2024/02/03
ヒグマ狩りの名手と別海町でヒグマを追う ~勝負の2日間~【前編】【Guns&Shooting】
別海町でヒグマを追う
エゾジカ猟をしていて偶然ヒグマに出くわして撃ったという場合、それを“ヒグマ猟”とはいわない。ヒグマに狙いを定めて追跡し、それを撃ち獲ろうとするのが本当の“ヒグマ猟”なのだ。そんなヒグマ猟の現場に、ついに立ち会うことができた。
※この記事には実際の狩猟の写真が含まれます。流血などが苦手な方はご注意ください
勝負の2日間
2021年12月17日の昼前、別海町の時野氏からLINEがあった。1枚の写真とたった8文字、“明日から良いです”
これだけで自分の脳内にアドレナリンが分泌されたのがわかる。コロナ禍の中で慌ただしく、そして感染防止に細心の注意を払いながら仕事に追われている自分にとって、このLINEは別の環境へのパスポートだった。そして自分の頭に中は一瞬でハンターモードに切り替わった。
別海町とは北海道の東部、根室管内の中央に位置する町だ。「Guns&Shooting Vol.19」の53ページで自分はこの地にお住まいの時野氏を紹介している。あの取材の時、「初雪の日の前に連絡します。もし来ることができるのであれば、ぜひ来てください」と言われていたのだった。
だから12月に入ると、いつ何時その連絡が入っても、別海町に飛んで行く心づもりができていた。現実問題、これはけっこうハードなことだ。毎日、遊んでいられる身分ならともかく、日々仕事に追われているのだ。やらねばならない仕事や約束は多い。
それでも17日に連絡を貰うとネットでフライトを検索し、18日朝に羽田から飛ぶ便を予約した。20日にはどうしても外せない仕事があるので、別海町に行っても1泊しかできない。だから18日と19日の2日間で勝負をつけなくてはならないのだ。実質18日午後2、3時間と19日の9時間程度、合わせても12時間程度しかない。そんな限られた時間内に“本当にヒグマが獲れるのだろうか”という不安が湧き上がってくる。
そう、自分はヒグマ猟に行こうとしているのだ。時野氏からはこの時が1年で最高のヒグマを獲るタイミングだと伺っていた。だから全く迷うことなく別海町に向かうことにした。
フライトは、例年ならば14日以上前の予約なら2万円程度、直近でも4万円前後で羽田~釧路便を予約できるが、コロナ禍による減便の影響で、航空券は正規料金に近い価格で高い……。しかしそんなことはどうでもいい(いやよくないが……)。それ以上のものがあるのだと自分に言い聞かせた。
レンタカーが前日予約でも1泊で7,000円少々だったのはせめての救いだった。
私が迷いもなく行くことを決心したのも、時野氏のヒグマ猟は両手両足で数えられるものではないことを、以前訪問した際に彼のログハウスで写真を拝見していたからだ。
私はヒグマを見たことは何度かあるが、エゾシカ猟をメインにしており、たまたまヒグマに会うチャンスを待つしかなかったのだ。これまで何人ものヒグマを捕獲したハンターに会ってきた。捕獲したといっても、箱罠で捕獲したとか、偶然草地で発見した、あるいは林道で出会ったヒグマを捕獲したというケースがほとんどだ。これらは本当の“ヒグマ猟”とは違うと思う。
時野氏は、ヒグマだけを狙い、ヒグマを追い込むという本物のヒグマ猟をしているのだ。エゾ鹿ハンターはエゾ鹿を捕獲した際、ヒグマの多い場所では銃を持ったまま回収に行く。なぜなら危険だからだ。しかし、時野氏らは、その危険なヒグマを追い込み、捕獲する。北海道でも今ではこのようなヒグマ猟をしている人はほとんどいないと聞いているだけに、私自身も興奮しないわけがない。
1日間
18日朝一番の飛行機で羽田を出発し、釧路に到着する。この時、時野氏はすでに早朝からヒグマの足跡を探して別海周辺を探し回っていた。私は空港でレンタカーの送迎を待ち、レンタカーに飛び乗る。その時すでに10時半を過ぎており、私は焦っていた。
実は昨猟期も彼らから招待を受けたのだが、釧路に到着時にはすでにヒグマを捕獲されてしまっていたのだ。そんな簡単にヒグマが獲れるはずがないと思うだろうが、彼らは違うのだ。
目的地の別海町までは釧路空港から120キロ以上ある。レンタカーの日産Eパワーは4WDでスタッドレスは標準装備であるものの、いかんせんこの路面だ。日陰部分はアイスバーンもあり、法定速度を出すことすらままならない。
しかも別海町までの道のりは国道44号を下る。そこは北海道でも屈指のエゾシカ事故多発ポイントであり、そこを通過しなくてはならないのだ。読者の皆さんが冬の北海道に行かれる際は、レンタカーにすべての免責保険を付けることを強くお勧めする。なぜなら行く途中にもシカとぶつかった車、路肩に落ちた車などが散見されたからだ。
11時過ぎには厚岸に到着し、そこに置いてある自分の車に乗り換え、別海に向かう。自分の車だと安心して走行ができ、スムーズに進む。思いのほかあっという間に別海に入り、林道で時野氏に合流することができた。
そして合流したと同時に追跡を開始した。12月18日の根室の日の出は6:45で、日の入りは15:43と大変短く、合流した時はその日、最後の追跡のときだった。
すでに足跡を発見しており、先に先にと回り込もうとする時野氏に必死についていく。まさに爆走で追いつくのがやっとだ。時野氏も私も前後にウインチがついているので20cm少々の積雪ではまったく気にしない。
残念ながら、結局この日は14時過ぎで追跡を断念した。仮にこれ以降に足跡を発見しても追跡し捕獲するには時間が足りないからだ。14時の日差しはまだまだ高いが、今日はここまでにして明日に勝負をかけることにした。
本日のヒグマ猟は終了し帰路につくが、時野氏達はそのまま帰るはずはない、まずは時野氏が300m弱の距離からオスジカを撃ちとる。
次は大屋氏が林道でメスジカをネックショットで捕獲する。今期の道東のシカは12月に入っても積雪が無かったために脂の乗りは例年の10月末の様だ。この時期のメスにもかかわらず70kgはあるだろう。
彼らはハイラックスのピックアップにウインドラスを装着しているので回収はほんの一瞬だ。このウインドラスは本州ではなかなか見かけないのだが、回収の困難な地域では大活躍する製品なのでぜひ試してもらいたい。彼らにとってはヒグマ猟の後のエゾ鹿は行きがけの駄賃といった感じだ。
ヒグマ猟の手順
話が前後してしまうが、時野氏のヒグマ猟を簡単に説明する。
まずは日の出とともにヒグマの足跡を探すことから始める。ヒグマの通りそうな林道などに的を絞り、メンバー総出で手分けをして走り回って足跡を探す。そして足跡を発見したらメンバーが集結し、総出で次に道路を渡りそうな場所に先回りし、そこを通過したかどうかを確認する。
もしも道路を渡っていなければ最初の足跡から次に通るだろうと思われる道路との間にいることになる。つまり、この足跡の見切りとヒグマの向かう先の予測ができなければ、たとえ足跡を探したとしてもヒグマを捕獲することは非常に難しい。
彼らのヒグマ猟は、周辺すべての地形を熟知し、ヒグマの経路を予測できる過去の膨大な経験値があってこそ初めて可能なことであり、我々が一朝一夕で真似できるものではない。
時野氏いわく、その日の前夜もしくは当日のヒグマの足跡にのっかれば(発見できれば)獲れる可能性は高いという。そしてその足跡をたどって勢子が追い、次に向かう場所を過去の経験とフィールドのコンディションなどから推測し、メンバーを的確に配置し迎え撃つといった狩猟方法なのだ。
言葉で説明するのは簡単だが、勢子は山の道なき道をひたすら追う。起伏の多い山々や雪や氷で足場の悪い中を時には10km、20kmと追うそうだから本当に驚きだ。ヒグマの足跡を探すことは私でもできるだろうが、ヒグマの足跡をひたすらたどることは、私だけでなく、常人にもとても真似できないことは明らかだ。
TEXT&PHOTO:高橋 誠
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この記事は2022年3月発売「Guns&Shooting Vol.21」に掲載されたものです。
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