2024/06/04
陸上自衛隊とイギリス陸軍による実動訓練「ヴィジラント・アイルズ23」
VIGILANT ISLES 23 日英実動訓練
英陸軍の小火器 L85A3/L129A1/L7A2
陸上自衛隊とイギリス陸軍による実動訓練「ヴィジラント・アイルズ(VIGILANT ISLES:VI)23」が2023年11月15日から26日までの期間で、国内4カ所の演習場等で実施された。この時、本誌では王城寺原演習場(宮城県)にて報道公開されたヘリボーン訓練を取材しており、特に英陸軍歩兵が装備していたL85A3アサルトライフル、L129A1マークスマンライフル、そしてL7A2GPMGと、3種類の小火器に注目し、その実像を考察してみた。
VI 23の概要
「ヴィジラント・アイルズ」は海洋国家という共通点を持つ日英による協同訓練として2018(平成30)年から始まった。同訓練は日本国内では米軍以外の軍隊と行なう初の試みであり、2020年~2021年はパンデミックの影響で中止となったが、2022年に再開された。
陸幕(防衛省陸上幕僚監部)は「ヴィジラント・アイルズ」を日本語で「常に目を光らせている島」と訳している。本訓練の目的は「英陸軍との実動訓練を実施し、陸上自衛隊の作戦遂行能力・戦術技量の向上を図るとともに、陸上自衛隊と英陸軍との相互理解・信頼関係の促進に資する。」とある。空中機動によって複数の演習場を跨いで行なわれる訓練であり、取材場所となった王城寺原演習場ではダイナミックな実動シーンが公開された。
今回は2023年10月に発効された「日英円滑化協定(RAA)」が初適用され、英陸軍部隊と装備品の通関手続きが簡素化された点も注目される。
訓練は昨年に引き続き島嶼防衛を想定したものとなり、英陸軍からは第1王立グルカライフル大隊(ブルネイ・セリア)、第16空中強襲旅団戦闘団(英国・エセックス)などから約200人が参加。陸自は第1空挺団など約400人が参加し、総勢600人規模と過去最多となった。
訓練期間中、機能別訓練は相馬原演習場(群馬県)で潜入・偵察訓練や協同火力調整を行ない、関山演習場(新潟県)では戦闘射撃訓練、三沢対地射爆撃場(青森県)では空自F-2との統合火力誘導訓練が実施された。仕上げとなる総合訓練は相馬原演習場(群馬県)、王城寺原演習場(宮城県)にて、島嶼防衛に係る一連の行動訓練を実施した。報道公開されたのはヘリボーン訓練の一部であったが、陸自隊員と英陸軍兵士共にバトラーを装着しており、判定を伴う戦闘訓練が行なわれたものと推察される。
L85A3
L85A3【SPEC】
- 使用弾:5.56mm×45 NATO
- 全長:約785mm
- 銃身長:495mm
- 重量:約4.8kg(光学サイト、弾薬含む)
- 装弾数:30発
- 作動方式:ショートストローク・ガスピストン
- 発射速度:610 ~ 775発/分
SA80(Small Arms 1980's)シリーズの中で、L85A3(SA80A3)は2018年に制式採用された英陸軍の主力小銃であり、特徴的なブルパップ式のデザインを持つ。L85A2からの変更点は主にアッパーレシーバーとハンドガードの改良。約100g軽量化したものの全装備重量は5kgに近く、この種の銃としては異例なほど重い。とはいえ、長年英軍歩兵のアイコンとなってきた名銃ともいえる。
外観は耐久性に優れたFDEコーティングにより迷彩効果と耐久性を向上させ、デザインを一新。ハンドガードは当初H&KのMRS(ModularRail System)タイプで、後にM-LOKタイプに変更された。搭載されるスコープはELCAN Specter OS 4xへ変更され、レーザーデバイス等の周辺アクセサリーも更新し、現代戦に適した仕様になっている。A2までのSUSAT光学照準器(スコープ)を搭載するモデルでは、スコープの前後位置を調整することはできなかったが、A2の改良型ではレシーバートップとハンドガードにピカティニーレールを備えることで調整できるようになった。さらにA3のトップレールはレシーバーとハンドガードがツライチの長いタイプとなり、暗視装置などとの組み合わせやアイリリーフ調整などの自由度がより高まっている。
L85A3はA2同様改修事業をH&Kが受託し、2018年からは先行して5,000挺を前線部隊に配備。さらに追加配備を計画しており、2025年以降も英軍で使用される予定だ。
1985年の制式化以来、様々な改修で延命されてきたL85シリーズだが、今後も主力小銃として活躍するだろう。その一方で陸軍や海兵隊の特殊部隊は早い時期から、カナダ版M16シリーズ(C7、C8)を配備しており、ブルパップ式のL85シリーズ一辺倒ではない点も記しておく。
L129A1 Sharpshooter
L129A1 Sharpshooter【SPEC】
- 使用弾:7.62mm×51 NATO
- 全長:927mm~990mm(ストック調整式)
- 銃身長:406mm(16インチ)
- 重量:約4.4kg(銃本体)
- 装弾数:20発
- 作動方式:ダイレクト・インピンジメント
英陸軍のグルカ兵が装備していたマークスマン(英軍ではシャープシューターと呼称)ライフル、M129A1はVI 23でもっとも目を引いた。米国LMTが開発した同銃は、AR10系の7.62mm弾のセミオートライフルだが、質実剛健でシンプル。扱いやすい狙撃銃だと思われる。搭載するTrijicon ACOG TA648-308 6×48は狙撃銃のスコープとしては性能不足に感じられる場面もあるだろうが、ズーム機能を持たない反面頑丈で、シンプルなレティクルは高ストレス環境下でも狙いやすく、歩兵と行動する最前線の支援火器に搭載する光学サイトとして有効性を感じる。
構造上の特徴としては、米国LMT特許のMRP(Monolithic RailPlatform)がある。これはアッパーレシーバーとレールハンドガード部を一体化し、高精度かつ高剛性とした上で、左右2本ずつのボルトで銃身を固定。ハンドガード内には触れないフリーフローティングバレルとし、高い命中精度を実現している。作動方式はM16/M4やSR25と同じダイレクト・インピンジメント(Direct Impingement)として銃身を振動させる要素を減らしており、競合銃がガスピストン式を選択する中で異彩を放っている。
トリガーは2ステージタイプで狙撃銃としてのコントローラブルな特性を持つ。すでに完成されたAR10系の基本設計ではあるが、LMTの独自理論で進化させて実現化した点は興味深く、競合である大手各社のHK417系、FNH SCAR-H系、KAC SR25等を退けて英軍に採用されたのは注目に値する。現物を間近で観察すると、弱点の少ない良い道具に感じられた。狙撃銃としての能力を重視するなら、高倍率ズームスコープに換装すればさらに高い遠距離射撃能力を発揮すると思われる。
L7A2 GPMG
L7A2 GPMG【SPEC】
- 使用弾:7.62mm×51 NATO
- 全長:1,263mm
- 銃身長:630mm
- 重量:約11.8kg
- 装弾数:50発/100発(ベルトリンク)
- 作動方式:ガス圧利用式(ロングストローク式)
英陸軍は1958年にベルギーのFN MAG多用途機関銃(GPMG)をL7A1として制式化した。FN MAGはNATO加盟国を含め世界80カ国以上で採用。2009年にH&Kにより改修されたL7A2ではストックが従来の木製から樹脂製に変更され、銃身へのフルート加工に加えレシーバーの一部をチタン合金製として軽量化。フィードカバー一体型のピカティニーレールを装備し、各種照準器の搭載を可能として現代戦に最適化された。英陸軍がL85やL7等の小火器を一新することなく、改修しながら運用し続ける姿勢は興味深い。
VI 23で見た第1王立グルカライフル大隊の兵士が装備するL7A2については、L129A1と同じく7.62mm×51NATO弾を用いる小火器として運用されている点に注目した。GPMGであるL7A2は銃本体だけでなく弾薬も重い。英陸軍では歩兵部隊の小火器として1980年代以降5.56mm弾のMINIMIやL86などの分隊支援火器を導入しているものの、7.62mm弾のGPMGであるL7も並行して配備し続けており、62式7.62mm機関銃の退役以降GPMGをほぼ配備していない陸自普通科とは対照的だ。なお、歩兵部隊において2系統の弾薬を使用することは兵站などの面から見れば負荷になるものの、イラクやアフガニスタンでの戦訓から、7.62mm弾の重い弾頭(150gr)の有効性(射程や威力の面で)は再認識されている。
Text : 神崎 大
協力:防衛省陸上幕僚監部
この記事は月刊アームズマガジン2024年7月号に掲載されたものです。
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