2023/11/25
アメリカで対グリズリー用の武器調達を ~そしてアラスカへ~【Guns&Shooting】
アラスカグリズリー
ベアハンティング
“アラスカでグリズリーを仕留める”
大物猟ハンターにとって、これはとても魅力的な事ではないだろうか。アラスカにはグリズリー等のハンティングガイドをビジネスとしているプロフェッショナル達がいる。日本のハンターもこの地に行けば、かなり高い確率でグリズリーハンティングができるのだ。
※この記事には実際の狩猟の写真が含まれます。流血などが苦手な方はご注意ください
アラスカ到着
5月5日、日本を夜に出発、ロサンゼルス(LA)で池田さんと合流し、一緒にアンカレッジへ移動した。羽田からアンカレッジ空港までの移動時間は、中々計算しにくい。乗り換えがスムーズに繋がっていないからだ。今回はLAに夕方到着し、そのまま一泊、翌日15時にLAを出発、シアトルで乗り換えて、結局アンカレッジに着いたのは5月6日の22時くらいになった。
アンカレッジは当然アウトドアショップが多い。有名なBass Pro Shops(バスプロショップ)やSportsman's Warehouse(スポーツマンズウエアハウス)などがあり、今回はバスプロショップで買い物をした。
予想通り、アラスカハンティングの必須品が数多く売られている。ウエーダーなどは、適した物を日本で買うとえらく高額で種類も限られているが、こちらでは価格は半分以下で種類もサイズも豊富だ。この店はライフルの在庫も豊富で、ピストルやショットガン、そしてそれらの弾もたくさんある。銃はこの地では生活必需品なのだ。
今回現地で私が借りる銃は、.375 Ruger(ルガー)弾を使用するものを予めリクエストしておいた。そのため、この弾を購入した。.375ルガーは日本では聞きなれない弾薬だろう。
これは2007年にスタームルガー社とHornady(ホーナディ)社が協力して開発した弾薬で、別名9.5×65.5mmだ。この数字からわかる通り、ケース(薬莢)長は65.5mmで、.30-06の63.3mmと比べるとわずか2.2mmしか違わない。但し、.375ルガーは大幅に太い。そして圧倒的に大口径だ。主だったハンティング用ライフルカートリッジとの比較を表にしたので、ご覧いただきたい。
これを見ると.375ルガーがどんな弾薬なのかおおよそおわかり頂けるだろう。.338ラプアマグナムには劣るが、.300 Win Magを大幅に超えるかなりのハードヒッターだ。グリズリーとの対決に自信を持って臨めそうだ。
グリズリースキンズからは、弾はなるべく持参して欲しいと予め言われていたので、.375ルガー弾を買おうとしたのだが、バスプロショップには在庫がなかった。そのため市内のガンショップ数軒を回って探した。幸い1軒だけ在庫している店があり、無事に購入できた。270grのソフトポイントだ。
ちなみに弾はアメリカ在住の池田さんに買ってもらった。アメリカとて外国人旅行者が銃や弾を自由に買えるわけではない。日本では“アメリカでは銃が野放しだ”と報道されることが多いが、それは事実ではない。もちろん日本とは比べものにならないくらい規制は緩いが、なんでも自由に買えるわけではないのだ。
また池田さんのスタームルガーで使用する.44マグナム弾も買った。.44マグナムが一躍世界中で有名になったのは、1971年の映画『ダーティハリー』によってだ。当時、.44マグナムは240gr弾が最強だった。ところが今ではもっとパワフルな305gr弾もある。なんとその名もHSM Bear Load(熊用弾)だ。彼の住むカリフォルニアではあまり用がない弾だが、この地では実用弾だ。パワーは305gr弾で初速が1,260fps、銃口エナジーは1,075ft.lbsだ。
しょせんはピストルなので熊を撃つにはまったくもって心許ないが、連射すれば何とかなる。
5月8日、いよいよアンカレッジ空港からキングサーモン空港に移動する。アンカレッジ空港のキングサーモン行き搭乗口付近はカモフラージュウェアを着たハンターグループが目立った。というか、この国内線に乗ったのはみんなハンターだ。この時期、ハンターしかキングサーモンに行く人はいないのかもしれない。
ピストルでグリズリーを撃った事例
ピストルで巨大なグリズリーを倒した事例が2016年の“NRA American Hunter”誌に載っている。
アラスカのべチャロフ国立野生生物保護区でベテランのハンティングガイドが、サーモンフィッシング中の夫婦連れのゲストに同行していた時、ブッシュの中からかなり大きな熊が突然飛び出してくる事件が発生した。その熊はゲスト夫妻を押し倒して馬乗りになる。その瞬間、ハンティングガイドは持っていたS&W製9mmオートマチック モデル6946で熊のバイタルゾーンを狙って至近距離から正確な連射を浴びせた。9発を撃ち込んだところで熊は夫婦から離れ、ブッシュに逃げ込み、50mぐらい進んだところで絶命した。
この銃は9×19mm弾を使用する12連発モデルだ。世界中の軍や警察がこの9×19mm弾(9mmパラベラム)を使用しているが、熊にも有効だとは誰も思っていない。しかし、そのガイドさんが使った弾は、バッファロー・バーンズ9mm+P+という特殊なパワーアップ弾で、.357マグナムに近い威力を持つものだった。パワフルなピストル弾は熊にも有効だということがこれで証明された。
したがって今回、池田さんが持って来られた.44マグナムなら、グリズリーを撃退できる可能性はじゅうぶんにある。.44マグナムは9×19mm や.357マグナムよりずっとパワフルだ。
この話は、2022年版の“Gun Digest”(ガンダイジェスト:76th Edition)にも、“9mm Grizzly Encounter”として載っているらしい。そしてこのガイドさんこそ、今回私がガイドを依頼したグリズリースキンズのマスターガイドである、フィルさんその人だ。
ハンティングベースロッジに到着
アンカレッジからアラスカ航空のボーイング737に乗って昼近くにキングサーモンの空港に到着すると、グリズリースキンズのスタッフが出迎えてくれた。今回のゲスト(ハンティング客)は私たち以外に3名だ。スタッフと共にここから軽飛行機(ブッシュプレーン)で約150キロ離れたアラスカ半島のハンティングベースロッジに向かう。
グリズリースキンズのハンティングベースロッジは、砂利敷の滑走路、母屋、倉庫、作業所、かまぼこ型のゲスト宿舎などで構成されたものだ。ベースロッジに入ると割り当てられたゲスト宿舎に案内され、ここに荷物を置いてから、母屋にてスタッフとの顔合わせがあった。
スタッフは、マスターガイドのフィルさん(73歳)、フィルさんの息子のタジさん、フィルさんの娘のティアラさん、タジさんの奥さん、ティアラさんの旦那さんであるライアンさん。その他、ガイドさんが3人いる。
ちなみにフィルさんはベトナム戦争でブロンズスター章を受けているアメリカの英雄で、ライアンさんは元USMC(アメリカ海兵隊)のスナイパーだそうだ。
書類へのサインのあと、貸して貰う銃を受け取った。スタームルガー M77 HAWK
EYE(ホークアイ)だ。なかなか年期の入った銃で、かなり酷使している。日本と違い、こちらのハンティングライフルは、まさに“道具”、実用品だ。特別なものではない。安全な取り扱いは当然だが、感覚的にはノコギリやスコップと同じ扱いなのだろう。傷が付こうが汚れが付こうがお構いなしだ。
口径はすでに述べた通り.375ルガーで、アンカレッジで買って持ち込んだのだが、結局弾は用意されていた。ホーナディの試作品で、「テストして欲しい」とフィルさんの元に送られてきたものだそうだ。初速などの詳細は不明で、ブレットはたぶんBarnes TSX 270gr、その先端に白いナイロンチップを付けたものだと思われる。この方がよりエクスパンションしやすいそうだ。
さっそくベース敷地内にある射撃スペースでサイトのチェックをおこなう。距離は約100ヤードで、これが平均的にグリズリーを撃つ距離だという。スコープはLeupold(リューポルド)2.5倍固定だ。たぶんこれはFX-II ウルトラライト 2.5×20 ワイドデュプレックスだろう。等倍のスコープは久しぶりに見た。それでもこれはLeupoldの現行モデルだ。
とにかく撃つのは100ヤード程度までなら2.5倍でじゅうぶん。狙ったところに概ね当たればOK。正直な話、アイリリーフも私にはイマイチ合っていないが、困ることはないだろう。そもそもこのスコープ、90°角度傾いて付いている。なんとも大雑把だが、実用上、問題なしだ。
ハンティングベースの電気は簡単な風力とソーラー発電、ガスはプロパン(ボンベは飛行機で運ぶ)、水は雨水を集めて使う。ちなみに飲料水も雨水で、簡単にコットンの布でろ過(浄水ではなく、砂、木くずなどを取る)したもので、そのまま飲んで大丈夫か? とも思ったが、結果的には全く問題なく、お腹を壊すこともなかった。いや、むしろ美味しく感じたというのが正直な話だ。
もちろん携帯の電波はつながらない。通信手段は、無線、ガーミンのGPS端末で使えるメール、そしてイリジウムの衛星携帯電話、イリジウムの衛星を使い手持ちのスマートフォンとWi-Fiで繋げて会話ができるイリジウムGO!などだ。
私はイリジウムGO!を持っていき、自分のiPhoneで自由に日本と通話ができた。さらにこれらの充電用に折り畳み式のソーラーパネルを持っていったが、これは役に立った。
通常はハンティングベースに入って、ゲストの準備が整うと、割り当てられた担当のガイドさんといっしょにそれぞれ別の通称キャンプに移動する。私に割り当てられたキャンプは、ベースから東に20キロくらい離れた場所に建てられている木造の小屋だそうです。ちなみに同社のキャンプは数ヵ所設置されていて、私たちが入った以外のキャンプは堅固なテントだそうだ。
各キャンプへは軽飛行機で移動するのだが、我々がベースに入った直後から天候が荒れ始め、風、雨、雪などが続き、その後3日間はキャンプに移動できなかった。ベースに足止め中、食事やミーティングは母屋に集まる形の団体生活となった。
母屋に行って朝食を食べ、コーヒーを飲んでおしゃべりして、部屋に戻り、寝ながら本でも読み、また昼の時間になると母屋へ行ってランチ、午後も同じというパターンの繰り返しだ。たまにスタッフが自室にいる私達のところに「いま母屋から、カリブーが見える!」とか「ベアが見える!」と呼びに来てくれる。
母屋に行くとテーブルの上にスポッティングスコープがセットされていて、覗くと遥か彼方の山の斜面にモゾモゾ動く点が見えるのだ(笑)。
昼寝や読書に飽きると、母屋に行きコーヒーやクッキーを頂く。そんなのんびりとした時間が続いた。夕食は、ムースやポテトのグリルで、かなり豪華な食べ応えのあるものが出てくる。
ダイナー後の深夜、ゲスト宿舎にフィルさんとライアンさんがテキーラを持って現れた日もあった。みんなでテキーラを飲みながら雑談をしたのだが、やがてフィルさんとライアンさんが軍隊時代に使ってきた銃の話になった。USMCのスナイパーライフルやベトナム戦争時代のM16などに関して、興味深い話をいろいろ聞くことができたのは貴重な体験だ。日本の猟場ではあり得ないことであるのは、言うまでもない。
5月10日の昼食後、隣のリビングにゲストが集められ、VTRを見ながらグリズリーハンティングの説明を受けた。モニターを見ながら、いろいろな角度からの狙点を教えてくれる。大切なのは、グリズリーの身体に当たった弾の抜ける先にバイタルゾーンがあることをイメージすることだそうだ。どんな大きな個体でも、バイタルに弾が入れば倒れる。
そして大切なのが、倒れたらすかさず2発目、ガイドが指示した場合は3発目を撃ち込むことだそうだ。
次回はいよいよキャンプに移動し、グリズリーをハンティングしに向かう。
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この記事は2022年10月発売「Guns&Shooting Vol.22」に掲載されたものです。
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