エアガン

2025/05/06

オールドモデルガンに見るピストルカービンのminiヒストリー 第3回

 

行政指導

 

 ピストル(ハンドガン)を延長することで長物として作られたピストルカービンのモデルガンは、法規制によって生まれたあだ花的に捉えられがちだ。しかし実際にはそれよりも前に誕生し、後々まで生き残ったモデルは多くのファンに長く愛され続けている。このコーナーはその複雑な歴史を紐解いていく連載である。

 

 第2回はこちら 

 

オールドモデルガンに見るピストルカービンのminiヒストリー

 

 

 これら急造ピストルカービンの中にはサイレンサーとストックを付けただけのものもあった。もちろん簡単に外すことができないようになっていたものの、ちょっとした知識や工具、技術があれば外せないことはなかった。すると案の定、警察から「ストックなどを外して簡単に拳銃タイプになるものはいかん」という行政指導が出されたという。
 当時、業界は分裂したままで、まとまった組合はまだなかった。日本モデルガン製造協同組合が設立されるのは、再び法規制が行われるらしいという声が上がり始めた1974年になってからのこと。そのためこの行政指導が業界全体に対して行なわれたのか、いちばん多くのピストルカービンを発売していたメーカーであるMGCに対してだけだったのかはわからない。

 

 いずれにしても、行政指導自体に法的拘束力はないものの、無視すると営業停止などの行政処分が行なわれることもある。そこでMGCでは独自に基準を作り、自主規制を行なうことにした。

 

  • ピストルカービンの銃身長は12インチ(約30cm)以上とすること
  • ストックを外れないようにすること、または外したら使えなくなること

 

 この基準に基づき、多くの急造ピストルカービンは姿を消した。残ったのが、モーゼルカービン、ルガーカービン、バントラインカービンの3機種だ。そして、これらが人気を得て定着し、MGCの定番商品になった。多くの金属製モデルガンが禁止となった1977年(昭和52年)の第2次モデルガン法規制も生き残った。

 

MGCニュース1971年規制直前の夏号に掲載されたカスタムカービン2種。モーゼル・スペシャルカービンと、新しい『キイハンター』のサイドアームSW-44 BLKシークレットスナイパー。ただ写真のSW-44カービンはエキステンションセットで、TVのモデルとは違うようだ

 

Gun誌(国際出版)1971年12月号のCMCの広告。11月下旬発売予定とある。あえて「モデルガン規制対象外製品」と表記され、スペックに「仕上げ…黒色ガン・ブルー」と加えられている

 

MGCニュース1972年新年号に掲載されたセミカスタムのピストルカービン。苦肉の策というか、何でもありというか…

 

Gun誌(国際出版)1972年5月号のハドソンの広告。モーゼルカービンの発売は4月とされている。バレル長は14.5インチ(370mm)となっている。20連マガジンは別売

 

MGCニュース1972年新年号の表紙に使われたSW-44 BLKピストル・カービン。中面の千葉真一さんのコラムによると、千葉さん自身の依頼によってMGCで作られたカスタムで、1月11日公開の東映映画『殺しは俺がやる』で使われたものであるらしい

 

Gun誌(国際出版)1972年11月号のハドソンの広告。新発売でモーゼルカービンにフォアグリップなしで20連マガジン標準装備のショートバレル、9インチモデルが加わっている


 その後もMGCは折に触れて、カスタムとしてピストルカービンを作り続けたようだ。今回、古い資料をひっくり返していたら、プラスチックモデルガンの44オートマグの取説に、アラスカンカスタムというピストルカービンを見つけた。ロングバレルで、パイプ式のメタルストックが取り付けられ、スリングが装着できるようにスイベルがバレル下面とストックにあり、スコープも取り付けられている。価格は30,000円より各種となっていて、カスタムオーダーとあった。
 おそらく、どのメーカーよりピストルカービンにこだわっていたのがMGCだった。実銃のピストルカービンのように、あえて困難なことにチャレンジするハンターのような心境がそこにあったのかもしれない。ひょっとしたらそれはMGCということではなくて、設計を手がけていた小林太三さんがそうだったのかもしれない。


 ボクは実銃のピストルカービンを撃ったことはないが、モデルガンでこれだけ楽しいのだから、実銃はきっともっと楽しいのではないかと思う。ピストル弾を使うPCCが何かと取り沙汰される昨今、あらためてクラシックなピストルカービンを見直してみてもよいのではないだろうか。
 持っていないという人でも、モデルガンのピストルカービンはユーズド品が入手できるので、今から始めることができる。ぜひハマってみて欲しい。

 

1979年にリニューアルされたMGCカタログに掲載されたピストルカービン3兄弟。レギュラーモデルとして定着したことがわかる

 

MGC製オートマグのスタンダードモデルの取説に掲載されていたピストルカービンのアラスカンカスタム。オートマグの発売が1976年なので、翌年の1977年ころには発売されたか。カスタムオーダーで、¥30,000より各種とある

 

 

MGC バントラインカービン

 

 

DATA

  • 主材質:亜鉛合金
  • 撃発機構:シングルアクションハンマー
  • 発火機構:シリンダー内前撃針
  • カートリッジ:ソリッドタイプ(別売り)
  • 使用火薬:平玉紙火薬3〜7粒(のちに7mmキャップ)
  • 全長:730mm
  • 主材質:亜鉛合金
  • ストック:桜材
  • 撃発機構:シングルアクションハンマー
  • 発火機構:パーカッション方式
  • 本体重量:1.4kg
  • 口径:.44-40
  • 装弾数:6発
  • 発売年:1972年
  • 発売当時価格:8,500円(スタンダード)、10,000円(デラックス)、カートリッジ6発500円


※寸法などのデータは当時のメーカー発表によるもので、実測値ではありません。また価格は発売当時のものです。

 

 

バントラインカービンの銃口部。古いモデルなので、ライフリングはもちろんクラウンの再現もない。ブツ切り状態だが、当時はこれが当たり前だった

 

バントラインカービンのストックは、スチールプレートのジョイントを介して本体に取り付けられ、メインスプリング(ハンマースプリング)は板ばねに変更されている

 

バントラインカービンのカートリッジは44-40口径で、ウインチェスターと共用。のちにキャップ火薬対応となった

 

バントラインカービンのトリガーフレームは専用パーツ。これで挟んでストックを本体に固定する

 

 

MGC レミントンカービンM1866

 

 

DATA

  • 主材質:亜鉛合金
  • ストック:桜材
  • 撃発機構:シングルアクションハンマー
  • 発火機構:パーカッション方式
  • 使用火薬:平玉紙火薬
  • 全長:910mm
  • 本体重量:2,700g
  • 口径:.44
  • 装弾数:6発
  • 発売年:1971年または1972年
  • 発売当時価格:13,000円(パーカッションキャップ1缶付き)


※寸法などのデータは当時のメーカー発表によるもので、実測値ではありません。また価格は発売当時のものです。

 

 

レミントンカービンの発火に使うのはパーカッションキャップ。写真は後期のアルミ製で、初期は真鍮製だった

 

レミントンカービンは、本来フレームの一部であるグリップ部を切断して、ストックジョイント部とトリガーガードを一体化した真鍮製のパーツを取り付けている

 

レミントンカービンのバレルは、元々の亜鉛合金製のオクタゴンバレルにスチール製パイプを継ぎ足してロングバレルを実現している

 

レミントンカービンのフロントサイトは真鍮製のビーズタイプ。スチールパイプの前部バレルにカシメ留めされている

 

 

※モデル名などは、基本的にはメーカー表記に準じていますが、メーカー自身の表記にも揺らぎがあるため、本稿ではその時に参考にした資料に従って表記し、あえて統一していません。
※オールドモデルガンは、1977年の第2次モデルガン法規制に適合したもの(smGマークがあることがひとつの目安)以外を売買することは法律で禁じられています。違反すると1年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。

 


 

TEXT & PHOTO:くろがね ゆう/アームズマガジンウェブ編集部

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年6月号に掲載されたものです。

 

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