エアガン

2025/05/04

オールドモデルガンに見るピストルカービンのminiヒストリー 第1回

 

ピストルカービンの実銃とモデルガン

 

 ピストル(ハンドガン)を延長することで長物として作られたピストルカービンのモデルガンは、法規制によって生まれたあだ花的に捉えられがちだ。しかし実際にはそれよりも前に誕生し、後々まで生き残ったモデルは多くのファンに長く愛され続けている。このコーナーはその複雑な歴史を紐解いていく連載である。

 

オールドモデルガンに見るピストルカービンのminiヒストリー

 

■実銃における「ピストルカービン」

 

 実銃のピストルカービンは、ある意味、ピストル(ハンドガン)にスナイパーガンとしての能力を付け加えたものだということもできる。長い銃身、しっかり狙うためのストック、精密なサイトなどが装備され、ハンドガンの能力を拡大する方向で作られているからだ。
 リボルバーが登場したばかりの頃に作られたリボルビングライフルも、考えようによってはピストルカービンといってもいいのかもしれない。威力は小銃より劣っても、突撃などの際、優れた連射性能を発揮できる。特に前装銃の時代は再装填に時間が掛かったので、連射性能は重要だった。
 それは20 世紀に入っても同様で、安定したオートマチック作動をする小銃がない時代、オートマチックピストルをカービン化して突撃用として使うのは大いにアリだったらしい。モーゼルカービンは最初それ用に作られたという。やがてサブマシンガンが登場し、時代は大きく変わっていく。
 オートマチック全盛時代になると、ピストルカービンはマイナーになっていったようだが、それでもあえて低威力のピストル弾にこだわって、ハンティングに使いたいという酔狂なハンターもいて、一定の需要はあるらしい。できるだけ獲物の近くまで接近して撃たなければならないというハンディ、困難さがいいらしい。それで獲れればより自慢になる。
 そのほかにハウスプロテクションや護身用としての用途もある。過剰なパワーはなく、コンパクトで取り回しやすく、取り扱い方や射撃スキルの習熟もたやすく、弾薬やマガジンの共用も可能で、メリットが大きいとされる。

 

 

■モデルガンにおける「ピストルカービン」

 

 モデルガンのピストルカービンの場合は、もちろん実銃をなぞってはいるのだが、モデルガン法規制によって生まれたとされることが多い。ほぼそれで合っているのだが、実際のところはちょっとだけ違うようだ。というのも法規制以前に、すでにピストルカービンが作られていたからだ。さっそく歴史を紐解いてみよう。
 まず、きっかけとされるモデルガン法規制というのは、1971(昭和46)年10月20日に施行された改正銃刀法、通称「第1次モデルガン法規制」のこと。この時、金属製モデルガンの拳銃タイプは銃口を閉塞し、白または黄色(特例として金色も可)にしなければ所持も販売もできなくなった。長物(サブマシンガンやカービン、ライフルなど)は規制対象外で、そのままで所持も販売もできた。そこでハンドガンにストックなどを装着して長物とすることで、規制を免れようとしたというわけだ。実際、そういうものが多かった。
 ところが、その前にすでにピストルカービンがあった。おそらくモデルガンのピストルカービン第1号と思われるのは、MGCが1965(昭和40)年に発売したシークレットスナイパーと、コンボタイプ・カービンだ。

 

1966年に製作されたMGCの大判チラシに掲載されたピストルカービン、シークレットスナイパーとコンボ・タイプ
1966年に製作されたMGCの大判チラシに掲載されたピストルカービン、シークレットスナイパーとコンボ・タイプ

 

 これは1964(昭和39)年にMGCが発売したスライドアクションのPPKが、007映画の大ヒットとも重なり空前の大ヒットとなったことにより、その翌年に作られたPPKカスタムだ。カスタムといっても1挺2挺の限定品ではなく、そこそこの数が作られたらしい。
 ベースのPPKに、カービンスタイルの木製ストックとロングバレル、そしてスコープを装着したもの。ボクは現物を見たことがなく、詳細はわからないが、残っている写真を見る限りとってつけたような感じはなく、着ぐるみとか、かぶり物のような感じもしない。実際に存在する銃に準じてデザインされたもののような説得力がある。
 価格は、PPKが3,500円だった時代に、シークレットスナイパーが9,700円、コンボタイプ・カービンが6,400円という設定。なかなかよいお値段で、PPKすら手が出ない子供には相当に高嶺の花だった。この年にMGCはP38アンクルタイプも発売しているから、スパイブームに湧いていたことが伺える。
 そして1969(昭和44)年に発行されたMGCニュースに、5月のモデルガンショーのミニリポートがあり、そこに「見事にカスタムされたP-08カービン」の文字があり、会場イラストにもルガーP-08カービンタイプが描き込まれているのだ。これはおそらく1点ものだったのではないかと思われる。

 

MGC ルガーP-08カスタムカービン

 

MGC ルガーP-08カスタムカービン

 

DATA

  • 主材質:亜鉛合金
  • 発火機構:前撃針、ファイアリングブロック
  • 撃発機構:ストライカー
  • 作動方式:手動(トグルロック)
  • カートリッジ:ソリッドタイプ
  • 使用火薬:平玉紙火薬
  • 全長:730mm
  • 銃身長:12インチ
  • 重量:1.6kg
  • 口径:9mm
  • 装弾数:7発
  • 発売年:1972年
  • 発売当時価格:9,500円、カートリッジ別売12発350円
  • オプション:スネイル・マガジン(7連発)1,500円

 

※寸法などのデータは当時のメーカー発表によるもので実測値ではありません。また価格は発売当時のものです。

 

MGC ルガーP-08カスタムカービン

 

MGC ルガーP-08カスタムカービン
ルガーカービンの長いバレルが曲がらないよう、センターにスチールパイプが鋳込まれている。サイトはビーズタイプ(英語だとビード)

 

MGC ルガーP-08カスタムカービン
ルガーカービンのカートリッジ。ピストルタイプと共通の9mmパラベラム弾仕様

 

MGC ルガーP-08カスタムカービン
ルガーカービンのストックは、外せないよう着脱レバーの代わりにピンが通され、カシメられている

 

MGC ルガーP-08カスタムカービン
一説に200個ほどしか作られなかったとされる貴重な32連スネイルマガジン。右側面にローディングボタン(マガジンフォロアー・ストップボタン)が通るためのスリットがないのが特徴

 

 このP-08カービンはその後も1点もので作られたようで、1971(昭和46)年1月1日発行のMGCニュースには、アメ横のサービス部にあった「特選カスタムコーナー」に、モーゼルカービンとともに展示されている写真が掲載されている。

 

1971年3月15日発行のMGCニュースに掲載された、MGCサービス部の特選カスタムコーナーの写真。モーゼル・カービンとルガー・カービンがある
1971年3月15日発行のMGCニュースに掲載された、MGCサービス部の特選カスタムコーナーの写真。モーゼル・カービンとルガー・カービンがある

 

 MGCのモーゼルミリタリーは1970(昭和45)年に発売された。前出の1971(昭和46)年発行のMGCニュースには、早くも「’71をリードする“カスタムモデル”」としてモーゼル・カスタムカービンが小林太三さんのイラストで掲載されている。そして実際、1971(昭和46)年の法規制前に発売された。

 

1971年1月1日発行のMGCニュースに掲載された、小林太三さんの手描きイラストによる1971年のカスタムモデル。説明文には「モデルガン界初のカスタムモデルの製作を開始した」とある
1971年1月1日発行のMGCニュースに掲載された、小林太三さんの手描きイラストによる1971年のカスタムモデル。説明文には「モデルガン界初のカスタムモデルの製作を開始した」とある

 

 

※モデル名などは、基本的にはメーカー表記に準じていますが、メーカー自身の表記にも揺らぎがあるため、本稿ではその時に参考にした資料に従って表記し、あえて統一していません。
※オールドモデルガンは、1977年の第2次モデルガン法規制に適合したもの(smGマークがあることがひとつの目安)以外を売買することは法律で禁じられています。違反すると1年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。

 


 

TEXT & PHOTO:くろがね ゆう/アームズマガジンウェブ編集部

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年6月号に掲載されたものです。

 

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