ミリタリー

2025/03/31

「第3即応機動連隊 冬季訓練検閲」 過酷な自然環境で知られる上富良野演習場にて、訓練検閲を実施

 

過酷な自然環境で知られる上富良野演習場にて、訓練検閲を実施

 

防御部隊の切り札として敵に狙いを定める機動戦闘車中隊の16式機動戦闘車。車体に冬季迷彩を施しており、雪積る上富良野演習場に見事に溶け込んでいる。なお、対抗部隊側にも配備された

 

 日本最北エリアを守る第2師団(司令部:旭川駐屯地)。その隷下部隊である第3即応機動連隊が、この度、過酷な自然環境で知られる上富良野演習場にて、訓練検閲を実施した。機動力を生かし、迅速に日本全国へと展開できる即応能力の高い精鋭部隊を軍事フォトジャーナリストの菊池雅之が追った。

 

ホームベースである名寄駐屯地を出発し、上富良野演習場へと展開するところから訓練はスタート。一般道を走行中の16式機動戦闘車。装輪式ならではの機動力を見せてくれた

 

日本最北の最新部隊


 第3即応機動連隊は、2025年2月3日から6日までの4日間、上富良野演習場において、冬季間における訓練検閲を実施した。今回の検閲課目は“防御” だ。
 受閲部隊となったのは、第4中隊、火力支援中隊、本部管理中隊だ。対抗部隊は、第3中隊を基幹とし、交戦用訓練装置“バトラー”システムを使った本番さながらの戦いを繰り広げた。


 北海道にはいくつもの演習場があるが、その中でも上富良野演習場は、厳しい冬が有名だ。豪雪や吹雪に見舞われるだけではなく、まつ毛も凍る-20℃を超える過酷な自然環境で知られている。だが、今年の富良野地方は雪が少なめで、概ね天候は安定していた。そこで、穏やかな天候の中、訓練が行えると思われたのだが、そこはやっぱり上富良野演習場。晴れ間の多い比較的穏やかな天候になると期待させておいて、突然吹雪く時もあり、頬を切りつけるような寒風が気温を下げていった。

 

スコップで雪をかき出し、穴を掘っていく。いつもの訓練のように、土を掘るのとはまた違うスキルが必要であるという

 

雪の上に並ぶのがアイスクリート。雪を固め、水を含ませて凍らせることで強度を高めたもの

 

大きな穴を掘る際は重機を使用する。写真は小型ショベルカーであるが、掘るサイズによりさらに大きな重機を使うこともある

 

81mm迫撃砲の陣地が出来上がった。これは連隊に配備されている小型の迫撃砲だ

 

衛生小隊は、ライナープレートを2枚重ねてその間に雪を詰め、凍らせて補強していた

 

衛生小隊の女性自衛官たち。第一線救護及び治療や後送を行い、負傷した隊員の命を守るのが仕事


 今回訓練検閲を行なう第3即応機動連隊は、第2師団隷下部隊だ。2022年3月17日に新編されたばかりのまだまだ歴史の浅い部隊である。ホームベースとしているのは名寄駐屯地であり、ここは日本最北の駐屯地でもある。
 ゼロから急に部隊が出来たわけではなく、前身となった部隊がある。それが第3普通科連隊だ。
 陸上自衛隊創設前の警察予備隊時代に第3連隊としてスタートを切った。そこから幾度かの改編、移駐を経て、1954年より、第3普通科連隊となった。それから約70年の時を経た2022年3月17日、第2師団の機動師団化に伴い、第3普通科連隊としての歴史は閉じ、第3即応機動連隊へと生まれ変わった。

 

第3即応機動連隊において隊員たちの足となる96式装輪装甲車。配備開始から間もなく30年が経つ。後継装甲車の話もあるが、すぐに配備とはならないので、まだまだ第一線での活躍が期待されている


 この改編に伴い、第3普通科連隊時代に編成されていた第4中隊ならびに重迫撃砲中隊を廃止とした。新たに16式機動戦闘車を主たる装備とする機甲科隊員を中心とした機動戦闘車中隊と、120mm迫撃砲を主たる装備とする特科隊員を中心とした火力支援中隊を新編した。
 機動戦闘車中隊の人員は、同じ第2師団隷下の第2戦車連隊や本州等の戦車部隊から集められた。
 さらに部隊新編の翌年である2023年3月16日、今回の訓練の主役となる第4普通科中隊が新編された。即応機動連隊の基本編成は第1~3中隊の3個ナンバー中隊が基本となっている。よって、4個中隊を編成しているのは全国を見ても第3即応機動連隊のみと異例の編成となっている。

 

連隊に配備されている93式近距離地対空誘導弾。今回は第4普通科中隊を増強すべく配備された。高機動車の荷台部分に発射機を搭載。空からの脅威に対するのが任務。通称“近SAM(きんさむ)” と呼ばれる

 

林の中をうまく使い、空からも見つからず、地上の敵からも見えないように白い擬装網でカモフラージュ。この中に近SAMを隠した

 

ヘルメットに取り付けられた目視照準具を使い、目標を評定する。隊員の後方に見えるのは近SAMの発射機

 

野戦特科職種の隊員たちで構成されている火力支援中隊。FDC内では、女性自衛官の姿もあった

 

120mm迫撃砲は、重迫牽引車で牽引して運ぶ。写真は、同車両から飛び出してきた隊員たちが速やかに射撃できる態勢を整えているところ

 

火力支援中隊の主力火砲である120mm迫撃砲RTの射撃準備。これまでは普通科隊員で構成される重迫中隊が運用していた

 

真冬の訓練スタート


 2月3日、ホームベースである名寄駐屯地を出発するところから訓練はスタートした。即応機動連隊は、部隊名に記されているように、“即応” 力と“機動” 力が武器となるこれまでの陸自にはなかった部隊だ。有事の際は、北海道を飛び出し、九州であろうともすぐに駆け付け、敵の侵攻を阻止するのが任務であるからだ。こうしたことから、名寄駐屯地から上富良野演習場へと展開することも重要な訓練と位置付けられていた。
 今回の訓練では、防御部隊に2両、対抗部隊に1両の計3両の16式機動戦闘車がそれぞれ増強されており、一般道を自走して進出した。16式機動戦闘車であれば、これまでの戦車のようにトレーラーに積載する必要はなく、展開までのスピードは、従来の戦車部隊とは比べ物にならないほど格段に向上している。


 同日11時頃、各部隊は随時上富良野演習場へと到着した。一旦集結したのち、バトラー装置一式を受け取り、装着していった。
 ただ装着すれば良いわけではなく、小銃等火器の場合は、銃口と照準とバトラーシステムのズレを調整する視準校正の作業が必要だ。具体的な作業としては、バトラーを装着した火器で標的を狙い、その際に生じる誤差を補正していくというもの。なかなか手間と時間のかかる作業となる。16式機動戦闘車やその他車両にもバトラー装置を装着していく。その作業と並行して、タイヤにチェーンを巻き直し、燃料補給を行うなどの整備作業が行われていった。隊員たちはこのタイミングで食事をとった。
 夕方から夜にかけて、各部隊は、次々と演習場へと入っていった。そして陣地を構築していった。

 

16式機動戦闘車を中心とした敵部隊の前進。砲塔部分に赤いプレートを掲げているのが敵の証

 

雪が積もる演習場を疾走する受閲部隊側の16式機動戦闘車。8輪のタイヤにはチェーンが巻かれている


 翌4日、筆者は、いくつかの陣地をまわった。まだ完成には至っていなかったが、人員用から車両用の大小さまざまな陣地や退避壕などが作られていた。ある程度の大きさ以上となると、重機を使用するが、基本的には、隊員がスコップで雪をかく人力での作業だった。
 穴を補強するため、アイスクリートが使用される。これは雪を四角いブロック状にしたもので、水を含ませじっくりと時間をかけて凍らせ、かなりの強度をもっている。ただの氷の塊と侮るなかれ、ある程度の銃弾ならば貫通しないそうだ。これをレンガのように積み上げて利用する。
 他方で、衛生小隊は、これとは異なる方法を用いていた。ライナープレートで自分たちの拠点を守る壁を作るのはよくある。今回はそれを2枚に重ねて、その隙間に雪を詰め、水を流して、強固な氷の壁を作り、補強していた。これらは冬季ならではの技法だ。
 また、敵が攻めて来る際、使用すると見積もられる経路上に地雷を仕掛けていく。しっかりと隠して、不意打ちを食らわせるだけでなく、障害があると敢えて見せつけて別の経路に迂回させるといった戦い方もあると言う。

 このような様々な陣地や障害が、4日から5日にかけて作られていった。

 

2月6日午前7時前。戦闘開始を前に、演習場では、雪が激しく降り始め、視界を奪う。そんな中を隊員たちが黙々と歩いていく

 

雪の壁に車体を隠し、正面から向かってくるであろう敵を待ち構える


 2月6日早朝、本訓練のクライマックスである対抗部隊の総攻撃がはじまった。防御側は、敵に対し、どう守り、戦い抜いたかが評価される。
 16式機動戦闘車の火力をうまく使いながら、双方は、一進一退の戦いを繰り広げていった。演習場には小銃の空包射撃の音がこだましていく。その激しい銃撃音に紛れて、“ピーピー”という甲高い機械音も響く。これは負傷、または戦死したことを告げるバトラーが発する警報音だ。ケガの程度により、時間をおいて復活が可能なケースもあり、審判が帯同してジャッジを行っていく。


 第3即応機動連隊には、20式小銃が配備されている。ただし、総入れ替えは行われておらず、89式小銃も混在していた。幹部には、新型9mmけん銃であるSFP9が配備されていた。
 最後は、見事陣地を守り切り、状況終了となった。参加した若い隊員の中には、今回が初の冬季検閲となったと話す者が多かった。北海道の部隊にとって、積雪寒冷地での戦闘行動は必要不可欠なスキルだ。
 こうして厳しい訓練を重ね、第3即応機動連隊は更なる飛躍を遂げる。

 

新型9mmけん銃であるH&K社のSFP9をかまえる火力支援中隊長。これまでの拳銃と変わらず、主として幹部用に配備される

 

火力支援中隊の陣地上空を敵航空機が接近。そこで12.7mm重機関銃キャリバー50を射撃する。訓練期間中は、こうした実戦的な状況が何度も付与されていった

 

 

腰まで埋まるような雪深い場所を黙々と歩いていく狙撃手。人が入れない場所と敵に油断させ、その場から敵の幹部などを狙い撃ちしていく

 

 

20式小銃を構える隊員。第3即応機動連隊では、この新小銃の配備は順調に進んでいる。まだまだ新しい小銃であり、専用のバトラーシステムが存在しないため、89式小銃のものを工夫して取り付けた

 

89式小銃を構える女性自衛官。すべて20式小銃へと更新できたわけではなく、89式小銃も残る

 

 

Text & Photos:菊池雅之


この記事は月刊アームズマガジン2025年5月号に掲載されたものです。

 

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