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2024/02/10

共に狩りをする猟犬を育てる「イチ ~アイヌ犬との4ヵ月~」【Guns&Shooting】

 

  イチ
 アイヌ犬との4ヵ月 

 

 

 


 

 狩猟人生5シーズン目を終え、意を決して、猟犬を飼うことにした。
 狩猟に関する情報が増えてきた昨今では、雑誌やネットで、猟犬と共に猟をする猟師の姿を多く見かけるが、考えてみれば「これから猟犬を飼うぞ」という猟犬初心者の記録は多くないようである。そこで恥ずかしながら、記録として自分の猟犬人生の一端を書いていこう、というのがこの記事の趣旨となる。

 

幼い頃から運動量が多い犬だった

 

 ミスもあり、甘かったところもあり、それを軌道修正しつつ、また次の悩みが出てくる、という繰り返しで、飼い始めてまだ4ヵ月だが、悩みのない日はほとんどない猟犬生活を過ごしている。


 この記事を書いている今、ようやく重い悩みの多くはなくなり、ようやく明るい猟犬生活が見えてきた――だからこそ、軽い気持ちでこの記事も書けるのかもしれない。その七転八倒の記録である。

 

 

 猟犬は突然に 

 

 猟犬を飼いたいという気持ちは、猟を始めた頃からあった。もともと犬が好きだったこともあり、狩猟の中で犬とタッグを組めたら、それはそれは楽しいだろうといつも夢を見ていた。しかし、当時は移住を検討しており、犬に移住の負担は大きかろうと、犬を飼うことを先送りしていた。関東に住んでいたこともあり、甲斐犬か紀州犬がいいな、とぼんやりと思っていた。


 後に北海道に移住し、宿泊施設を開業した。移住してすぐの頃は仕事も生活も落ち着かず、犬を飼おうなど考える余裕もなかった。時々フッと頭によぎることはあれど「いやいや、今じゃない」と首を振って思いを払った。

 


 移住後3年が過ぎ、仕事も軌道に乗り、これまで以上にどっぷりと狩猟にのめり込めるようになってきた。2021年12月、道内のある山に1週間ほどこもって、野営しながら過ごした。北海道の日暮れは早い。爆ぜる焚火を眺めながら「ああ、ここに犬がいたらどれだけ幸せだろう」と思った。焚き火のそばに寝そべる犬の姿が目に浮かんだ。

 

 また、夜中に物音がする度に目を覚まし、ヒグマの可能性に怯えてライトで照らした。照らされたキツネに安堵のため息をついては「ああ、ここに犬がいれば……」とまた思うのだった。

 

生後2ヵ月で、すでに雪が大好きだった。アイヌ犬の血か


 その山行をきっかけに猟犬を飼うことを決意した。とはいえ急いでいたわけではなかった。猟犬事情に詳しい人に

 

「縁があれば猟犬を飼いたいと思ってるんです。せっかく北海道にいるし、アイヌ犬を考えてます――」と相談すると

「縁なんて待っててもないよ。飼いたいなら犬舎にあたりをつけて、お願いして、あとはいつ産まれるかだね」とアドバイスをいただいた。


 聞くところによるとアイヌ犬(北海道犬)のブリーダー自体が多くないうえに、実際に猟で活躍していた親を持つ仔犬となると、その数はさらに少なく、偶然に出会えるようなものではないのだという。

 

もらってきた車の中で寝る、まだかわいいだけのイチ


 その話を受けて、北海道十勝にある犬舎に相談の電話をした。「そのうち、仔犬が生まれることがあれば連絡が欲しいのです」という相談だったが、その返答は「いま、腹に仔犬が入ってる。2月頃に生まれるよ」だった。向こう数年以内に――などと悠長に考えていたのだが、なんと2ヵ月後に産まれるということで、即断が求められた。

 家族会議の末、飼うことに決め、犬舎にお願いすることになった。そして、生後2ヵ月ほどが過ぎた頃、仔犬が我が家にやってきた。

 

 なぜ猟犬なのか 

 

 猟犬に求めるものはなんだろうか。おそらく人によって答えは違うだろうが、ぼくは仲間が欲しかった。一緒に山を歩いて、獲物を探して、獲れた喜びを分かち合えるような仲間が欲しかった。

 

観察することが好きなようで、よく人がやることを見ている


 それに犬は肉を食べる。獲った獲物を分け合うことができる。ぼくは――多少の例外はあれど――基本的には食べる分の獲物しか獲らない。食べる仲間が増えるということは、獲る獲物を増やすこともできる。たくさん獲って、たくさん食べる。

 これまでは家族と近しい仲間で分け合ってきた肉だが、年間を通じて犬も食べてくれるとなれば、さらに狩猟のやりがいが増す。そしてその狩猟を、同じその犬が一緒に取り組んでくれる。こんな幸せなことはない。

 

引っ張りっこ遊びがとにかく好き。今でもそう


 そしてヒグマを獲りたいという気持ちもあった。人間にはないセンサーを持った犬が仲間になれば、これほど心強いことはない。これまで単独にこだわって猟に取り組んできたが、これからは犬と自分の2人でやりたかった。

 

 仔犬に振り回される 


 仔犬はかわいいものだろうか?

 ぼくは諸手を挙げて「かわいいよ」とは言えない。

 イチと名付けた、そのアイヌ犬にはかなり振り回された。


 まだ小さかったことと、外にはまだ雪が残っていた時期でもあり、1~2ヵ月は室内飼いにし、後に外飼いへと移行する計画だった。飼い始めてすぐは極度の寂しがり屋で、ぼくの姿が見えないとピーピーキャンキャンと鳴いた。夜もぼくの姿が見えないと寝ることができない。そんな仔犬も可愛いもんだ、とぼくはイチが見えるところで横になり、寝袋で寝る生活をした。

 

 1週間ほどが経つと、とにかく噛むようになった。甘えるために噛むのと、遊びたくて噛んでくる。いわゆる「仔犬の甘噛み」だ。甘噛みと言えばかわいいものだと思うかもしれないが、とんでもない……。他の犬種は知らないが、アイヌ犬のあごは強い。

 

 ぼくの手や腕にはいつも血が滲んでいた。この記事を書いているいまも、いまだにいくつかの傷跡が残っている。妻や子どもはイチを触ることもできなかった。散歩に出ても、足にじゃれついて痛くて仕方がなかった。

 幸いだったのは「攻撃的な噛み」「何かに抵抗する噛み」はなかったことだ。あくまでじゃれるため、甘えるための噛みだったので、精神的にはギリギリ耐えられた。


 猟犬である前に、家族の一員として生活を共にするわけで「このままではいけない」と寝る間も惜しんで情報を仕入れた。犬の噛み対策の本もたくさん読んだ。YouTubeでドッグトレーナーの動画を大量に見て、犬の噛み対策を学んだ。知人で犬を飼っている人にも相談した。そして仕入れた方法を試したが、どれも手応えがなく困り果てていた。

 


 ある日、YouTubeでドッグトレーナーが「これまでいろんな犬を扱ってきたけど、思い出に残るほど苦労した犬はアイヌ犬でしたね。噛まれて噴水のように血が吹き出しちゃってねェ」と回想する動画を見て、ぼくは息を飲んだ。あどけないイチの顔を見て

「お前はそうなるのか?」とため息をついた。

 

 一方で、もう1つの課題があった。それは外飼いへの移行だ。
 生後4ヵ月ほどになり、身体が大きくなってきた。室内に柵で区切ったサークル内で飼っていたのだが、手狭になってきていた。うちには4歳になる娘がおり、室内で放そうものならその娘に一直線に向かって行く。

 小さな子どもは、犬から見れば絶好の遊び相手で、悪気こそないものの噛みたくなるものらしい。そこで、外飼いに移行することにしたのだが、これに大苦戦を強いられた。

 

雪の上に立つと、とにかく嬉しいようで喜びを隠せない


 犬を外に繋ぎ、1歩でも離れようものならギャンギャンと喉がはち切れそうな程の悲痛な叫び声で鳴き続けた。こんな鳴き声聞いたことがない、この世の終わりのような鳴き方だった。事情を知らない人が見れば、虐待を疑われても仕方がないほどだ。

 

 ここで言い訳がましく強調しておきたいことがある。
 こうやって苦労した話を書くと、決まって「こうすればいいんだよ」というアドバイスを頂くことになる。犬を飼うにあたり、飼い方、しつけ方、トレーニングの仕方など、散々勉強した。そういった「普通にやること」は試してきた。甘噛み対策も山ほど試したし、外で鳴くことへの対策もあれこれ試した。しかしとにかく手応えがなかった。

 


 困ったことばかりだったかというと、もちろん良い面もたくさんあったことも書いておきたい。

 簡単なコマンド――オスワリ、フセ、マテあたりはすんなりできたし、身体を触られて嫌がることもないし、ほかの人間や犬に慣らすこと(いわゆる社会化)も大変に成功していた。とにかくハッピーな犬ではあったのだが、噛む・吠えるという2つの大きな悩みで頭を抱えていた。

 

続きはこちら

 

TEXT&PHOTO:武重 謙

 


 

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この記事は2022年10月発売「Guns&Shooting Vol.22」に掲載されたものです。

 

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