ミリタリー

2023/12/16

【陸上自衛隊の戦闘車輌】“戦車を動かすお仕事” 10式戦車乗員へのインタビュー

 

10式戦車を“動かしている”のはどんな人たちなのか?

 

 

 戦車を中心とする機甲部隊は戦場を迅速に機動し、高い突破力を備えることで地上戦闘の切り札となりうる存在だ。陸上自衛隊においても機甲部隊に配備される戦車など各種装甲車輌は花形装備ではあるが、高価で複雑なため運用にはハイレベルな技術力を必要とする。それゆえ戦車の乗員や整備員など、こうした車輌を“動かしている”隊員とはどのような人たちなのか、ミリタリーファンでなくとも興味が湧くところなのではないだろうか?

 2023年3月に発売されたホビージャパンMOOK「陸上自衛隊の戦闘車輌」では、取材時に隊員の方々にインタビューする機会を設けていただくことができた。そこで、今回は我が国唯一の機甲師団である北海道の第7師団で、10式戦車(10TK)を装備する第71戦車連隊の隊員の方々にお話をうかがっているので、ご紹介していこう。
 

※インタビューさせていただいた隊員の方の所属・階級は2022年取材当時のものです。

 

第71戦車連隊第3中隊 中隊長
石川泰久 3等陸佐

 

 

 ――まずは部隊の特徴について教えていただけますでしょうか。

 

石川:第71戦車連隊は昭和56(1981)年に部隊が改編されて戦車連隊(※)として発足しました。10式戦車は令和元(2019)年から部隊に逐次導入されており、第3中隊には令和2(2020)年から導入されています。10式戦車の最大の特徴は「ヒトマルネットワーク(10式戦車ネットワーク:10NW)」と呼ばれる「データ通信ができる」という能力です。これまでは無線(音声)だけだった情報のやりとりが、モニター越しに視覚でも情報伝達が可能となり、より短い時間で多くの情報(敵・味方部隊の動きなど)が共有できるようになりました。今までは味方の戦車がどこにいて何をしているのかよくわからなかったものが、今度はモニターに全部表示されますので、実際に見まわして確認せずとも僚車(同じ部隊の車輌)の動きをモニターで把握することが容易になりました。

 

※陸上自衛隊の編制において戦車連隊は4個(第7師団隷下の第71、72、73戦車連隊および第2師団隷下の第2戦車連隊)あり、各戦車連隊は概ね4~6個中隊(本部管理中隊含む)で編成。基本的に戦車中隊は3個小隊、戦車小隊は4輌の戦車で編成されるが、部隊によって異なる場合がある。また、戦車連隊より規模が小さい(中隊の数がより少ない)戦車大隊および戦車隊もあり、戦車は他に第7偵察隊、機甲科教導連隊、武器学校などにも配備されている。なお、10式戦車および90式戦車の乗員は3名(車長、砲手、操縦手)で、それ以前の自動装填装置を持たない74式戦車および61式戦車の乗員は4名(車長、砲手、操縦手、装填手)となっている(ちなみに戦車ではないが最新の16式機動戦闘車も乗員は4名)。

 

――従来の通信と比べて飛躍的に効率化したのでしょうか。

 

石川:情報を把握する速度は格段に上がりました。また、10式戦車の扱い方も配備以降年月を経てだいぶ習熟されてきて、より効率的になったと思います。

 

――第3中隊の隊員の皆さんについては。

 

石川:同じ自衛官とはいえ、性格や能力、見た目や体格面も隊員それぞれ十人十色で異なりますが、一つの任務に向かって意識を同じくして団結し、頑張っているのを感じます。

 

――中隊長のモットーは。

 

石川:「何事も執念をもって取り組め」を中隊での要望事項(モットー)にしています。これは、限りある戦力であらゆる脅威に対して、それぞれの持てる能力を最大限に発揮し、脅威を排除していくために最後まであきらめずに隊員相互で連携して取り組む、という使命をまっとうするためにも「創意を凝らせ」という意味で「執念をもって何事も取り組もう」ということを私自身、そして隊員にも要望しています。

 

――指揮するうえで、どのようなことに気を付けておられますか。

 

 

石川:安全管理は危険予測に基づいて事前に予測しておくことはもちろんですが、戦場において戦車部隊が直面する状況は目まぐるしく変わります。わかりやすく言うと、戦闘する中でチャンスがピンチになったり、ピンチがチャンスになったりと、結構早く戦況が進む特性があります。時には無線(データ)でのやりとりが通じないこともありますので、そのような状況でもお互いの意思を疎通できるような人間関係や信頼関係を構築することを心がけています。そして、指揮をするうえで命令指示に対しては「疑義(疑問点)のないよう」、はっきりしないような言い方はせずに「いつまでに、何を、どこで、どうしなさい」ということを明確に示すようにしています。流動変転する状況下で、私の指示に“疑義”があっては隊員がすぐに動けない、チャンスを逃してしまう、ピンチを招いてしまう、ということになってしまいますので、そうならないように平素から訓練しています。

 

――部隊運用の難しさ、中隊長としてのやりがいについて教えてください。
 

石川:難しさとやりがいは同じような意味合いになるかもしれませんが、隊長として十人十色の隊員を率いることに難しさとやりがいを感じます。戦闘シミュレーションゲームであればコマンド(命令)を入力すれば正確にすぐ動きますが、実際の部隊はそうはいきません。私(中隊長)から小隊長、今度は小隊長から各戦車の車長、車長から各乗員、と順を経て指示が伝達されます。そのため、やはり時間のロスが発生しますし、それから私が思っているとおりに末端まで指示が伝わらないかもしれません。そうならないように気を付けなければならず、かつ、それらも予測したうえで指揮をしなければいけないところが難しいですね。逆に言うと、自分の思ったとおりにうまく作戦がいったときは、やりがいを感じる場面でもあります。

 

――第71戦車連隊の部隊エンブレムについて教えてください。

 

石川:部隊のシンボルである“牛”は、普段は物静かで穏やかですが、いったん怒らせると勇猛果敢さを見せることから「威風堂々」とした意味合いを持っています。さらに、北海道の石狩平野に両足を踏ん張り、当時の脅威であったソ連(地図で見るとクマの姿に見える)の尾のほうに体を向けています。“7”はエンブレム制定当時の「第7戦車大隊」からの名残で、昔から続いているマークです。

 

10式戦車の砲塔に描かれた第71戦車連隊の部隊マーク。北海道の石狩平野に踏ん張る“鉄牛”と数字の“7”をあしらっている

 

 

第71戦車連隊第2中隊 砲手・操縦手
安藤友彦 3等陸曹

 

 

――砲手・操縦手のお仕事とは。

 

安藤:私は砲手と操縦手を担当しております。砲手としては、戦車砲と連装銃(74式7.62mm車載機関銃)の射撃、砲手用潜望鏡を用いた索敵などです。操縦手としては、地形に応じたアクセルワークなどに気をつけつつ、車長の企図をくみ取れるようにしながら操縦しています。

 

――職種として機甲科(※)を選ばれた理由は。

 

安藤:昔から戦車や飛行機、船などの乗り物が好きだったので、自衛隊に入っても乗り物に関わりたいと考え、機甲科職種を選択しました。

 

※「機甲科」は陸上自衛隊においては主に戦車部隊や偵察部隊の隊員の職種。

 

――戦車の操縦は難しいですか。

 

安藤:視野が限られていますので「周りをよく見ないといけない」という点と「乗員との連携」に留意しています。車長の考えているとおりに動かすことや、砲手が射撃しやすいように車体の動揺を少なくすることなどを意識していますが、狭い視野の中でそのような意識を働かせることは難しく感じます。

 

――砲手としてはいかがでしょうか。

 

安藤:操縦手と同じく限られた視野で敵を探して、敵に応じた弾種を選択して射撃することは、難しいところです。

 

――10式戦車はどのような戦車でしょうか。

 

 

安藤:ドライバー(操縦手)として言うならば、速度がかなり速く、速度が乗る(加速する)のも早く、“瞬発性”がとても高い戦車になっています。また、戦車の前方と後方にカメラが付いている(死角がカバーされる)ため、ほかの乗員に誘導されなくても自分で判断して操縦でき、無段階変速なので前進も後退(後進)も同様の速度で走ることができるのは、優れた点だと考えます。

 

――総火演(富士総合火力演習)の映像などでは、行進間射撃後に急制動(ブレーキ)をかけて後退するシーンなどが見られますが、そんな時乗員の方々はどのような状態なのでしょうか。

 

安藤:急ブレーキの際は乗員も大変で、操縦手はハンドルを強く握って耐えるしかありません。砲手や車長などは座席に体を押し付けて耐えています。

 

――今のお仕事で大変だったことはありましたか。

 

安藤:操縦手としてはやはり視野が狭いために周囲が見づらく、走行中急激なカーブにさしかかった際に道路を見失ってしまい、逸脱してしまいそうになったことが何度かありました。砲手としては、標的の発見が難しい場合でしょうか。特に射場などは射距離が長い分、標的が周囲に同化していることがあり、そんな場合は発見が難しくなり、悩ましいところです。

 

第71戦車連隊第2中隊 車長
小野佑輔 1等陸曹

 

 

――車長のお仕事とは。

 

小野:「乗員の掌握」「操縦手と砲手を掌握して任務にまい進する」という役割を担っております。


――職種として機甲科を選ばれた理由は。

 

小野:新隊員のときにパレードを計画させていただく機会がありまして、そのときに戦車が行進する様子を見て「格好いいな」と憧れを抱いたことがきっかけで機甲科を希望しました。

 

――仕事の難しさ、やりがいなどについて教えてください。

 

小野:機甲科、とりわけ戦車ということで、まず端緒(最初)から連携を取らないといけません。操縦手、砲手の動き方を指示しながら、あと単車ではなく班・小隊で行動するため、他の車長や小隊長とうまく連携しなくてはなりません。意思疎通がしっかりできていないと務まらない職業だと思いますので、そこはすごく難しく感じます。一進一退、操縦手、砲手を活かせるか活かせないかも車長にかかってきます。

 

――10式戦車の優れた点を教えてください。

 

 

小野:10式戦車はデジタル化、ネットワーク化が進んでおり、装備された広多無(こうたむ:広帯域多目的無線機)とCCS(指揮統制システム)が連動してネットワークに加入することにより、自己位置を味方に知らせつつ、他の味方の位置や敵の位置なども把握することができます。ここは、従来の90式戦車に比べ進化している点だと思います。訓練にはさまざまな項目があるのですが、10式戦車が持っている機能をしっかりと活用して目標を捕捉し、うまく撃破できた場合などはやはり達成感がありますね。10式戦車を使いこなせているのかな、と実感が湧いてきます。
 

 


 

ホビージャパンMOOK

「陸上自衛隊の戦闘車輌」好評発売中

 

 

 「月刊アームズマガジン」の自衛隊レポートでもおなじみのフォトジャーナリスト・笹川英夫の取材による、陸上自衛隊の現役国産戦闘車輌5種(10式戦車、90式戦車、74式戦車、16式機動戦闘車、89式装甲戦闘車)の写真集がホビージャパンより発売中。陸上自衛隊の全面協力により実現した、新規撮影による各車輌の全体から各部ディテールに至る多数のカットに加え、笹川氏がこれまで訓練取材などで撮影してきた走行中や主砲射撃などの迫力あるシーンも収録。元戦車乗員のライター、平藤清刀による各車解説は自身の体験に基づくエピソードも盛り込まれ、興味深く楽しめる内容となっている。

 

 

TEXT:アームズマガジン編集部

PHOTO:笹川英夫

協力:陸上自衛隊第7師団司令部総務課広報・渉外班

 


 

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