2023/11/26
アラスカの荒野で熊を探せ ~グリズリーハンティングレポート~【Guns&Shooting】
アラスカグリズリー
ベアハンティング
“アラスカでグリズリーを仕留める”
大物猟ハンターにとって、これはとても魅力的な事ではないだろうか。アラスカにはグリズリー等のハンティングガイドをビジネスとしているプロフェッショナル達がいる。日本のハンターもこの地に行けば、かなり高い確率でグリズリーハンティングができるのだ。
※この記事には実際の狩猟の写真が含まれます。流血などが苦手な方はご注意ください
行動開始
5 月11日になってやっと天候が回復、いよいよキャンプへ移動することになった。持ち物は、銃、弾、着替え、寝袋、ウエーダー、狩猟用具一式、双眼鏡、携帯用ソーラーパネル、イリジウムGO!、iPhoneなどで、それ以外はベースに置いて行く。
朝食後、スタッフのタジさんが操縦するブッシュプレーンに乗り込み、ベースキャンプを飛び立つと約15分で約20キロ先のキャンプに到着した。
キャンプの砂利敷きの滑走路に着陸すると、そこにはキングサーモン空港で会った女性スタッフが出迎えてくれた。彼女はライルさんという方で、ガイドのアシスタントという立場だが、準備などのために2日前から先にキャンプに入ってくれていたのだ。本業はファイヤーファイター(消防)パイロットだという。
タジさんは私を下ろした後、ベースに戻った。ほどなくして、私の友人を乗せ、マスターガイドのフィルさんが操縦する別の飛行機が到着する。そしてこの飛行機は、キャンプの滑走路の隅に駐機させた。
これで私のベアハンティングのメンバーが揃った。
マスターガイドのフィルさん
アシスタントのライルさん
私と友人の池田さん
以上の4名でグリズリーが獲れるまでこのキャンプで過ごすのだ。
広大な荒野で偵察を
軽くランチを取った後、キャンプから500mほど離れた丘Aまで、各々スポッティングスコープや双眼鏡を持って周囲の偵察に向かった。
丘の上から、各自周囲の山をチェックする。我々が目を皿のようにして探しても全く見つけられないのに、フィルさんは遥か彼方の山の斜面に、ゴマ粒(米粒より小さい)のようなグリズリーを見つけることができるのだ。私が双眼鏡で見ても、黒い点にしか見えないが、よーく見るとわずかに点が移動している。そこまでの距離はおおよそ3~4 マイル(約4.8km~6.4km) あるだろう。
フィルさんの話によると、まだ遠いところにいるが、これから毎日どんどんこちらの方に下りて近づいてくるということだ。それを聞いたときは正直、あんな遠いところから、こちらまで近づいて来るのに一体何日掛かるんだろうか? と思った。
2日や3日で来るとは思えない。もしかしたら猟期ギリギリ(5/25)までキャンプに留まる事になるのでは? という心配が頭をもたげた。そうなると日本に帰る飛行機(LA-羽田)の変更も考えなければならない。
この時はグリズリーだけでなく、もっと近くにムースなども見ることができた。だからといって目標をムースに変えるわけにはいかない(そもそもそれはできない)。目標はあくまでもグリズリーなのだ。
キャンプでの生活
キャンプでの食事は、きっと簡素なものだろうと推測していたが、実際は持ち込まれた食材をフィルさん、もしくはライルさんが飽きないよう工夫して調理してくれてとても満足できた。
朝や昼は、ベーコンエッグやマッシュポテトやハッシュブラウンポテト、パンケーキなど、夕食はムースやディア(鹿)のステーキなどだ。飲み物はコーヒーやレモネードだが、夕食や夕食後には、缶ビールやテキーラも出してくれる。とても充実した食事なのだ。
ライフルが常備されたトイレ
食事の話の後、トイレの話をするのは恐縮だが、キャンプでトイレに行くときは、池田さんの持って来られたスタームルガー レッドホークは必需品だった。木造の小屋であるキャンプにも当然トイレはある。だが、当然のことながら自然式だ。小屋に隣接させると夏などは臭いがキツイ場合があるので、小屋から50mぐらい離れた場所にある。
キャンプのエリアはグリズリーのテリトリーだ。そのトイレにいく間、丸腰で行くのはやはり避けたい。特に怖いのは夜だ。レッドホークを持って移動すれば、少しは安心できる。
勝負の日
5月12日、起きると周囲には霧が立ち込めていた。しかし、朝食を取りながらフィルさんは「天気のコンディションは良い!すぐに霧は晴れる」と言う。
私はウエーダーを履き、リックには気温の変化に対応する重ね着用のアウター、ウォーターボトル、日本から持ってきた大塚製薬SOYJOY(栄養補給用)、携帯バッテリー、イリジウムGO!、折り畳みソーラーパネルなどを詰め、銃、弾、双眼鏡、レンジファインダーを持った。
8:45 いよいよ出陣だ!
9:00 昨日上った丘Aから滑走路を挟んだ場所にある隣の丘Bに4人で登り、周囲を双眼鏡やスポッティングスコープで入念にチェックする。だが昨日同様、私は何も発見できない。
怪しい黒い点に目を付け、フィルさんに尋ねたが「あれはロックだよ」で終わった。そこからさらに山側の丘Cに移動することにした。
10:00 丘Cに到着。また周囲をしっかりとチェックし始めた。
10:15 フィルさんたちが推定1.5マイル(約2.4km)先、同じく推定3マイル(約4.8km)先にそれぞれ1頭ずつのグリズリーを見つけた。遠い方は殆ど移動しないが、手前の方は徐々に近づいて来る。
30倍のスポッティングスコープで覗くと、そのフォルムが分かるくらいまで近づいてきた。その時点でフィルさんが“若い雌”と判断した。ルール上、子連れの雌は獲ってはならない。この雌は子連れではないが、狩猟対象から外した。
11:30 その雌は最終的にレンジファインダーで見て400m程度まで近づいてきたが、そこで移動が止まり、その後にきびすを返して、ブッシュの中に消えた。
ストーキング
フィルさんは遠い方の1頭に目を付けていた。
「あっちの方がグッドサイズだ」と動きを監視する。そのグリズリーは、僅かずつではあるが、山の斜面を下り始めたようだ。
12:30 しばらく観察を続けたのち、フィルさんが一つの決断を下した。
「なかなか下りてこないし、下りてきたとしても、こちらとは違う方向に行ってしまうことも考えられるので、ストーキングする!」4人は早速、移動を開始した。
しかし、これがえらく大変なことだった。この地を歩くことに慣れているフィルさんやアイルさんは別として、本当に私には辛い。これが「難易度の高い場所を毎日数マイル歩くことは可能ですか?」という質問の意味だったのだろう。
苔の生えた半湿地帯。風で倒された草がスキー場のモーグルコースように凸凹に一面に平がったエリア。細かい枝のある、高さが顔くらいの低木が生えたブッシュ(体にまとわり付くので少しでも枝の薄い個所を選んで進もうとするため、なかなか真っすぐに進めない)。
わりと流れが速く、底の石が滑るクリーク。足をくじきそうになるV 字状の谷。それらにアップダウンが組み合わさり、なかなか前に進めないのだ。
私の頭には「獲れても獲れなくても、今日この進んだ道を帰って来なければならないんだよな」という心配というか、不安がよぎる。私は日本でもそれなりの猟場を経験したが、今この猟場が一番の難所だ。
フィルさんは狙った個体がどの辺に下りてくるか、経験上判断し、迎え撃つ場所になるべく最短距離を進んでいるようだ。
途中の休憩中、池田さんは「フィルさんはかなり畳みかけている感じです。おそらく今日中に獲らせるつもりでしょう」と言った。
この読みの通り、今日獲れるのかもしれない。できればそうであって欲しい。もし今日獲れなくても、こういったストーキングを何日か続けてることにより、チャンスがまわってくるのだろう。やはりフィルさんはプロフェッショナルだと感じた。
吹き出す汗と足のダルさに耐えつつ、何とか進み続けた。途中フィルさんたちは、何度か遅れた私を待っていてくれていて、実質そこが休憩ポイントになっている。
14:30 ストーキングを開始して2時間が経過した時、フィルさんが目を付けた場所に到着した。移動を開始した丘から推定2マイル(約3.2km)移動した。2時間もかけてやっと3.2km だ。いかに険しいかがご理解いただけるだろう。
丘の越えた下り斜面に座ると、すぐにフィルさんは私たちを残して周囲のチェックに出る。
“狙った個体の近くにいるのか?”
“すぐ隣のブッシュに潜んでいたりしないのか?”
など安全上の確認だと思われる。しばらくして周囲の確認を終えたフィルさんが戻り、双眼鏡を使って4人で前方向に監視始めた。小腹が空いたので持っていたナッツなどを食べながらだ。
15:40 ついに前方200m程度の土手斜面のブッシュ際に、狙っていた個体が姿を現した。こちらには気づいていない。ブッシュを入ったり出たりしながら、草を食みながらゆっくりと移動しているようだ。
次回はいよいよ狙撃。グリズリーを仕留めることができるのか。
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この記事は2022年10月発売「Guns&Shooting Vol.22」に掲載されたものです。
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