アウトドア

2023/11/24

アラスカで熊を撃つ ~熊狩猟への憧れと出発準備~【Guns&Shooting】

 

アラスカグリズリー
ベアハンティング

 

 “アラスカでグリズリーを仕留める”

 大物猟ハンターにとって、これはとても魅力的な事ではないだろうか。アラスカにはグリズリー等のハンティングガイドをビジネスとしているプロフェッショナル達がいる。日本のハンターもこの地に行けば、かなり高い確率でグリズリーハンティングができるのだ。

 

※この記事には実際の狩猟の写真が含まれます。流血などが苦手な方はご注意ください

 

ライター自己紹介

 

 還暦手前ではありますが、銃砲所持歴20年 狩猟歴10年の遅咲きハンターです。諸先輩方のご指導を受けつつ、体が動かなくなるまでは、射撃・狩猟を楽しく安全に続ける所存です。
 今回は友人でもある松尾福編集長のご好意により、恥ずかし気もなく筆を執らせていただく機会を得ました。つたない文章で恐縮ですが、お付き合いいただければ幸いです。
 尚、文中において、掛かった費用なども記述してあります。読まれる方によっては不快に思われるかも知れませんが、正確な情報をお伝えするという観点からどうかご容赦頂きたくお願い致します。

 

 

 


 

 羆猟 

 

「いつか羆(ヒグマ)を獲ってみたい」


 大物猟ハンターなら、誰もがこう思っているのではないだろうか。言うまでもないことだが、ここでいう“獲る”とは、罠に掛かった羆の留め差しをするということではない。自然の中で生きている羆をライフルで仕留めるということだ。

 

 しかし、現実には羆を獲ったことのあるハンターは多くない。何人ものハンターと知り合いになったが、羆を撃った経験のあるハンターはごくわずかしかいなかった。

 

 

 一つには、羆と出会う機会が少ないからだろう。また出会ったとしても、距離が離れている場合は(弾を外す)リスクが高く、そう簡単には撃てない。そもそも確実に仕留めるという自信を持てる距離じゃないと羆を撃ってはいけない。もし半矢で逃げられたら極めて危険だからだ。撃たれて怒りに震えた羆が人間を襲う可能性がある。撃つ以上、もし半矢にしたら、追跡して確実に仕留める覚悟が必要だ。だからもし出会っても、撃てない場合は多いだろう。


 私のような東京在住のハンターは、北海道で猟をする場合、単独猟ではなく、地元の知り合いに協力を仰ぐか、プロのガイドさんに頼ることが普通だ。だが、あいにく羆猟に連れて行ってくれるような知り合いはいない。そして仕事として、羆猟をサポートしてくれるプロのハンティングガイドは日本にはいないようだ。

 


 北海道のとある銃砲店で知り合った老ガイドさんに「羆のガイドを頼めますか?」と聞いたら、意外にも「大丈夫だ」と言われた。そこで1週間程休みを取って、2019年の10月下旬に道北に入った。しかし猟場に立つとガイドさんの頭から“羆”の文字はキレイさっぱり消えていて、蝦夷鹿ばかり撃たされた。

 

「話が違うじゃないか!」思わずそう言いたかった。幸いなことに私はこれまでにも蝦夷鹿は十分に獲っている。この時はたとえ羆が獲れなくても、チャレンジすることに意味があったというのに。別の機会に道東のガイドさんに尋ねてみると「羆狩りをやってる人はみんな死んでるよ」と言い出す始末。

 

 読者の皆さんはご存じの通り、熊猟を長くやって実績を上げているハンターさんはいらっしゃる。但し、そういうハンターさん達は、プロのガイドとして客を案内することをやっていないだけだ。そりゃそうだろう。出会える確率が低く、ビジネスとしてコミットなんかとてもできない。また出会えたところで、お客のハンターの技量が低すぎた場合、危険極まりない。熊猟はやはり真剣勝負なのだ。
 以前は、羆猟にも対応してくれるガイドさんがいたらしい。でもそこには条件が一つあったそうだ。「命の保証は致しません!」そのガイドさんも既に引退されているらしい。

 

巨大なグリズリーもピストルで倒せた事例が存在する。これがS&W 9mmオートマチックで熊を撃った時の写真だ。このとき、9mm弾を熊のバイタルゾーンを狙って至近距離から9発を正確に速射したが、それでも熊は動き続けていた。結局ブッシュに逃げ込んで、50mぐらい進んだところで絶命したという。熊の生命力の凄まじさを感じさせる

 

 目標変更 

 

 私のような都会に住むオフィスワーカーに羆を獲ることは叶わぬ夢なのか?

 と思っていたところ、普段お世話になっている銃砲店さんのWebサイトに、海外のハンティングガイドのリンク集が載っているのが目に留まった。その中にはアラスカで“グリズリー”や“ブラウンベア”を獲らせるガイド会社の名前が羅列されているではないか。


 過去の国内雑誌の記事などで、アラスカでのハンティングは、州の個体調整と保護の観点から厳格なルールが定められている上に、当地でのハンティングは高い射撃技術や体力など求められると書かれていて、かなりハードルが高い印象を持っていた。ところがビジネスとしてそれを行なっているガイドさんが何人もいる……ということは、アラスカにおけるベアハンティングは、「それほど大変なことではないのかも……?」と思うようになった。

 


 私は英語が苦手だ。アメリカでひとりデニーズやマクドナルドに入って注文するくらいは何とかなる。しかし、フレンチやイタリアンのお店でアラカルトを頼むのは、かなりハードルが高い。私の英語力はその程度だ。


 だが幸いなことに、私にはロサンゼルス在住でグリーンカードを持つ、射撃と銃好きな日本人の友人がいる。思い切って彼に相談した。

「アラスカにベアハンティングに行きたい。リンク集を送るからリサーチして貰えないか? そして掛かる経費をすべてこちらで持つから、アラスカ遠征の際は通訳として同行して貰えないだろうか?」

 彼が同行してくれれば、英語の問題はクリアできる。するとありがたいことに彼は快諾してくれた。まずその友人にリンクに載っている会社数社に、「日本からベアハンティングに行きたい」旨のメールして貰った。そのなかで一番早く、ていねいに返信をくれた会社が今回お世話になった“Grizzly Skins of Alaska(グリズリースキンズ オブ アラスカ)”だった。これが2021年7月末のことだ。

 これにて目標は、北海道の羆から、アラスカのグリズリーに変更された。かなりのグレードアップだが、やるからにはとことんやる! 初志貫徹だ。羆のもっと大きいやつがグリズリーだし……。

 

 

 概算費用 

 

 グリズリースキンズからの回答を要約すると以下の通りだ。

 ガイド料$31,500。これにはハンティングガイド、期間中の宿泊費、食費、獲れた熊の解体や皮剥ぎ、その他入猟中のサポートがすべて含まれている。春のベアの猟期は、5/10~25の16日間で、入猟したゲストは獲れるまでフルに同社のベースまたはキャンプに留まることができる。その際の宿泊と食事はすべて込み。獲れたらすぐ帰っても良いし、ハンティングベースに留まってのんびりするのも自由。こういう回答だった。


 当初、日本から自分の銃を持っていくことを考えた。それには日本からの輸出許可、そしてアメリカの輸入許可の取得が必要となる。アメリカは銃器大国だ。しかし、外国からの銃の流入にはかなり神経を尖らせており、厳格に管理されている。もちろん銃の持ち込みは不可能ではない。だがその手続きはかなり煩雑だ。そんなことをするより、現地で銃をレンタルする方がはるかに楽だろう。

 

 グリズリースキンズでは、.30-06、.300 Win Mag, .338 Win Mag, .35 Whelen, .375
Ruger、.375 H&H Mag、.338 Win Mag、9.3×62mm Mauserなどの弾薬に対応するライフルが用意されている。そして銃のレンタルフィーは無料だというではないか。それならレンタルで行こう。

 


 そして外国人の場合、アラスカでのハンティングライセンスが$630、グリズリーのタグ(捕獲した個体に取り付けるタイラップのようなナンバー入りベルト)が$1,300。

 以上がハンティングに掛かる費用のすべてだ。その合計は$33,430となった。

 

 これに加えて日本からアンカレッジまでのエアライン往復チケット、アンカレッジからキングサーモン(猟場最寄りの空港のある町の名前がキングサーモンだ)までの国内線往復チケット、キングサーモンからハンティングベースまでの軽飛行機往復のチャーター料金は別途掛かる。


 ガイド料の$31,500の支払いは予約時に$5,000、そして入猟する年の1月に残金$26,500を振込む。この金額を日本円でいうと…、さあ、どう計算しようか。これは2021年7月時点での話なので、当時の為替レートは概ね$1=¥110だった。これで計算すると$31,500は¥3,465,000となる。だが2022年8月現在は$1=¥137程度だ。これで計算すると一挙に¥4,315,500となり、90万円近くのアップになっている。
 正直、予約時と2022年1月に残金を支払っておいて助かった。1月はまだ$1=¥115程度だったからだ。

 


 2022年の時点でもアラスカのグリズリーハンティングに行くとしたら、その総費用は概ね500万円ぐらいを想定しなくてはならない。エアラインチケット等すべて込みだ。正直な話、これは大金だといえる。国産の比較的上級車が買える値段だ。もちろん車のこれとは別に諸経費が掛かるが、車は動産であり、道具として活用できる。いらなくなれば下取りも可能だ。

 

 それに比べ、ハンティング旅行は、あくまでも“経験”であり、残るのは思い出と毛皮ぐらいしかない。だから本来比較できるものではないが、車1台を買うのと同じぐらいの出費でグリズリーを仕留められるわけだ。そう考えれば、べらぼうな費用ではない…といえるかもしれない。


 およそ500万ぐらいといえば、トヨタから2022年に発表された新型クラウンの中級グレードの車輛本体価格だろうか。クラウンといえば、1983年当時のCM キャッチコピーに、“いつかはクラウン”というのがあった。私にとってクラウンは10年後でも乗ろうと思えば乗れる車だ。しかし、10年後の私は、アラスカにグリズリーハンティングに行けるだろうか。“いつかはアラスカ”……なんて気長なことを言っている場合ではない。行くなら、今しかないのだ。

 


 なぜなら、グリズリースキンズから「難易度の高い場所を毎日数マイル歩くことは可能ですか?」と思わず冷汗が出そうな質問が来たのだ。1マイルは約1.6kmだ。“難易度の高い場所”ってどんなところだろうか。大物猟をやっていれば、それなりに険しい場所に行く機会はある。しかし、北海道ではなくアラスカでの話だ。難易度の高い場所も大幅スケールアップするのかもしれない。

 

 少なくともアラスカのハンティングは流し猟ではない。体力勝負なのだろう。それでも今なら何とかできるはずだ(たぶん……)。そう自分に言い聞かせた。質問の答えはもちろん“Yes!”だ。ロスの友人からそう返信して貰った。

 

 

 準備 

 

 とりあえず、日本からアンカレッジ、アンカレッジからキングサーモンまでのエアラインチケットを予約した。
 アラスカのハンティングライセンス、グリズリー/ブラウンベアのハンティングタグの申請はネットでおこなう事ができる。これらは、クレジットカードで決済可能だ。その申請のためのURLはグリズリースキンズから来た。


 翻訳アプリを使って英語を訳せば、概ねそこに何を書いているのかはわかる。便利な時代になったものだ。ライセンスとハンティングタグの申請を無事に完了、タグは同行してくれるロスの友人宅に送って貰った。


 そして2022年1月に残金$26,500を銀行間送金した。但し、現在日本から米国への高額送金は、テロの資金、マネーロンダリング防止の関係で簡単ではない。前もって銀行の外為に行き、入念に打ち合わせが不可欠だ。結局、個人送金は厳しかったので、自分の法人口座から行ない、やっと手続きが出来た。ちなみに窓口で3時間を要した。

 


 ちょうどこの頃はアメリカにおける新型コロナ感染がピークに達していた時期だ。外国人のアメリカ入国の条件がコロコロ変わったが、最終的にワクチン3回接種証明と、搭乗1日前の陰性証明があればOKとなったのは幸いだった。そして4月、アラスカハンティングの登録をネットでおこなった。これはどの期間にどの区域でハンティングをおこなう予定なのかを登録するものだ。これには費用は掛からない。


 ハンティングに必要なウエアなどはアンカレッジのアウトドアショップで買う予定で、キングサーモンに向かう前にアンカレッジで2泊する計画とした。なにしろ日本とは異なる環境でのハンティングだ。アンカレッジで買った方が、環境に合うものが見つかるだろう。

 

アンカレッジのバスプロショップ。広い店内は銃と狩猟用品、釣り道具が溢れている


 同行してくれるロサンゼルスの友人、池田さんは、予め持っていたピストルの中から、もっともパワフルなスタームルガー レッドホーク.44マグナムを用意していた。これはハンティングオブザーバーとして参加してもらう池田さんのセルフディフェンス(護身)用だ。もちろん相手はベアだ。これを使う状況にならないことを願いたい。

 

 かつては世界最強のリボルバーだといわれた.44マグナムだが、今ではもっとパワフルなリボルバーはたくさん作られている。中にはやり過ぎだと思ってしまうほど、デカくてパワフルなリボルバーと弾薬があるが、撃つと強烈な反動で手が猛烈に痛くなる。数発撃つのがやっと…というレベルだ。

 しかし、.44マグナムなら強力であっても普通に撃てる。グリズリーやブラウンベアを1発で倒すパワーはないが、至近距離から6発撃ち込めば、何とかなる可能性がある。
 これで出発前の準備はすべて整った。次回は渡米し、アラスカへと向かう。

 

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TEXT:Y.Matsubara

PHOTO:Yasuaki Ikeda

協力:グリズリースキンズ

 


 

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この記事は2022年10月発売「Guns&Shooting Vol.22」に掲載されたものです。

 

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