにいる敵に対して何をしたのかを細かく報告し、全員で共有する

 

 

Text & Photos:武若雅哉


この記事は月刊アームズマガジン2025年5月号に掲載されたものです。

 

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